【gift】

 兄上様は、覚えていらっしゃいますか……?

「ありがとうございます」

 主治医の先生にそう言うと、わたくしは事務棟を後にしました。
 最近特に調子がよくって、検査の結果も全く問題がなかったので、明日の外泊許可は簡単におりました。看護婦さんは、もう退院も近いんじゃないかしら、って言ってくれて……。もう少ししたら、わたくしもずっと兄上様のお側にいられるようになる、そう思うと胸がいっぱいになってきて……。今日はなんだかよく眠れそうです♪

 電車の窓から差し込む太陽の光はとても明るくて、まるで、今日のわたくしと兄上様との出会いを祝福しているかのよう♪ 

「おかえり、鞠絵」
「ただいま、兄上様♪」

 駅でわたくしを出迎えてくれた兄上様は、見ないうちにまた少し素敵になられたような気がして……あら、いやだわ、わたくしったら♪ なんだか、お顔が火照ってきたみたい♪ でも、この日差しなら、兄上様には気付かれないです、よね?

 荷物を家に置いてきた後、わたくしたちは海へやって来ました。兄上様は少し心配そうでしたけど、わたくしが少し無理を言って連れてきてもらったんです。
 海はわたくしにとって大切な思い出の場所。二人で海岸沿いを歩いていると、海がどこまでも広がっているのが見えて、なんだかこの世界にわたくしたち二人だけ。アダムとイヴになったみたいに思えて……。
 それから、最近わたくしの体がとても調子のいいこと、もう少しで退院できるかもしれないことを兄上様に話すと、

「本当かい!? それはよかった!」

 兄上様ったら子供みたいにおおはしゃぎして♪ うふふ♪ だからでしょうか、少しいたずらをしてみたくなって、えーい! って、兄上様にお水をかけてしまったんです♪
 兄上様は、突然のことにビックリしておられたみたいですけど、そのうちお笑いになり出して「やったなー」って反撃してきたんです♪
 結局、二人ともびしょ濡れになるまで水の掛け合いをしてしまいました♪ 今日はなんだか、久しぶりに体を動かしてとっても楽しかった気がします♪ 今日という一日をくれた神様と、そして兄上様に感謝でいっぱいです♪

 兄上様、わたくしが昔のようなお転婆に戻ることはないのかもしれないでしょうけれど、早く元気になって兄上様のお側にいたいです♪ 兄上様……♪

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