美少女怪盗クローバー
clover5 『真実は湯煙の中に(後編)』


「キャーッ!!」


 今日は、朝から兄チャマとサイトシーイングなのデス!
 この地方はカンケツセンが有名だって、兄チャマが言ってました! ……でも、四葉、カンケツセンってよく知らないのデス。温泉の近くにあって、カンケツセンって言うぐらいだから、温泉と何か関係があるのかなぁ……? まあ、悩んでいても仕方がないデス! こういう時は行動あるのみ! クフフフフゥ♪ 今から、兄チャマと一緒にカンケツセンをチェキするのがとーっても楽しみなのっ♪

 それで、兄チャマと一緒にこの辺りで一番大きなカンケツセンまで来たんですけど……何にもないデス。他の温泉みたいにお湯が涌き出てるわけでもないし……どうやら、温泉とは関係がなかったみたいデス……。あーあ、また四葉の推理はハズレみたいデス……。
 四葉の目の前にあるのは、ちょうどマンホールくらいの大きさの穴と、そこからずーっと離れたところにぐるーっと立っている柵だけデス。こんな何にも無い所なのに、どうして人がたくさん集まっているのかなぁ? ……やっぱり、あの穴がカンケツセン……なのかなぁ?
 ねぇねぇ、兄チャマ。カンケツセンって、一体どこにあるんデスか?

「ふふ。四葉、もうちょっと待っててごらん。そろそろだから」

 ??? そろそろ、って何がそろそろなのでしょうか? とにかく、兄チャマの真似をして穴の方をじっとチェキします。じーー……。……こんな遠くから穴をじーっと見てるだけなんて、四葉、ちょっと退屈……。兄チャマをチェキしてる方が、何百倍も楽しいのにな♪
 と、その時でした。

ドォーーーン!

「キャーッ!!」

 あ、兄チャマ兄チャマ! 今、ドバァーって出たデスよ! ドバァーって!! ボ、ボルケイノですか! イラプションですか! 
 でもなんだか温泉と同じ匂い(イオウの匂いだって兄チャマは言ってました)がする……ということは今噴き出したのは温泉のお湯?
 そうやって四葉が首を傾げてると「今のが間欠泉だよ」って、兄チャマがこっそり教えてくれました♪ へー、今のがカンケツセンなんですねぇ。
 ……あの、兄チャマ、もう1回見てもいいデスか? ……さっきは、ビックリして兄チャマに抱きついちゃったから、あんまりよく見てなかったんデス。エヘヘ♪

 兄チャマとカンケツセンを見た後は、ぐつぐつ沸き立ってる泉――あれじゃ、熱すぎて入ったら大火傷しちゃいます!――とか、とっても真っ赤なお風呂――チノイケジゴクって言うらしいデス!――とか、兄チャマに色々教えてもらいながら、普段は見られないようなものをいっぱいチェキしちゃいました♪ うーん、なんだか四葉がご本で読んだまんまの日本に来たって感じデス〜。

 兄チャマと色んなものを見て歩いてるとすっごく楽しくて、時間が経つのも忘れちゃうくらいなんですけど、それでも普段なれない岩場とかを歩いたせいか四葉ちょっぴり歩き疲れてきちゃいました。
 そんな時兄チャマが「四葉、あそこの茶屋で少し休もうか」って言ってくれたのデス♪ いやーん♪ やっぱり兄チャマと四葉はイシンデンシンなのですねー♪

 四葉の目の前に運ばれてきたのは、とーってもいい匂いのミタラシのお団子と熱ーいティでした。それからそれから、オンセンまんじゅうデス! でも、オンセンまんじゅうってどの辺が温泉なのでしょうか? 匂いも普通のおまんじゅうだし……そうデス! きっとオンセンのお湯を使っておまんじゅうを作ってるに違いないです! さっき、オンセンのお湯を飲める所をチェキしたから間違いないデス! 体にいいおまんじゅうなんですねぇ……モグモグ……。
 それから、グリーンティ。日本に来たばっかりの頃は、グリーンティはイギリスでよく飲んでたティとは全然違って、お砂糖もミルクも入れないしあんまり好きになれなかったんですけど、兄チャマのお家で兄チャマがよく買ってくるおいしーいワガシを一緒に食べてたら、すっかり好きになっちゃった♪ 兄チャマと一緒だと、どんなものでもおいしくなるから不思議デス♪ また、兄チャマに一歩近づけた気がします♪

 ……あ、そうでした。四葉、楽しくってすっかり忘れてたデス! 予告状を出しに行かなくっちゃ!

「あ、あの……兄チャマ、四葉、もう少しこの辺を見て来てもいいですか?」
「ん? ああ、じゃあそろそろ行こうか」
「あ、いや、兄チャマはもう少し休んでてもいいですよ! ほら、あんみつが来たデス!」
「……ひとりで大丈夫かい? ……じゃあ、僕はここにいるから行っておいで。気をつけてね」

 ……ふぅ、危ないところでした。兄チャマ、ゴメンナサイ。でも、どうしても四葉はやらなければいけないんデス。だから、兄チャマはその3杯目のクリームあんみつを食べててください! ……それにしても兄チャマ、よく食べますね……。

「ここが、井波グランドホテルですね……」

 駅から降りて一番最初に目に付くくらい、おーっきいホテルなのデス。明らかに他の旅館と比べてイシツな感じがします。まさしく、インボウのにおいがプンプンするデス!!
 とりあえずホテルに入ると、すっごくロビーが広くって、真っ赤なじゅうたんが敷いてあって、シャンデリアなんかもとってもまぶしくって、四葉、目がクラクラしちゃいそうでした。

「お嬢ちゃん、どうしたのかな?」

 うわっ! ビックリしたデス! ああ、ボーイさんですね。確かに四葉1人じゃ、ちょっと目立ちますよね。

「あ、あの、“ひろし”っていう人は、このホテルで働いてますか?」
「? ああ、ひろしくんかい。妹さんかな? 今呼んできてあげるよ」

 思ったよりあっさり“ひろし”さんに会えそうですね。クフ♪ 大人は、相手が子供だと油断しやすくなるものです♪ 「真実の前には大人も子供も関係ない」、ホームズならこう言うかな?
 ……そういえば、目的の左招きは……あ、フロントの上の方の棚に飾ってあるデス! 昨日、旅館で見たのとおんなじ猫に間違いないデス!

「……あの、僕に何か用ですか?」

 フロントの方を見ていた四葉に横から声をかけてきたのは、どうやらこの人がひろしさんみたいです。んー、確かに目元の辺りとか、女将さんに似ているような気がします。

「あ、ひろしさんですか? 女将さんに頼まれて、この電話を渡しに来たデス!」
「? ああ、姉さんが? ……折角持って来てくれたのに悪いんだけど、それは持って帰ってくれないかな」
「どうしてですか!? 女将さん、ひろしさんのことすっごく心配してたデス! 最近はお客さんも少なくなって、旅館をやっていくのも大変だけど、『ここが私達姉弟の家だから』って頑張ってるんですよ!」
「……わかったよ。その電話はもらいます。じゃあ、仕事があるんでそろそろ戻るから。ありがとう……えーっと」
「四葉デス!」
「ありがとう、四葉ちゃん」

 ……ひろしさんもやっぱり女将さんのことが心配なんですね。とっても寂しそうなお顔でした。四葉も、寂しかったです……。やっぱり、兄弟っていうのは一緒にいるのが自然なんです。だって、四葉、今は兄チャマと一緒にいられてとってもハッピーなんだもん♪
 さてと、そろそろオシゴトです。このクローバーホンでピ・ポ・パっと。

「もしもし、姉さん?」
「残念ながらあなたのお姉さんではないです。その代理、美少女怪盗クローバーなのです」
「え? 美少女怪盗クロ……」
「おっと、その名前を大声で言うのは感心しませんよ、ひろしさん」
「なんで僕の名前を!?」
「あなたのお姉さんの代理、そう言ったはずですけど? まあいいです、手短にいきましょう。左招き、その盗みに協力して欲しいのです」
「泥棒の片棒を担げって言うのか?」
「しかし、あなたをここに縛り付けているのもあの左招きのはずです。本来は二つで一つ。元の鞘に収まるべきだとは思いませんか?」
「……」
「なあに、簡単な約束事です。…………。これだけです。では、今夜また会いましょう」

 ひろしさんはちゃんと約束を守ってくれるでしょうか? 大丈夫ですよね? 兄弟の絆は、何物にも負けないから。さぁてと、そろそろ兄チャマのところに帰るデス!

 と、さっきのお茶屋さんに戻ってきてみると……兄チャマ……。「あ、四葉おかえり」じゃないデスよ……。積まれた器がワン、ツー……ファイブ。そして、今手に持ってるので6個目。いつから、そんな甘党になったデスか……。うー、胸焼けしそう……。


「ん? ひろしくん、ポケットに入ってるソレ、なんだい?」
「え? いつの間にこんな物が……」

予告状

井波グランドホテル様
今日の夜10時、『左招き』を頂きに参りマス
覚悟してクダサイ!

美少女怪盗クローバー


 旅館に戻って温泉に入って――今日は兄チャマとは一緒じゃありませんでした。しょぼんデス。――そろそろ四葉も準備しなきゃ、と思ってたら兄チャマが「四葉、僕ちょっと出かけてくるから」って言ってきました。「あ、はいデス。気をつけてくださいね、兄チャマ」とは言ったものの、内心複雑デス……。兄チャマの出かける先は、井波グランドホテルなのですから!
 ホテルに美少女怪盗クローバーから予告状が来た! その話題はアッと言う間に広がっていたみたいで、旅館に戻る途中、ホテルの前に人だかりができていたのを目ざとく見つけた兄チャマが、クローバーのことを聞き出しちゃったのデス! しかも、地元の警察ともお友達になっちゃってたデス!! うーん……流石はミスター・ダイヤ効果といったところでしょうか。って、感心してる場合じゃないデス! また、厄介なことになりましたねぇ……。

 とにかく、手はずどおりにやるだけデス。ひろしさん、信じてますよ。

「ドレスアップ!!」

 今日も美少女怪盗クローバーで決めるデス!

 今回の侵入は屋上から……ってあらあら、屋上にまで見張りとはご苦労様ですねぇ。
 よっ、と。ハングライダーから手を離して屋上に降り立って、「やぁやぁ、ご苦労様ですネ!」

「な、美少女怪盗クローバー!! ……っ!」

 残念だけど、眠っていてください。伸縮自在のクローバーロッドで一撃! 鳩尾を強く打つと痛いですよねぇ、四葉も気をつけなきゃ。フフン♪
 あとはちょちょーっと細工をして、エレベーターで降りるだけデスね♪


「はーっはっはっ!! 毎回ご苦労なことですネ!」
「それはこっちのセリフだ! 馬鹿にしやがって! 出てこい! 美少女怪盗クローバー!!」
「ならば、お望みどおり……オープン!!」

 エレベーターのドアが開くと、そこにはいつもの警部さんが……いつもの警部さん!? こんな遠くにどうしているのでしょうか? ホント、しつこい男は嫌われますよ?
 とにかく、スイッチオン!

パチンッ!!

 四葉が一つ指を鳴らすと辺りは暗闇に。でも実際は大したことないんですけどね。指先のスイッチをオンにすると配電盤に仕掛けた装置が作動する。実に初歩の初歩デス。後は……

「刑部さん! 確かに左招きは頂きましたよ! それじゃ、シーユー♪」
「くそ! 明かりはまだか! エレベーターに追い詰めろ! 袋のねずみだ!」

 刑事さんが入ってくるのを押しのけて、そのままエレベーターで屋上まで行くデス!

「お、明かりがついたか。ん? 招き猫、ここにあるじゃないか」
「……いえ、これは偽者です」
「なあに!! 本当か!? ……えっとひろしさんだったか。また騙されるところだったか! 上だ! 急げ!」

 屋上についてエレベーターのドアが開くと……

「あ、どうも。こっちに美少女怪盗クローバーが来ませんでしたか? えーっと」
「スペードです。名探偵スペード」
「はぁ、スペードさん」

 うっわー、兄チャマです!! さっすが兄チャマ♪ 勘が鋭いというか、四葉のことは何でもお見通しなのですねぇ♪ って、今はすっごく困るんですけど。

「ところで刑事さん」
「な、何ですか?」
「尻尾が出てますよ。……美少女怪盗クローバーという名のね」
「!! な、何を言ってるんですか?」
「簡単なことです。警部から入った連絡によると、美少女怪盗クローバーは1人でエレベーターに乗って上に上がったそうです。でも出てきたのは、あなた1人だ。どうです、簡単でしょ? 今回は少しつめが甘かったようだね」

 さすが兄チャマ。本当に鋭いです。それで鎌をかけたということですか。それならもうこんな格好してる必要もないデスね。

バサッ!

「美少女怪盗クローバー、今日こそ捕まえる! もう怪盗なんてやめてもらうぞ!」
「残念ながら、そういうわけにもいかない事情がこちらにもありまして。名探偵スペード、アナタこそ手を引いたらどうですか?」
「さっきの言葉、そのままお返しする! たぁ!」

 飛び掛ってきたスペードを横っ飛びでかわす! ……あぁ! マントをつかまれちゃいました! 兄チャマ、前よりも動きがよくなってる!? くっ……。

「クローバーロッド!」

 マントを掴んでいた手を払って、そのままロッドを伸ばす! 兄チャマをフェンスの方まで押し付けて……うわわ! 逆につかまれたデス! そんなにブンブン振らないでクダサイ!! こうなったら!

「クローバーロッドにはこういう使い方もあるんデス!」

 ロッドを縮める! お互いにロッドを握った状態で縮めるとどうなるか。四葉の方がすごいスピードでどんどん近づいていって、その勢いで体当たり!! 兄チャマ、ごめんデス! こっちも本気を出さないと危ないんです!

「名探偵スペード君、次を楽しみにしてるよ。さらばです!」

 そのままフェンスを乗り越えて地面に着地。よく分からないんですけど、クローバーブーツには重力緩衝とか衝撃拡散とか、なんだかよく分からない機能が満載らしいのです。
 そしてホテルの裏の林には、今回の目的物“左招き”が置いてありました。ひろしさん、どうやら上手くやってくれたみたいです。警部さん、今回もまた見事に引っかかってくれたみたいですねぇ♪ まあ確かに、持ち主が偽者と言えば信じてしまうのが人というものデス。

「女将さん、グッモーニン! です。……? どうしたデスか? そんなに驚いた顔して」
「あ、四葉ちゃん。ほら、見て! 招き猫が二つ揃ってるの!」

 クフフ♪ それはきっと美少女怪盗クローバーの仕業ですね♪

「結局、元の持ち主の所に帰ってきた、ってことか。美少女怪盗クローバー、一体何を考えているやら」
「あ、兄チャマ、グッモーニン! ……招き猫、ホテルに持っていくですか?」
「ん? いや、そんなことはしないよ。それに、もうその招き猫はこの旅館のものだしね」

 ?? 兄チャマが見たニュースによると、昨日の事件でホテルのオーナーが裏で色々やっていたのがばれたんだって。その一つが、この招き猫みたいデスす。ホテルのオーナーがこの招き猫のことに気付くなんて……ミステリーです……。

ガラガラガラ

 おや? お客さんでしょうか?

「……姉さん、ただいま」
「!! ひろし!! ……おかえり。帰ってきてくれたんだね」
「ああ、ここが僕の家だから。……ごめんよ……姉さん」

 女将さんもひろしさんもとっても嬉しそうです♪ 四葉もなんだか嬉しくなってきちゃいました♪ これからは2人ともずーっと一緒デスね!

「四葉、部屋に戻ろうか」
「はいデス!!」

 こうして、四葉と兄チャマの温泉旅行は終わりました。明日からまた、いつもの街で兄チャマをチェキです♪
 あの旅館にも、「絶対にまた一緒に来ようね♪」って、兄チャマと約束しました♪ 女将さんとひろしさん、2人が一緒に頑張ればきっとまたは繁盛間違いなしデス♪ 今度行ったときは、四葉たちが泊まるお部屋残ってるかなぁ?
 兄チャマとの小旅行、とーっても楽しかったです♪ あ、そうだ♪ 今度は兄チャマをイギリスに招待したいなぁ。四葉の住んでいたところを兄チャマにも見て欲しいんデス♪

 その時は、ぜーったいに一緒に来てくださいね、兄チャマ♪