静かに揺れる車両の中で、僕はまどろんでいた。 
まぁ、食堂車とは別の車両に移って体を休めているだけなんだけどね。 
揺れる車両の音がきもちよくて、眠気を誘う。 
朝から少しだけ熱が出てフラフラしてたし、こうして静かに休めるのはありがたい。 
だけど…。 

「良太郎ッ、平気かよ!?何かしてほしいことあったら俺に言え!何でも聞いてやるからッ!!」 

おもいきり身を乗り出してきた赤鬼が言った。 
気前が良いのは嬉しいけれど、今はその元気な声が耳に響いて頭を揺らす。 
そんな僕を庇うように、ウラタロスが言った。 

「せ〜んぱい…だめだめ、そんなに大声出したら良太郎の体に響くでしょ」 

「そ、そっか…悪ィ、良太郎」 

ウラタロスの言葉に、きみはしゅんとして僕に頭を下げる。 
それでも落ち着かないのか、周りをうろうろするきみ。 
愛されてるって本当に罪だ。 
僕はモモタロスの視線に気付いていないふりをして目を瞑った。 
その時、ゆっくりと額に濡れタオルが当てられる。 
きもちよくて目を開けると、そこにはキンタロスがいた。 

「良太郎、苦しい〜?」 

軽い口調で、キンタロスの後ろからリュウタロスが顔を覗かせた。 
リュウタロスは胸の前で皿を持っている。 
皿の上にはきちんと切られたリンゴが置かれていた。 
もしかしたら僕のために持ってきてくれたんだろうか。 

「ハイ、良太郎にあげる」 

リュウタロスは皿ごと僕に突き出して笑った。 
つまようじを摘んで、ゆっくりとリンゴを口に含むとしゃりしゃりとした心地良い触感と甘酸っぱい味が口全体に広がる。 
僕が食べる様子を見つめながら、不意にリュウタロスが言った。 

「あのねぇ、そのリンゴ…ゴミ袋に入ってたやつなんだ。でもいいよねぇ?どうせ良太郎のだし」 

「ぶっ!」 

「こ、このクソガキ!良太郎に何食べさせてんだよッ!!だ、だいじょぶか、良太郎!?」 

おもわず噴いてしまった僕はむせながら胸を押さえた。 
そんな僕を気遣いながらモモタロスが怒鳴る。 
怒られたリュウタロスは、両手の指を擦り合わせていじけたように俯くと、キンタロスの後ろに隠れて少しだけ怒ったように言う。 

「えーっ、何で本気にするのぉ?嘘だよぉ…そのリンゴはくまさんと僕で切ったんだもん。ねー、くまさん?」 

「そうや、とびきり甘いリンゴを買ってもらって、俺らが切ったんやで。どや、美味いか?」 

キンタロスは自慢げに腕を組むと、僕が食べているリンゴを見て言った。 
おそるおそるリンゴをもうひとつ口にすると、ひんやりしていてとっても甘い。 
僕は食べながら頷いた。 
あの太い指でどうやったらこんなに綺麗なリンゴが作れるんだろう。 
しかも丁寧に、リンゴの皮はうさぎさんカットされている。 

「先輩には出来ないだろうねぇ。こんな高等テク…」 

うさぎカットされたリンゴをひとつ取ってウラタロスが言った。 
図星なのか、モモタロスはビクリと肩を震わせて拳を握る。 
追い討ちをかけるようにウラタロスが続けた。 

「看病に来たとおもえばうるさいだけだし、キンちゃんとリュウタみたいにリンゴを切ることもできない。…あーあ、何もできないなら用無しだよねぇ」 

「リストラぁー」 

「モモンガは食堂車に戻ってプリンでも食ってればエエんや」 

「な、何だとォッ!?リンゴくらい俺だって切れるぜッ!!こう…ズバァッと…!」 

ウラタロスの言葉に、リュウタロスとキンタロスが便乗する。 
ていうかリストラって…。 
僕はため息混じりに座席に身を預けた。 
モモタロスが何か反論しているみたいだけどその声もだんだん遠くなっていく。 
僕は睡魔に引きずられるように、深い闇の中に沈んでいった。 
心地いいデンライナーの揺れと、静かな空間。 

「…ん」 

額からタオルが落ちた時、僕は小さく声を上げた。 
薄目を開けると、車両の中は暗い。 
モモタロスたちが気を利かせてくれたんだろうか。 
気がつけば頬の熱も幾分引いている。 
体の疲れも少しだけ取れた。 
これなら、いつ戦いが起きても大丈夫だろう。 
いつまでもみんなに気を遣ってもらうのは悪い。 
早めに体調が回復してくれて助かった。 

「…そろそろ食堂車に戻らなきゃ…」 

僕は寝ぼけた声で言いながら身を起こそうとした。 
その時。 
足元で何かが動いたような気配がした。 
おもわず息を飲むけど、そこには何もいない。 
いない、と言うよりも車両が暗すぎて誰がいるのかも分からないんだ。 

「誰か、いるの?」 

おそるおそる声をかけると、それはゆっくりと頷く。 
暗いけれど見慣れたシルエットをしたそれは、遠慮がちに僕の下腹部に手を伸ばす。 
ゴツゴツとした指が僕のものに触れた。 

「…モモタロス、何してるの?」 

「うっ…」 

僕がそれの名前を呼ぶと、すぐ傍で声が聞こえる。 
それは僕のものを服の中から取り出して両手に掴んだ。 
…夜這い、ってやつか。 
僕は妙に納得しながら彼に手を伸ばす。 
すぐに尖った角が触れた。 
角をギュッと握ってやると、きみは僕のものから手を離して頭を押さえる。 

「いててッ…何しやがンだよォッ!?」 

「それはこっちの台詞だよ。…何してるのって聞いてるの」 

寝起きのせいか、あまりテンションの高くない僕の声はどこか機嫌が悪そうに聞こえる。 
きみもそうおもったんだろうね。 
目の前で座り込んでいたきみは身を縮こませてしまった。 

「だ、だって…俺、看病できねェし…亀たちには役立たずって言われるしッ…悔しくって…だから…」 

モモタロスの声は小さい。 
僕はあえて黙っていた。 
黙っている僕がよほど怖いんだろうか、モモタロスは声を小さくしたまま言う。 

「ご、ごめんなさぁい…」 

モモタロスは聞いているほうが哀れにおもえてしまうくらいかわいい声を出した。 
姿は僕よりも大きくて、凶悪な風貌の赤鬼なのにさ。 
いつも僕を困らせて、勝手に人の体に取り憑いて…迷惑なだけの存在なのに。 
かわいいっておもえるのは、何でだろう。 

「…で、何をしようとしてたの?…まさか奉仕とか?」 

僕は声色を変えずに言う。 
モモタロスは下を向いて何かを呟いていたけど、すぐに頷いた。 
イマジンのくせに、僕を奉仕しようとするなんていい度胸だ。 
僕はあえて不機嫌な態度を取ってモモタロスの角を掴んだ。 

「…そんな口で僕のものをしゃぶるつもり?怪我するのはごめんだよ」 

「んぐッ…」 

角を掴んでいる手とは別の手でモモタロスの口をこじ開けてやると、彼は小さく唸ってかぶりを振った。 
モモタロスの身体は赤鬼そのもの。 
だから口にも鋭い牙が生えているし、下手すれば凶器になる。 
その口で奉仕されたら僕のものがちぎれてしまうじゃないか。 
…興味はあるけどね。 

「…モモタロス、僕の体を使ってごらん」 

「……へ?」 

僕はモモタロスの口に指を突っ込んだまま言う。 
その手をゆっくり引きぬいてやると、モモタロスは不思議そうに首を傾げた。 
こういうプレイは初めてだけど、試してみる価値はありそうだ。 

「…憑依しろって言ってるんだよ。聞こえない?」 

低めの声で言うと、モモタロスがぎこちなく頷いた。 
ゆっくりとモモタロスの顔が近付く。 
暗がりに目が慣れて来たのか、彼の赤い体がぼんやりと見えた。 
…こうでもしなきゃイマジンと性行為ができないなんて…本当に面倒くさい。 
僕はモモタロスの後頭部に手を当てて唇を重ねた。 
同時に、彼の体が赤い光に変わって僕の体の中へ吸い込まれていく。 
僕の意識はモモタロスのものになった。 
僕の体に憑依したモモタロスは、長い吐息を吐いて上着を脱ぎ捨てる。 

「…体…熱ィ…」 

『ううん、風邪はだいぶ良くなってるから熱くないはずだよ』 

「そうじゃねェよ…」 

モモタロスは壁によりかかって小さく呟く。 
声に熱がこもっているような気がする。 
きっと興奮しているんだろう。 
震える手が僕のズボンに触れた。 
ゆっくりと下ろされたズボンは僕の…いや、今はモモタロスだから…モモタロスの足元に落ちる、って表現が正解か。 
僕は指示をするためにモモタロスの意識に語りかけた。 

『シャツの中に手を入れて…乳首を弄って見せて』 

僕の声に頷きだけで返事をしたモモタロスは、遠慮がちにシャツの中へ手を突っ込んだ。 
その指が突起に触れたとき、きみは低く吐息を吐いて乳首を摘む。 
人差し指と親指で擦り上げるようにゆっくりとこねて、時折指の腹で押し付けながら僕の言われるままに手を動かすきみ。 
静かで暗い車両にきみだけの小さな声が反響した。 

「…っ、ん…は…あぁ…っ…」 

乳首だけで甘ったるい声を上げたきみは慌てたように口を押さえて再び胸への刺激を開始する。 
触られてもいないのに勃ち上がっているモモタロスのものがビクンと震えた。 
僕は少しだけ悪戯心を覚えて、口を塞いでいるきみの手に意識を集中させる。 

「りょ…良太郎ッ…!?ひ…っ…」 

僕が意識を集中させるときみの手はぎこちなく口から離れてゆっくりと下腹部に降りていった。 
そりゃ僕の体だもの。主人が操れないなんて可笑しいもんね。 
僕は、自分の手でモモタロスの下肢を撫でてからきつめに握りこんでやった。 
ひっくり返ったような声が聞こえる。 
でもやめてやらない。 
夜這いしにきたのはきみなんだから最後までやらなきゃね。 

「あ…あぐっ…良太郎…っ!あ、あ…強すぎ、ンだよォッ…!」 

モモタロスは声を震わせながら言った。 
本当はきもちよくてたまらないくせに、純情ぶった言い方をする。 
僕は彼のものを上下に扱きながら声をかけてやる。 
できるだけ意地悪に。 

『ずっと欲しかったんでしょ?あの体じゃ出来ないしね…こんなこと』 

指の腹で先端を押し付けながら言ってやると、モモタロスはきつく唇を噛んでかぶりを振った。 
モモタロスの顔を撫でてやりたい。だけど、それはできない。 
この体じゃキスもできない。 
抱き合うことさえできない。 

「んんっ…ふぁ…良太郎ォ…焦らすなァッ…一緒に…」 

モモタロスはしゃくり上げながら言った。 
一緒にイキたいって事なのか、胸を弄っていた手はゆっくりと僕の手に重ねられる。 
既に、車両いっぱいに響く甘い声が僕の耳を満たしていた。 
彼は…恥じる余裕もないんだろう。 
僕にされるがまま、甘ったるい声を上げて舌を突き出す。 
ああ、かわいいな。 

「はぁっ…あ、あうっ…んぐ…い、い…良太郎ッ!」 

座席にしがみつくようにしてモモタロスが声を上げた。 
身を縮こませて喘ぐきみは、結構かわいい。 
僕は手の動きを早めてやった。 
同時に、彼の声に艶っぽいものが混じる。 

『そんなに大きい声、出していいのかな?こんなに響いてる…』 

からかうように言ってやるけど、もうモモタロスには届いていないみたいで。 
きみは僕の名前を呼びながら全身で息をしていた。 
もうそろそろ限界だろう。 

「い、あう…もうやだァ…イッちまうよォッ!はぁ、ぐ…」 

泣き叫ぶような声で言ったきみは僕の手を押さえつけて肩を震わせる。 
声を抑える余裕もないんだろう。 
恥ずかしい声を車両いっぱいに響かせる恋人を感じながら、僕の手は射精を促すように動く。 
手の中のものがビクリと大きく跳ねた。 

「ひ、あ…ああああぁァ…ッ…!!!」 

体を弓なりに逸らしてモモタロスが声を上げる。 
手の中からは濃い白濁液があふれ出して座席を汚していった。 
モモタロスは喉の奥から甘ったるい声を出して壁にもたれかかる。 
指に白濁液を絡めながら、満足したように笑って。 

「…サンキュ…良太郎…。でも何で俺がきもちよくされてんだよ…俺は良太郎に…」 

『だって、モモタロスの声聞きたかったし』 

「…ば、バァカ!良太郎だけだからなッ?こんな声聞かせンの…」 

モモタロスは、足元に落ちたズボンのポケットからティッシュを取り出して白濁液を拭ってくれた。 
照れくさそうに言いながらも結構嬉しそうじゃないか。 
僕はそうおもいながら小さく笑った。 
てきぱきとした動作で服を着込んだモモタロスは、すぐに僕の体から淡い光となって普段の姿へ戻る。 
さっきまでは暗くてよく見えなかったけど、そこにはちゃんと赤鬼の姿をしたきみがいた。 

「…かわいかったよ」 

頭を撫でてそう言うと、きみは照れくさそうにそっぽを向いて咳払いをする。 
僕はモモタロスの角に口付けてやった。 
丁度その時、一番手前の座席から大きな物音が聞こえる。 
扉に一番近い座席だ。 
おもわず身を強張らせると、モモタロスは僕を庇うように前に出た。 

「良太郎は引っ込んでろ!おいこらッ…そこにいる奴ッ!!こそこそしてねーで出てこい!!」 

モモタロスが怒鳴りつけると同時に車両の電気がついた。 
電気をつけたのはウラタロスだ。 
手前の座席にはすまなそうな顔をして眠っているふりをしているキンタロスもいる。 
ついでに、と言うべきか…僕の体から紫の光が溢れた。 

「みんなずーっと見てたよぉ」 

紫の光が怪人の形を作って僕の隣に腰掛けた。 
リュウタロスだ。機嫌よく笑いながら僕とモモタロスを見つめている。 
僕はそっとモモタロスを見つめた。 
モモタロスは現状が把握できていないのか、それぞれのイマジンを見つめてパチパチと瞬きを繰り返している。 
けれどモモタロスの赤い顔が普段より真っ赤に染まりあがるまで、さほど時間はかからなかった。 

「な、な、な…盗み聞きしてたのかよォッ!!」 

「先輩気付くの遅ーい」 

「おそーい」 

混乱しきっているモモタロスに、スキップをしてきたウラタロスがからかうように言った。 
ウラタロスに続いてリュウタロスが首を傾げて言う。 
それも、わざわざ僕のほうを見て。 

「良太郎が桃にしたこと、ボクはぜーんぶ知ってるよ。えっとねぇ、こーやって…」 

「ぎゃあああッ!!言うんじゃねェーッ!」 

リュウタロスが何かを掴むような仕草をすると、モモタロスが頭を抱えてかぶりを振った。 
恥じる暇さえない僕に、ウラタロスが顔を近づけた。 
僕に憑依しているときとは違う茜色の瞳がキュッと細められる。 

「いやー、良太郎もやるねぇ。あの馬鹿桃をあんなにさせちゃうんだもん…見直したよ」 

「あはは。ミルクいっぱい出たよねぇ」 

イマジン二人にからかわれた僕たちは、何も言い返せず声を詰まらせる。 
モモタロスは拳を震わせながら今にも二人に飛び掛っていきそうだ。 
車両であんな事してた僕らが悪いんだからモモタロスに反論する権利はないのにね。 

「なるほど…」 

ふと、車両の扉が開いた。 
オーナーかとおもって身構えたけど、そこには桜井さんとデネブがいる。 
桜井さんは眉をヒクつかせながら仁王立ちしていた。 

「普段は間抜けな顔してるくせにイマジンを性欲処理に使うなんてな…心底おめでたい奴だぜ。ああ…変態って言ったほうが良いか?」 

桜井さんの言葉は相変わらず棘を含んでいる。 
そんな彼を諌めるようにデネブが口に人差し指を当てた。 

「侑斗っ、人の好みに口出すの、よくない。というかあんなに覗いてた侑斗も十分変態…」 

「だ、黙ってろよッ!俺は覗いてたんじゃなくて何してんのか気になって…」 

声をひそめて言ったデネブに対して、桜井さんは噛み付くように返した。 
小さい声で"ごめんなさい…"と呟いたデネブは、両の指を擦り合わせるようにして俯く。 

「でも俺、覗きはよくないってあれほど言ったのに…」 

「じゃあ一人で帰ればよかっただろ、馬鹿デネブッ!!」 

「いたいいたい!侑斗、いたいぃ!乱暴だめぇ!」 

冷ややかな声色で言った桜井さんにデネブが突っ込むと、彼は慌てたようにデネブの頭をポカポカ叩いた。 
どうやら部外者にもバッチリ見られていたらしい。 

「ハナさんやナオミちゃんに見られてなくてよかったねぇ、良太郎」 

「本当にね…」 

ウラタロスの言葉におもわず同意してしまう。 
こんなに大勢に見られてたならいっそすがすがしいよ。 
吹っ切れながらそうおもっている僕の隣で、沸騰寸前のモモタロスがパタリと倒れた。 

「あは、茹で桃だー!真っ赤になってるよぉ」 

倒れたモモタロスをからかうようにリュウタロスが笑う。 
僕はそんなモモタロスを見下ろしながら、次に夜這いに来てくれるのはいつかな、なんてこっそり期待していた。 
でも…今度はデンライナーの外で憑依してもらったほうがいいかもしれないね。 
恥ずかしがり屋の恋人が倒れちゃうから。 


















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みんな憑依体じゃなくてイマジン体。
イマジン体のままでも奉仕できそうな気がするんだけどどうなのか^^^^;;;;;;;;
6月8日に書いたもの。