イマジン。 
オレの体に取り憑いている男の事だ。 
未来からやってきた侵略者…まぁ、いわゆる未来人ってやつなのだが。 
今、目の前の男は、その未来人にとんでもないことを強要している。 

「んんっ、む…」 

「ほら、もっとちゃんと舐めないと」 

頭の上から声がかかった。 
人の良さそうな顔を残忍に歪めて男が笑いかける。 

「イマジンって精液が大好きなんだってね。だからたくさん飲ませてあげなきゃ」 

男は穏やかな顔をしてとんでもない事を言った。 
イマジンと言ってもヒトだ。 
精液が大好きな生き物…なわけないだろーが。 
オレは、股間に顔を埋めている口うるさいパートナーを見つめて黙っていた。 
浅葱色の瞳をしっとり濡らして、懸命に男ののものを舐めているパートナー。 
ゆっくりと竿を舐めあげてから、アイスキャンデーをしゃぶるようににチロチロと舌を使っている。 
…どんな光景だよ。 

「デネブは良い子だよね、しつけもしてないのにちゃんと舐めてる」 

男が言った。 
オレは、深い意識の底からデネブを見つめている。 
何度同じ事をさせてんだろう。 
アイツは嫌がることもせずに、ただ懸命に舌を使っていた。 

「…ふは…良太郎、侑斗に酷いことしないで?」 

「うん、しないよ」 

デネブが良い子にしてればね、と言って男が笑う。 
男は…野上良太郎はオレを憎悪しているらしい。 
オレとしては別に嫌われようと無視されようとどうでもいい。 
デネブが酷い目にあっていても、オレは悪くない。 
悪くない。悪くない。悪くない。 

「…じゃあ…侑斗と、友達になってくれる?」 

「うーん、それは難しいなぁ…。僕、あの人嫌いだし」 

デネブが小さな声を上げると、野上は見てるこっちがムカつくくらいの笑顔で言った。 
手を伸ばしてデネブの頬をきつく引っ張る。 
デネブは身を竦めて怯えたように野上を見た。 
楽しいのか?こんなことして。 
弱いものいじめとおんなじだろーが。 

「どうしても友達になって欲しいなら…僕の言うこと、聞けるね?デネブ…」 

野上の問いかけに、デネブは迷うことなく頷いた。 
喉の奥まで野上のものをくわえて、ゆっくりと頭を動かしていく。 
きもちワリー。 
オレの体でナニしてんだよ。信じらんねー。 
考えたくねえよ。 
デネブがオレの体で、野上のものをしゃぶってるなんて。 
…そんな。そんなの。 
何かの悪夢だろ。 
たぶん悪夢だ。 

「…んっ、ふ…くぅ…んは…良太郎、熱い…」 

デネブはうっとりしたような声で言いながら野上のものに頬ずりをする。 
どこまでが本心なのかわかんねえ。 
オレの友達集めって建て前でセックスしてんだもん。 
シたいならオレの体じゃなくてあの体ですればいいだろ。 

「デネブ…そろそろ出すよ?」 

「うん…」 

野上がデネブの髪を撫でると、アイツは子供みてえに頷いて野上を見た。 
その目はすっかり陶酔していて、もっと欲しいと言わんばかりにいやらしい顔をしている。 
オレは少しだけ背筋に甘いものを感じた。 
…野上のものをしゃぶっているのがオレだったら…なんて想像して、やっぱ無理。ギブ。きもち悪すぎるだろ。 
だって野上はオレの事嫌いだし。 
…オレだって野上の事なんか、どうだって…。 

「良太郎…?」 

口をすぼめて野上のものをしゃぶっていたデネブは、ふと何かに気付いたように顔を上げた。 
目に入った野上の表情は、さっきと少し違う。 
瞳は金色で、髪には金のメッシュが入っていた。 
心なしか髪も伸びたように見える。 
イマジンが憑依したのか。 

「…ッ!」 

デネブが慌てたように身を離そうとするけど、野上の形をしたものはがっしりとデネブの肩を掴んだ。 
金色の瞳が怒りを露にしたようにデネブを見つめている。 

「何で大人しくされたままになってんねん。嫌やないんか!?」 

「う、うるさい。これは俺と良太郎の問題。お前に関係ない!」 

野上はデネブの肩を揺すって言う。 
けれど、デネブは気丈に反抗した。 
浅葱色の瞳がギュッと細められる。 
どこか戸惑っているような、苛立っているような、そんな顔だ。 
野上のイマジンは、さらに怒りを募らせたのかデネブをその場に寝かせた。 
ひどく、乱暴な動作。 

「関係ある!俺は…お前のことが好きやから、だから…っ…他の誰かに抱かれてるお前を見るのが嫌や」 

「キンタロス、俺はお前がだいきらい」 

野上のイマジン…キンタロスが苦しそうに告白したのをデネブはいとも簡単に斬り捨てた。 
デネブがこんなに嫌悪を顔に出すなんて珍しい。 
押し倒されたままの格好で、きつく眉を寄せている。 
冷ややかな浅葱色の瞳がキンタロスの手首を掴んだ。 
キンタロスが痛みに耐えるように眉を寄せるけど、デネブはそのまま乱暴に手首を掴み上げてゆっくりと立ち上がる。 

「これは侑斗の体。侑斗に触るな」 

デネブはきつい口調で言って衣服を整え始める。 
その様子を、キンタロスが黙って見つめていた。 

「…じゃあ、何で良太郎とあんな事しとるん?その体、お前のやないやろ。契約者のものやん」 

「…うるさい」 

底冷えするような声で言ったデネブは、顔を背けて口を閉ざした。 
オレもびっくりするくらいの冷淡な口振りだ。 
デネブがキンタロスを嫌う理由なんかどこにあるんだろう? 
嫌うどころか、このふたりは気が合いそうなくらいなのに。 
どこか古風な思考をした父ちゃん気質のキンタロスと、母ちゃん気質なデネブ。 
お似合いだとおもうんだけど…オレだけなのか? 

「デネブ、そんなにキンタロスを嫌わないで」 

同時に、キンタロスの憑依から抜けた野上が困ったように言った。 
デネブはぎこちなく振り向いて小さくかぶりを振る。 
野上の手がデネブの体を抱き寄せた。 

「う、あ、う…良太郎?」 

デネブの顔はみるみるうちに赤く染まって、さっきとは別人なくらいにおどおどしてしまっている。 
そんなデネブを見て野上が笑った。 

「…でも…デネブは照れ屋さんだもんね。しょうがないか」 

おもむろに野上の顔が近付く。 
デネブは何度も頷いてから大人しく目を閉じて…野上に唇を重ねた。 
同時に、デネブの意識がオレの中からパッと消える。 

「んぐっ…」 

唇に嫌な感触。 
背中に回った腕。その全部がリアルタイムで感じられる。 
ひょ、憑依を解きやがったのかデネブの奴。 

「ぎゃあああッ!!!」 

オレは慌てて野上の体を突き飛ばした。 
いや、突き飛ばそうとした…はずなんだが。 
オレの体は野上に抱きしめられていて動かない。動かない。 
か、勘弁してくれ。冗談はやめろ。 

「あ、ようやく侑斗のおでまし?会いたかったよ」 

野上がオレの体を抱きしめる。 
ドキドキする…わけない! 
べたべたすんなきもちわるい! 

「は、離れろォッ!」 

「つれないな…本当にかわいくない」 

「ひぐっ…」 

野上の手が、無遠慮にオレのものを掴んだ。 
口から上擦った声が漏れる。 
男に触られたくらいで変な声出してんじゃねーよオレ。 
野上の手は、ゆっくりとオレの下肢を撫でながら握りこむようにして指先を動かした。 
変になる。おかしくなる。 
野上の顔が近い。顔が熱い。 

「んく…はぁ…キモいっ…離れろよ…」 

「キモいとか言わないで。せっかくデネブが協力してくれたんだから楽しもうよ」 

「はぁ!?」 

野上はオレを抱きしめたまま、下肢を良いように弄んでいく。 
オレはおもわず聞き返してしまった。 
デネブが何だって?協力? 

「デネブがね、侑斗は僕の事が好きだから恋を成就させてやりたいって言ってきたんだよ」 

「……」 

「侑斗の体を開発するのにも付き合ってくれたし…本当に天使みたいなイマジンだよね」 

笑ってゆーな。 
ちょっと待て。 
何だそれは。聞いてないぞ。 
オレは口をパクパクさせながら後ずさった。 
けど野上の腕はオレを離さない。 
混乱しているオレの脳にデネブが直接語りかけてきた。 

『侑斗は良太郎が好き。幸せになって』 

「て、てめっ…人のきもちを勝手に妄想すんなァアッ!!野上ッ、お前も…んんっ…」 

デネブに怒鳴りつけたオレはすぐさま野上をどうにかしてやろうと口を開いたのだが、すぐに唇を塞がれた。 
水音を響かせて、野上の舌がオレの咥内を滑る。 
ぞわぞわしたものが背筋を這い登っていた。 
男同士のキスがきもちいいなんて…嘘だろ? 
野上の奴、どんだけ上手いんだよ。 

「…んぁ、は…さっき、デネブを脅してたのは…何だったんだよ?お前のイマジンが心配してたじゃねーか」 

「ああ、あれ演技だよ」 

野上はあっさり白状して笑った。 
おもわずその場でずっこけそうになる。 
そんなオレを見て、野上が笑った。 

「…でも、デネブが悦んでたのは演技じゃないかもね。今はキンタロスがふて寝してるから教えてあげるけど…」 

「わ、わー!だめ!良太郎!だめ!!」 

野上の声に反応して再びオレに取り憑いたデネブは慌てたようにかぶりを振った。 
口を抑えようとする手をしっかり掴んで、野上が続ける。 

「さっきのデネブは、キンタロスに奉仕してるのを想像して舐めてたんでしょ?きもちよさそうな顔してたもんね」 

野上が言うと、デネブはすぐに恥ずかしそうな顔をして憑依を解いた。 

『うぁ…はずかしい…。ごめんなさい、侑斗』 

デネブが小さな声で言った。 
よくわからないが、こいつは野上のイマジンが好きなのか? 
だとしたらどうしてさっきはあんなに冷たく接していたんだろう。 

「…さっきはヒデー事言ってたじゃん、デネブ」 

オレが言うと、野上は意味ありげに笑ってもう一度オレにキスをした。 
二度目になるともうどうでもよくなってしまって、オレは目を逸らしてキスを受け入れる。 
…欲しかったわけじゃない。野上の事も好きじゃないし、キスしたいわけも、ない。 

「…デネブは照れ屋なんだよ、侑斗と同じで」 

「はぁ?誰が照れ屋なんだよッ!」 

「ふふふ…」 

オレの反論に、野上は満足そうな顔を返してくる。 
こっちのきもちは完全シカトかよ。 
お前の事なんか好きじゃねーってのに。 

「好きだよ、侑斗」 

野上はつり目気味の瞳で言って笑った。 
そんな顔されたら何も言えなくなるじゃん。 
好きだとか嫌いだとか、そんな言葉はこいつの前では意味を成さない。 

「…バカじゃねーの」 

だからとりあえず悪態をついておいた。 
余裕ぶっておいたほうが、何かと格好いい。 
けれどオレの顔は今、たぶんみっともないくらい真っ赤だ。 
格好つける意味なんかどこにもない。 

「かわいいねぇ…強がってるの?」 

「うざっ」 

「うざいとか言わないでよ、傷つくから」 

野上はちっとも堪えてないような顔をして笑う。 
口から心臓が飛び出そうなくらい顔を近づけて、それから口付けた。 
オレに憑依したデネブが何度もされていたことだ。 
もうオレの身体はコイツのものになっちまってんだよ。 

「…あ、ふ…良太郎…」 

掠れた声で名前を呼ぶと、野上は嬉しそうな顔をして笑った。 
それがムカつくから頬を引っ張り上げてやる。 
ただの照れ隠しにしかなってねぇけど。 
これがオレの精一杯の強がり。 

「…やっぱお前、すーごーくーウザい」 

拗ねたような声で付け足しておいた。


















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キンタロス⇔デネブ+良太郎×ツンデレ侑斗です。
受はみんなツンデレ化計画^^^^^^
ミクシに載せたのとは違って少し修正。
侑斗への呼び方が「桜井さん」になってたので!(笑)
6月9日に書いたもの。