【紅の月】

 やあ、姉くん…………いらっしゃい…………。
 疲れただろう? そこにかけてくれ…………。
 今、飲み物を入れてくるから…………少し待ってて…………。


 …………グラスに満たされた赤い液体…………。とてもキレイだとは思わないかい…………?
 それに今宵は満月…………。こんなに赤い月は…………久しぶりに見る…………。
 夜の眷属が魔力を得て…………活動を始めるにはいい夜だよ…………。

 ああ、ところで姉くん…………こんな話を知っているかい…………?

 夜の眷属に、ヴァンパイアというものがいる…………。まあ、いわゆる吸血鬼という奴さ…………。
 彼らは…………人の血を欲す…………。
 一度に、体内の血を全て吸われた者は…………干からびた自我の無いヴァンパイアとなる…………。
 二度に分けて血を吸われた者は…………見た目はそのままに…………心だけを失ったヴァンパイアとなる…………。
 …………そして、三度に分けて血を吸われた者は…………徐々に相手の血を送り込まれ、身も心もそのままに、完全なヴァンパイアとなる…………。
 俗に、花嫁と呼ばれる存在になる…………ということさ…………。

 フフッ…………姉くん、何も恐がることは無いさ…………。そんなものは…………とうの昔に…………人の前から姿を消してしまったのだから…………。
 それだって、ただのトマトジュースにしか過ぎないよ…………。…………姉くんは、トマトジュースは嫌いだったかな?

 …………それに、例えそんな奴らが、姉くんの目の前に現れたって…………僕が…………姉くんに手を触れさせたりはしないさ…………。
 …………だって…………姉くんを花嫁にするのは、この僕なのだから…………。

 …………ん、ああ、何でもないよ、姉くん…………ただの独り言さ…………。
 だから、今日は…………このままゆっくりとおやすみ…………姉くん…………。フフフフフ…………。

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