家では奇跡が起こったのか、お母さんはテレビを見ながら眠っている。
僕は慌てて風呂に入ると体と一緒に服も洗った。
芦川もきっと上手くやっているだろう。
そうおもいながら夜を明かした次の日。
学校からの帰り道、カッちゃんと少し寄り道をして帰りながらずっと気になっていた事を聞いてみた。
「あのさ、カッちゃんは男同士でもエッチできるとおもう?」
「ハァ?」
突然の質問にカッちゃんは、目をまんまるに見開いてから顎に指を当ててウーンとうなった。
それでも、不器用ながらに僕の質問に答えてくれる。
「あのさ、確か尻の穴使うんだろ、男同士って」
「ええ?」
今度は僕が目をまんまるにしないといけなかった。
尻の穴って、つまり…。
僕が眉を寄せると、カッちゃんは手を左右に振った。
「いやあ、でも入れる時には中を綺麗にしてからするんだって。じゃないとバッチイじゃん?水とかで流したり、エッチに使うクリームで慣らしたりして」
「…はぁ」
僕は、ふらふらした思考でカッちゃんの話を聞いていた。
まるで英語を聞いているみたいだ。何を言ってるのか分からない。
というか、どこでそんな知識仕入れてんだよぅ。
僕はおしりに手を当ててから唇をへの字に曲げた。
そんな僕を見て、カッちゃんは僕の正面を歩く。
丁度、後ろ歩きをしながら。
「何だよ、おまえ…もしかしてオレととエッチしたいとか言うんじゃないだろうな?オレたちは友達だけどさぁ、そりゃあさすがに…」
「ちちち違うって!そうじゃないよ、友達同士でエッチなんてありえないじゃん」
僕は慌てて否定した。
そうだよ、友達同士でエッチなんてありえないよ。
疑問は解決したはずなのに、僕の頭の中はぐるぐると渦を巻いている。
カッちゃんはそんな僕を見て、何か言葉をかけるべきかと困った表情を浮かべていた。
と、カッちゃんの目が泳ぐ。
「あ、芦川だ」
「えっ!?」
慌ててカッちゃんの視線の先を追うと、確かに芦川がそこにいた。
宮原と楽しそうに話している。
勉強の話かな?
そうおもって見つめていると、ふと芦川が僕の視線に気付いた。
ふわりと夏の風が僕らの頬をくすぐっていく。
芦川は、少しだけ顔を赤らめて唇をキュッとまっすぐに結ぶと宮原に軽く手を振って僕から視線を外した。
そのまま自宅の方向へと歩き出してしまう。
「あいつ…今、こっち見てなかった?」
カッちゃんが言う。
僕はぼーっとしたまま芦川の後姿を見つめていた。
だんだん顔が熱くなってくる。
どうしてだか分からないけど。
「うわ、おまえ顔真っ赤じゃん!もしかして、ミタニがエッチしたい相手って…」
カッちゃんがおそるおそる芦川を指差す。
僕は慌てて鞄を両手に持つと、そのままカッちゃんの頭を叩いた。
「ちっ、違うよ!何大声で言ってんだよ、カッちゃんの馬鹿、バカ!芦川に聞かれたらまずいだろ!!」
「いたたた、ミタニの声のがデカイって!」
そんな僕たちの様子を、芦川が眩しそうにちらりと見てからまた背を向けて歩き出す。
ダボついたズボンに包まれた小さなおしりが目に入ってしまう。
何考えてんの、僕?
確かに芦川は綺麗だし、可愛いし昨日だって…。
「――――っ…」
僕は昨夜の芦川をおもいだして顔から火が出そうになった。
ぱふぱふ、とカッちゃんを叩いていた手が止まる。
カッちゃんは真っ赤になっている僕を見ると、自分の胸をドンと叩いた。
「任せろよ、ミタニが芦川とくっつくようにオレが恋のキューピッドになってやるからさ!」
「うぅーー…」
僕は子供みたいに唸って俯く。
大変だ、大変だ。顔が熱い。
もう一度芦川の後姿を見ると、その姿は何故かキラキラして見えた。
太陽のせいなのか、芦川が綺麗だからなのか、それは分からない。
まったくもう芦川ったら少女漫画みたいにキラキラしやがって、とか何とかおもう辺り、僕の頭は熱中症だ。
「今週の休みはデート日和だよなぁ?良いデートスポット紹介してやンよ。そうだそうだ、昨日父ちゃんが映画館のチケット貰ってきてさぁ…」
カッちゃんが隣で話す声も僕の耳には届かない。
キラキラ光って見える芦川が視界から見えなくなるまで、僕は芦川の事を見つめていた。
ああ、振り返っちゃくれないだろうか。
乙女みたいな事をおもいながら、僕は不意にカッちゃんに振り返った。
急に顔を寄せられたカッちゃんはドギマギしている。
僕は鞄を背負いなおした。
「ごめん、カッちゃん。僕先に帰るから!」
そう言って勢いをつけて駆け出していく。
いきなり走ったから少しだけ前のめりになった。
後ろから「お幸せになー」と聞こえてくる。
芦川の足は早くて、どんどん自宅へと向かってしまう。
それでも、まだ長い長い道のりだ。
僕は転ぶように走った。
歩行者用の信号が赤に変わって僕と芦川の距離を一気に離したとき、芦川がゆっくりと振り返った。
その目が誰かを探すように泳ぐ。
――どうか僕を見つけて欲しい。
僕は歩行者用信号のボタンを何度も押しながら祈った。
芦川の目が僕を捉える。
「…ミタニ?」
まんまるに見開いた目が僕を見ていた。
帰り道はこっちじゃないだろう、と目が言っている。
目の前を何台もの車が横切っていく。
僕は排気ガスにむせながら口を開いた。
「ミツルぅーーー!!大好きっ!」
それだけ叫んだ僕はすぐに身を翻して、来たときと同じように駆けていった。
言ってやった、言ってやったぞ。
きっと近所に丸聞こえだ。
顔を熱くさせながら走っていると、芦川が僕を呼び止める声がした。
息を切らせながら振り返った僕の目に飛び込んできたのは、元来た道を辿るように信号を渡って僕の傍へと駆けてくる芦川の姿。
芦川は、体いっぱいで僕に抱きついてきた。
汗の匂いと、シャンプーの匂いがする。
明るい陽の下で見る芦川はやっぱり綺麗だった。
ドキドキしている僕に追い討ちをかけるように、芦川は僕に顔を寄せて口を開く。
「…僕も、ワタルが好き」
短い回答だったけど、それだけでまたまた僕は熱中症になってしまう。
芦川は、白い肌を真っ赤にさせて僕を睨んでいた。
唇がへの字になっているから、何だか可愛い。
その顔は芦川の照れ隠しなのだとおもうと嬉しくて恥ずかしくて、つい笑みが零れた。
昨日はよく見えなかった芦川の恥ずかしがっている顔が見れたのだとおもうと、気分が高揚する。
近所の人には、小さい子供同士がじゃれあっているようにしか見えないのかなぁ。
僕は芦川のおでこに自分のおでこを当てた。
「ミツル、キスしよ?」
「…うん」
大変だ、大変だ…今日はお母さんにお赤飯炊いてもらわなきゃ。
そんな事を考えながら、僕は芦川の唇へ如何にも子供っぽいキスをした。
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ワタミツのかわいこちゃんカップルになごみまくりですー(ノ´∀`*)