小さな声がそこにこだましているようだった。
呻き声…?それから笑い声。
どこか嫌な響きを含む、下品な笑い声だ。
僕は幽霊ビルの内部を覆い隠しているシートを掴んだまま躊躇った。
いったい、何をしているんだろう。
この声は何だろう。

「……もっと………せろ……」

よく聞き取れない。
僕は辺りを見回した。
だいじょうぶ、誰もいない。
そっとシートを少しだけ持ち上げる。
暗がりでよく見えないけど、いくつかの黒い人影が見えた。
懐中電灯で照らしていて…子供?
僕と同じくらいの子供が3人、ひどく楽しそうに笑っている。
笑い声の下品さから察するに、それは…なんだかとてもイケない事だと言うのが薄々わかった。
やけに濃い空気が僕の鼻をすすらせる。
同時に、3人の足元から声がした。

「はぁ…っ…」

子供の、かすれたような声。
僕は目を凝らした。
その人物を僕は知っている。
僕は、その人物を…。

「…っ…」

僕は自分の口を片手で押さえた。
懐中電灯で照らされたそのほの白い顔は女の子みたいにほっそりしていて、はちみつみたいな色の長い髪をサイドに垂らしている少年。
間違いない…隣のクラスの転校生、芦川美鶴だ。
あんな綺麗な顔の男、一回見たら忘れられるわけがない。
僕はおそるおそる芦川の顔を伺った。
懐中電灯の光が小さな顔を照らしている。
芦川の顔は濡れていた。
水でもかぶったのか、額から、くちびるからも白濁した液が伝っている。
僕にはそれが何なのか、分からない。分からないけど…。
何だかすごい、ヤバイシーンを目撃してしまったんじゃないだろうか。

「おい、今度は俺にもさせろよ」

聞いたことのある声が耳に入ってきた。
あいつ…石岡じゃないか。
とすると残りの2人はやっぱり石岡の子分、だよな。
マジで最悪だ、3人がかりでリンチかよ…。
僕はシートを強く掴んでその光景を見つめていた。
よくよく見ると、石岡の子分のズボンは膝までずり下げられている。
芦川は露になった股間に顔を埋めるように押し付けられて、きつく眉を寄せているのだ。
長い髪を掴まれて無理やり顔を上げられた芦川は何かを言おうとするかのように口を開く。
けどもそれはすぐに遮られた。
石岡のそれ…つまり、おちんちんが…芦川の口に押し込まれる。
自分がされている訳でもないのに、僕は恐ろしくて口を押さえたまま眉を寄せた。
怖い…。
直感的にそうおもう。
これって…「ゴーカン」ってやつなのか?
カッちゃんと2人で、川原でエッチな本を見かけたときにそんなことが書いてあった。
難しくて漢字が読めなかったけど、右にルビが振ってあって、「強姦―ごうかん―」だと書いてあったのだ。
だから…僕が今見てるこれもあのエッチな漫画本と同じで…。

「ぐふ、う…む…」

ふと、芦川の苦しそうな声で我に返った。むせているらしい。
男のあんなのなんて口に突っ込まれたらきもちわるくて仕方がないだろう。
根元深くまでしゃぶらせているようだ。
…ってことは喉の奥まで突っ込まれてるんだよな?
……こっちがえずきそうだよ…。

「最近ナマイキなんだよ、転校生。…お前なんか俺のチンポしゃぶってんのがお似合いだぜ」

「ひゃははは…マジウケるんだけど、コイツの顔」

下卑た声が僕の耳にまで、届いた。
掴まれて、ぼさぼさになった髪を何度も引っ張りながら石岡たちが笑う。
引っ張られるたびにライトで照らされる芦川の顔は、バッチイ液でぬるぬるになっていて、黒い瞳は細められていた。
目尻に浮かんでいるのは嫌悪の涙だろうか。
どこか嘲るような瞳を向けている芦川が気に入らないらしく、石岡は舌打ちをした。

「くッ…どこまでも人をバカにしたような顔しやがって。おい、コイツのチンポもいじってやれ」

石岡が言うと、子分の2人は浮かれたような調子で芦川の服に手をかけた。
普段から着ている黒い服に手をかけて、サッと捲り上げる。
白くて、まだ未成熟な11歳の体が晒された。
それどころか、手は非情にも芦川のズボンへと伸びる。

「はーい、芦川クンご開帳でーす」

羞恥心を煽るような汚い声、嘲笑。
そのすべてが芦川に降り注いでく。
芦川の表情は髪の毛で隠れていたからよく見えない。
ただ、頬に垂れていた一筋の涙がひどく胸を抉った。
ズボンを脱がされた芦川は、そのままおちんちんを掴まれて見せびらかされるように皮の部分や、玉のところまでも触られている。

「ははッ、こいつ堅くなってんだけど。もしかしてマゾ?やばくね?」

石岡が芦川の口を解放した。
前髪を掴まれて、苦しそうな顔をした芦川はしばらくぼんやりと視線を宙に彷徨わせていたけれど、すぐにきつく目を細めて笑った。
石岡の眉がぴくんと跳ね上がる。
綺麗な顔を歪ませたままの芦川は、ゴーカンされていることなんて気にもとめず、と言った様子で奴らを煽るように口を開く。

「…女子にモテないとおもったら、こういう趣味があるんだな。男にこんなことさせて楽しいか?ヘンタイ」

淡々とした、普段どおりの芦川の声。
吐息の乱れはあるけれど、その声はバカにしたような…奴らを挑発するには十分の言葉だった。
石岡が再び、芦川の咥内に自分のおちんちんを突っ込む。

「ああ、楽しいけど!?お前みたいな淫乱野郎をぐちゃぐちゃにすんのはスゲーカイカンだよ」

石岡は一言一言強調するように言うと、不意に芦川のおちんちんを掴んだ。
ピンク色の、ちょっと可愛いともおもえる芦川のおちんちんを強く握って何をするのかと見ていたら、その手は激しく上下に動き始めた。
芦川の背後に立っている1人が後から芦川のおっぱいをわしづかむ。
淡いさくらんぼみたいな色のおっぱいの先っちょを指で摘んで、ぐにぐにと揉んでいる。
なんだかエッチだ。
僕は口を押さえていた手を下ろした。
そんな行為を受けている当の芦川は、石岡のものを口に入れたまま身を捩ってかぶりを振った。

「…はっ、あ…んんっ…んんう…はぁっ…」

掠れた芦川の声が幽霊ビルの中に響く。
芦川は、おっぱいの先をピンと尖らせて苦しそうに喘いでいた。
痛いのかな。
そうおもいながら見守っていると、石岡の子分がバカにしたような声で言う。

「あれー、殴っても呻き声ひとつ上げなかった優等生の芦川美鶴クンがきもちよさそうに鳴いてますよォ?」

「マジで感じてんのかよ、変態じゃん。ま、綺麗だからいいけどな」

どんどん、エスカレートしてくあいつらの行為。
芦川の声がどんどん切羽詰まったような声に変わっていった。
おちんちんをこすられて、おっぱいを抓られてあんな声を上げている。
カンジル、っていうことが僕にはよく分からない。
でも、少なくとも痛い事ではないのだとおもった。
だって…芦川の奴、顔を真っ赤にしてどこかぼんやりしたような黒い目を閉じて喘いでるんだもん。
その声も、鼻にかかった女の子みたいな声で…何だかドキドキする。
芦川が感じてると、僕も何だかおちんちんがキュッてする。
おそるおそる自分のズボンに触ってみると、そこはぐっしょりと湿っていた。
何で…?何でこんなにぬるぬるしてるんだよ…。
僕は身を捩らせながらズボンの中へ手を忍ばせてみる。
そこは熱を持っていて、おちんちんがべたべたに濡れていた。
芦川も今、こんな状態なのかな?

「ああっ…ひ…やあっ!あ、あ…やめっ…」

石岡のものから口を話した芦川が切羽詰ったようなひきつれた声で言った。
ぐちゅぐちゅぐちゅ。
暗いビルにはよく響く、水っぽい音。
きっと僕のズボンを濡らすぬるぬるが芦川のおちんちんにも溢れていて、だからあんな音がするんだ。
そうおもうと、何だかすごくイヤラシイ気分になる。
僕はその場に跪いて、地面におちんちんを擦りつけるように小さく腰を動かした。
ぴりぴりする。

「…んぅ…」

ふと、自分の口からも芦川のような声が出てしまった僕は慌てて行為をやめた。
だけど…芦川の声は僕のそれとは比べ物にならない。
エッチしているときの声…実際に聞いた事はないけど、芦川の今の声はきっとそれなんだ。
きもちいいところを触られて、あんな声を出してる。
優等生で、格好よくて、女の子にも人気があって、それでいて人に媚びたりしないクールな芦川美鶴が、エッチなことをされてきもちよさそうに鳴いている。
ゴーカンされてるのに、どうしてあんな声が出せるんだろう。

「ああぁ…んっ…よせ…それいじょ…っうぁ…!はぁっ、あ…」

芦川は石岡のおちんちんにしがみつくようにしてぜぇぜぇと喘いでいる。
息ができないのか、声が苦しそうに上擦っていた。
ぬちぬちといやらしい音を出す芦川のそれを触りながら、石岡が言う。

「もしかして、お前…精通まだったりすンの?」

「あるわけっ…ないだろ…あふっ…僕はお前みたいに早熟じゃないんでね…っぐ…!」

芦川は喋るたびにいやらしい声が出る。
人をバカにしたようなナマイキな台詞も、何だか全然怖くない。
むしろ、必死に強がっているように聞こえた。
石岡もそれは同じだったらしく、機嫌よく笑って芦川のおちんちんをイジメる手を早める。

「へえ、じゃあ初公開じゃねェか。芦川美鶴の初射精…」

「やべ、カメラカメラ…」

「ケータイで良いじゃん」

おどける2人組に合わせるように石岡が笑う。
芦川だけが目をまんまるに見開いて息を切らせていた。
頭のいい芦川の事だから、射精の意味も分かっているはず。
僕だって、保健の授業で習ったことがあるんだ。
きもちよくなると、おちんちんの先から出てくるのが精液で、それを射精って言うって先生が言ってた。
小さい頃は、まだ精液をつくるところが発達してないから、精液なんかでないけど僕らはもう11歳。
だから体が発達して、射精もできるような体になるんだって聞いた。
芦川もそうなのかな。

「あああっ…う、やっ…大いなる冥界の宗主よ…っ…」

芦川がふいにはっきりとした言葉で言った。
僕にはよく聞き取れない。
けれど必死に言葉を繋げようとしていた。
だがいたずらをする手はやまない。
小さな芦川の腰がもどかしそうに動くのが見える。
芦川は空を仰いで濡れた目を天井へ向けると震えるような声でそれを続けた。

「我…盟約に則りここに請い願わん。闇と死者のつば、さ…っ、ひあぁっ!!」

芦川の声が甲高いものに変化する。
アレを握る手が先っちょを強く擦ったんだ。
石岡の顔が芦川の首筋に寄せられる。
僕の角度から、芦川の顔が見れなくなった。
ただ、芦川の濡れた声だけがビルの中に響いてく。

「やべー…マジ濡れてる。ブチこみたくなってきた」

ブチこむ?ブチこむって何を…?
僕が疑問におもったのと同時に、芦川の体がガクンと石岡に倒れこむ。
石岡の首筋にしがみついて喘ぐ芦川は、もう先ほどの威勢なんかカケラもなかった。
壊れちゃったみたいだ。
くちゅくちゅと擦れる音は芦川の耳にも届いているんだろう。
自分のおちんちんがそんな音を立てていて、それを他人に触られているなんて恥ずかしすぎる。

「はぁあっ…ひぐっ…あっ、あ…あああぁっ…」

「人一倍敏感なのに我慢するからワリーんだろ、ミツルちゃん?この前、便所で胸揉んでやったらあんなに可愛く鳴いてたもんなァ」

芦川の胸を弄っている奴が笑いながら言う。
言われてみれば、確かに先ほどから芦川はカイカンを我慢するみたいに眉を寄せて声を殺してた。
それはただ嫌悪感いっぱいで、感じる暇がないのかとおもっていたけど…違うんだ。
芦川はタガが外れたように声を上げてる。
あいつってクールな顔と反比例して意外とエッチなんじゃないだろうか。
そうおもう僕を肯定するかのように芦川の匂いが濃くなった。
芦川の甘ったるい声はビルを震わせている。
ビクッ、ビクッ、と連続して痙攣したその体が強く石岡を抱きしめると同時に、芦川が体を弓なりにそらせた。

「は…だめ…もう、僕っ…っあ…ああァーーーぁああっ!!!」

甘ったるい、芦川の匂いがビルの中いっぱいに広がる。
出た、と声が聞こえた。
出たって一体何が?
おもわず身を乗り出すと、僕のすぐ後ろから足音が聞こえる。

「こんな夜遅くにまた探検でもしにきたのかな、亘くん?」

「…っ、わぁあああーーーーっ!!!」

同時に僕は叫んでいた。
芦川を助けたかったのか、それとも本当に驚いて声が出たのか、はたまた行為を覗いていたことに悪気を感じていたからなのか僕の声は予想以上に響いた。
振り返ると、それは大松社長だった。
僕の叫びに目を白黒させている。
もちろん、声はシートの内側にいる石岡たちの耳にも届いた。
石岡たちは慌ててシートを抜け出すと、僕には目もくれず、大松さんの姿を確認して転がるように逃げていった。
大松さんは、ビル内に忍び込んでいた石岡たちをたしなめるように後を追う。
突風みたいだった。

「あ…」

ぽつんと1人取り残された僕。
いや、1人じゃない。
そっとシートを捲ると、そこには投げ出されたままの痛々しい芦川の姿があった。
僕は躊躇いもなく芦川へと駆け寄る。

「芦川!芦川!しっかりしろ!」

芦川の小柄な体を抱き寄せてしゃべると、むわっと濃い匂いがした。
この匂いは…きっと石岡たちのものだろう。
僕は眉を寄せてからズボンのポケットに手を突っ込んだ。
丁度その時、僕を見つめている芦川と目が合う。
芦川は何も言わず、ただ切れ長の目を向けているだけ。

「…あ…か、顔拭こう?そうだ、隣の神社に行って少し休もうよ」

僕はおずおずと芦川の体を抱き上げると肩を貸すような格好で歩き出した。
芦川はと言えば、ただ黙ってついてくる。
ふんわりとした、清潔感のあるシャンプーの香りが今ではあの液の匂いと混ざってむせるような匂いに変わってる。
当の芦川なんて、体じゅうべたべた触られて汚い液をかけられたんだ…もう匂いなんて気にならないほど絶望しているのかもしれない。
僕たちは言葉もなく、三橋神社へと入った。
そっと鳥居を潜って境内のベンチに芦川を座らせる。
境内の隅には水を飲むための蛇口があった。
僕はズボンのポケットからハンカチを取り出して、それを濡らしに行く。
たっぷりとハンカチを濡らした後にベンチに戻ると、芦川は先ほどと変わらない格好で腰掛けている。
目は暗くてよく見えないけど虚ろで、魂が抜けたみたいに見える。
なんだか、怖い。
まさか…大松さんちの娘さんみたいにコワレチャッタの?

「芦川…」

僕はおそるおそる芦川の頬を撫でた。
ぬるりとした精液が指につく。
それをハンカチで拭いながら、芦川の顔も拭いてやると芦川は一回だけゆっくりと瞬きをした。
黒い瞳が僕をじっと見つめている。
責められてる。
きっと、僕は無言で責められてるんだ。
僕は心臓がギュッと縮こまったような感覚になってしまって眉を寄せた。
芦川の、小さくて形のいい唇が動く。

「いつから見てた?」

芦川は、いつもの芦川じゃない、しゃがれた声でそう言った。
態度も声色もいつもの芦川なのに声だけが行為の真実を物語ってる。
僕はとっさに言い訳をしようとしてかぶりを振る。

「ち、違うんだ。偶然通りかかって、僕びっくりしたからそれで声出しちゃって!な、何にも見てない!さっき通りかかったばっかりなんだ。本当だよ」

僕の声は上擦っていて、言葉を吐くほどに嘘を積み重ねていく。
芦川にも分かってるんだろう。
そうおもうと情けないやら申し訳ないやらで泣きたくなってきた。
言いたい事はほかにあるはずなのに。
じわぁと溢れた涙が頬を一筋伝ったとき、芦川が言う。

「…なんでおまえが泣くんだよ」

泣きたいのはこっちだと言いたげに芦川が眉をひそめる。
そんなの僕にも分からない。
僕は腕でごしごしと涙を拭いてからかぶりを振った。
そっと芦川の表情を伺い見ると、奴は複雑そうに眉を寄せたまま僕を見つめている。
さっきまで乱暴な事をされてたとはおもえないくらいの表情だ。
僕は涙を拭き拭き、口を開く。

「…ごめん…覗いて」

「別に。覗かれるような所でやるほうが悪いんだ」

芦川はひどく他人事のような声で言った。
君は被害者なのに、なのに涼しい顔をしている。
何て言葉をかけてやったら良いんだろう。
僕は言葉が見つからなくて俯いた。
ふと、芦川の手が自分の隣を指す。

「座れよ」

促されるまま、ストンとベンチに腰掛けた僕は膝の上で拳を作って俯いては芦川の横顔を見て、境内の景色を眺めては芦川の横顔を見た。
そんな事を1、2分――実際はほんの数10秒だったんだろうけど――続けていたら、芦川が僕を見て冷め切った目を向けた。

「言いたいことがあるなら言えよ」

「な、ないよ!」

僕は即答してすぐに俯いた。
隣から聞こえる大きなため息がチクチクと胸を刺す。
だって、何を言ったらいいかわからないんだ。
しょうがないじゃないか。
…でも、それでも芦川の傍にいなくてはとおもった。
もう1人の僕が、何で石岡たちにゴーカンされてたのか聞けよってうるさい。
そりゃ気になるけど、聞いちゃいけないとおもった。
なんでもないような顔をしているけど芦川だってきっとショックだったはずなんだ。
あんな所で、あんな事されたら。

でももし、それが合意の上だったとしたら?

もう1人の僕が耳元で言った。
つまり、芦川は合意の上で石岡たちとあんな事したのかな。
だからこんなに平然としてるのかな。
そういえばあいつら、"便所で触ってやった時"って言ってた。
普段からああいうイヤラシイ事をしている証拠だ。
僕は眉を寄せた。
そうだとすると、芦川がとたんに汚い奴に見えてしまう。
いつもあんな事されて何も言わないなんて変だ。

「…ミタニ」

ふと、隣から声がした。
そっと目だけを向けると、芦川は体ごと僕に向いている。
先ほどの冷たい目はどこにもなかった。

「どっかのお人好しのお陰で助かった。…ありがとう」

「お人好しって…僕のことかよ」

「おまえ以外に誰がいるんだよ」

芦川は手の甲で僕の額を叩くとすぐにそっぽを向く。
その首筋が赤く見えるのは錯覚だろうか。
芦川も、やっぱり見られて恥ずかしかったのかな。

「ねえ、僕に見られて恥ずかしかった?」

「はぁ?」

僕は芦川の表情を伺うようにして尋ねた。
けど、聞き方が悪かったんだろう。
芦川は眉を寄せて僕を見ている。
僕は頭を抱えた。
デリカシーのない台詞吐いちまった…。
それでも、芦川はいつもの調子を崩さない。

「ああ、普通に恥ずかしいけど。…おまえ、もしかして勃ったのかよ」

芦川の体が僕の肩に触れる。
ぎしりとベンチが揺れた。
視線を下げると僕のおちんちんは、すっかり堅くなっている。
やだなぁ、さっきからずっとこうなんだもん。
ズキズキしたのが止まらない。

「まあ…男なら当然の反応だよな」

「ごめん…」

「…いちいち謝るなよ」

芦川のふわふわした髪が風になびく。
苛立たしげに言ったものの、芦川は本気で怒っている様子じゃなかった。
濡れたズボンに触って、ため息をついている。

「ぐちょぐちょだ。おばさんに怒られるな…」

「僕も、お母さんに怒られる…」

僕は濡れたままのズボンを見て言った。
ぱんつなんかびっしょりだ。
汗って言葉じゃ誤魔化しきれない。
芦川なんかもっと大変だろう。
濡れているのは精液のせいだし、それの匂いもする。

「…ミタニは、さっきみたいな事したい?」

濡れたズボンを見ながら芦川が言った。
僕は視線を宙にふらつかせてかぶりを振る。

「したいけど…相手がいないよ。僕、芦川みたいに綺麗じゃないし…モテないもん」

「……」

芦川は黙っていた。
風が僕たちの頬をすりぬけてく。
生温い風だ。

「…僕としてみる?」

ふと、隣からそんな声が聞こえた。
顔を向けると、芦川はどこか恥ずかしそうに眉を寄せて僕を見つめてる。
ギシリ、とベンチが揺れた。
芦川の腕が僕の体に伸びたような気がしたとき、僕の身体はゆっくりとベンチに寝転んでいた。
僕にのしかかったような格好の芦川は、きつく眉を寄せたまま僕を見下ろしている。

「ええっ!?あ、芦川…」

「黙ってろ、人が来たらどうするんだ」

芦川の声が僕を短く叱責する。
ふっくらとした下腹部が僕のそこにも当たった。
お互いに濡れているから、ちょっときもちわるい。
それに、熱くて変な感じだ。
腰をもぞつかせた僕を見て、芦川は少しだけ腰を浮かせた。

「…根性のないヤツ。自分の体なのにどうすりゃ良いのかも分からないなんて」

芦川はそれだけ言うと、ベンチに手をついてゆっくりと身をずらした。
そのまま、芦川の手が僕のズボンに触れる。
簡単に脱げてしまうそれを下着ごと膝まで引き下ろして、ぱんぱんになった僕のおちんちんを見つめた。
慌てて、両手で押さえようとすると無言で睨まれる。
芦川の顔、赤い…?

「あ、し…かわ?」

僕が声に出すと、芦川は視線を下げて僕のおちんちんを見やる。
ピンと上を向いているそれを見て、口の端を上げる芦川がちょっと可愛い。
僕は芦川の肩に手をやった。
軽い制止さえきかないのか、芦川は小さな口を開けてピンク色の唇を僕のおちんちんへと寄せる。
パクリと、アイスクリームを舐めるみたいにして小さな口が僕のを銜えた。
熱くて熱くて、頭の中がふわっ、てなる。
ふとももはピクピクするし、おちんちんの先がぞわぞわするんだ。

「ん、んふ…んぁ…はあ…っ、ワタル」

ふと、芦川は僕をワタルと呼んだ。
掠れた声が僕を呼ぶ。
僕、芦川に舐めてもらってるんだ…。
そうおもうと頭の中はくらくらするし、銜えられた所はどんどん熱くなってきて何も考えられなくなる。
躊躇いがちに芦川の後頭部に手を添えて軽く髪を掴むと、芦川は何も言わなかった。
さっきまで掴まれてぐしゃぐしゃにされていた髪をゆっくり梳かして、僕は肩で息をした。
僕は石岡なんかとは違う。
芦川を乱暴にしたりしない。
あんな奴とは違うんだ、だから…。

「も、もっと奥…しゃぶって?」

風にかき消えそうな声で言うと、芦川は言葉もなく僕のものを喉の奥まで銜えていく。
じっとりと首筋に汗が滲んでいた。
芦川の舌が生き物みたいに僕のおちんちんに絡みつく。
ぞわぞわ。
僕は短い悲鳴を上げて逃げるように身を捩った。
それを見て、芦川が僕を呼ぶ。

「…はぁ…はあ…安心しろ、大丈夫だから」

掠れた声がそう言った。
再び僕のものを銜えて、棒の部分をレロレロと舌で舐めていく芦川の顔が綺麗。
さっきはよく見えなかったけど、こんな顔をしてたんだ。
長い睫毛が影を落としていて、白い肌を桃色に染めながら僕のおちんちんを舐めてる。
――あの芦川美鶴が僕とエッチしてるんだぜ?
からかうような声が僕の脳内で聞こえる。
――ヤッちゃえよ、石岡がやってたみたいに芦川のこと"レイプ"しちゃえばいいんだ。
やめろよ、レイプって何だよ。
僕はぶるぶると首を振った。
そんな僕に気付いたらしく、芦川が顔を上げた。
きょとんとした黒目がちの目を僕に向けて、口を離している。
唇の端からは僕のイヤラシイ液がこびりついていて、可愛いのにどこかゾクゾクする。
プチン、と僕の中で何かが切れた。

「…っ、ちゃんと舐めろよ。芦川は男のおちんちん舐めるの好きなんだろ!?」

僕は芦川の後頭部を掴んでおちんちんに押し付けた。
酷い言葉を投げかけて芦川の小さい口に僕のものを突っ込んでいく。
まるで石岡が言ったみたいな台詞だ。
僕は自分がいやになった。
それでも上半身を起こして芦川の髪をつかみながら舐めることを強要する。
芦川は抵抗しなかった。
少し苦しそうな顔をしたけど、すぐに僕のおちんちんを口にしてヒクヒクと喉を動かす。

「ふっ、ぁん…あう…っ…んむっ…んんっ…」

芦川の声がまたイヤラシイものへと変わる。
少しだけ視線をずらすと、芦川のおちんちんがズボンの中で大きくなっているのが分かった。
僕はためらいなくそれに手を伸ばす。
ぎゅ、と握ってやると、芦川はびくりと肩を跳ねてから身を起こした。

「や、よせっ…ワタル…!」

拒絶の声を上げた芦川の声はすごく小さくて細い。
僕はそっと芦川の体を抱き寄せた。
もちろん、片手はそこに触ったまま。

「もう遅いよ…ミツル」

僕は芦川を名前で呼ぶと、ドキドキしながら小さい唇に口付けた。
変な味がする。僕の味なのかな、これ。
そんな事を考えながら押し付けたままのキスを続けていると、芦川の手がそっと舐めかけのものに触れた。
ちゃんと力を加減しているのか、手の力は優しい。
僕はどうやれば良いのか分からなくて、芦川の手の動きを真似するように手を動かした。
芦川がいやいやとかぶりを振る。

「ワタル…や…めろっ…そんなエッチな触り方っ…はぁっ、あっ…んぅ…」

「僕はミツルの真似してるだけだっ…ミツルがエッチなんだろ」

つい強気になって言い返すと、芦川は真っ赤になって黙り込んでしまった。
静かな神社の境内に、くちゅくちゅという水音とお互いの吐息が聞こえる。
芦川はまるで女の子のような声を上げてびくびくと体を震わせながら悲鳴まじりの声を聞かせてくれた。
僕はそっと芦川の頬にキスをする。

「こういうのさ、感じやすいって言うんだろ?ミツルって感じやすいんだな…」

何の気なしに言った言葉だったんだけど、芦川はじわりと目尻に涙を浮かばせてからかぶりを振った。
石岡にあんな事をされても泣かなかった芦川が、どうして泣くのか分からない。
僕は手の動きを早めながら、次第にせりあがってくる何かに耐えた。
芦川の声が、どんどん大きくなる。
おちんちんを擦る手が、ただ添えられただけの手に変わる。
僕は抜けそうなくらいに芦川のおちんちんを擦っていった。
ふと、芦川が僕の唇にキスをする。
声を抑えるためなのかな?
それでも口の端から漏れた声は、ずっとずっとイヤラシイ。
僕は、ねだるように口の中に伸びてきた芦川の舌を舐めて、強く吸った。

「んっ、ん…んふっ…あぁっ…はぁっ…んんんんぅーーーーっ!!!」

「…んっ、つう…!」

芦川のおちんちんと僕のおちんちんから白っぽいものが出てきたのはほぼ同時だった。
ビクビクと肩を震わせながら、芦川が僕にしがみつく。
そうすると、芦川がとても小さく見えた。
女の子みたいだ…。

「…ミツル…だいじょうぶ…?」

「…何とか、な」

芦川は大きく息をしながら身を離す。
お互いのズボンもシャツもぐちょぐちょだ。
石岡たちに犯されたときとは違うどこかすっきりしたような芦川の表情に、僕は首をかしげた。

「…気持ちよかったのか?」

「…ああ。…聞くな」

芦川は眉を寄せて僕を睨む。
その顔は赤くて、どこか泣きそうになっていて可愛い。
僕は芦川の髪を撫でながら口を開く。

「石岡にされたときよりも気持ちよかった…?」

僕の問いに、芦川が首を傾げる。
質問の意味が分からないと言ったふうに首を傾げるから、僕は聞きなおすことにした。

「…石岡にされたときと、僕にされたとき…どっちが嬉しかった?どっちもレイプだよ」

覚えたての言葉を使ってみる。
芦川はすごくむずがゆそうに眉を寄せてから僕の肩をドン、と小突いた。

「何でレイプになるんだよ、俺はおまえとしたいからしただけだぞ。おまえがそんなトコ大きくしてるから…」

芦川の目が僕のおちんちんに向けられる。
僕のせいなのかよ…。
そうおもいながら芦川の頬を軽く抓る。

「…どうせ誰でもよかったんだろ?」

どこか毒づくように僕が言う。
何で胸がこんなに痛むんだろう。
芦川がイヤラシイ人に見えて、それで胸がずきずきする。
ふと、芦川も同じように僕の頬を抓った。
おもいきり抓られて痛い。
芦川は僕に顔を近づけると、形のいい眉毛をつりあげて言った。

「僕はおまえとしたいからしただけだ」

さっきと同じ事を言う。
でも今度は語調が強かった。
…怒ってる?
そう言おうとしたんだけど、おもいきり力を込めてぎりぎりまで頬を引っ張られたあと、手が離れた。
反射的に頬を押さえる僕を見て、芦川はどこか拗ねたような顔をしてそっぽを向いている。
何怒ってんだよ、言ってくれなきゃ訳わかんないのに。
僕はヒリヒリと痛む頬を押さえながら口を開こうとした。
同時に、芦川が僕の唇にキスをする。
大人ぶったような、軽く押し当てるだけのキスを。
僕がぽかんとしていると、芦川はすぐに立ち上がって服を調えた。
ちらりと僕を見つめて、一言。

「おまえ、鈍すぎ…」

呆れたような声でそう言った芦川はすぐに背を向けて歩いていってしまった。
腰が痺れている僕はただぼんやりと、鳥居をくぐって神社を出て行く芦川の姿を見送るだけ。
鈍いって何だよ…。
僕は重い体を引きずるようにして家まで帰ることにした。

















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はずかしすぎる初ミツル受ですー(汗)