【恋の日】

 静かな部屋に響き渡る夜の雨音を聞きながら、遥か空の向こうに想いを馳せてみる。
 明日は七夕です。
 織姫と彦星の一日限りの逢瀬。
 遥か夜空で繰り広げられる壮大でロマンチックな恋愛物語は、小さな頃から私の憧れでした。
 どんなに離ればなれになっても、二人の愛は変わらない。永遠を誓える愛なんて、そう簡単に得られるものじゃないもんね。
 織姫と彦星が越える天の川、私にとっては電車で二時間くらいになるのかなあ。
 明日はプロデューサーさんとデートです。
 デート、といえば聞こえがいいんだけど、プロデューサーさんにはそんな気は全く無いんだろうなあ。
 それでも一歩前進には変わりないわけだし、前向きに前向きに。
 転ぶ時だって前のめりに! だと、顔をしたたかに打ちそうになったりして、結構危なかったりするんだよね。
 幸いにも今まではそんなことなかったけど、あんまりプロデューサーさんをハラハラさせると、ストレスで胃に穴とか開いちゃいそうだし、これでも気をつけてはいるんだから。

 七夕の日にデートすることになったのは本当に偶然で、お互いのオフが重なる一番近い日がこの日だった、っていうだけ。
 その日を今か今かと、毎日が遠足の前日のようにわくわくどきどきしながら過ごしていたある日のニュースで、こんな話題を見かけたの。
「7月7日が『恋の日』に!」
 日本記念日協会ってところが決めたらしいんだけど、私はそんな協会があることなんてぜんっぜん知らなかった。
 世の中には全く意味の分からない記念日とかあったりするんだけど、こんなところが決めてたんだ、なんて単純に感心しちゃって。
 そのニュースを見た次の瞬間には、プロデューサーさんにメールを送っちゃってました。
 7月7日が「恋の日」になったみたいですよ! って。
 そのメールを送った時には、本当にただ素敵だなって思っただけで全く気にもしていなかったのに、プロデューサーさんからものの数分で返ってきた返事を見て、急に顔が熱くなってしまった。

「春香も素敵な恋ができるといいな」

って。
 ううっ、プロデューサーさんのバカ。……本当に気付いてないのかなあ。
 私が今してる恋は、とっても素敵なものだってことに。
 そんなプロデューサーさんの言葉にどぎまぎしつつも、「遅れないで来いよ」なんて、いつものように笑えないギャグに苦笑してしまう。
 分かりにくいなあ、このギャグ……。
 もう、こんなギャグにかまってあげるのは、私くらいしかいないんですからね♪
 そう思うのは、ちょっと自惚れかなあ?
 プロデューサーさんは、「ギャグっていうのは元々猿轡って意味だから、黙らせるくらいでちょうどいいんだ」ってよく言うけど、その割にはなんだか寂しそうで、だからかな、私がプロデューサーさんのギャグに付き合うようになったのは。
 私はプロデューサーさんを喜ばせられることが一つ増えて、すっごく嬉しかったんです。

 そういえば、小さな頃は七夕の日が晴れるように、よくてるてる坊主を作って軒先に吊してました。
 物凄く効果があった! って、自分では記憶してるんだけど、最近では、たまたま晴れた七夕のことが強く印象に残ってるだけなんじゃないかって思うんだよね。
 自分にとって都合のいいことだけが印象に残るのって、結構あるんじゃないかって、私は思う。
 いつの頃からかてるてる坊主を作ることはなくなってしまったけど、今日は久しぶりにその神通力を頼ってみようかな。
 だって、明日は大事な日なんだもん!

 久しぶりにてるてる坊主を作ってみると、なんだか楽しくなっちゃって。一体でやめておくはずだったのに、二体も作っちゃった。
 顔を描くのとか夢中になって、真剣に悩んでみたり。
 うーん、どんな顔を描いたら明日晴れてくれそうかなあ。
 ……できた!
 でも……これってプロデューサーさん、だよねえ?
 明日、プロデューサーさんとどこを回ろうか、なんてデートのことばかり考えていたからか、私は、半ば意識的にプロデューサーさんの似顔絵をてるてる坊主に描いてしまったみたい。
 ううっ、なんだか恥ずかしいなぁ……。このてるてる坊主、他の人には見せられないよぅ。
 でも、せっかくだから、恥ずかしいついでに、もう一体のてるてる坊主には私の顔を描いて、プロデューサーさんてるてる坊主と一緒に吊しました。自分で自分の顔を描いても、似てるのかどうかいまいち分からないんだけどね。
 二体並んで吊されたてるてる坊主を見ていると、なんだか別のおまじないみたい。ふふっ♪
 恋の日にデートかあ……。
 明日は晴れますように!


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