【Maskenball】
兄君さまは、覚えていらっしゃるでしょうか?
あの日の学校の帰り道、ワタクシ、お友達の陽子ちゃんに呼び止められたんです。
「どうしたんですか?」 ワタクシがそう聞くと、どうやら走ってきたらしくやや息を切らせながら、こう答えたんです。
「春歌ちゃん、……仮面舞踏会に来ない?」
え? 仮面舞踏会? 突然のことに、ワタクシ驚いてしまいました! ドイツにいた頃は、一度だけお祖父さまがスポンサーの舞踏会に出たことはありますけれど、まさか日本でそういう機会に巡り合うことがあるなんて思いもよらなかったですわ。
陽子ちゃんの話を詳しく聞いてみると、陽子ちゃんのお兄さんの大学で、文化祭のメインイベントとして行われるそうなんです。学生だけではなく、一般からの参加も歓迎しているということで、陽子ちゃんが勧誘をしていた、ということみたいでした。
「……というわけなんです、兄君さま」
早速、兄君さまの家に赴き先程の話をしたところ、「いいよ、一緒に行こう♪」と快い返事を貰うことが出来ました♪ ワタクシ、日本舞踊などはよく練習していますが、ダンスを踊るのは久しぶりなので上手く踊れるか、少し緊張してしまいます……。
仮面舞踏会当日。朝早くに兄君さまから電話があって、少し遅れていくことになりそうだ、とのこと。本当は兄君さまとご一緒したかったんですが、陽子ちゃんにもご挨拶しなければいけないということもあり、先に一人で行くことにしました。
会場についてドレスへの着替えを済ませた後は、、しばらく皆さんが踊っている方を眺めていました。何度かダンスのお誘いを受けたのですけれども、やはり兄君さま以外の殿方と踊る気にはなれませんでしたから……。
そうやって少しぼんやりしていると、一人の殿方が私に近づいてきました。
「お嬢さん、僕と踊っていただけませんか? ……なんて、格好つけすぎかな」
それは、ワタクシのお慕いする兄君さまでした♪ ウフフ♪ そのタキシード、とてもよく似合ってますわよ♪ 兄君さま……こんなにたくさんの、仮面をつけた人たちの中からワタクシを見つけてくださって、春歌はとてもうれしゅうございます♪ ポッ♪
「兄君さま、ワタクシのことを見つけ出してくださって、ありがとうございます♪」
「当たり前だろ? だって僕は春歌の兄、なんだからね」
ワタクシ、遠いドイツの国からずっと思いを馳せてきた兄君さま。兄君さま、ワタクシのことをいつまでもお側に置いてくださいませ♪ ポポポッ♪