四葉はイギリスから来ました! その訳はモチロン、兄チャマをチェキするためデス!
でも……実はもう一つ理由があるんデス……。
それは……
美少女怪盗クローバー
clover5 『真実は湯煙の中に(前編)』
ムムムムッ、負けないデス……負けないデスよ……。
四葉、今までとってもいい子にしてきました。そりゃ確かに、兄チャマに叱られちゃったことも何度かあったけど、その度に四葉ちゃーんと反省してきたデスから、兄チャマも許してくれたのデス。これからも絶対絶対いい子にしてマス。だからお願い! 四葉の思い、届いて!
「えいっ!」
コローン
「あっ!?」
☆
ことの始まりは、昨日商店街に買い物に行った時の事でした。
たまにはドーナッツでも作ろうかなぁ、って思って材料を買いに行ったのデス。そうしたら、カラーンカラーンっていうベルの音と「おめでとう!」っていう大きな声が聞こえたのデス。四葉、もうガゼン興味が湧いてきて早速チェキしに行ったデス♪
「あっ、おじさん♪」
「おっ、四葉ちゃんかい」
そこにいたのは、近所に住んでいる、ちょっと頭の薄くなったおじさんでした。いっつも、大きな犬をお散歩しているのデス♪
おじさんが立っている場所をよくチェキしてみると、なんだかお祭りの時に見かけるお店みたいデスね。でも、何かを売っているようにも見えないし……。しかも上の方に何か書いてありマスね。えーっと……フクヒキ……? 何かの暗号でしょうか? そういえば、おじさんは商店街の偉い人だって聞いたことがあるデスよ。ムムム、そんな偉い人がこんな所で何をやってるのでしょうか? 益々怪しいデス。事件の匂いがするデス!
「四葉ちゃんもやっていくのかい?」
え? ……よくよく聞いてみると、フクビキ――フクヒキじゃなかったデス――っていうのはロトリーのことみたいデシタ。
えーっと、どうやらさっき買い物したときに貰ったこのチケットでフクビキができるみたいデスね。賞品は……
『特賞:温泉旅行2泊3日ペア宿泊券』
『1等:商店街共通買い物券3万円分』
『2等:商店街共通買い物券5000円分』
『3等:商店街共通買い物券1000円分』
『4等:トイレットペーパー』
温泉!? 四葉、まだ日本に来て温泉に行ってないんデス! イギリスにいたときから、兄チャマと一緒に温泉行きたいなって思ってたのデス♪ イギリスにも温泉はあったけど、兄チャマのことを知って日本のことをよく勉強するようになってからは、日本の温泉のことばっかり考えてたデス。
これは何としても特賞を当てて温泉に行かねば! よーし、やるデスよー♪ 勢いよく、回して……
「……あっ!?」
その間は本当は一瞬だったのかもしれないデスけど、四葉にはとても長く、まるで時が止まったかのような気分でした。
「温泉旅行、おめでとうー!」
おじさんはハンドベルを激しく鳴らして、四葉のことを祝福してくれました♪
兄チャマ、四葉は、四葉はやったデスよー!
☆
「I am a girl in love〜♪ just a lucky girl〜♪」
「あはは、ご機嫌だね四葉。いや、それにしても温泉旅行当てちゃうなんてすごいな」
「クフフフフフゥ、四葉はラッキーガールなのデスよ♪ だから、幸運の四葉ちゃん、って呼んでくださいデス♪」
温泉に向かう電車の中、四葉はとってもご機嫌デシタ♪ だって、だって、兄チャマと念願の温泉に行けるんデスから♪ 温泉に着いたら、兄チャマのお背中を流してあげたり、兄チャマの頭を洗ってあげたり、兄チャマを隅々までチェキしちゃうデス♪ あ、でもそうしたら四葉もチェキされちゃいますねぇ。ムムム、なんとしても兄チャマより先にチェキしなければ……。
そうやって色々考えてたんデスけど、兄チャマは「お風呂は男女別々なんだよ」って言ってました……。四葉、ちょっとしょんぼりデス……。
車窓から見える景色は、灰色から段々と緑色に変わってきました。ちょうどロンドンから郊外に向かって、電車に乗っていったときと同じような感覚デス。四葉、思わず窓から外に向かって、「兄チャマと温泉に来ましたよー!」って叫んじゃったデス♪
「うわっ、よ、四葉」
えっ? 何デスか兄チャマ。風の音が強くてよく聞こえないデス。兄チャマも叫ぶといいデスよ。とっても気持ちがいいデス♪
駅に着いて、まず目に付いたのはおっきなホテルでした! でも、四葉が本で調べたのとはちょっと違う感じがしました。だって、ホテルならイギリスにもあるし、竹やぶとか灯ろうとか、もっとワビサビのあるものを想像してました。……本当はよく分からないんですけどネ♪
「この辺も随分変わったんだなあ」
「え? 兄チャマ、来たことあるデスか?」
兄チャマが前に来た時には、こんなおっきいホテルはなくて、小さい旅館が立ち並んでいただけなんだそうデス。その雰囲気がとっても親しみやすくて好きだった、って言ってました。
「さあ着いた」
「ここ、デスか……」
なんだかとっても古めかしくて、いかにもジャパニーズな雰囲気を感じマス……。べ、別に四葉は恐くなんかないデスよ。この間テレビで見た、ザシキワラシでもマクラガエシでもどんどん来るデスよ! ……兄チャマ……、あれ? ……兄チャマー……あ、兄チャマー!
「四葉、早くおいで」
「うわーん! 兄チャマー、置いていかないでくださいー!」
旅館に入ると、女の人――女将さん、って言うんデス――が出迎えてくれました。
「ようこそいらっしゃいました」
「あ、どうもお世話になります。四葉、僕は手続きして来るからちょっとそこで待ってて」
「はいデス♪」
それにしても、なんだか人の気配があんまりしませんねぇ。さっきから周りをチェキしてるんですけど、おじいさんと若いカップルくらいしか見かけないデス。そんなに小さな旅館っていうわけでもないのに変デスねぇ……。
それから、入り口のところに置いてある変なネコの置物が気になりマスね……。なんだかデフォルメされた感じがとってもキュートなのデス♪ しかも右手を上げてこっちに手招きしているみたいデスねぇ。でも、この右側のスペースはなんだか不自然に空いている気が……
「四葉、お待たせ。……何を見ているんだい?」
「あ、兄チャマ♪」
どうやらお泊りの手続きは終わったみたいデスね。あ、そうだ! 兄チャマならこのネコの置物のこと知ってるかも知れないデス♪
「ねえ兄チャマ。兄チャマはこのネコの置物の事、何か知りませんか?」
「ん? ああ、これは招き猫って言って、人を招く形をした幸運の猫なんだよ」
「なるほど……」
日本にはなかなか変わったものがあるのデスねぇ……。そうデス! デジカメでチェキしておきましょう! クフフ♪ これでまた日本のことが勉強できたデス♪ 兄チャマのお国のことだから、これからももっともっとチェキしちゃいますよ♪
あれ? 兄チャマ、どうしたデスか? そんなに難しい顔してると、シワシワになっちゃいマスよ。だって、グランパもいっつも、うーむ、って難しい顔してたデス。あの優しいお顔に深く刻まれたシワは、色んなことを考えてた証なのデス!
で、結局兄チャマは何を悩んでいるか、兄チャマに聞いてみることにしました。探偵たるもの、聞き込みを怠ってはいけないのデス♪
「ああ、あのね四葉。普通、こういうお店には左手を上げてる招き猫を置くものなんだよ。左招きは人を呼ぶ、つまりお客さんが沢山来て商売繁盛、ってことだね」
「ふむふむ。でもこの招き猫は右手を上げてるデスね」
そうやって、招き猫について兄チャマと色々話していると、女将さんがやってきて招き猫のことを話してくれました。
「うふふ、招き猫が珍しいのかしら……えーっと」
「四葉デス!」
「四葉ちゃん、いいお名前ね。実は、この招き猫は元々二体で一組だったんですよ」
「ということは、左手を上げている招き猫もいたってことデスか?」
「ええ、そうなの」
あれ、女将さん、なんだかちょっぴり悲しそうなお顔デス……。
「今はある事情があってここにはいないのよ。ほら、そこの空いている所に立ってたのよ」
やっぱり、この不自然なスペースには秘密があったんデスね! 四葉の推理はいつだってパーフェクトなのデス♪ でもそうすると、左招き猫はいったいどこへ……うーん、ミステリーはミステリーを呼ぶものなのデスね……。
「それでは、お部屋の方にご案内しますね」
案内された部屋はとーっても広くて、四葉、ウキウキしてきました♪ こーんなに広いお部屋に四葉と兄チャマの二人だけ……。クフフフフゥ♪ 大チャンス到来デス♪ ディナーのときも、夜一緒に眠るときも、それからそれからお風呂のときも、今日からは、もういっぱい兄チャマのことをチェキしちゃうデスよ♪ 兄チャマ、おカクゴしてください♪ ……あっ、お風呂は別々だったデス……残念……。
しばらくお部屋で荷物の整理をしたり、休んだりしていると女将さんがディナーを運んできました。お魚が丸ごと一匹お刺身になっていたり、お団子の中に色々なお野菜が入っていたり、お皿の上には色とりどりの料理が乗っていて、しかも四葉が見たことのないものばっかりで、兄チャマに聞いたりチェキしながら食べてたら、「こら、お行儀が悪いぞ」って叱られちゃいました……。四葉、ちょっと反省デス。
お腹もいっぱいになって、ちょっと一休みしたところで、お風呂に行くことになりました♪ この旅館の自慢は大きな露天風呂だって、女将さんがさっき料理を持ってきたときに言ってました。もう、すっごくワクワクしてきて飛び出していったら、「おーい、タオルとか忘れてるぞ」って兄チャマに呼び止められちゃったデス。あらら、四葉、またもや失敗デス……。
今度こそ、タオルも持って兄チャマと一緒に大浴場の入り口まで行くと、やっぱり別々みたいデス……。あ、着替えは別々に決まってるデスね……♪
「じゃあ、また後でね」
そう言って、兄チャマは男と書かれたのれんをくぐって消えちゃいました。まあ、しかたないデスよね。いつまでも落ち込んでても仕方ないので、とにかく温泉を楽しむことにしました。
脱衣所にはだーれもいなくて、四葉の貸切みたいでした。確かに、人が全然いなかったですからねぇ……。
「フンフンフン〜♪」
ファサッ……
「ラララララ〜♪」
ファサッ……
さーて、どんなお風呂なのかなー♪ そう思いながらガラス戸を開けると、うわぁ、とっても広いお風呂デス……。へぇ、日本の温泉ってこういう風になってるデスねぇ……。でも、ここはまだ露天風呂じゃなさそうデス。辺りをチェキしてみると、どうやら、奥の方の扉から外に出られるみたいデス。せっかくだから、露天風呂に行ってみましょう♪ お女将さんのご自慢らしいデスからね♪
そうして泡の出てるお風呂や、滝のようになっているお風呂を横目で見ながら奥の方の扉を開けると、そこには沢山の星が輝いて見える空と闇に包まれた雄大な山の姿が見えました! 四葉、なんだか圧倒されちゃって、しばらくポカーンとしちゃいました……。そうしたら、
「えっ? よ、四葉!?」
「……えっ? あ、兄チャマ!?」
うわわ! ど、どうなってるデスか!? お風呂は別々じゃなかったデスか!? と、とにかくタオルです! って、巻いてたデスね……。兄チャマに見られたりしてないかな……?
「ここって、露天風呂は混浴だったんだ……」
兄チャマがそう言ってるのが聞こえました。混浴……ということは、兄チャマと一緒にお風呂に入れるということデスか♪ キャッホー♪ これは思わぬラッキーです♪ やっぱり、今日の四葉はラッキーガールなのデス♪
「兄チャマ、兄チャマ! 一緒に入るデス♪」
「しかたないね……」
苦笑いしながらも、兄チャマは一緒に入ってくれることになりました♪ 兄チャマったらお顔が真っ赤デスよ♪ でも、さすがに今日は四葉も、ちょっぴり恥ずかしいかも……デス♪
「まあ、たまには兄妹水入らずもいいか」
「はいデス」
こうして兄チャマと一緒のお風呂に入っていると、とっても安心できマス……。イギリスにいた頃、ずーっと思い続けてきたことがこうして叶って、四葉、とっても嬉しい……♪ 兄チャマ、これからももっともっと色んなところに行ったり、色んなことをしたり、今まで会えなかった分を取り戻すくらいに、一緒にいようネ♪
たっぷりお風呂をエンジョイした後にお部屋に戻ってみると、すでにおフトンが敷いてありました。四葉、ベッドじゃないところに寝るのはなんだか久しぶりのような気がします。兄チャマに、一緒のおフトンで寝ましょう♪ って言ったら「それはダメだよ、四葉」って言われちゃいました……。相変わらず変な兄チャマです。
とにかく今日はなんだか疲れちゃって……ふわぁ……もう眠ることにしますね……。お休みなさい、兄チャマ……。
「……よつばちゃん……四葉ちゃん……」
うーん……、誰デスか……四葉のことを呼ぶのは……。四葉は、まだ眠いのデス……。
「四葉ちゃんってば、起きて……」
「うーん……誰デスか……」
起き上がった四葉の目の前にいたのは、二人の女の子デシタ。こんな子、この旅館に泊まってたんデスね……。でも、こんな夜中に四葉達の部屋に来るなんて、迷子かなにかでしょうか?
「あのね、私の名前はシキ。こっちの子はクラ」
「こんばんはです、四葉ちゃん」
「あ、こんばんはデス」
えっと、髪の短い方がシキちゃんで、髪の長い方がクラちゃんデスね。やっぱりこういうところでは、こういう着物を着ている人が多いのデスかねぇ……。あれ? そういえば、どうして四葉の名前を知ってるデスか?
「うふふふっ♪ だって、四葉ちゃんが呼んだじゃない♪」
「四葉が呼んだ……?」
「そうですよ〜♪」
四葉、誰かを呼んだ覚えなんてあったかなぁ?
「それでこれ、預かりものなんだけど……」
「手紙……デスか」
えーっと、表にも裏にも何も書いてないデス。これはいきなりの難問デスね……。あっ、この封印は四葉のクローバー……ということは指令デス!
指令 美少女怪盗クローバーへ。 |
「イエス、マスター!」
手紙は光の粒子に変わり、四葉へ情報をもたらすのデス……。今回のターゲットは、元々この旅館にあったもの……? あ、右招き猫の隣にいたデスか……。そして、この人は……。
「シキちゃん、クラちゃん! どうしてこの手紙を……」
「四葉ちゃん、女将さんを助けてあげて」
「離れ離れではかわいそうです〜」
なんだかよくわからないけど、四葉頑張ります! だって、四葉はそのために日本にやってきたんだから……。
「それじゃ、四葉ちゃん♪ また、会えるといいね♪」
「さようならです〜♪」
「あ、シキちゃん! クラちゃん!」
……ちゃーん、……ラ……ーん。シキちゃーん、クラちゃーん……。
「……つば……よつば……四葉……」
「……っ! シキちゃん! クラちゃん!」
……あ、あれ? シキちゃんとクラちゃんは帰っちゃったデスか? あ、兄チャマ! グッドモーニングなのデス♪ ねえ兄チャマ、シキちゃんとクラちゃん見かけませんでしたか?
そう兄チャマに聞いてみたんですけど、兄チャマったら「夢でも見たんじゃないか」って言うんです。でもでも、四葉、確かにあの二人からお手紙をもらったデス! ……消えてなくなっちゃいましたけど……。そうしたら兄チャマが、「じゃあ、座敷ワラシと枕返しが遊びに来たのかもね」だって!
実は四葉、兄チャマに言われて気がついたんですけど、寝たときとは逆さまの体勢になっていたんデス!
「じゃあ、僕は朝風呂に行ってくるから」
そう言って、兄チャマはお部屋を出て行きました。……あの二人は、本当にザシキワラシとマクラガエシだったんでしょうか? それとも、ただの夢……?
「……四葉ちゃん、頑張って……」
え!? シキちゃん!? ……やっぱり、四葉はシキちゃんとクラちゃんに会っていたデス! だって……四葉の記憶にちゃーんと残っているデスから。だから……美少女怪盗クローバーの出番なのデス♪