「じゃあ僕たち、今日はこの辺で帰りますね」 

対戦ゲームにたっぷり3時間付き合わされた僕たちは畳の上で伸びながらしばらくカルピスを飲みつつ他愛ない話をしていたけど、やがて手荷物をまとめながら言った。 
和柄のエプロンをなびかせてカルピスのお代わりを持ってきたデネブが目をパチパチさせて首を傾げる。 

「今日の夕飯、多めに作りすぎた。だから二人に食べていってほしい」 

「そ、そーだよッ!母ちゃんもああ言ってんだから食っていけよ、良太郎!」 

ゲームを片付けていたモモタロスが不意に振り返って唇を尖らせる。 
まぁ、僕も恋人と一緒に食事できるのは嬉しい。 
それに、モモタロスが何を求めているのかも容易に想像ができる。 
今夜は泊まっていけ、と言いたいんだ。 
僕は傍らの人物に目を向けた。 
むすっとしていていつも眉間に皺を寄せているクラスメート。 

「侑斗くん、どうする?一緒に食べていく…?」 

「べつに。物好きがああ言ってんだし勝手にすれば」 

侑斗くんはトゲのある言い方をしてデネブを見やる。 
ずいぶん乱暴な言い方だけど、侑斗くんに見つめられたデネブは嬉しそうだ。 
反対にモモタロスは侑斗くんを睨みつけて敵意を剥き出しにしている。 

「母ちゃんを物好き呼ばわりするたァいい度胸じゃねーかクソガキッ!!今すぐシメて…ぎゃ!」 

「わーい!だいなみっくちょっぷぅ!」 

侑斗くんに掴みかかろうとしたモモタロスめがけて、銃の玩具を振り上げたのはリュウタロスだ。 
玩具のチョップを食らったモモタロスはそのまま顔面から畳に衝突した。 
そんなモモタロスに圧し掛かってリュウタロスが楽しそうに玩具からシャボン玉を溢れさせる。 

「リュウタロス、家の中でシャボン玉はよくない」 

「ボクに文句あんの?ないよねぇ?…答えは聞かないけど」 

デネブの控えめな注意に対して冷めた目を向けたリュウタロスは軽く舌を出して笑った。 
反抗期の子供そのものだ。 
本当、賑やかすぎる家族だよね…。 

「モモタロス、平気?」 

「へ、へへ…こんくらい…」 

僕が小声で尋ねると、額に畳の痕をくっきりつけながらモモタロスが顔を上げて苦笑した。 
けどすぐにパッタリと倒れてしまう。 
モモタロスの上にリュウタロスが乗っているせいだ。 
そんな子供を懸命にデネブがたしなめるんだけど、まるで聞いてない。 
この家の中にリュウタロスを叱れる人間はいないんだろうか、なんて。 
そんな訳はない。 
リュウタロスを叱れる人が、この家にはひとりだけいる。 

「リュウタ、そんな事したらあかんやろ?モモンガが潰れとるで」 

「あ、くまー!お帰りー!」 

深みのある関西弁が聞こえてきたと同時にリュウタロスが立ち上がった。 
ちゃっかりモモタロスの頭を踏んでからその人物に飛びつく。 
リュウタロスの言う「クマ」と言う言葉が一番ぴったりくるその人物はこの家の大黒柱、キンタロス。 
頑張り屋で家族思いの良い人だ。 
……よく物を壊すけど。 
それを含めても良い人、だとおもう。 

「何や、良太郎たちもおったんか。今日はここで夕飯食ってくんやろ?デネブの飯は美味いでぇ〜」 

どっしりとした深みのある声でそう言ったキンタロスは抱きついているリュウタロスをあやしながら笑う。 
料理を褒められたデネブは照れくさそうに笑って俯いた。 
それが面白くないのか、僕の傍らにいる侑斗くんが顔を逸らす。 
顔を背けている侑斗くんを面白そうに見つめたリュウタロスは、紫の瞳を細めてキンタロスとデネブを抱き寄せてから笑う。 

「くまはおかあさんの料理の味が好きで結婚したんだもんねー、ラブラブなんだよぉ」 

「リュウタロス!客の前でそういう事言うの、よくない」 

「何でや?リュウタは何も悪い事言ってへんし…料理の味に惚れたのは本当やからな」 

「…う…あう…恥ずかしい…」 

「おかあさん真っ赤だぁ〜」 

キンタロスとリュウタロスの二人を見て真っ赤になっているデネブは、ちらりと侑斗くんを見て目を伏せた。 
僕が侑斗くんを見やると、彼はずっと目を逸らしたまま窓の外を見つめている。 
侑斗くんがデネブの事を気にしているのは知ってる。 
けどデネブは人妻で、キンタロスっていう素敵な旦那さんもいる。 
だから、侑斗くんの片思いは…。 

「お母さん、夕飯の用意…早くしてくださいよ。僕、この後すぐ仕事だから」 

僕の思考は中断された。 
バスローブ姿で出てきた黒髪の男が涼しそうな顔をして脱衣所から現れる。 
気の強そうなコバルトブルーの瞳が僕らを捉えて小さく笑う。 

「いやん…お客さんが来てたのにごめんね、こんな格好で」 

「い、いや…別にいいよ、ウラタロス。仕事って…ホストの?」 

僕は、バスローブから覗く首筋や足に目がいきそうになりつつ笑った。 
水も滴るいい男って言葉が合うだろうか。 
黒髪から水を滴らせながら、ウラタロスはにこやかに笑って僕らに会釈をする。 

「そう、ホストのだよ。毎日綺麗なお姉さんに囲まれて幸せさ」 

どこまで本気で言っているのか分からないけど、ウラタロスはそれをサラリと言ってからドライヤーを手に髪を乾かし始めた。 
柔らかな青いメッシュと、綺麗な黒髪。それが次第に乾かされてさらさらになっていく。 
僕はその様子に見惚れていた。 
モモタロスとおなじ兄弟とはおもえないほど綺麗で、悩ましくて。 
女相手のホストよりも男相手のホストのほうが儲かるんじゃないかとおもうくらいだ。 

「ウラタロスって、男相手のホストはしないの?」 

何となく口に出して聞いてみると、彼はコバルトブルーの瞳を一瞬大きく見開いてからぎこちなく笑った。 
その笑みにはどこか陰りが見られる。 

「あ、あはは…嫌だな。僕の言葉は綺麗なお姉さんのためだけにあるんだよ。男に言ってどうすんの」 

櫛を使って髪を整えながらウラタロスが笑う。 
まだきちんとセットされていない髪はストレートで、ウラタロスの肩に垂れている。 
どこか中性的で色っぽいとおもった。 
とても、畳に突っ伏しているアイツとおなじ兄弟だとはおもえない。 

「…ま、良太郎みたいに言う人…結構いるんだけどね。男相手のほうが…儲かるし、楽でいいって…僕にも分かってるし。でも、僕は男の相手なんて…」 

ポツポツと語り始めたウラタロスは、目を伏せて小さくため息をついた。 
よくよく観察すると、目元に隈が出来ている。 
何かあったんだろうか。 
そうおもって口を開こうとすると、後ろから誰かに抱きつかれた。 

「ずいぶん楽しそうじゃねーか。あァん?飯、さっさと食おうぜ」 

低い声でそう言ったのは、僕の恋人だった。 
モモタロスの顔を見たウラタロスはさっきまでの暗い表情は嘘のように、大袈裟に噴き出す。 

「なーに、もしかして妬いてるの?あはは、兄さんはかわいいな〜」 

「うっせーぞエロ亀!色気づいてる暇があったらとっとと着替えろッ!」 

今にも噛み付いてしまいそうなくらい怒鳴りつけたモモタロスは、ぎゅっと僕を抱き寄せた。 
首筋に顔を寄せて、甘えるみたいにきつくギュッと抱きしめてくる。 

「…モモタロス、痛いよ」 

軽くモモタロスの手を指先で叩いて言うけど、僕の言葉は聞こえてないらしい。 
彼はきつくきつく、僕を抱きしめて言った。 

「俺以外の奴にあんな顔すんじゃねーよ…良太郎の馬鹿」 

低く呟いたモモタロスは、乱暴に抱擁を解いて顔を背けてしまう。 
一体何を怒っているのか僕にも分からないが、真紅の瞳をギラギラ光らせている。 
僕とモモタロスの間に何となく気まずい空気が流れた。 

「良太郎、モモタロス、夕飯冷める。早く来て」 

何時の間にかみんなしっかりとちゃぶ台を囲んで座っている。 
ご飯を茶碗へつぎながらデネブが言った。 
侑斗くんは何気にデネブの近くに座っている。 
…狙って座ったんだろうな。 
キンタロスはリュウタロスの隣。 
ウラタロスと侑斗くんの隣に、丁度2人分の空きがあった。 
僕が侑斗くん寄りに座ると、ウラタロスが甘えるように僕の腕を引っ張る。 

「いやーん、淋しいなぁ…。良太郎、もっとこっちに座っていいのに。ほらほら…」 

「ちょ、ちょっと…」 

ウラタロスに引っ張られるまま、侑斗くんから離れた僕はやけにぴったりとウラタロスの隣に座らせられる。 
モモタロスへ見せ付けるようにやっているんだろう。 
彼は…ウラタロスは、男にそういう趣味はない。 
だからこの行為も冗談だと分かる。 
けど、こんな事をされたら勘違いしてしまいそうだ。 
ただでさえ、モモタロスに似ていて綺麗な顔をしてるのに。 

「う…」 

侑斗くんの隣に腰掛けたモモタロスの視線が痛い。 
すごく痛い。 

「…う、ウラタロス…あんまり近付かないでよ…」 

「えー?そんなつれない事言わないで…。良太郎のいけず…」 

ウラタロスは囁くような甘い声で僕の耳元に口を寄せた。 
か、かわいい。 
かわいいんだけど…。隣からすごくどす黒いオーラを感じる。 
モモタロスが茶碗を手に、ごはんを口に入れながら僕を睨んでいた。 
そんな顔しなくてもいいのに…。 

「良太郎、ごはんどのくらい欲しい?」 

ご飯粒のついたしゃもじを手に、デネブが問う。 
来客用の茶碗が炊飯器の傍に置いてあった。 
僕はモモタロスの視線を気にしながら薄ら笑いを浮かべる。 

「え、えっと…じゃあいつもの量で…」 

「わかった、いつもの量だな」 

"いつもの"で通じてしまうくらい、僕は…いや、僕と侑斗くんはこの家に馴染んでいる。 
この家に世話になり始めてからだ。モモタロスと関係を持ったのは。 
初めは乱暴者で、口が悪くて、僕とは正反対の奴だとおもってた。 
この家族の中で一番性格悪いし、ヤクザや不良とでも絡んでいそうな目つきをしている。 
だけど本当は子供っぽくてプリンが好きで、それからどうしようもないくらい…淫乱な奴だと知っている。 
知ってしまったから、僕は彼を嫌いになれない。 
それどころか、どんどん好きになる。愛しくなる。愛されたくなる。 

「モモタロス、隣…いい?」 

僕は未だにからかってくるウラタロスを目で制してから、おもむろにモモタロスの隣へ腰掛けた。 
もちろん、怒っているモモタロスは返事をせずにごはんを黙々と食べている。 
完全に機嫌を損ねてしまったらしい。 
僕はちょっと悪戯心を覚えて、ゆっくりと手をちゃぶ台の下に下ろした。 
あぐらをかいているモモタロスの足に手を伸ばして、それから時間をかけてふとももを撫でていく。 

「…っ…テメ…何しやがる…」 

口の端にご飯粒をつけたまま、モモタロスが僕を睨んだ。 
ようやく喋ってくれた。 
僕は撫でていたふとももから手を離して、モモタロスの下腹部をやんわり掴んでやる。 
モモタロスが小さくむせた。 
まぁ、ご飯を食べている途中だしね。 
やりすぎたら怒られるだろうけど。 

「…ごめん、モモタロス」 

僕は小さい声で謝ってから指の腹でモモタロスのものを擦り上げた。 
赤い瞳がギュッと伏せられる。 
その時、ふとモモタロスの向かい側に座っていたリュウタロスが足を伸ばした。 
めいっぱい伸ばされた足はモモタロスの下腹部を擦り上げる。 
…たぶん、わざとだ。 

「ひぐっ…」 

「あーっ、お母さんのごはんおいしーい!ねー、くま」 

「そうやな、デネブはホンマに良い母ちゃんや。こういうの、良妻賢母っちゅうんか?」 

「キンタロス、そういう事言うのダメ。恥ずかしい…」 

モモタロスの小さな悲鳴に誰も気付かず、のんびりとした家族の会話が交わされていく。 
恥ずかしそうに顔を伏せたデネブは、隣に座っている侑斗くんを見てにっこり笑った。 
その顔は子供を見つめる母親そのものだ。 
デネブの視線に気付いた侑斗くんは、茶碗で顔を隠すように身を竦めてデネブを睨む。 

「…ンだよ」 

「侑斗、おいしい?ごはん、侑斗の口に合う?」 

「うるっせーな、いちいち聞くんじゃねェよッ!」 

デネブの問いかけに、侑斗くんが冷たく返す。 
これが侑斗くんのいつものスタイル。 
それが分かっているから、家族団らんの空気が乱れる事はない。 
デネブは侑斗くんに顔を近づけると、エプロンの裾を使って侑斗の口の端を拭いた。 

「ご飯粒、ついてる。侑斗、だらしない」 

「〜〜〜ッ…何すんだよ馬鹿デネブッ!!飯食うたびに余計な事すんなって言ってんだろ!?」 

「ご、ごめんなさい…」 

侑斗くんに叱られたデネブはしゅんと肩を落として、拭ったご飯粒を口に含んだ。 
そんな様子を見てウラタロスがからかうように言う。 

「ホンット、侑斗くんとお母さんは親子みたいだよねぇ。見てるこっちもきもちいいよ。あ、里芋頂きまーす!」 

「あー!亀ずるい!その里芋、僕のだもん!くまー、亀が僕の里芋取ったよぉー!」 

「こら、リュウタ…肩揺さぶるなや」 

器用に箸を使って里芋を食べてしまったウラタロスに、リュウタロスが唇を尖らせて文句を言う。 
そんな家族を眺めながら、僕はモモタロスのズボンの中へ手を伸ばした。 

「…っあ、やめろって…良太郎…」 

茶碗を握ったままの手が震えている。 
箸と茶碗ときつく握っているモモタロスは必死に平静を保とうとしているらしい。 
僕は熱くなっているそこを指で擦った。 

「…ひ、っ…!いやだ…やめろよ…」 

すがるように目だけで僕を見たモモタロスは、小さくしゃくり上げてかぶりを振った。 
その声が聞こえてしまったんだろうか。 
僕の隣に座っていたウラタロスが里芋を飲み込んで笑う。 

「何だかさっきから発情してるお馬鹿の声が聞こえるなぁ」 

「え?声ー?」 

ウラタロスの言葉に、リュウタロスがパッと目を輝かせてちゃぶ台の下を覗いた。 
慌てたようにモモタロスが足を閉じるけど、時は既に遅し。 
紫の瞳を瞬かせながらリュウタロスが笑った。 

「ねえねえ、何でおちんちん弄ってるの?それってたのしい?」 

「ぶはッ!!」 

「りゅ、リュウタロスっ!今は食事中!侑斗、大丈夫?」 

リュウタロスのストレートな言葉に侑斗くんがウインナーを噴き出した。 
むせている侑斗くんの背中を撫でながら、デネブが必死にリュウタロスを諌めるけど、彼は全然聞いていない。 
緊迫した空間の中で黙々とご飯を食べているのはキンタロスだけだ。 

「全く、しゃあないなァ…最近の若いモンは」 

息子が虐められてるのに"しゃあないな"で済むのか。 
さすがキンタロス。 
そんな事をおもっていると、リュウタロスがちゃぶ台を押しのけて僕らに近付いた。 
興味津々といったふうにモモタロスの下腹部を見ると、遠慮なくそこを手で握る。 
モモタロスはきつく目を瞑って茶碗から手を離した。 

「…あぐぅっ…」 

「あ、変な声だ。もっと触っていい?いいよね」 

答えは聞いてない、と口だけが動く。 
リュウタロスはモモタロスのズボンの前を完全に開けると、両手でそれを扱き始めた。 
既にモモタロスのものからは先走りがじわりと滲み出ている。 
モモタロスは僕に寄りかかるような形でゆるゆるとかぶりを振った。 

「やめ…ろォ…っあ…このクソガキ」 

「うーん、本当に兄さんは良太郎に愛されてるねぇ?こんなに開発してもらっちゃって」 

僕の隣から顔を覗かせたウラタロスの指が、扱かれているものの先端を軽く弾いた。 
彼のバスローブからほんのりと桃色に染まった突起が覗いている。 
その突起は僅かに勃ち上がっていてエロチックだ。 
ウラタロスは気付いていないんだろうか。 
僕はリュウタロスの手に指を絡めた。 
いくらモモタロスの弟とは言え、僕とモモタロスの行為を邪魔されるのは困る。 

「続きは僕がやるから、キンタロスにしてもらったらどう?」 

「えー?やだー!桃がいいー!」 

リュウタロスはダダをこねるようにかぶりを振って唇を尖らせた。 
そんなにモモタロスで遊ぶのが好きなんだろう。 
紫の目はからかうようにモモタロスを見つめていたけど、それはやがてウラタロスへと向けられた。 
新しいおもちゃを見つけたと言わんばかりの瞳に、ウラタロスが目を瞬かせる。 

「ん、どうかした?」 

首をかしげたウラタロスを見て、リュウタロスがニヤリと笑みを浮かべる。 
彼の、バスローブのせいで大きく開けられた胸元や、半乾きの髪に目を向けて舌なめずりをすると、ようやくモモタロスの体を解放してくれた。 
リュウタロスは四つんばいになってウラタロスへ近付く。 
そのまま、彼の膝に手を置いて言った。 

「亀って良太郎と桃がしてるよーなえっちな事をお仕事にしてるんだよね?僕に教えてよ」 

「は!?僕がしてるのはそんなんじゃ…んんんっ…!」 

ウラタロスの声が飲み込まれた。 
噛み付くような口付けでウラタロスの唇が犯される。 
もちろん、大したテクを持っていないリュウタロスのキスは乱暴そのものだ。 
押し付けて、唇や舌を歯で噛みながら貪るような口付けを続ける。 
ウラタロスのコバルトブルーの瞳がきつく閉じられた。 

「…んんぅ…!リュウタ、ちょっと…痛いってば…」 

掠れた声で抵抗するウラタロスに、リュウタロスが口だけで笑った。 
リュウタロスは乱暴に口付けを解いて舌を出すと、前触れもなくバスローブの前を開ける。 
露になったウラタロスの体からはほんのりと香水の匂いがした。 
風呂上りに香水をつけたんだろう。 

「痛い?へえ…じゃあこういうのも痛いの?」 

リュウタロスは、むき出しになったウラタロスの肌をじっくりと眺めてから桃色の突起に歯を立てた。 
ウラタロスの悲鳴が飲み込まれる。 
音を立てて突起に口付けたリュウタロスはそのまま、ウラタロスの乳首をちゅうちゅうと吸い上げてしまう。 

「ひぐ…っ…馬鹿…これから仕事なんだからぁ、痕つけないで欲しいんだけどっ…」 

「痕って何?このあかいの?」 

「はぐ、うぅ…っ!」 

いつの間にかウラタロスを畳に寝かせてしまったリュウタロスは楽しそうに口元を綻ばせながら彼の足の間に割って入った。 
その様子をぼんやり見つめながら、僕とモモタロスはようやく顔を見合わせる。 
モモタロスは頬を上気させながら僕を見つめていた。 
まだ機嫌が悪そうに眉を寄せて。 

「あの、モモタロス…」 

僕が声をかけようとしたとき、モモタロスがグッと顔を近づけた。 
真紅の瞳は相変わらず僕を睨みつけている。 
今にも噛み付きそうな、そんな顔で僕を見つめたモモタロスは、すぐ僕から目線を外す。 

「…オメーのせいで食事どころじゃねェんだよ…」 

小さく口を動かしたモモタロスは、俯きがちに目を瞑ってからすぐに顔を上げた。 
同時に、僕らの唇が重なる。 
僕はすぐにモモタロスを抱き寄せた。 
唇を押し付けて、時々互いに貪りあいながら舌を絡めていく。 
モモタロスは掠れた吐息を漏らして僕の背に腕を回した。 

「良太郎…んふ、りょ…た…はぁっ…」 

甘えるように唇を寄せて僕をきつく抱きしめるきみは、甘い吐息を漏らして更なるキスをねだる。 
今以上の快感をねだる。 
かわいい、僕だけの恋人だ。 

「好きだよ、モモタロス」 

「…くッ、こんな時に言いやがるかよ…」 

額を寄せ合ったまま言うと、モモタロスは真紅の瞳をキュッと細めて憎らしげに言った。 
けれど、その頬はほんのりと赤く染まりあがっている。 
そんな恋人がかわいくて、僕はもう一度モモタロスにキスをした。 

「…侑斗、大丈夫?侑斗…」 

僕らの傍らでデネブと侑斗くんが座り込んでいる。 
デネブさんは懸命に侑斗くんの体の調子を伺っているようだった。 
僕はモモタロスの上着の中に手を入れながらちらりとふたりを見やる。 
侑斗くんはまだむせているようだ。 
背中を擦っているデネブをうっとおしそうに見つめた侑斗くんは、つり目を向けて言う。 

「げほ、ごほ…お前…何で俺に優しくするんだよ」 

侑斗くんの問いかけに、デネブが目を瞬かせる。 
不思議そうに、浅葱色の瞳に侑斗くんを映して。 
しばらく黙っていたデネブは、ゆっくりと侑斗くんの髪を撫でて言った。 

「だって…侑斗をほおっておけない」 

デネブの笑みに、今度は侑斗くんが不思議そうに目を丸くした。 
その頬がだんだんと赤みを増していく。 
侑斗くんの顔が赤くなっていく様子を見つめていたデネブは、侑斗くんの頬を指で摘んで笑った。 

「侑斗、かわいい」 

「〜ッ…さっきからベタベタ触んな!オレはお前の子供じゃねーんだよッ!!押し倒されたいのか!?」 

「押し倒す…?侑斗、変。どうかしたのか?」 

「……何でもねえよッ!オレもう帰るッ!!」 

デネブの好意を振り切って立ち上がった侑斗くんは足元をふらつかせながら僕に向き直って無理やり僕の腕を掴んだ。 
あっという間にモモタロスから引き離される僕。 
侑斗くんは大股で玄関に歩み寄ると、僕をギロリと睨んで言う。 

「野上、さっさと靴履け。帰るぞ」 

「え…でも…」 

「帰るぞッ!!」 

「…は、はーい…」 

侑斗くんの気迫に押されてついつい返事をしてしまった僕は、おもむろに後ろを振り返った。 
僕を見送りにきたのか、衣服を整えながらモモタロスが近付いてくる。 
少し不満そうに眉を寄せていたけど、照れくさそうに頬を赤く染めている様子はかわいいものだった。

「…良太郎、あの…また…飯食いに来るよな?」 

凄みのある外見からは想像がつかないくらいかわいい発言だ。 
僕は小さく頷いて笑った。 

「もちろんだよ…ありがとう、モモタロス。僕がしたこと、許してくれるんだ?」 

「…っ、お、おう…。り、良太郎じゃなかったらぶっ飛ばしてンだからなッ!そこんとこ覚えとけッ!!」 

僕が問いかけるとモモタロスは真っ赤になりながら笑って、拳を振り上げるような仕草をしてみせた。 
その拳がゆっくりと下ろされた時、僕はモモタロスの手首を掴んで引き寄せる。 
顎に手を当てがって唇を重ねると、きみはくぐもった吐息を漏らして喉を鳴らした。 

「…んんっ…りょ、た…ろ…好き、だぜ…」 

掠れた声が僕を呼ぶ。 
ああ、そんな声で呼ばれたらまたシたくなってしまう。 
僕は顎を掴んでいた手を下ろしてモモタロスの上着を捲り上げようとした。 
でもその時、侑斗くんに勢いよく腕が引っ張られて僕たちは口付けを解くハメになった。 

「いつまでやってんだこの馬鹿ップル共!!今生の別れでもあるまいしッ!」 

引きずられるようにしてモモタロスから引き離された僕は、侑斗くんに叱りつけられてしまう。 
叱られるまま、僕はモモタロスから離れて靴を履くために座り込んだ。 
渋々靴を履く僕をじっと見ているモモタロスが、不意に大股で歩み寄る。 
モモタロスは侑斗に顔を近づけて言った。 

「んのガキッ…さっきから良い所で邪魔しやがってぇええ…もう許さねえッ!一発殴らせろ!!」 

「はぁ?サカりたいならラブホでも行けば良いんだろ。大体、夕飯を邪魔したのはお前たちのほう…」 

「うるせー!良いから殴らせろォ!!こちとら3日間もお預けだったんだぞ!」 

モモタロスが侑斗くんに殴りかかると、彼は身を屈めて拳を避けた。 
仕返しとでも言うように、今度は侑斗くんがモモタロスの腹に回し蹴りを入れる。 
見事に決まった回し蹴りのお陰で、モモタロスは廊下に倒れこんだ。 
…それも、顔面から。 

「ぐあッ…いてェなッ、このクソガキッ!!」 

モモタロスは額を押さえながら上体を起こした。 
そんな彼を一瞥した侑斗くんが鼻で笑う。 
モモタロスを刺激するような笑みだ。 
いくらモモタロスが悪いと言っても、恋人が痛い目に合わされている姿はあまり見たくない。 
僕は靴を脱いで言った。 

「ね、ねえ。喧嘩はよくないよ…やめよう?」 

僕がふたりに声をかけると、侑斗くんは小馬鹿にしたように僕を見て、それからモモタロスに目をやった。 
モモタロスなんて僕を見ようともしない。 

「馬鹿言ってんじゃねェぞ良太郎、このクソガキを一発張っとかねーと我慢ならねーんだよ!」 

「…ふん、ガキなのはお前だろ。いつでもどこでも発情して…行儀が悪い」 

「何ィッ!?それは良太郎が…」 

「え、何…僕のせい?モモタロスだって喜んでるくせに…」 

「喜んでねーよ!りょ、良太郎の馬鹿ァ!!」 

喧嘩を止めるつもりが、いつの間にか僕までモモタロスを虐めている。 
しまった、いつものクセだ。 
僕は今、ふたりの喧嘩を止めたいのに輪に入ってどうする。 
頭ではそんなことをおもいながら、僕は侑斗くんとモモタロスを虐めていた。 
だ、誰か止めて〜! 

「良太郎の馬鹿!いつも発情してんのは良太郎じゃんかぁ!」 

「それで感じてるのはお前だろ、淫乱」 

「いやぁ、どんなに触っても許してくれるからつい…。あ、でもモモタロスだって発情してる時があるよね?」 

「ねーよ!馬鹿馬鹿馬鹿ァ!!良太郎の馬鹿!こっち来んな!」 

侑斗くんとふたりで言葉責めをしながらモモタロスを壁の隅に追い詰めたとき、不意に居間から誰かが出てきた。 
真っ赤な顔で涙目になっているデネブと、魚の骨をくわえているキンタロスだ。 
デネブは、キンタロスの腕をぎゅっと掴んで口を開く。 

「お隣、丸聞こえ…恥ずかしい」 

デネブのか細い声に、キンタロスがうんうんと頷いた。 
愛妻の肩を抱き寄せたキンタロスは、腰に手を当てて唇をへの字に曲げる。 

「デネブの言う通りやで…お前ら騒ぎすぎや。そんなにモモンガいじめが楽しいなら泊まってけばエエやろ!」 

「き、キンタロス!?そういう問題違う!」 

キンタロスの発言に、デネブは慌てたようにかぶりを振った。 
そんな愛妻に視線を合わせたキンタロスは、照れくさそうに頭をかきながら言う。 

「いやー、モモンガと良太郎見てたら若い時をおもいだしてなァ…。どうや、今夜俺に鳴かされてみんか?」 

キンタロスのストレートな発言に、デネブは羞恥で号泣寸前だ。 
いつの間にか、リュウタロスや着衣の乱れたウラタロスまで廊下に出てきている。 
デネブは浅葱色の瞳に涙を浮かべてイヤイヤとかぶりを振った。 

「どうして今、そういう事言う?子供が聞いてる!教育に悪い…」 

愛妻の問いかけに、キンタロスは特に詫びる様子もなく首を傾げた。 
その目が、子供たちや僕、侑斗くんへと向く。 
何となく侑斗くんを見やると彼は口元をヒクヒクさせながら話に聞き入っていた。 

「モモンガたちも年頃やろ?隠すことは何もないで。俺たちだって若い頃は結構…」 

「わー、言うの禁止!キンタロス、言ったらだめ…」 

デネブは必死にキンタロスの口を手で塞いで慌てふためいている。 
何やら、この夫婦は若い頃にお盛んだったようだ。 
今でも十分若いとおもうけど。 
慌てているデネブに対して、子供たちの反応はクールだった。 

「お母さん、何も隠すことないでしょう?お父さんとどういう事をしてたんです?」 

着衣の乱れたウラタロスは、弟に犯されたことで吹っ切れてしまったのかストレートな物言いをしてデネブに詰め寄った。 
ウラタロスのまねをするようにリュウタロスもデネブに声をかける。 

「ねーねー、クマとお母さんはどんなえっちするのぉ?教えて!答えは聞いてなーい」 

「そんな事、言えないっ!みんな嫌い…」 

子供たちの質問責めに、デネブはエプロンで赤い顔を覆ってしまった。 
そんなデネブをかわいくて仕方がないと言ったふうにキンタロスが抱き寄せる。 
デネブは浅葱色の瞳からぽろぽろと涙を零してキンタロスの胸を叩いた。 

「ばかぁ…キンタロスの馬鹿。俺、恥ずかしい…」 

「そーや、俺は大馬鹿や。泣かしてすまんかったな、デネブ…」 

涙を零しながら悪態をつくデネブにキンタロスが困ったような笑みを浮かべる。 
柔らかなトーンで言ったキンタロスはおもむろに顔を寄せてデネブの唇に口付けた。 
柔らかそうな唇をついばむように、そっと。 
突然の口付けにデネブはもちろん、僕らもびっくりだ。 
キンタロスは懐から懐紙を取り出してデネブの涙を拭くように手を上げたけど、それはゆっくり下ろされた。 
懐紙の代わりとでも言うように、キンタロスがデネブの目尻に唇を寄せる。 

「…はぁ…っ…キンタロスの唇、すごく熱い…」 

デネブは浅葱色の瞳を細めて悩ましそうな声を上げた。 
そんな愛妻を見つめて、キンタロスが小さく息を飲む。 
目尻からとめどなく涙を零して、デネブは甘えるようにキンタロスの服をしっかりと掴んでいる。 
キンタロスは、やにわにデネブを強く抱き寄せた。 

「…ッ、あかん!もう我慢ならんわ。すまん、デネブ」 

「へ?き、キンタロス!?」 

その言葉と同時に、デネブの身体は軽々と抱え上げられてしまう。 
キンタロスは僕に目をやると、やたら爽やかに笑って言った。 

「モモンガをよろしく頼むで、良太郎」 

「あ、うん…」 

気迫に押されてただ頷くと、キンタロスはデネブを抱えたまま大股で寝室へと向かってしまう。 
ふたりの後に続こうとしたリュウタロスは、ウラタロスに引きとめられた。 

「あー、何すんのー!」 

「ここから先は大人の世界なの。見ちゃダメだよ、リュウタ」 

「えーっ、僕だって亀とえっちしたのにぃ…」 

「あ、あんなのはえっちって言いません!ただのレイプ!」 

リュウタロスの反論に、ウラタロスは真っ赤になって答えた。 
赤く染まったウラタロスの肌には、リュウタロスがたっぷりつけた鬱血の痕がくっきりと残っている。 
白い肌に映えるそれがすごくエロチックだ。 
ついついウラタロスの肌に魅入っていると、きつく腕が引っ張られた。 

「…他の奴なんか見んな」 

散々行為を中断されたモモタロスが僕を睨んでいる。 
僕はモモタロスの頬を撫でてから頷いた。 
後ろで侑斗くんがぶつぶつと何か言っているけど、あえて耳に入れない。 
僕はモモタロスの唇に口付けた。 

「見ないよ…誰も…」 

「いや、見ろって!人前でキスなんかすんなよ」 

「だあああッ!!クソガキは黙ってろォッ!集中できねーじゃねーか!」 

後ろで突っ込みを入れた侑斗くんにモモタロスが怒鳴りつける。 
僕はそんなモモタロスの頬を掴んで強引に顔を合わせた。 
無理やり視線を通わせて、それから口付ける。 
モモタロスが小さく息を飲んだ。 
少しだけ抵抗するように肩を震わせたけど、やがてその両手は僕の背中へと回される。 
乾いた水音が互いの唇から発せられていく。 
唇に触れる柔らかな感覚、すがるように伸ばされた舌。 
その全部を受け入れて、僕は恋人とキスを交わした。 

「やぁ…っ、く…マジ、ねちっこい…おまえの…」 

唇を合わせたまま、モモタロスが言った。 
舌先を出して、さらなる快感をねだるように。 
僕はワックスで固められたモモタロスの髪を撫でながらもう一度キスをしてやる。 
中断された行為の続きをするべく上着の中へと手を差し入れると、モモタロスが甘い声を上げた。 
ふたりっきりの時にしか聞けない、いやらしい声だ。 
僕はモモタロスの肌に指を滑らせて、尖りきった突起を摘んでやる。 

「…尖ってる。…期待してた?モモタロスはえっちだもんね…」 

キスを続けながら言う僕に、モモタロスが艶っぽい吐息で返事をする。 
ゆるゆるとかぶりを振って否定を主張しているらしいけど、その力は弱い。 
僕は突起を指の腹で擦り上げてやった。 

「ひぐっ!あ…あぐ…良太郎ォ…そこは…ッ…」 

膝をガクガク震わせて、恋人がかわいらしい声を出す。 
声そのものは掠れた男のものだけど、僕には何よりもかわいく感じられた。 
つり目がちの瞳がぼんやりと僕を見つめている。 
真紅の瞳はうっすらと潤んでいて、それだけで僕の情欲をかきたてた。 

「ねえ…モモタロス、一緒にイこう?」 

僕が声をかけると、モモタロスは目を瞬かせて首を傾げる。 
キョトンとしている時の無邪気な表情が好きだ。 
僕は、モモタロスのズボンの中に手を入れて見慣れたものを取り出した。 
モモタロスの頬が一瞬にして赤く染まる。 
僕は微笑んでから自分のものも取り出して見せた。 
そうして腰を寄せると互いのものが擦り合う。 
ふたりのものを同時に扱き始めると、モモタロスは腰をビクリと震わせて僕の愛撫に反応した。 

「…っ…おい、良太郎ッ…あふ…くぅ…!」 

何か言いたそうだけど、生憎モモタロスの言葉を聞く気はない。 
制止の声なら尚更聞きたくないし。 
僕は指を滑らせてモモタロスのものを少し強めに扱いてやる。 
既に溢れた先走りは先端を光らせて僕の指を濡らした。 
裏筋を擦ってやるとモモタロスがしゃくり上げるような声を上げて震える手を僕の手に重ねた。 

「…ひっ、う…はぁっ、ぐ…俺も…するっ…」 

鼻にかかった声でそう言ったきみは僕の動きに合わせるように、ぎこちなく手を動かし始める。 
陶酔しきった真紅の瞳は僕のものをじっと見つめていた。 
モモタロスの瞳は綺麗な真紅。 
…淫猥な色だ。 
僕を誘うようにゆらゆらと動いて、光っている。 

「好きだよ、モモタロス…」 

僕はモモタロスの唇に口付けて指の動きを早めた。 
恋人の濡れた指が僕の手に絡みつく。 
口付けのせいで鼻にかかった喘ぎ声を漏らしながら、きみは弱々しく頷いた。 
しばらくかわいい声を漏らしていたけど、モモタロスは遠慮がちに手を離して僕の体を抱き寄せる。 

「…も…立てねェよォ…ッ…はぁ、う…」 

モモタロスは目尻に涙を浮かばせてしゃくり上げた。 
彼のものからは既に濁りが混じった液体が漏れ始めている。 
僕は親指の腹で先端を強く押さえた。 

「ひぐッ…!!りょ、りょうたろ…やめろぉ…イかせ…」 

「まだイッちゃだめ。…僕がきもち良くなってないもの」 

僕は低い声で言ってから焦らすようにふたりのものを擦り上げた。 
なかなかイカされない不満と、溜まっていたせいもあるのかモモタロスはだらしない声を上げて敏感な反応を返してくれる。 
僕はモモタロスの体を壁に押し付けた。 
壁に押し付けた体勢のまま、互いのものを擦り上げる。 
モモタロスは僕の服をきつく握って掠れた声を漏らした。 
ビクビクと内腿を震わせてかわいい声を上げるきみ。 
恥ずかしそうに肩を竦めて、濡れた唇を小さく動かしている姿は僕の目にかわいらしく映った。 

「りょ、たろぉ…一緒に…んんっ…はぁ…!」 

モモタロスの言葉は最後まで言わせなかった。 
手の動きを早めて、お互いの快感を高めながら恋人の唇に口付ける。 
ぐちゅ、ぐちゅ。 
互いの音が混ざっていやらしい音が聞こえた。 
その音がどんどん大きくなっていく。 
僕は恋人を壁に押し付けたまま口付けを続けていた。 

「むぐ…んんぅ…!あ、あ…い、イッちまいそ…」 

泣き叫ぶような声を上げたきみはヒクヒクと喉を震わせながら僕をきつく抱きしめる。 
触れ合った僕らのものからはとめどなく先走りが溢れていた。 
だめだよ、モモタロス。みんながいる所でそんな声を出したら…僕は妬くよ? 
僕は仕置きのつもりでモモタロスのものを強く擦ってやった。 
それが彼の絶頂を促してしまったんだろう。 

「ひっ…あっ、あ…も、やばっ…あああぁぁッ…!!」 

モモタロスは口付けを解いて声をあげた。 
長い長い、尾を引く嬌声。 
同時に彼のものから熱い迸りがあふれ出した。 
僕の服に白濁液が飛び散っていく。 
まだ僕はイッてないのに…。 
僕は自分のものを扱いてモモタロスの顔に向けた。

「…口、開けて。ちゃんと"ごめんなさい"してごらん」 

短く言うと、快感に染まってしまったモモタロスは大人しく口を開けてぽーっとしている。 
僕はモモタロスの口目掛けて自分自身の熱を放出した。 
あふれ出したそれはモモタロスの顔を汚して、喉奥へと注がれていく。 

「んぶ…っく…ごめんなさぁ…い…良太郎…」 

壁に寄りかかった形でずるずるとへたりこんでしまったモモタロスは、ぼんやりとした声を上げて躊躇いなく僕のものを両手で掴んだ。 
そのまま、精液まみれの口が僕のものをくわえる。 
柔らかな咥内が小さく動いて、僕を導いてくれるたび腰に甘い刺激が走る。 

「んん…くふ…はぁ、あ…こんなに濃いのは…してなかったからだよな?」 

真紅の瞳が僕を見上げて少し細められた。 
照れくさそうに笑ったきみは頭を動かして懸命に僕のものを喉奥に挿入していく。 
僕はモモタロスの髪を撫でながら頷いた。 

「そうだよ…溜まってた。きみとえっちできなかったから…」 

「ははッ、俺も良太郎とおなじだぜ…」 

少し照れくさくなってしまって小声で言うと、きみは機嫌良さそうに笑って先端に口付けた。 
大事そうに扱きながら、おもむろに顔を上げる。 
モモタロスは恥ずかしそうにはにかんで言った。 

「だからさ…今日は、いつもより激しく…しような」 

僕の喜ぶことを言ったきみは、再び先端を口に含んでもごもごと動かし始める。 
下手だけど、ぎこちないけど、大好きな恋人がしてくれる愛撫はそれだけで僕を嬉しくさせるんだ。 
僕は頷きを返してモモタロスの頭を撫でた。 
その時だ。 
突然、後ろから何かでおもいっきり頭を叩かれる。 
慌てて振り返ると、スリッパを持った侑斗くんがわなわなと両手を震わせながら僕らを見つめていた。 

「お、ま、え、らぁ…いつまでやってんだよッ!ちょっとは人の目とか考えないのかッ!?」 

「ゆ、侑斗くん…いたた…」 

「テメッ…良太郎に何しやがるッ!!」 

行為を中断されたモモタロスは口の端を手の甲で乱暴に拭いながら言った。 
スリッパを握ったままの侑斗くんがモモタロスに顔を寄せた。 
あ、青筋立ってる…。 

「うっさい!お前も叩かれたいのか!?オレは清純なんだよッ!こんな場面、最後まで見せられてたまるかッ!!」 

「黙って見てリゃいーだろ!減るモンじゃねーし!!なぁ良太郎?」 

「デリカシーがないのかお前はーッ!!野上ィ…お前の調教の仕方は間違ってるぞッ!」 

スリッパごと僕に向けた侑斗くんは怒気のこもった声で言った。 
まあ、確かにモモタロスから恥じらいを消してしまったのは僕だ。 
毎日毎日家族の前でセクハラしていたら、そりゃ恥じらいだってなくすだろう。 
でも侑斗くんはマトモな神経の人間だ。 
こんなシーン、いつまでも見せられていたら可笑しくなってしまうんだろう。 
僕はミョーに納得していた。 
僕に詰め寄る侑斗くんは頭に血が昇っているらしく、スリッパを握り締めたまま離そうとしない。 
その時、侑斗くんの後ろからリュウタロスが飛びついてきた。 

「ゆーと!お前もボクたちの仲間に入れてあげようか?」 

「誰がだッ!離せ問題児!!」 

「あっ、ボク傷ついた…。怒ってもいいよねぇ?答えは…あう!」 

完全にキレている侑斗くんは、リュウタロスの頭をスリッパで叩いた。 
リュウタロスは頭を押さえて閉口している。 
紫の瞳には涙が浮かんでいた。 
何だかんだ言ってもリュウタロスはまだ子供だ。 
打たれ弱いに決まっている。 

「い、いたいよぉ…うっく…亀ぇ…ゆーとがボクの事ぶった…」 

リュウタロスは泣きじゃくりながらウラタロスの胸に飛びついた。 
弟に飛びつかれたウラタロスは、なだめるように頭を撫でながら軽く受け流している。 
ちらりと侑斗くんに振り返ったリュウタロスは涙目で言った。 

「ゆーとなんか嫌い」 

「その台詞、そっくり返す。オレはうるさい子供に興味ないし」 

リュウタロスから顔を逸らして機嫌が悪そうに眉を寄せた侑斗くんは、再び僕たちに向き直った。 
いや、侑斗くんが眉間に皺を寄せているのはいつもの事か…。 

「おい、いつまでやってんだ。とっとと帰るぞッ!」 

「オメーがひとりで帰ればいいだろッ!」 

僕の手を取った侑斗くんに対してモモタロスが言う。 
確かにそのとおりだ。 
でも侑斗くんは勝気に笑ってモモタロスに顔を寄せた。 

「残念だけど…オレ、こいつの姉貴に"良ちゃんが門限破りそうになったら引きずってでも連れ帰ってきてね"って言われてんだよ」 

「うぐ…」 

「えーっ、お姉ちゃんが言ったのぉ?」 

侑斗くんの言葉にモモタロスが口を閉じて、リュウタロスは不満そうに眉を寄せる。 
だけど、その顔がすぐにパッと輝いた。 
ズボンの中からパープルの携帯電話を取り出して、リュウタロスがそれを耳にあてがう。 
どこに電話するのか…すぐに分かった。 

「あっ、お姉ちゃん!ボクだよ〜。あのね、良太郎なら今日泊まってくから安心してねっ!」 

「ちょっ…おま…何勝手な事してんだよ!」 

リュウタロスのサクサクした対応にポカンとしていた侑斗くんが慌てて掴みかかる。 
胸ぐらを掴まれたリュウタロスは勝ち誇ったように笑って携帯を閉じた。 

「…これでどう?問題ないよねぇ。ゆーとは泊まってくれなくてもいいよぉ…ボク、ゆーと嫌いだし」 

紫の瞳で威圧するように言ったリュウタロスが低く笑う。 
侑斗くんはスリッパを床に叩き付けてそっぽを向いた。 

「別に。言われなくても帰るし…こんな家」 

イヤミすぎるほどわざとらしい口調で言った侑斗くんは大股で玄関の扉を開けた。 
侑斗くんは素直じゃないから、みんなに優しくできないんだって知ってる。 
ついひねくれて物を言ってしまうのも、最近分かってきた。 
だから、帰りたいなんて彼の本心じゃないんだ。 

「あ、あの…」 

ボクがおもわず声をかけようとすると、寝室の扉が開いた。 
寝室に入る前と何も変わらないエプロン姿の格好をしたデネブが早足で近付いてくる。 
デネブは、出て行こうとする侑斗くんの手を掴んだ。 

「侑斗、もう帰るの?俺、淋しい。泊まって欲しい」 

「アイツに抱かれた手で触んなよッ!」 

侑斗くんが乱暴にデネブの手を振り払う。 
デネブは浅葱色の瞳を見開いて唇を噛んだ。 
小さくかぶりを振りながら、侑斗くんへ一歩踏み出す。 

「…どうして怒ってる?侑斗…俺、何か悪い事した…?」 

デネブの小さな声に、侑斗くんが鼻で笑う。 
侑斗くんはとび色の髪をかきあげてため息をつくと、デネブを一瞥して言った。 

「ふん…この家の連中はみんな変態だよな。親は客の前でいちゃつくし、子供は近親相姦してるし、クラスメートは頭悪そうな奴とちんこ擦り合ってるしっ!」 

「だッ…誰が頭悪そうな奴だと!?表出ろやコラァッ!!」 

「僕はリュウタなんかと近親関係じゃないってばぁ!」 

侑斗くんの小馬鹿にしたような発言に、モモタロスとウラタロスが反応した。 
僕は何だか反応する事さえ疲れてしまって、ため息混じりに壁に寄りかかってこの場の様子を観察する。 
すっかりイマジン一家を敵に回した侑斗くんは、顔を背けてからデネブの顔前で手をヒラつかせた。 

「じゃーな。もう来ねーよ」 

「待って…侑斗!!」 

凄みのある侑斗くんの声にかぶってデネブが声を上げる。 
デネブは、侑斗くんの体をきつく抱きしめていた。 
浅葱色の瞳から、大粒の涙が零れている。 
そんなデネブを見てリュウタロスが言った。 

「お母さぁん…何でこんなムカつく奴の事庇うのぉ?」 

リュウタロスの問いかけに、デネブは大きくかぶりを振って侑斗くんを抱き寄せる。 
突然抱きしめられた侑斗くんは迷惑そうにデネブの肩を掴んだものの、強引に引き剥がすことはできずにいるようだった。 

「…俺、知ってる。侑斗は本当は優しい子。みんな、侑斗を誤解してる」 

「はぁああっ?」 

デネブの言葉に、兄弟3人が同時に反応した。 
僕はあえて黙っていることにする。 
侑斗くんはと言えば、目を丸くしてデネブを見つめていた。 
周りの反応なんかお構いなしと言うように、デネブは続ける。 

「侑斗はみんなと友達になりたい。でも素直になれないから意地悪を言う。…みんな、侑斗と友達になって」 

デネブは涙をポロポロ零しながら言った。 
もちろん、モモタロスたちは目が点状態になる。 
閉口した兄弟たちの中で、リュウタロスが唇を尖らせて呟く。 

「ボクやだー。ゆーと意地悪なんだもん…」 

スリッパで殴られた頭を擦りながら、ウラタロスの後ろに隠れるリュウタロスは年相応の幼さがある。 
その時、寝室からもうひとりの人物がやってきた。 
欠伸をして目を擦りながら歩いてきたのはキンタロスだ。 
キンタロスは、腰に手を当てて言った。 

「侑斗と仲良く出来んなら食後のプリンは全部俺のモンやな」 

「ええーっ!?くま、ひどいよ!」 

「ちょ…お父さん!?本気で言ってるわけ?」 

「クマ公〜ッ…本気かよ!?」 

イマジン一家の中でプリンはとっても格の高いおやつだ。 
だから3兄弟はキンタロスの言葉に動揺を隠せない。 
キンタロスは唇を尖らせて子供たちに言った。 

「デネブは侑斗を大事におもっとる。俺にとっても息子と同じや。おまえらとは兄弟になるんやで?兄弟と仲良くできんのか?」 

キンタロスの言葉に対して一番初めに反応したのは長男であるモモタロスだった。 
両手をわなわなと震わせてウラタロスとリュウタロス、そして侑斗くんと順に指していく。 

「こ、こんなかわいくねー兄弟なんかいらねーよ!ムカつく弟は亀とリュウタだけで十分だッ!!」 

「心外だなぁ…リュウタはともかく僕ほどかわいい弟はいないよ?ねえリュウタ」 

「そーだよー。お前らが一番かわいくなーい」 

「オメーらは黙ってろォーッ!!」 

ふたりの弟に左右から声をかけられて、モモタロスは大きくかぶりを振った。 
肩で息をしながら呼吸を整えたきみは侑斗に歩み寄る。 
今にも火花が散りそうな赤い瞳をギラギラ光らせて、モモタロスが言った。 

「……プリンに感謝しな、小僧」 

それだけ言って、モモタロスがくるりと体を反転させる。 
そのまま大股で僕らの前から遠ざかっていく彼を、2人の弟が見送った。 
モモタロスから目を離したウラタロスは、小さくため息をついて困ったように笑う。 
指いじりをしながら目だけで侑斗くんを見つめた。 

「しょうがないな…別に僕は誰が兄弟だろうと構わないし。仲良くしてあげる」 

ウラタロスは眼鏡のブリッジを上げてどこか色っぽい笑みを浮かべると、手をヒラヒラと振ってバスローブの前を正した。 
これで2人の兄弟が侑斗くんを認めた、という事になる。 
最後のひとりは難関だ。 

「ボク、やだ。ゆーと嫌い」 

まだスリッパで叩かれた恨みを忘れていないのか、リュウタロスはキンタロスの腰にしがみついて舌を出した。 
リュウタロスの子供っぽい言動に、キンタロスが苦笑する。 
ポンポンと頭を撫でられたリュウタロスは唇を尖らせて言った。 

「ゆーと、お姉ちゃんと仲良いから嫌い」 

「なんや、そっちかい」 

僕が感じた事をキンタロスが突っ込む。 
リュウタロスはすっかり機嫌を悪くしたのか、駄々っ子のようにキンタロスの腰に顔を埋めてしまった。 
そんなリュウタロスを心配そうに見つめながらも、デネブは侑斗くんに向き直って笑みを浮かべる。 

「…侑斗、泊まって?風呂も沸かしたからすぐに入れる。嫌か?」 

首をかしげて問いかけたデネブの言葉に、侑斗くんは気恥ずかしそうに目を逸らした。 
助けを求めるように僕を見つめるから、つい微笑んでしまう。 
そんな僕を見て、侑斗くんはキュッと眉を寄せた。 
ここでまた彼を怒らせたらまずい。 
僕は寄りかかっていた壁から離れて侑斗くんに近付いた。 

「今日は一緒に泊まろうよ、デネブの言葉に甘えよう?」 

「…ふん。どうしても泊まって欲しいなら考えてやるけど」 

「素直じゃないねぇ…真っ赤になってるくせに」 

侑斗くんの返答に、ウラタロスが小声で呟く。 
その言葉を聞きつけたのか、侑斗くんはスリッパをウラタロスに向けた。 

「い、今なんか言ったかよ!?」 

「いーえ、何にも。歓迎しちゃうよ、侑斗くん」 

「そんなのいるかよ、このホモ」 

「ほ…っ…」 

侑斗くんは、ウラタロスの猫撫で声に舌を出して毒づく。 
ホモ呼ばわりされたウラタロスの心境はどんなものだろう。 
それでも、何だかんだ言いつつ侑斗くんはこの家に泊まるつもりらしい。僕は少し安心しながら笑った。 

「よかったね、デネブ」 

「ああ、よかった。俺の子供たち、みんな良い子」 

デネブはエプロンで目尻の涙を拭いながら満足げに頷いた。 
この人はどれだけ侑斗くんおもいなんだろう。 
時々、キンタロスよりも侑斗くんが好きなんじゃないかと疑ってしまうことがある。 
けれどそれは違う。 
デネブは侑斗くんを自分の子供のようにかわいがっているんだ。 
侑斗くんのきもちには気付かないまま。 

「良太郎、モモタロスと先に風呂入って良い。今日もお疲れさま。侑斗、ご飯ちゃんと食べよう?」 

デネブは穏やかな口調で言ってから侑斗くんの腕を引っ張った。 
強引に腕を引っ張られてぶつくさと呟いていた侑斗くんは、どこか照れくさそうにデネブの後に続く。 
僕は小さく笑って身を翻した。 
向かうのはモモタロスの部屋だ。 
デネブにああ言われたら喜んで従うしかない。 
僕は廊下の突き当たりにある階段をのぼってから"桃の部屋"とかわいい字で書かれたプレートの前に立った。 
…たぶんデネブの字だろう、かわいすぎる。 
僕はそんな事をおもいながら部屋の戸をノックした。 

「モモタロス、一緒に風呂に行こうよ」 

「んぁ…おーっ、ちょっと待ってろよなっ」 

モモタロスは少し上擦った声で返事をした。 
さて、僕らは親の了承も得て、さらに侑斗くんとイマジン一家の不仲問題も解消された。 
これでゆっくりと恋人と触れ合えるってものだ。 
お風呂の中でエッチするのも悪くない。 
そんな事をおもいながら扉が開くのを待っていると、ゆっくりとドアノブが引かれた。 
部屋の中からモモタロスがゆっくり出てくる。 
少しだけ上気した頬と乱れた衣服。 
何をしていたのかすぐに分かった。 

「…ひとりでしてたんだ?」 

僕が問いかけると、きみは俯きがちに顔を伏せてから小さく頷く。 
まあ、寸止めにしてしまったのは僕なんだからしょうがない。 
僕はモモタロスの体を抱き寄せて口を開いた。 

「お風呂でいっぱいしようね、えっち」 

囁くように言った僕の声に、モモタロスが体をカチカチに強張らせる。 
表情を盗み見ると、彼の顔は真っ赤に染まりあがっていた。 
かわいい顔だ。 

「…大好きだよ、モモタロス」 

僕より背の高い恋人を抱き寄せてそう言うと、きみはおずおずと僕の背中に腕を回した。 
従順すぎるくらいかわいい恋人を前にしていると、理性がきかなくなる。 
僕は再度モモタロスに口付けた。 
風呂に行ったらもっと熱いものをあげよう。 
そんな策を練りながら、僕は強く強く恋人の唇を吸い上げた。


















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も、の、す、ご、く、長くてすみません…ロクに絡んでないって言うね
ゆうこの大プッシュCPは何が何でも良桃です。
モモは赤いグラビアアイドルだと信じて疑いません^^