「ふぅ…」

先ほどからずっと溜め息ばかりのパートナーを見て、僕は眉を寄せた。
僕のパートナー…ガオモンは青い尻尾を手入れしながら悩ましげな溜め息を吐く。
僕はパソコンから手を離した。
そうしてガオモンを見やると同時に、いつのまに近くにいたのか椅子ごとガオモンのそばに寄っている大が目に入る。
大は僕に目を向けるとガオモンを指でさした。

「どうしたんだ、こいつ」

「僕にも分からない」

大の問いに、僕は軽くかぶりを振ってほうけたままのガオモンを見やった。
僕たちの視線に気付いたんだろうか、ガオモンは不意に顔を上げておずおずと首を傾げる。
その仕草はいつもの君なのに、何かが変だ。
僕の想い人…大門大もそれを感じとったのか、ガオモンの顔を覗き込むように見つめた。

「お前、風邪でも引いたんじゃねぇのかァ?」

「失礼な、ガオモンの健康はすべてこの僕が見ているんだぞ。体調不良だなんてありえない」

僕はガオモンから目を離して言った。
大の目は疑わしげに僕を見ていたけど、やがてその顔は何かをおもいついたように笑みを浮かべる。
未だぼうっとしているガオモンを見ながら口を開いた。

「恋わずらいでもしてんのか?」

大がそう言うと、ガオモンはゆっくりと瞬きをしながらかぶりを振った。
尻尾が小さく揺れる。
その時、僕の後ろから賑やかな声が聞こえた。

「あにきー!はらへったー」

大のパートナーのアグモンだ。
アグモンは腹を押さえながら大に擦り寄ると、子供みたいに駄々をこねている。
大は少し困ったような顔をして両手を上げた。

「今は何も持ってねーってば!それに弁当はお預けだっつったろ」

「えーっ…」

大の言葉がよほどショックだったのか、アグモンはその場に座り込んで情けない声を上げる。
そんなアグモンを見て、ガオモンが小さく口を動かした。
何かを言おうとしているらしい。
僕は、いつもと様子の違うガオモンにどこか違和感を感じる。

「アグモン、さっきもらったばかりのデジモン専用食があるんだが…食べるか?」

「食うー!」

ガオモンの言葉に機嫌を直したらしいアグモンがすぐさま立ち上がって笑った。
嬉しそうなアグモンを見る彼の目はどこか優しい。
…なぜだろう?
僕は大の袖を軽く引っ張った。

「マサル、何か可笑しいとおもわないか?」

「…何がだよ」

不意に袖を引っ張られて面食らったのか、大はきょとんとした目をして僕を見る。
可愛いな、なんておもってしまう自分が憎い。
僕は大の耳元に唇を寄せた。

「ガオモンの様子が変だ」

僕がそう言うと、少しだけ肩を揺らした大が曖昧に返事をする。
普段あまり顔を寄せたりしないから照れくさかったんだろうけど、その反応が可愛くて僕はなんともむず痒い気持ちになってしまう。
大は慌てたように僕から離れて自分の腕を組んだ。

「た、確かにヘンだよな…顔赤いしよ」

「顔が赤いのは君もおなじだろう…」

僕がすかさず口を挟むと、大は口をぱくぱくとさせてから僕の頬を引っ張った。
お前こそ赤いんだけど、と小さい声で言うからびっくりしてしまう。
顔に出してるつもりなんてなかったのに。

「……え…えっと」

「あー…」

僕らはお互い口ごもってしまって苦笑した。
何て言ったらいいのか良く分からなくて視線を逸らすと、小さな咳払いが聞こえる。
目を向けると、大が顔を赤くしながら口に拳を当てているところだった。

「…俺、お前の事が好きみてぇ。だからー…」

大は自分の拳に口を当てるとおもむろにそれを僕へと突き出した。
僕を好きだと言ってくれる君の顔は恥ずかしいくらいに赤く染まっている。
そんな事を言われて無視する奴などいないだろう。
僕は大の拳に軽く口付けると頷きのみを返した。
言葉ではまだ言えなかったけど、これが僕の精一杯。

「あは…」

大はホッとしたような顔で笑うと、僕の肩に顔を寄せて大袈裟なくらい長い息を吐いた。
その背に腕を回して、軽く叩いてやる僕。
僕よりも少し背の低い君は照れくさそうに苦笑して顔を上げた。
その顔が可愛くて、僕は目を瞑る。
そっと顔を寄せると、その前に唇に柔らかなものが当たった。

「…何だか、お前すっげえ可愛い」

「…君こそ」

僕らは短い言葉を交わして互いのパートナーを見やった。
早速アグモンがデジモン専用の餌をがつがつと食べている。
少しは遠慮ができないんだろうかと僕は苦笑した。

「アグモン、食べ終わったか?さっそくだが大事な話がある」

「んー?」

ガオモンの言葉にアグモンと僕たちが反応する。
僕は、もしかしたらガオモンが僕らのようにアグモンに告白するんじゃないか、なんておもった。
それは大もおなじみたいで、僕と視線を合わせると口パクで「俺たちと一緒?」なんて言う。
その仕草が可愛くて僕も口パクで「そうだといいね」なんて答えた。
おもえばかなりバカップルみたいな事をしているんじゃないだろうか、僕たち…。

「子供ができた」

ふわふわと浮き足立っている僕らの耳へと入ってきた言葉は信じがたいものだった。
僕はおもわず足元をふらつかせる。
それを慌てて大が支えてくれた。
一体、ガオモンは何を言っているんだろう。
僕は大に寄りかかりながらガオモンとアグモンを交互に見比べる。
アグモンは目が点といった状態で瞬きを繰り返していた。

「…こどもができた?どんなふうに?」

「ここにいる」

ガオモンがそう言って自分の腹を指した。
ちょっと僕の背筋に冷たいものが流れていく。
数日前よりちょっとふっくらしてきたガオモンの腹。
最初はただの食べすぎかとおもっていたんだけど…。
今の言葉から察するにガオモンは妊娠している?

「アグモーン!おまっ…責任取れよ!無自覚で孕ませちまうなんて男としてサイテーだぞっ」

大はもっともな事を言うとアグモンの頭をごつんと叩いてから大きく頭を下げさせるように後頭部に手を添えた。
何で叩かれたのか分からないアグモンは不思議そうな顔をして頭を押さえている。

「ハラムってなに?あにきー…」

「つまりはガオモンを妊娠させてしまったという事さ。妊娠は、分かるかい?」

一向に理解力の無いアグモンに、僕は大きな咳払いをしてから詰め寄った。
妊娠という言葉に、彼は「こどもができるってこと?」と返してくる。
意外と分かってるんじゃないか。
僕は頷いてからガオモンとアグモンを交互に見た。
この2人が一緒にいるところなんてあまり見ないんだが…。
もしも本当にガオモンが妊娠しているのだとしたら。

「ガオモンってメスだったのかよ?」

「デジモンに性別はないよ、アグモンだって妊娠できる」

大の口からついてでたような言葉に、僕は事務的に返した。
僕は早速デスクへ向かうと机の引き出しから特製の聴診器を取り出す。
僕はそれを首に下げると、ガオモンを手招く。
ガオモンはふかふかの体毛を手で撫でて僕を見た。
早速聴診器を耳に当てて、ガオモンの胸に当てる。
とくん、とくん。
これはガオモンの心音。
そうして…。

『ピコンピコン』

「わ、何だこの聴診器!」

不意に聴診器から音が漏れたのを見て大が声を上げる。
僕は耳からそれを外して笑った。

「これはね、ただの聴診器じゃない。僕が改良を加えたデジモン専用の聴診器なんだ」

「へ、へぇ…すげーのな…お前」

感心している大をよそに、僕は顎へと手を当てる。
たった今、聴診器から音が聞こえた。
これはひとつの生体の中にもうひとつの生体が存在するという証。
つまりガオモンは…。

「妊娠、してるね」

僕はその場に膝をつくと、ガオモンの腹をゆっくりと撫でた。
この、ぽっこり突き出た腹の中に命が宿っている。
しかもこの子供の親はアグモン、ガオモンときた。
デジモン同士の交配に詳しくはないけど、これが本当なら隊長に報告しなくてはいけない。
僕はおもむろに立ち上がった。
同時に、自動扉からゆっくりとした足取りで隊長がやってくる。
僕らが部屋に集まっているのを見ると僅かに眉を寄せた。

「どうした」

「隊長、重大なお話があります。ガオモンが妊娠しました」

僕は早速振り返り様にそれだけ言う。
静かな静寂を、隊長のむせこむような咳払いが破る。
言い方が直接的過ぎただろうか?
隊長の代わりといったようにクダモンが口を開く。

「それは確かなのか?」

「はい、しっかりと確認しました。アグモンとガオモンの子供です」

「…なんと」

ようやく咳の収まった隊長はサングラスの奥の瞳を細めて歩み寄った。
そうしてアグモンとガオモンを交互に見て小さくうなる。
クダモンが細いため息を吐く。

「…よりにもよってアグモンとガオモンとは。…まあ、優秀な親の遺伝子を受け継いだ子供ならば戦力になるかもしれん」

「ちょ、ちょっと待てよ!」

当然のように言ったクダモンに、大が反論した。
僕が叱責しようとするけど遅かった。
大は今にもクダモンに噛み付きそうな勢いでまくし立てる。

「子供を戦わせるっていうのか!?」

「そうだ。嫌なら子供をデジタルワールドへ送れ。そちらのほうが残酷だとおもうがな」

「…っ…てめえッ…!」

「よせ、マサル」

血の気が多いマサルがさっそく飛び掛っていく。
僕はマサルの首根っこを掴むとうなじへ手刀を落とした。
衝撃で大人しくなったマサルを抱きかかえて、僕はガオモンとアグモンへ目を向ける。
ガオモンは下を向いたまま、アグモンはと言えば大を見たりガオモンを見たり落ち着きなく視線を彷徨わせている。
空気が重苦しい。
ガオモンが何か言おうとしたとき、隊長が大きく咳払いをした。

「…こほん。…まあ、それは本人達が決めればいいことだ。私は今回の件についてはトーマに任せる」

「薩摩」

クダモンが眉を顰めた。
咎めるような口調だったけど僕らにはこれほど嬉しい事はないわけで。
僕は両足を揃えると眉上で手を構える。

「了解しました、隊長」

「うむ」

僕は隊長の声に頷くとガオモンに振り返ってからできるだけ安心させるように笑った。
照れくさそうな表情を浮かべているガオモンは自分の腹を撫でてちらりとアグモンへと目を向ける。
せっかく親になったんだ、いくらとぼけたアグモンだって親になった自覚を持ってくれるはず。
そうおもったのだが、アグモンはガオモンから譲ってもらった餌だけでは飽き足らず大が昼飯にと持ってきていた卵焼き弁当をもくもくと食べている。
ガオモンが小さく息をついた。
…そもそもどうしてこのガオモンと、そんな事には興味のなさそうなアグモンが交尾をするような状況になったんだろう。
そればかりは僕の頭脳を持ってしても解析不可能だ。

「アグモン、てめっ…父親になるんだからちゃんと奥さんの面倒見ろよな」

「おくさん?ちちおや?」

アグモンの手から弁当箱を取り上げた大は腰に手を当てて諭すように言う。
大の言い分は正しい。僕はガオモンの頭に手を置いた。

「アグモン、事故だったとしてもガオモンを妊娠させたんだ…ちゃんとこれから勉強するように」

はっきりとした声で言うと、アグモンは自分の頬を指でかきながらうーんとうなる。
やっぱり分かっていないんだろうか。
本来ならばガオモンの配偶者はもっと知的で美しくて経済力のあるデジモンでないといけないのに…。

「んー、俺…この前ガオモンの中で出したけど…やっぱり不味かったのか?」

「確信犯じゃねーか!慰謝料払えよ慰謝料」

心底不思議そうに言うアグモンを大が叱咤する。
僕は頭が痛くなってしまって、大きくため息をついた。
ガオモンへ目を向けると、ガオモンは眉を寄せたような顔のまま笑い返した。
まるで泣きそうにも見える。
もしも僕が子供のできる体…すなわち女だったら、相手の男にこんな事を言われて傷つかずにいられるだろうか。
きっとショックで、何もかも嫌になってしまうに違いない。
新しい命は、既にちゃんと親を見てるのに。

「B地区でデジモン反応です!」

不意にオペレーターの声が僕の思考を遮った。
隊長へ視線を向けると、こくんと相槌のみを返される。
僕は大を見やった。

「いくぞ、マサル」

「おーよ!」

そのままDATS本部を飛び出していく僕たちのすぐあとにガオモンとアグモンが続く。
僕は敵が出たという事に気を取られていて、ガオモンの体を労わることなどすっかり忘れていた。
さっそくデジモン反応が出た地区まで向かうと、そこにはシードラモンが海の中でうねっていた。
水中に引き込まれたらやっかいな相手だろう。
僕らはさっそくパートナーを進化させる。
シードラモンはほとんど知性のないデジモンだ。
ジオグレイモン、ガオガモンが力を合わせればすぐに倒せるだろう。

「いけ、ガオガモン!」

僕の合図と共にガオガモンがシードラモンへと掴みかかる。
だが、防御壁なのか水の壁を作られてしまい一旦地へと降り立ったガオガモンは少しばかり目を細めてから息を吸った。

「スパイラルブローッ!!」

口から竜巻状の風が一気に舞い上がる。
だが、水の壁から無数の氷の矢が飛んできてそれをことごとく弾いた。
ほとんどの矢は風と相射ちかとおもわれたが、その中の数本がガオガモンへと飛んでくる。
後退して避けようとするガオガモンの体ががくんとくずおれた。
前足を折って、苦しそうに座り込んでしまう。

「ガオガモン!どうし…」

「トーマ、あいつ身体が…」

大の言葉に僕は我に返った。
そうだ、彼は身体に子供がいる。
激しい戦闘のせいで体内に負担をかけてしまったのだろう、ガオガモンの額には汗が浮いていた。
ガオガモンめがけて氷の矢が飛び込んできたその時、地面を震わす大きな音が耳に響く。
前足をついてもなお闘争心を剥き出しにするガオガモンの前にジオグレイモンが黙って立ちふさがった。
目線はシードラモンに向けられている。
ジオグレイモンの腕や腹に氷の矢が次々と突き刺さるが、彼は低く唸っただけで悲鳴も上げなかった。
そうして、ちらりとガオガモンを見やってジオグレイモンが口元の炎をくゆらせながら呟く。

「大丈夫か?」

「…な…黙れ。こうなったのは誰のせいだとッ…」

「だから…お前は必ず俺が守る!」

ジオグレイモンは怒ったような声で言ったが、ガオガモンの前から引こうとしない。
そのとき、水の壁が左右に引いていった。
シードラモンが僕たちの前に再びその姿を現す。
しっかりと、敵に向き直ったジオグレイモンは角からバチバチと火の粉を散らしながら深く息を吸った。

「メガバーストッ!!」

ジオグレイモンの口から放たれた超高温の炎がシードラモンを飲み込む。
氷の矢さえも溶かすような熱い炎だ。
メガバーストの直撃を受けたシードラモンはえびぞりのように反り返ると徐々にデジタマへと戻っていった。
さっそくデジタマに駆け寄った大は、卵を頭の上に乗せて機嫌のよさそうな顔をしている。

「だいしょーりっ!…だな、トーマ」

「そうだね…。ところで、ガオガモン…」

無邪気に笑う大が可笑しくて僕は吹き出してしまった。
それでもすぐにガオガモンに向き直ると、彼は四足で座り込んだまま動こうとしない。
眉間に深く皺を寄せて、何かに耐えるようにかぶりを振っていた。
ジオグレイモンは目を瞬いて、それからガオガモンの背に手を置く。
僕と大がガオガモンの傍へ寄ると、彼の腹はしっかりとほどよくふくらんでいるのが見えた。

「な、なあこれって…陣痛ってやつじゃねえの?」

「……ガオガモン」

大の言葉に不安に駆られた僕は、ガオガモンの前足を撫でながらなだめるように言った。
ガオガモンの息が荒い。
その時、DATSの車が猛スピードでこちらに向かってくるのが見えた。
淑乃だ。

「遅ぇーっ!もう終わったっつーの」

「しょーがないでしょ!買出しに行かされてたんだからっ!」

車の窓を開けた淑乃はさっそく大を言い合いをしている。
それでも僕らの異変に気付いたのか少しだけ眉をひそめて車から降りた。
ララモンがガオガモンの傍へ寄る。

「どこか怪我をしたの?早く治療しなきゃ…」

「いや…。隊長から話は聞いているかい?」

「まぁね…子供がいるって聞いた」

僕の言葉に、淑乃がこくんと頷いてガオガモンを見上げた。
そうしてふくれた腹にも目をやる。
ガオガモンの息はまだ荒い。

「さ、最悪なんですけど…。早く連れて帰らなきゃ、このままじゃガオガモンも子供も危険かもしれない」

ガオガモンの様子にただ事ではないと察したのか、淑乃が車のキーを揺らして僕らに言った。
僕と大は慌ててジオグレイモンとガオガモンをデジヴァイスへ引き入れる。
そのまま車に乗り込んでDATS本部に向かうと半場強制的にデジヴァイスを取られて、医務室へと隊長や淑乃が向かって行った。
重々しい医務室の扉が閉まる。
僕と大は取り残されたまま廊下で立ち尽くした。

「…ガオモン…」

「なーあにき、ガオモンのやつどうなっちまったんだよ」

「どわっ!いつのまに出てきてたんだよっ」

大の言うとおりいつ出てきたのかわからないがアグモンが僕と大を交互に見て眉を寄せた。
そうして医務室の扉を見てからガオモンの名前を呼ぶ。
1、2歩医務室へと歩み寄ったアグモンはおもむろに大へと振り返って苦笑した。

「やっぱり俺が悪いのかな…?ガオモン、怒ってるよなぁ」

ぽりぽりと頬をかくアグモンに、僕はかぶりを振る。
大も僕の否定に頷きながらアグモンの頭を軽く撫でた。

「お前はちゃんとあいつの事守ったじゃねーか。怒ってねーよ」

「でもさっき怒られたぞ…怖かったー」

さっき、とは戦闘中でのことを言っているんだろう。
僕にしてみれば君のほうが怖かったんだけどな…とかおもいながら口を噤む。
そうして、廊下に立ちすくんだまま3時間くらいが経過しただろうか。
ゆっくりと医務室の扉が開いた。
白いベッドの台座が淑乃に押されてこちらへやってくる。
目に入ったのはベッドの中で大きく息をついているガオモンだった。
ガオモンの枕元に、何やら黒っぽいものが落ちている。

「…淑乃、これは…」

「赤ちゃんよ、決まってるでしょ」

僕の言葉に、淑乃は腰に手を当てて答えた。
アグモンがそっとベッドに近付く。
枕元にちょこんと乗っているその黒い物体はよくよく見ると生き物だった。
黒い身体をぷるぷるさせながらあちこちに目をやっている。
アグモンは口を開けて、珍しそうにそれを見ていた。

「食うんじゃねーぞ、アグモン」

「食わないよー!」

茶化すような大の言葉にアグモンが慌ててかぶりを振る。
僕は手帳型パソコンを手に取って黒い物体の解析をした。
これは、ボタモンという名前のデジモンのようだ。
泡を吐くことしかできないし戦闘能力にはもちろんならない。
僕はガオモンの頬を撫でた。

「…おめでとう、ガオモン。無事に産まれたんだね」

「…はい…ありがとうございま、す」

ガオモンの声は少しろれつが回っていない。
淑乃が耳打ちで「まだ麻酔が効いてるからそっとしておいて」と言った。
枕元で、周りの声に興味津々といった感じのボタモンがぷるぷると震えている。
その様子が何だか可愛かった。
アグモンは、ボタモンに触ろうと指を伸ばしてからすぐ引っ込めてしまう。

「何だよ、触ってやりゃいーじゃん」

「だ、だってぇ…潰しちゃいそうで怖いんだもん」

大の言葉にアグモンが情けない声を上げた。
確かに、ボタモンは柔らかそうだし生まれたてで体毛も薄いだろう。
触る事を渋っていたアグモンは、ふと視線をずらしてガオモンを見やった。
視線に気付いたのか、ガオモンが目を瞬く。
先ほどは色々あったしアグモンの無神経な発言がガオモンを傷つけてしまった。
だからさっきのガオガモンはあんなに刺々しかったんだろう。
その事をおもいだしたのか、アグモンは何かを言いかけてすぐに誤魔化してしまう。
そんなアグモンを見て、ガオモンが長いため息を吐いた。
そうして布団から手を出すと、のろのろとアグモンの頬に手を当てる。

「…何だ。言わないと分からないだろう、が…」

「だって、怒ってるんだもん」

「…私が?」

「うん」

短いやりとりが交わされる。
ガオモンは、大きな目を瞬かせながらアグモンを見ていたけどおもむろに顔を寄せて唇を尖らせた。
拗ねたようなガオモンの顔を見るのは僕にとっても珍しいことだ。

「…さっき、助けてくれただろう…?」

「うん」

「それで帳消しだ」

「ほんとー?」

「ああ、だから…」

「うん?」

「私と一緒にいてくれないか。…お前が、好きだから」

ガオモンの、まだろれつの回らない声にアグモンが驚いたような表情をした。
よりにもよってガオモンから告白するだなんて、意外だ。
まあ相手が鈍いアグモンだから仕方ないとはおもうんだけど。

「…嫌か?」

「い、いる!俺、ガオモンと一緒にいるよ!ずーっと一緒だ」

アグモンははしゃいだ声を上げてガオモンの上にのしかかる。
もちろん淑乃に怒られていたけど。
僕は皆から背を向けて長い息を吐き出した。
少し妬けるが、微笑ましいなとおもう。

「トーマ」

不意に、僕の腕が掴まれた。
大の声だ。
おもむろに振り返ると、唇に柔らかなものが触れる。
間近に感じる想い人の温もりにドキドキと胸が高鳴った。
そっとキスを解いた大は、軽く額同士を当てて本当に小さい声で言うのだ。

「お前も…さ、俺と一緒にいてくれる?」

「…うん」

もう一回、重ねあった唇で互いを味わいながら僕らは笑った。
ちょっとえっちな気分にさせる大とのキスは甘酸っぱくて好きだ。
腰に腕が回ってくるから僕も同じように大の腰へ腕を伸ばした。
きゅ、と下腹部を押し付けていたずらっぽく笑われるとたしなめる気にもなれなくて。
僕は自分から彼の唇を塞いだ。

















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ははははははh…色々すみませ…(自爆)

萌え (GPO5個、デジモン5個/良ければ押してやってください。管理人の活力源になります)