美少女怪盗クローバー
clover3 『イギリスからの訪問者』
うーん、今日もとってもいい天気ですねー。グーっと伸びをすると、そのまま飛んでいけそうな気がするデスよ。そのまま飛んでいけたら、兄チャマをチェキするのにとっても便利そうデス! だって、これなら絶対に見つかりっこないんだもーん♪
さーてと、それじゃ兄チャマをチェキしに行くとしマス!
ビューンのキーンで兄チャマのお家へ向かいマス! ……っとと、あれ? 今のはもしかして……。チェキチェキチェキ、っと、兄チャマ発見! ややっ! 一緒にいるのは誰デスか? なにやら陰謀のにおいがしマス。もしかして誘拐とか!? ムムム、これは兄チャマの一大事! もっと近くに寄ってみましょう。
フムフム、今日の兄チャマのズボンの色は黒デスか・・・・・・あれ、前に進まなくなったデス。うーん、うーん、おかしいデスね。
「四葉」
「うわっ、兄チャマ! どうして見つかったデスか!」
兄チャマはなんだかちょっと困ったような顔をして笑ってました。どうやら、四葉が前に進めなかったのは、兄チャマが頭を抑えていたからみたいデス。あちゃあ、またやっちゃったデス……。こういうのを『頭隠して尻隠さず』っていうんデスよね。四葉、日本語をいーっぱい勉強したから知ってマスよ。でも、尾行を失敗しているようじゃ名探偵への道はまだまだ遠そうですね。とほほデス……。
さて、気を取り直して兄チャマと一緒にいた人をチェキ! ……あれれ? どこかで見たことがあるような……
「紹介するよ、四葉。この人は菱疾風(ひしはやて)さん。イギリスの……」
「あー! 思い出したデス! ミスター・ダイヤ!」
「おやおや、私のことを知っているとは光栄ですね」
そう! 目の前にいたのはミスター・ダイヤだったのデス! ミスター・ダイヤはロンドンでは有名な刑事さんで、何度も四葉、いや美少女怪盗クローバーの前に立ちはだかったいわばライバルなのデス。本当に手強くて何度か捕まりそうになったのを覚えてマス。なんでこの人が……やっぱり美少女怪盗クローバーを捕まえに?
「……というわけなんですよ」
「なるほど。四葉ちゃんは最近までロンドンに住んでいたのですか。それなら私のことを知っていても不思議ではありませんね」
「はいデス」
ここはひとまずおとなしくして、兄チャマに任せるのが得策デショウか。うー、でもチェキしたいデスー。四葉の知的好奇心がうずくのデスー。
「では先程の件は考えておいてください」
「はい。ありがとうございます」
「それでは、またお会いしましょう。……グッバイ、四葉ちゃん」
「グ、グッバイ……なのデス」
そういうとミスター・ダイヤは行ってしまいマシタ。ふぅ……もう四葉のハートはドキドキバクバクでしたよ。まったく心臓に悪いデス。それにしても、先程の件、っていったい何のことでしょう? これはもうチェキするしかないですね! そう考えた四葉は、帰り道でミスター・ダイヤとどんなお話をしてたのか、兄チャマに根掘り葉掘り聞いちゃいマシタ! 兄チャマの秘密は四葉がぜーんぶチェキよ♪
兄チャマに聞いたところ、ミスター・ダイヤは美少女怪盗クローバーが日本に現れたから飛んできたんだって。うーん、ちょっと目立ちすぎちゃったデスかねー。それで美少女怪盗クローバーを捕まえるのに協力してくれる人を探していたんですって。四葉はそれを聞いたとき、あれ? なんで日本の警察に協力しないんデスか? って思いマシタ。だって、普通ならやっぱり警察同士が協力するのんじゃないのかな? そうしたら兄チャマがね、菱さんは個人的に日本に来たみたいで、それにお父さんと仲が悪いみたいだから、って教えてくれました。ふーん、個人的だから日本の警察とは協力できないのデスか……あれ? なんでそこにミスター・ダイヤのパパの話が出てくるんですか? ……フムフム……えーっ!! ミスター・ダイヤのパパがあの警部さんー!! もう、親子揃ってなんなんですか……四葉になんか恨みでもあるデスかー!
で、ミスター・ダイヤがなんで兄チャマに協力を求めてきたか、というと、この前美少女怪盗クローバーと会ったことを評価したんですって! ううっ、この前兄チャマに出会ったのがこんなことになるとは……四葉大失敗だったかも。兄チャマのことは弟さんに聞いたんだって。その弟さんって、この前兄チャマが言ってたミステリー同好会のお友達のことだったんデス! うぅ、弟さんまで美少女怪盗クローバーの敵デスか……。でもでも、こんなことでは四葉は、美少女怪盗クローバーはくじけません! 美少女怪盗クローバーは盗みマス!
☆
ミスター・ダイヤと出会ってから一週間ほどが経ちました。最近の兄チャマをチェキしていると、どうやら頻繁にミスター・ダイヤと会っているようデス。これは事件の匂いがします……。でもミスター・ダイヤにはあんまり近づきたくないし……。それに兄チャマに聞いても、「色々教えてもらってるだけだよ」って言うだけで……他にはなーんにも教えてくれないデス。なんか体のアチコチに怪我をしているみたいだし、……それになんだか動くのも辛そうな感じデス。もう、兄チャマったら! こんなに四葉のことを心配させたらダメなんですよ!
それでなんだかしょぼーんとして歩いていたら、
「お姉ちゃん、これ落としたよ」
「ありがとデス……」
……? あれ? 四葉、こんなハンカチなんか持ってたっけ? そう思ってパッと振り返るとさっきの男の子はもういませんデシタ……。うーん、ミステリーですねー、と思いながらこのハンカチをよーっくチェキすると隅のほうに四葉のクローバーの刺繍が見えました。指令デス!
ハンカチを太陽に透かして見ると文字が浮かび上がってきました。
指令 美少女怪盗クローバーへ |
「イエス、マスター!」
いつものようにまばゆい光に四葉は包まれマス。
若くしてこの世を去った天才画家『諏訪秀生』。その秀生が愛する妻を描いたこの世でたった一枚のかけがえのない思い。今は亡き夫の形見。それを騙し取るなんて、四葉絶対に許せません! 美少女怪盗クローバーの出番デスッ!!
予告状♪ 天野宝石店さま 美少女怪盗クローバー |
☆
「ドレスアップ!」
今日も美少女怪盗クローバーで決めるデス! さあ、チェキチェキっと行くデスよー♪
「しかし警部、何で宝石店から絵を盗むんでしょうね?」
「ふん。泥棒の考えることなど知ったことか」
ふぅむ、今日は正面から突破するのが一番早いかも知れませんね。となると……これを使ってみましょうか。
「イリュージョンマント!」
イリュージョンマントは光の反射と吸収を複雑に行う素材で出来ているマントなのデス。コレをつけることによって姿をくらましたり、そこにいるように見せかけて実際は別の場所だったり、二人、いやいやそれ以上にいるようにも見せることが出来るんデス! ただしタイムリミットは5分間。それに1回使うと1週間はお日様の光を吸収させなくちゃいけないんですけどネ。世の中そう上手くは出来ていないということデスかねー。
「さぁて、それじゃ行くデスよー!」
向かいの時計屋さんの上に立ち颯爽と叫びマス!
「ハハハハハッ! この世の闇を叩き潰す、美少女怪盗クローバー! 参上デス!」
「出やがったな、美少女怪盗クローバー! 今日こそ逃がすなよ!」
リミットまであと4分30秒。悪いけどそんなに必要ないかも知れませんネ♪ 屋根の上から一気にジャンプ! 今日の美少女怪盗クローバーはラビットよりも身軽なのデス♪ 宝石店の前に降り立った四葉は一気にお店の中に突入します。あちこちで、「こっちだ!」とか「いや、こっちだ!」なんて声が聞こえマス。クフフフフゥ、思うつぼデス。美少女怪盗クローバーはここですよー♪ って叫びたくなっちゃいますけど、そんなことしたら居場所がばれちゃいますからネ♪ 美少女怪盗クローバーはドジではないのデス。
「くそー、美少女怪盗クローバーってのは一人じゃないのか!」
「惑わされるな! 奴は一人しかいない! 絵を守るんだ!」
ざーんねん、もう遅いデス。絵の前にいる刑事さんをかわして『最愛の人』をゲットなのデス! 代わりにこれをあげますよ♪
『確かにいただきマシタ♪ 美少女怪盗クローバー』
それじゃ警部さん、幻と遊んでいてください♪ シーユー! 急いで裏口から外に出るとそのまま小路を走って……ムッ!? 誰デスか?
「待っていましたよ、美少女怪盗クローバー。案外遅かったですね」
「その声は……ミスター・ダイヤ!」
そう、そこに待っていたのはミスター・ダイヤと……
「そして、名探偵スペード……」
「美少女怪盗クローバー! 今日こそ捕まえて、盗みをやめさせる!」
クッ、どうしましょう……。イリュージョンマントの効果はすでに消えてるし……、イージーに逃げられる相手でもない。となれば、やるしかないデスね……。腰からクローバーサーベルを抜いて相手に向かって構えマス。兄チャマを傷つけたくはないデスから、今回はちょっとばっかりピンチかもしれませんね……。
「ふふ、やはりそう来ましたか。いいでしょう、相手にとって不足はありません」
そう言ってミスター・ダイヤもサーベルを抜きました。彼はフェンシングが得意だってましたっけネ。
刹那、ミスター・ダイヤが一気に間合いを詰めて来る!
一撃目はなんとか避けましたが、その後はなんとか打ち合うのが精一杯で徐々に後退させられてマス! ……クゥ、さすがデス。
シュッ!
空気を切り裂く鋭い一撃が四葉のワキを掠めマス!
あ、しまったデス。バランスが……
「もらいましたよ! 美少女怪盗クローバー!」
くっ、やらせませんよ!
……髪の毛が何本かその場に舞い落ちる! その太刀筋をギリギリのところでかわした四葉は渾身の力を込めて突きを繰り出しマス!
「タァァァーッ!」
キンッ!
ミスター・ダイヤのサーベルをはじいて柄で胸に一撃!
「ハァハァ……私の勝ちですネ……」
グッ、といううめき声と共にひざ立ちになったミスター・ダイヤを横目に見ながら、絵を持って立ち去ろうとした瞬間!
「逃がさない!」
あ、兄チャマ!? まずいデス、完全に死角から来られたデス! 避けきれない!?
ミスター・ダイヤが落としたサーベルで突きかかってくる! 無理やり体をひねったもののマントに刺さってそのまま地面に串刺しデス……。あう、動けない……。四葉なんか串刺しにしても美味しくないですよー!
「観念するんだ、美少女怪盗クローバー!」
「クッ……」
「まずはそのマスクを取らせてもらう」
まずいデス……非常にまずいデス……。何か…何か方法は……。……もうこうなったらやぶれかぶれデス!
「イギリスの正式名称は!」
「えっ!? えーっと、グレートブリテン……って何を言い出す……」
よし、兄チャマの気がそれたデス! 今のうちに……。
ビリッ
力任せにマントを引っ張って自由になった四葉は光の速さでダッシュデス! いや、実際はそんなわけないんですけどネ。気の持ちよう、って言うやつですよ。とにかく、ダッシュ! 今ならライオンさんにだって負ける気がしません!
「『最愛の人』は確かにいただいたデス! また会える日を楽しみにしていマスよ、名探偵スペード!」
……ふぅ、なんとか逃げ切ることが出来ましたね……。でも、あんな鋭い一撃を繰り出してくるなんて、さっすが兄チャマ! って感心してる場合じゃないんですよね。ミスター・ダイヤと名探偵スペード……手ごわいコンビデス……
「それにしても……」
あーん! イリュージョンマントが破れちゃったデスー! これじゃ、しばらくは使えそうにありマセンね……とほほ。
☆
「それじゃ、お気をつけて」
「ああ、君も頑張るんだよ」
四葉たちは空港に来ていマス。何でかって? それはミスター・ダイヤをお見送りするためデス。実はミスター・ダイヤが日本にいられるのは10日だけだったんですって。なぁんだ、四葉、ずっといるのかと思ってそれはもうドキドキしてちょっと寝不足気味デスよ……ふわぁぁぁ。
「おや、四葉ちゃん。寝不足かい?」
「あぅ、そ、そんなことないデスよ」
ハハハ、しっかりチェキされちゃいました……
「美少女怪盗クローバーのことは君に任せたからね、名探偵スペード君」
「はい! 必ず捕まえてみせます!」
「フフ、頼もしいな。……あっと、そろそろ時間のようだ。そのうちイギリスにも遊びに来るといい。では、シーユー」
「はい、是非行かせてもらいます」
「シーユーデス♪」
もう二度と来なくていいデスよー!
ミスター・ダイヤを見送った帰り道、四葉、兄チャマにもう一度聞いてみることにしました。
「兄チャマ。結局ミスター・ダイヤから何をおしえてもらっていたんデスか?」
「んー、もういいか。あのね、フェンシングとかそのほかの格闘技を一通り教えてもらってたんだよ。頭脳だけじゃ、美少女怪盗クローバーは捕まえられないだろう、ってさ」
「あー! それであんなに傷だらけだったんデスね! 四葉、とーっても心配してたんデスよ!」
「あはは、ごめんごめん、隠すつもりはなかったんだけどね。でも、やられてばっかりだったからちょっと恥ずかしくってさ」
なーんだ、兄チャマの怪我の原因は格闘技の練習をしてたからだったんデスね♪ ……あれ? ということは、ますます兄チャマが手強くなった……ということデスか? ううー、もうこうなったら四葉も覚悟を決めるしかないデスね。
これからは名探偵スペードに真っ向から立ち向かって行くことにします。だけど、美少女怪盗クローバーは変幻自在! そう簡単には捕まってあげないんですから♪
でも今は名探偵と美少女怪盗じゃなくて、兄チャマと妹の四葉なんだからうーんと甘えちゃってもいいデスよね?
「もう今度から、可愛い妹に心配かけちゃダメですよ、兄チャマ♪」