【確かな絆】

 それは、ワタクシが日本に来てまだ間もないころでした。


 日本に来てから三月ほどが経ち、やっと周囲の環境に慣れはじめた五月のはじめ。
 ふと考えると、…そうですわ! もうすぐワタクシの誕生日!
 これは是非とも兄君さまにお伝えして、共にすごさなければ♪
 そう思うと、居ても立ってもいられず兄君さまのお家へと急ぎましたっ。

 たばこ屋さんの角を曲がったとき、ちょうど学校帰りのご様子の兄君さまの姿が見えました。
 そこで、ワタクシは早速駆け寄って、兄君さまを呼び止めました。

「兄君さま!」
「ん? 春歌」
「あの、兄君さまに折り入ってお話したいことが」

 そう切り出して、ワタクシの誕生日がもうすぐであること、兄君さまと是非一緒に過ごしたいことなどをお話しました。
 すると兄君さまはこんな事をおっしゃいました。

「大丈夫だよ、ちゃんと空けてあるから」

 って。
 あら? おかしいですわ。だって、兄君さまにワタクシの誕生日のことを告げたのは、今日が初めてのはずですもの!

「あの、兄君さま? どうして、ワタクシの誕生日が5月だということを知っていらっしゃるのですか?」
「だって、僕は春歌の兄だもの」

 兄君さまは、そう笑顔でお応えになりました。
 何か釈然としないものを感じながらも、誕生日を一緒に過ごせるという喜びの方が勝ったので、
 それ以上追究することはありませんでした。
 その後、兄君さまがワタクシを家まで送ってくだると言うので――本当なら、ワタクシが兄君さまをお送りするはずでした
のに――道すがら、誕生日の予定をどうしようか、と話しながら帰路につきました。

 そして、5月16日。ワタクシの誕生日当日です。
 是非、朝早くからいらしてください、というワタクシのワガママを聞いてくださった兄君さまと朝の散歩を終えた後、ワタク
シが丹精込めて作った朝餉を2人で頂きました。
 お料理はどうやら兄君さまのお口に合ったようで、残さず平らげてくれました。兄君さまはいい食べっぷりでしたわ♪
 食後のお茶を頂いているとき、兄君さまが、

「春歌に見せたいものがあるんだ」

 そう言って一枚のお写真を取り出しました。そこに写っていたのは、一人の男の子と一人の女の子。男の子の方はなんだ
か腕白そうで、そう、どことなく兄君さまに似ていました。女の子の方は・・・・・・? この着物には見覚えが? もしかして・・・

「あの、兄君さま・・・この男の子と女の子はもしかして」
「そう、僕と春歌だよ」

 その言葉を聞いたとき、ワタクシ、天にも昇るような気持ちで♪
 ああ、やはりワタクシと兄君さまがこうして出会えたのも、見えないけれども確かに存在する硬い絆で結ばれていたからな
のですね♪
 ワタクシは物心ついたときは既にドイツで暮らしていたので、このように幼少のころ兄君さまと共に過ごしていたなんて、思
いもよりませんでした♪ ポッ♪


 そして今日、またワタクシの誕生日がやってきました。
 今日の兄君さまは、いったいどんなお話をしてくれるのかしら? 幼少の頃二人で過ごしたこと、兄君さまの思い出。
 兄君さま♪ ワタクシに、もっともっと兄君さまのことをお教えくださいませ!
 ワタクシ、兄君さまの全てを知りたい…ですわ♪

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