トランクス・アフターストリー〜もう一つのその後
第1話 : カメハウスへ (2)
「お久しぶりです、トランクスさん。
はじめにオレを迎えてくれるのは、いつも海ガメさんだ。

「亀仙人様もおまちかねですよ。亀仙人様〜トランクスさんがいらっしゃいました〜。」
「あれ、返事がないですね、中へお入り下さい。」

海ガメさんが呼んでも、武天老師様が出てこれれなかったので、オレはカメハウスに入る事にした。気にする事はない、いつもの事だ。

「あ、それじゃぁ遠慮なく、お邪魔します。」

カメハウスに入ると、テレビから流れる音楽が聞こえてきた。たいてい武天老師様は外のハンモックで読書されているか中でテレビを見ている。

「ワン・ツー、ワン・ツー・・・」レオタードの女性が踊っているのを間近で見ている武天老師様が見えた。いつもどうりであると、次は海ガメさんが・・・。

「亀仙人様!トランクス様がおいでなのに、何をしておられるのですか!なげかわしい・・・!」

ほらきた、海ガメさんが少し嫌みを混じらせ、亀仙人様を説教するのだ。

「お、おおトランクスか、よう来たのう。さあ、さあ中へ・・・。」
「もう入っておられますよ・・・亀仙人さま・・・」

「う、うるさいのう海ガメ・・・。」

こんなたわいもないやりとりがオレをなごませる・・・。今日も来てよかった・・・。

人造人間があらわれ、文明がこわされ、大切な人や物をたくさん失った・・・。それだけに、こんな平凡な日常がとてつもなくいとおしく思える。

『平和になったんだ・・・。』

オレの心はあらためてそんな当たり前の事を実感した。

今でも夢をみる。悟飯さんが死んだあの日の夢・・・。オレが足をひっぱる事がなければ・・・。あの時、オレにもっと力があったなら・・・。

何よりも、オレがもっと早く超サイヤ人になれれば・・・、あるいは悟飯さんも死なずにすんだかもしれない。

今更考えてもしかたのない想いばかりがオレの頭をよぎるのだ。

カメハウスに来るとそんなイヤな思いが消えてしまう。オレはここが本当に好きだ。
ここには武天老師様がいて、死んでいった仲間のおもいが残っている。今度は母さんもつれてこよう。

「トランクス、今日はのう、ワシの話ではなく、過去の悟空達の話を聞かせてくれぬか?」
武天老師様が思いがけない事を言った。

そういえば、オレが行った過去の悟空さんや父さんの話はしなかったな・・・。

「ええ、いいですよ!たまにはオレの話を聞いてもらうのもいいですね。」

何から話をすればいいかな・・・。

「そうだ、武天老師様、とっておきの話がありますよ!」

「なんじゃな!」
ワクワクしながら身を乗り出す武天老師様の顔がひきつる事を予想し、少し笑ってオレは話した。

「オレがセルを倒した報告に、最後に過去に行った時オレ自身おどろいた事なんですが・・・」
「クリリンさん、結婚されたんです。」

「ひ、ひぇぇ〜〜、クリリンのやつ結婚しよったのか!」

「そうなんです。武天老師様。」

「あやつは、結婚したいって言っていたからのう・・・。それで誰と結婚したんじゃ?」

オレはニヤリと笑った。

「あまりじらすもんではないぞ、トランクス。」

「武天老師様も知ってるあの人ですよ。」

「わしが知ってる人か?誰じゃ・・・。」

「人造人間18号さんです。」

「え!?」

予想通り武天老師様の顔がひきつっていた。


「ひえぇぇぇぇぇぇ、これはビックリしたぞい。」


「オレが行った過去は少し今とちがっているんです。過去の人造人間18号さんはこの世界の人造人間のような悪ではなかったのです。」

「そ、そうか・・・それにしてもクリリンのやつ人造人間と結婚・・・、あやつもやりおるわい・・・。」

そしてオレと武天老師様は一緒に笑った。
「ははははははは・・・・・。」

大声で、力一杯わらった。その次の瞬間オレの脳裏に過去の仲間達の思い出がよみがえった。ここでは二度とあえない仲間達の思い出が・・・。

いけないとは分かってはいるものの、オレはうつむき、目頭が熱くなってくる。こらえきれないものが、胸の奥からこみあがってきた。

「ほ、他には何か面白い話はなかったか?トランクス。」

武天老師様が気遣ってくれて話題をかえようとしてくれる。仲間を失って孤独を感じるのは武天老師様も同じはずなのに、そんな方に気を遣ってもらうなんてオレはおろかだ・・・。自責の念におそわれる。明るく話さないと・・・。

「す、すいません、父さんの話なんですが・・・。」

「ほうベジータの話か!」

「ええ、父さんは、母さんの言うとおり、ただの冷たい人ではありませんでした。」

「ベジータがか!?」
武天老師様の顔が少し面食らっている。そういえば母さんに同じ話をした時もそうであったな・・・。なぜだろう・・・。

「ええ、ヤムチャさんが教えてくれたんですが、オレが完全体のセルに殺された時、なりふりかまわず、絶対の力をほこるセルに突っ込んでいったそうです。」

「ほ、ほう。あのベジータが・・・。イヤ、そ、そうじゃろ、そうじゃろ。」

武天老師様の顔が複雑な心境を訴えているのが分かる・・・。と、父さん・・・あなたは・・・いったい・・・。

「しかしトランクスがいったん死んだとなるともちろんドラゴンボールで復活したんじゃな?」

「はい、そうです。」

「過去にはドラゴンボールがあるのか・・・。この時代にもドラゴンボールがあればよかったのじゃが・・・。最初に人造人間にむかったピッコロが殺され、神様も死に、まっさきにドラゴンボールがなくなってしまったからのう・・・。」
本当に残念そうに武天老師様が言う。

「そうですね・・・。この時代のピッコロさんも過去のピッコロさんと同様に神様と合体すれば死ななかったと思いますが・・・。」

「む、過去のピッコロは神様と合体したのか?」
武天老師様はたいへんおどろいていた。そう言えば、合体した話は母さんにもしていなかったな・・・。

「そうなんです。合体したピッコロさんは超サイヤ人をも超える戦士になられたんです。」
たしかにすごかった。精神と時の部屋から出たオレが感じたピッコロさんの気は孫悟空さんはもちろん、超サイヤ人になったオレの戦闘力をも余裕で超えていた。セルの戦闘力はさらにそれをも上回っていたのだが・・・。

「ほうほうそんなに実力があがるのか・・・、では何故この世界のピッコロは神様と合体しなかったのかな・・・。」

「あ、それは多分、合体するとピッコロさんがベースになる場合、戦闘タイプになりナメック星人特有の不思議な力がなくなってしまうからではないでしょうか。ドラゴンボールを失ってしまうの事に抵抗があったのかもしれませんね。」
まぁ、ピッコロさんが殺されれば、結果的にはドラゴンボールがなくなってしまうとは思うのだが、割り切れないものがあったのであろう。それはドラゴンボールで蘇ったオレにはよく分かる。ドラゴンボールは希望の球、みんなの最後の切り札なのであるのだから・・・。

「ちょっと、待て、トランクス。おぬしはさっき生き返ったと・・・。」
武天老師様はいつになく真剣な顔で問いかける。

「あ、はい。オレはドラゴンボールで生き返りました。ピッコロさんと神様の合体で一度はドラゴンボールがなくなってしまったのですが、デンデというナメック星人の子供が新しい神になり、ドラゴンボールも復活したのです。」

「むむ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「トランクス!、この世界にもドラゴンボールが蘇るかもしれん。」

武天老師様のこの声が全ての始まりであった。
希望と絶望のいりまじった冒険の・・・。


第1話完  

次回、第2話へ続く