【カスミのお姉ちゃん】

 カスミのお姉ちゃんはアイドルです!
 やよいお姉ちゃんがアイドルになるって初めて聞いたときは、「え? お姉ちゃんがテレビに出るの?」ってすっごくびっくりしました!
 だってアイドルっていったら、首の所とかそでの所にふわふわがついたお洋服を着たり、いっぱいひらひらがついたスカートを履いたりして、テレビで歌ってる人のことだもん。カスミも学校の休み時間とかには、友達と一緒に歌マネや振りマネをしたり、あんなお洋服着てみたいよねえ、なんておしゃべりするんだあ。
 カスミね、お姉ちゃんがそんな風になるなんて、全然考えられなかったの。だってね、お姉ちゃんのお歌は元気がいーっぱい出てくるから大好きだけど、でもでもテレビに出てるようなアイドルの方が何倍も上手いって思ってたから。
 お姉ちゃんが弟たちを寝かしつけるときに子守歌を歌うことがあるんだけど、歌い始めの頃は声が大きすぎて全然寝付かなかったんだよ。でも今は、ちゃあんと優しい声で弟たちも、カスミもぐっすり眠れる子守歌になったんだけどね。

 今日もお友達のちーちゃんの家でアイドルごっこをしてたんだけど、それがあんまり楽しくって、気が付いたらすっかりお外が暗くなっちゃって、お姉ちゃんが迎えに来ちゃった。

「あのぉ、うちのカスミが長居しちゃってすいませんでした」
「バイバーイ! ちーちゃん」

 ちーちゃんとちーちゃんのママにさよならのアイサツをして、お姉ちゃんと一緒にお家に帰ります。
 お外に出ると、街灯がぽつんぽつんと光っているのが見えました。明るいときはまだあったかかったのに、夜になって暗くなるとすっかり寒くなっちゃってブルッと体が震えちゃった。こんなに遅くなるなら、もう一枚上に着てくればよかったなあ。
 そんな風に思いながらお家までの道を歩いていると、遠くの方から「い〜しや〜きいも〜」というお芋屋さんの声が聞こえました。
 お姉ちゃんとつないでる手はあったかかったけど、反対の手も、耳もすっかり冷たくなっちゃって、それに晩ご飯もまだだから、あったかいお芋のことを考えると、自然とグーってお腹が鳴っちゃうの。うー……お姉ちゃんに聞こえちゃったかも。
 そんなことを考えながら歩いているうちに、お芋屋さんの声はどんどん大きくなってきて、それから匂いまでしてきて、もうどうしても我慢できなーい! ってお姉ちゃんに頼んでみたの。

「カスミ、帰ったら晩ご飯なんだから我慢してね」
「えー! でもー、手、冷たくなっちゃったし、いい匂いだし……」

 お姉ちゃんもさっきからなんだかそわそわしてたから、本当はお姉ちゃんも食べたいんだってカスミには分かってるんだけど、お姉ちゃんはやっぱりお姉ちゃんだからか、ぐっと我慢してるみたいです。

「んー……。あのね、カスミ。お姉ちゃんね、今200円しか持ってないんだ。本当は買ってあげたいんだけど……ごめんね」

 そう言ってお姉ちゃんはべろちょろの中身を見せてくれました。あぅー……本当に200円しか入ってないよ。200円じゃ、お芋は買えないよ……。
 あ、べろちょろっていうのはお姉ちゃんがいっつも首からぶら下げてる、大事なカエルのポシェットのことです。お姉ちゃんはいっつもそこにお金を入れてるの。 
 お金がないんじゃお芋は買えないから、がっくりしながら帰ります。
 ふっと気が付いて周りを見てみると、いつもとは違う帰り道を歩いてたの。きっと、お芋屋さんの方ばっかり気にしてて、曲がる道を間違えちゃったんだね。いつもと違う帰り道はなんだかドキドキする!

「あっ」

 急にお姉ちゃんが立ち止まって、ちょっとびっくりした声を出しました。どうしたのかな? って思ってお姉ちゃんに聞いてみると、「あれあれ」と指を差す方向に100円ショップがありました。
 あれ? こんなところに100円ショップなんてあったかな? いつもとは違う道って言ってもご近所さんなので、どこに何があるかはなんとなく分かってると思ってたんだけど……。
 お姉ちゃんは自然と100円ショップに向かって歩いていったので、カスミもはぐれないように追いかけていきました。

「あのね、なんかね、新しくできたお店みたいだよ」

 って、お姉ちゃんは少し興奮したみたいに教えてくれました。何でも100円で買える100円ショップはお姉ちゃんも大好きみたいなんだけど、「この食パンは、100円ショップよりも近所のスーパーで安売りしてるときに買った方がお得だから覚えておいてね」って、色んなお店のお得情報を調べてるところがお姉ちゃんの凄いところだと思います。カスミもまだまだ勉強中です。

「カスミ、焼き芋売ってるみたい」
「え!?」

 お店の窓に『焼き芋あります』って本当に貼ってあってびっくりしました! お芋なんて100円で買えるんだあ……。100円ショップってすごいなあ……。

「カスミ、買ってあげようか」
「え、でも……」

 確かに100円だったら買えるんだけど、お姉ちゃんが我慢してるのにカスミだけ我慢しないなんてダメだよ。それにお姉ちゃんがアイドルのお仕事でもらったお金なんだもん。お姉ちゃんのお買い物に使って欲しいって、カスミは思うの。
 カスミがそう言ったら、お姉ちゃんは「もう、こういうときは我慢しなくっていいんだよ」って言ってくれました。それから、「弟たちには内緒だからね」とも♪
 茶色い紙袋に入ったお芋はほっかほかのあっつあつで、冷たかった手をじんわりとあっためてくれます。そのお芋を袋から出して半分こ。半分はお姉ちゃんにあげました。だって、お姉ちゃんのお金で買ったお芋なんだもん。それに、お姉ちゃんもお腹ぐーぐー鳴ってたし♪
 カスミもお姉ちゃんに「弟たちには内緒だよ」って言ったら、お姉ちゃんが大笑いしちゃった。それから、カスミの頭をくしゃっと撫でて「ありがとう」って言ってくれました。大好きなお姉ちゃんに頭を撫でられてすっごく嬉しかった♪
 でもでも、本当はカスミの方がお姉ちゃんにありがとうだよね。だから、お姉ちゃんに負けないくらいの大きな声で言いました。

「ありがとう、お姉ちゃん。だーい好き!」


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