【血の記憶】


 やあ、姉くん…………目が覚めたようだね…………。
 ああ、まだ安静にしていたほうがいい…………。まだ少し、熱があるようだからね…………。
 …………今、スープを温めてくるよ…………。

 …………まったく、僕の看病にきて逆に風邪に罹ってしまうなんて…………。だから、近寄らないほうがいいと言ったのに…………。
 まあ、そこが実に姉くんらしいのだけれど…………。

 僕の引いた風邪は、普通の風邪ではなかった…………。普通の人には、感染しないはずだった…………。だから、僕も少しだけ油断していたんだろうな…………。


 しかし、姉くんには感染してしまった…………。

 …………許さない。姉くんを侵すものは…………許さない! 例えそれが、目に見えない病魔であったとしても、必ず…………。
 …………だがその気持ちとは逆に、僕は少し安心してしまったんだ…………。姉くんに流れている血と、僕に流れている血…………それが、全く違うものではない、ということにね…………。
 姉くんを追って…………再び姉弟として、この世に生を受けることができたけれど、それでもこの不安を完全にぬぐうことはできなかったんだ…………。僕が、幾世にも渡ってこんなにも…………あの時の姉くんの笑顔を覚えているというのに…………こんなにも愛しているというのに、姉くんはいつも…………何も知らない風に無邪気に笑うんだ…………。姉くん…………キミは本当に気づいていないのかい?
 でも、僕の病が姉くんに感染してしまったということは…………期待して待っていてもいい、ということ…………かな…………。

 …………どうやら、スープが温まったようだ。


 姉くん、具合は…………フフッ、寝てしまったか…………。

 姉くんの額に手をかざし、手のひらに意識を集中する…………。淡く青白い光が姉くんを包む…………。
 …………ふぅ、こんなものだろう…………。姉くんからは、もう魔の気配はしない…………。あとはこちらで何とかするさ…………。
 …………本当はこのまま、姉くんをさらっていってしまってもよかったのだが…………。フフフ、姉くん…………その寝顔は少し無防備過ぎやしないかい…………。…………次に目が覚めるまで…………もう少しだけ、こうして姉くんの寝顔を眺めているのも、たまには悪くない…………かな…………。