【太陽の女神】

 太陽が街を照りつけて、行きかう人々に汗を流させている。窓からそんな光景を見つめながら今日の予定を考えたりしてみる。とはいうものの、太陽はすでに南中近くまで上っていて、外に出よう! なんて気分を消し去ってくれちゃうのよねぇ……。はぁ、本当なら今日は私の最愛のお兄様とデートのはずだったんだけど、「ゴメン! どうしても来週までに片付けなきゃいけない宿題があるんだ」って言って、来週に延期。もう、お兄様ったら、宿題と可愛い妹とのデート、どっちが大事だと思ってるかしら! せっかく久しぶりにお兄様とデートできると思って、ロクに夜も眠れなかったんだから! お肌が荒れちゃってたら、それはお兄様のせいなんだから。
 でも、宿題をやらないわけには流石にいかないわよね。私だって、それくらいは分かってる。でも……。

 あーもう、やめやめ! こんな天気のいい日に後ろ向きなこと考えてても仕方ないわ。あっ、そうだ♪ どうせなら来週のために帽子でも見に行こうかしら? 来週の日曜日も暑くなりそうなこと言ってたし、せっかくなんだから新しいもの買っちゃってもいいかも♪ ウフフ♪ 我ながらいいアイデアだわ♪ そうと決まれば善は急げね。

 そう思い立った私は、早速お気に入りのお店へ向かったの。だけど……

「うーん……これもいまいちかしら……」

 鏡の前でいろんなポーズをとってはみるものの、いまいちどれもしっくりこないのよねぇ。何せ今は秋物の新作が出始めている時期。夏物の帽子なんて、もうそんなに残ってないの。今年の夏は梅雨明けも遅くって思いのほか冷夏で、太陽が顔を出している日なんて数えるほどしかなかったから、帽子なんて必要にならなかったのよねぇ……。私としたことがとんだ大失敗だったわ……はぁ……。

 結局何も買わずに店を後にした私は、家の近所にあるちょっと大き目の公園のベンチで一休みすることにしたの。この場所は、後ろに樹があるおかげで1日中日陰になって涼しいから、とっても気に入ってるの♪ 一度なんか、せっかくお兄様と来たのに、あんまり心地が良かったものだからすぐに寝ちゃったことがあったのよね。気付くとお兄様の顔が近くにあってビックリ! どうやらお兄様の膝枕で寝てたみたいなの! お兄様に、重くなかった? って聞いてみたら、「ちょっとだけね♪」、なんてちょっぴりイジワルな答えが返ってきたりして……。すぐに眠っちゃったのは失敗だったけど、でもなんだかちょっと得した気分だったわ♪

 そんなことを考えながら、ちょっとウトウトしかけたその時、

「あーん、飛んでいかないでー!」

 と、聞いたことのある声が聞こえてきたの。目を開けて、声のした方を見ると……キャッ! やっぱり視界は狭くて暗いまま。それでも隙間から漏れてくる光のおかげで真っ暗闇、って程ではないんだけれど、ね。

「はい、花穂ちゃん。もう飛ばしたりしちゃダメよ」
「あー、咲耶ちゃん! あ、帽子取ってくれてありがとう」

 私の目の前には元気いっぱいの花穂ちゃん。花穂ちゃんって、ホント太陽みたいよねぇ。こんな晴れた日がよく似合ってるわ♪

「ところで花穂ちゃんは部活の帰り、かしら?」
「ううん、違うの。あのね、今日は向こうの丘の花園にお花を摘みに行ってたの♪」

 花穂ちゃんの持っているカゴを見てみると、確かに色とりどりの花が入っていたわ。ウフフ♪ 花穂ちゃんって本当にお花が大好きよね♪ 将来はお花屋さんとかになるのかしら?

「それでね、花穂、これからお兄ちゃまにこのお花をプレゼントしに行くんだ♪」
「へー。でも、お兄様は今日は……」

 そこまで言ってから、ちょっと考えたの。そうよ、元々今日はお兄様とデートのはずだったのよ。それなのにお兄様は宿題があるって……だ・か・ら、今からお兄様が宿題をやっているのを見に行くのはどうかしら? 宿題は手伝ってあげられなくても、ほら、お茶の用意とかなら私にだって出来るし、やっぱり、お兄様とは少しでも長くいたいじゃない? たとえ宿題だって、私とお兄様を引き離すことなんて出来ないってことを見せつけてあげなくちゃ♪

「ねぇ、花穂ちゃん。私もお兄様の家に一緒に行ってもいいかしら?」
「え? うん、もちろんだよ♪」
「あ、それからそのお花、私に少し分けてもらえないかしら?」
「うーん……お兄ちゃまにあげる分はダメだけど、それ以外だったらいい、かな?」
「ありがとう、花穂ちゃん♪」

 花穂ちゃんから、お花を少し分けてもらった私はちょっと家に寄り道をしました。だって、いい考えが浮かんだんですもの♪ えーっと、確かこの辺に……あった! ウフフ♪ コレをこの花で飾れば……あ、やっぱり♪ とってもいい感じになったわ♪ それじゃ、コレを身に着けて愛するお兄様の下へ向かうわよ♪

 道すがら、花穂ちゃんに「わー、咲耶ちゃんとってもよく似合ってるよ♪」、なんて言われちゃったわ。ウフフ、花穂ちゃんが絶賛なんですもの。コレならお兄様だって、きっとイチコロに違いないわ♪ 「今日の咲耶は、いつもと違った雰囲気で、とってもステキだね」、なんて言われちゃったら、私は、私は、キャー♪

「……ちゃん、咲耶ちゃん、着いたよ!」
「え? あら、いつの間に」

 どうやら、ちょっと浮かれすぎちゃったみたいね……♪
 呼び鈴を鳴らすと、すぐにお兄様が出てきたわ。なんかちょっと疲れ気味のお顔をしていました。

「あ、あれ? 花穂と……咲耶?」
「こんにちは、お兄ちゃま♪」
「ハーイ、お兄様♪」
「咲耶、その帽子は?」
「ウフフ♪ 早速この帽子に目が行くなんて、さっすがお兄様♪ この帽子はね、昔、お兄様にプレゼントしてもらったに、花穂ちゃんがさっき摘んできた花をあしらったものなの」
「へー、いつもと違った感じだけど、よく似合ってるよ、咲耶」
「ありがとう、お兄様♪」

 もう、お兄様ったら♪ ちゃーんと、私の期待通りの、とっても嬉しい言葉を私にかけてくれたわ♪
 この花は、きっと明日には枯れてしまうでしょう。だから、この帽子は、この帽子を被った私は今日だけの私。いままでだって、これからだって、今と同じ私には出会えないんだから、だからちゃーんと見ててよ、お兄様! 私もお兄様のこと……ちゃんと、見てるんだから♪