暑い。
オレは買ったばかりのソフトクリームを舐めていた。
どこって、公園。
今は子供連れの親が2〜3人、公園の入り口でくっちゃべっているだけで園内には誰もいない。
ベンチに腰掛けて、時々背中から感じる風に涼しみながら、オレは本日5本目のアイスクリームを口にしている。
「あっちィ。ありえねーだろ、この天気」
まだ7月にも入ってねーのに、今日は真夏日。
アイスでも食べてなきゃやってらんねェっつーの。
オレはバニラとチョコが混ざったミックスを口にしていた。
さっきはミント、その前はバニラ…まァ、味は何でもいい。
涼しくなればそれで。
そうおもっているのだが、隣の奴は快くおもっていないらしい。
このクソ暑い中、アイスも食べないでオレの隣に座っている。
両の拳をふとももに乗せて、背筋をピンと伸ばして。
「侑斗…お腹壊す。そんなに食べるのよくない」
隣に座っているソイツは、キュッと眉をひそめて腰に手を当てた。
咎めるような口振りで言ってオレを軽く睨んでいる。
背中から吹いて来た風が、ソイツの髪をゆっくり撫でた。
浅葱色のメッシュがふんわりと揺れる。
オレは一旦ため息をついてからソイツから目を離して。
ただアイスを食べる事に集中した。
「ああ?うるさいな、暑ィんだからしょーがねえじゃんっ!…って寄るな!」
「口にアイスついて…」
「寄るなってば!うーざーい!暑いんだよデネブっ!」
「むぐぅ!」
花柄のハンカチを取り出してオレの口元を拭こうとするソイツに、オレは慌ててアイスのコーンを突き出した。
ソイツの口めがけて突っ込まれたアイスは口元から顎までゆっくり垂れている。
口に突っ込まれたアイスを見ながら、ソイツは小さく口を動かした。
「はふ…侑斗、食べ物を粗末にする、よくない」
ソイツの瞳がオレを責めるように細められた。
困ったような表情がちょっとカワイイだなんて死んでも言わねえ。
大体、デネブはそんなんじゃないし。
「デネブ、それ全部食えよ。オレ、おまえの口に入ったモノなんか食べたくないから」
「うん、ちゃんとたべる」
オレの言葉を聞いて少し不服そうな顔をしたものの、デネブはコーンを両手に持って口を離した。
見事なほどに口の周りがバニラとチョコで汚れている。
デネブは花柄のハンカチを取ってせっせと口の周りを拭いていた。
「…侑斗のせいでべたべたする」
「ああーっ、すげーいい風!」
オレはデネブの言葉を無視してベンチに伸びた。
ふと顔を向けると、デネブの握っているコーンからはだらだらと溶けたアイスが伝っていた。
アイスはデネブの手首を伝ってベンチに垂れている。
それさえ気付かないのかデネブの奴、まだ口の周りを拭いてるし。
オレは軽くため息をついてデネブの手を取った。
「ダッセ。べたべたなのはコッチだろ」
そう言って指に口付けると、デネブはひっくり返ったような声を上げてオレを見た。
一気に赤くなる顔。…分かりやす過ぎじゃね?
何を期待してんだか知らないけど、デネブはオレの顔をじっと見て口をパクパクさせている。
「…何期待してるワケ?」
「え、あう…何も…ない」
「嘘つけ、バカ」
「んんっ…!」
あっと言う間ってやつだった。
オレがデネブの唇を奪ったのは。
あーあ、やっちゃった。
だってコイツ抵抗しないからサ。
いつもみたいに叱ればいいのに。
「…んふ、は…あ…」
バニラの味がするデネブの唇にしゃぶりついたオレは、押し付けるように顔を突き出してやる。
デネブの苦しそうな声が耳に入ってきた。
握っていたコーンがずるりと手から滑り落ちた。
デネブの手から落ちたアイスは、オレのふとももに真っ直ぐ落下する。
ふとももにひんやりした冷気が漂った。
それと同時に、お気に入りのジーンズがアイスまみれになる。
「うわっ!おまっ…この馬鹿!ノロマ!何で手ェ離すんだよッ!?ホントッ…馬鹿じゃねーの!?」
「あ…ごめん、侑斗。俺が悪かった」
オレの怒鳴り声に、デネブはすまなそうな顔をして視線を落とした。
悪かったじゃなくておまえが悪いんだっつーの!
オレは大きくため息をついてベンチの背もたれに寄りかかる。
「…罰として…おまえ、今からココでフェラしろ」
ひゅう。
静かな風が吹いた。
さっきまでは暑かったけどちょっと涼しくなってきたかな。
そんな事をおもいながらデネブを見ると、アイツは顔を真っ赤にして俯いている。
オレの視線に気付いたデネブは、がばっと顔を上げて大きくかぶりを振った。
「やだ。それ無理。俺無理。できない」
すぐに顔を背けて、拗ねたような顔をしてしまう。
オレはおもわず問い返した。
「はぁあーッ?何ソレ、反抗期ってヤツ?かーなーりームカつく」
顔を寄せて凄んで見せると、デネブもムキになったのか眉をキュッと寄せた。
「反抗期なのは侑斗!俺、間違ってない!」
確かに正論だ。
正論だが…俺は引くわけにはいかない。
オレはデネブの両肩を掴んで抱き寄せようとする。
けど、デネブはイヤイヤとかぶりを振りながら抱擁から逃れるようにオレの胸を押した。
「ンだよッ、舐めろって言ってんだろッ!」
「ここ外!人もいる!公園は遊ぶ場所!」
オレの反論に、デネブがまたまた正論を唱えた。
デネブの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
頬は真っ赤になってしまってカワイイんだけど、頑固だ。
ムカつくくらい頑固だ。
「いいだろ舐めるくらいッ!別に最後までするんじゃないんだしッ!」
「そういう問題違う!侑斗のえっち、声大きい!そんな子に育てた覚えは…」
「育てられた覚えはねーーよ!馬鹿デネブ!いいからオレの言う通りにしろッ!じゃないと絶交するからなッ!!」
オレの最終手段に、デネブが口を閉ざした。
絶交がそんなに嫌なのか、デネブはギュッと唇を噛んで恨めしそうにオレを見つめている。
その目がゆっくりと公園を見渡した。
さっきまで公園の入口にいた人間達はいなくなっている。
これで邪魔者は消えた。
オレたちはゆっくりと行為に没頭できるってワケだな。
なぁ、デネブ。
「…侑斗、いじわる」
そう呟いたのを最後の反抗にしたデネブは、おもむろに立ち上がってオレの前に座り込んだ。
ぎこちない手つきでズボンのジッパーを外して、取り出されたオレのものは外気に晒されて少しだけ反応を示す。
それを見て耳まで赤くしたデネブは、オレの表情を伺うように顔を上げてから大事なものを扱うような手つきでそれを扱き出した。
デネブの顔がゆっくりとオレのものに近付く。
アイスを含んだその口を、今度はオレのもので満たしてやる。
オレはデネブの後頭部を押さえて腰を突き出した。
ひっくり返ったような声と、喉を詰まらせるような苦しそうな悲鳴が聞こえる。
けどこのくらいヘーキだろ?
…どーせ慣れてるんだし。
「んんっ…んふ、はぁっ…あ…ぐぅ…」
デネブはギュッと目を瞑ってオレのものにしゃぶりついた。
オレのものを咥えて、ヒクヒクと喉を動かしている。
意図的にやっているのかは知らないけど、スッゲーきもちいい。
オレはデネブの髪を撫でながら言った。
「ヘタクソ。もっと舌使えよ、いつもみたいに出来ンだろ?」
「ごめ…うぅん…俺、がんばる…」
わざと虐めるような言い方をすると、デネブはパッと顔を上げて申し訳なさそうに言った。
すぐにオレのものを懸命に舐めながら、片手で竿を扱き始める。
その陶酔しきった浅葱色の瞳がエロくてやらしくてカワイくて。
オレは少しだけ身を屈めてデネブの頭を撫でた。
懸命な奉仕と健気な態度。
その全部が愛しくて、大好きで大好きで。
認めたくないけど、本当はもっと素直になりたい。
素直に、求め合いたい。
「デネブ…ごめん、オレさ…」
オレはデネブの頭を撫でながら呟いた。
口の周りを先走りで濡らしているデネブが遠慮がちにオレを見る。
その視線がなんだか気恥ずかしくて、オレは少し笑った。
"大好き"
その言葉を言うために。
「あの…さ、デネブ……だい…」
「あれっ、こんな場所で何してるの?」
不意に背後から間延びした声が聞こえた。
慌てたデネブがオレのものをズボンの中に押し込む。
寸止めされたオレの息子ははちきれんばかりに大きくなっていてズボンに入らない。
それを無理やり押し込んでジッパーを上げるから、オレは下腹部を押さえながら振り返った。
「…の、野上!?…おまッ…なんで…」
「あ、やっぱり桜井さんだ。こんにちはー、今日も暑いね」
やたら爽やかな笑顔で会釈した男は、野上良太郎。
なんて空気の読めない男なんだ。こんな時に出てくんな。
そう言いたいのをこらえてオレは鼻で返事をした。
そんな僕を見つめていた野上は不意に後ろを振り返ってぼそりと言う。
「モモタロス、早く来なよ。ここで犯されたいの?」
「お、か…!?」
何やら物騒な言葉が飛び込んできたような気がする。
オレとデネブは顔を見合わせて野上を見た。
アイツはオレたちのほうに向き直ると、にっこりと笑って首を傾げる。
「どうしたの?僕の顔に何か付いてる?」
不思議そうに首を傾げている野上の後ろからゆっくりと男が近付く。
よくよく見るとそれは逆立った髪と赤い目をした野上のイマジンだった。
赤目のイマジンはどこか調子が悪そうに息を荒げている。
頬は上気していて苦しそうだった。
「りょ…たろ…っ…。俺、もう歩けねェ…」
「モモタロス、何言ってるの?散歩始めたばっかりなのに。お仕置きが必要かな…」
「ひぐっ…っ、ぁあぅ…!!」
野上がズボンのポケットに手を突っ込んで小さく手を動かすと、赤目のイマジンは身を突っぱねてその場に膝をついた。
イマジンのズボンからは細いコードのようなものが垂れている。
まさか、いや…まさか。
一瞬、遠隔操作でリモコンをいじってるんじゃぁ…とおもったけどおもっただけだ。
まさか真昼間からそんな事するヤツなんていない。
ただの変態になっちまうだろ!
「侑斗、見ちゃダメ」
オレと同時に気付いたのか、デネブは小声で言った。
そんなオレたちに目をやった野上が小さく鼻で笑う。
普段の野上とはえらい違いだ。
なんかこう…見下すような、サディスティックな、そんな笑み。
「桜井さんたちだって僕たちと同じことしてたよね?」
「…っ!?し、してねーよ!」
「………嘘だよね」
「うぐ…」
「侑斗、さっきのバレてる…。俺、恥ずかしい」
鋭い指摘に俺は身を強張らせて、デネブは恥ずかしそうに俯いた。
俺たちの反応を楽しげに見つめている野上は赤目のイマジンに向き直って微笑みかける。
「行こう、桜井さんたちの邪魔しちゃ悪いから」
野上はこの世のものとはおもえないような、そんな笑みを浮かべてオレたちを見やってから赤目のイマジンとともに去って行った。
その様子を瞬きせずに見つめていたオレたちは、お互いに見つめ合って深いため息をつく。
「…なんっか…ヤる気根こそぎ持ってかれたよな」
「…こわかった」
デネブは、よろよろと立ち上がってから手の甲で自分の口元を拭いた。
ちょっともったいない気がしなくもない。
オレたちは寸止め状態なのだ。
ちゃんとイッてないし、デネブだってイカせてやれてない。
なんとゆーか、カッコ悪…。
「あ、侑斗…さっき侑斗が言いかけてたこと」
オレの目の前に突っ立ったままのデネブが不意に口を開いた。
少しだけはにかむように笑って、手をオレへと差し出す。
浅葱色の瞳が柔らかく光った。
「…俺も侑斗が、大好き」
照れくさげに微笑んだデネブは、オレの手を取って立ち上がるように促した。
オレの耳にはデネブのハスキーな声が、「大好き」の言葉が、張り付いている。
オレが、野上の来る直前に言いかけてたこと。
それをやすやすと口にした目の前のイマジンは満足そうに笑っている。
顔が熱くなるのが、分かった。
それが悔しいから、オレはデネブの頬をおもいきり引っ張ってやる。
「ば…バーカ!大好き、じゃねーよ!だ、大根の味噌汁が食いたいって言おうとしたんだよッ!」
「え?でも今日は豆腐の味噌汁…」
「デネブのくせにウザい!今日は大根の味噌汁食いたい気分なんだよッ!口答えすんな!」
「あう…わかった」
頬を引っ張られたままデネブはしょんぼりと肩を落として返事をした。
残念そうな顔が少し良心を抉る。
本当はオレだって、デネブとおんなじことを言いたいのに。
言いたいのに…。
「侑斗は素直じゃない。本当は俺が好き、知ってる」
「んなッ!!んなわけねーだろ!バカ!!」
そのまま黙っていればいいものを、デネブは照れくさそうに笑って言う。
んな顔して笑うな。殴りてえ!
オレはデネブの手を払って勢いよく立ち上がった。
同時にズキーンと腰に鈍い痛みが走る。
ぎこちなく下腹部を見ると、相変わらず勃ち上がったオレのものがズボンを押し上げているのが見えた。
「…く…そ…」
「侑斗!大丈夫?俺の肩使って…」
「ウザい!ベタベタすんなッ!ひとりで歩けるの!!」
心配そのものと言った表情で肩を貸そうとするデネブを振り切って、オレは腰を押さえながら大股でベンチから離れた。
頭の中では、ドSヤロー野上の顔がよぎる。
オレは何でこうもドSになりきれねーんだろう。
野上は自分のイマジンをあんなふうに調教して服従させている。
ならオレだってデネブを無理やり組み伏せて、調教して、犯して、服従させることだってできるはずだ。
ていうかオレもドSだし!
なのに何で野上みたいにやれないんだろう。
あんなふにゃふにゃした男のほうがドス黒いものを漂わせてるってどーなんだ。
……今度野上にイマジンを組み伏せる方法でも教えてもらおうかな…いやいやいや。
聞けるわけねーって。つかオレのプライドが許さねーし。
そんな事を口の先で呟きながら、オレは腰の鈍痛と戦っていた。
後ろから心配そうについてくるデネブの視線を感じながら。
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19話を見て数時間で仕上げた桜デネw
デネブはどう見てもお母さん受です(笑)