「お母さん、ちゃんとセックスしてる?」 

「ばぶぅッ!!」 

平和な夕飯時はこんな言葉で打ち砕かれた。 
実の子供に性生活を問われてあっさり頷けるほど、この家の夫婦は肝が据わっていない。 
案の定ご飯を吹き出してむせるデネブと、魚の骨を喉に詰まらせたキンタロスが胸を叩いている。 
茶碗を手にしたまま、長男と次男はフリーズ。 
僕と侑斗は顔を見合わせてため息だ。 
毎度のこととは言え、食事中の下ネタはなんとかならないんだろうか。 


『いまじン家』2.5話 
【いまじン家の性生活について】 


ぱくぱくと混ぜご飯をほおばりながら言った紫メッシュの少年は悪びれもなく、そして反省の色もなく、もちろん恥じらいもなしにキンタロスとデネブを見つめている。 
そんな息子の視線に耐えきれなくなったのか、エプロンをきつく握っているデネブが頬を真っ赤に染めあげてちらちらとキンタロスを見つめた。 
たれ目がちの萌黄色はすがるように向けられていた。 
それでも息子に目をやっておずおずと問いかける。 

「あ、の…リュウタロス、そんな事聞いてどうす…」 

「答えてくれないの?いつもヤってるくせに」 

一気にドスのきいた声で言ったリュウタロスがデネブを見つめる。 
紫の瞳をグッと見開いて、感情のない瞳で言うから余計不気味だ。 
そんなリュウタロスに見つめられたデネブはびくりと肩を震わせてキンタロスの腕にしがみつく。 
助けを求めるように涙目を向けたデネブはちょっと…いやかなりかわいい。 
そんなデネブに見つめられているキンタロスは気恥ずかしそうに頭をかいて大きな咳払いをする。 
もちろん、ちゃんとリュウタロスを見つめて。 

「な、なんや…今は食事中やで、リュウタ」 

父親らしくキンタロスが言うけど、リュウタロスが反省するはずない。 
むしろケロッとした顔をしてキンタロスとデネブを見つめていた。 
テーブルの上のお椀を手にとって、ゆっくりと味噌汁をすする姿は無邪気で子供っぽい。 

「聞きたいんだもん。ふたりはセックスしてるんでしょ?」 

またまた直球で言い放つ三男。 
そんな三男の教育係でもあるウラタロスが色っぽく咳払いをした。 
伊達眼鏡の奥にひそむコバルトブルーの瞳を瞬かせて、少し面倒くさそうに。 

「リュウタ、それは学校の宿題?」 

「うん」 

悪びれる様子もなくあっさりと頷いたリュウタロスはテーブルに肘をついて家族を見回す。 
その目が僕を見て止まった。 
何だか嫌な予感がする。 
僕の予感が的中したのか、リュウタロスは紫の瞳をキュッと細めて笑う。 

「ねえ、良太郎はモモタロスとセックスするでしょ?どんな事するのぉ?」 

リュウタロスのストレートな問いかけに、モモタロスが味噌汁を噴き出す。 
それをモロに浴びた侑斗がモモタロスにヘッドロックをかけていた。 
僕としては、出来るだけ他人のフリをしたいところなんだけど。 
この話題はすぐに終わらせて欲しい。 
そのためには僕が答えるしかないわけだ。 
僕は箸を置いて顔を上げた。 
真っ直ぐに紫の瞳を見つめると、リュウタは喉を鳴らして僕を見つめている。 
隣でウラタロスがものすごーく嫌そうな顔をしているのが分かった。 
僕が何を言おうとしているのか察したんだろう。 
彼はイマジン一家の中で唯一、色恋にうるさい耳年増だし。 
僕は小さく咳払いをした。 

「まず、ベーシックに縛りプレイはするね」 

「ばぶぅ!」 

デネブがまた噴いたようだ。 
でもそんな事、いちいち気にしていられない。 
僕は早くこの話題を終わらせたいんだから。 

「縛った後はローションまみれにして転がしておく。事前に薬漬けにしておくほうがやりやすいけど」 

僕の説明に、モモタロスは顔を真っ赤にしながら何度もかぶりを振っている。 
全部モモタロスとしたことだ。今更隠すつもりはない。 
僕の潔い告白に、キンタロスは眉をヒクつかせて、デネブは顔を真っ赤にし、リュウタロスは興味津々の顔つきで僕を見つめている。 

「ねえ、その後どうしたの?明日、みんなの前で発表するのぉ」 

「だ、だめだよリュウタ!」 

「やややめとき!俺が校長先生に呼び出されるわ!」 

無邪気に言ったリュウタロスに、ウラタロスとキンタロスが勢いよく掴みかかる。 
デネブはと言えば恨めしそうに…それでも真っ赤に染まったかわいい顔を僕に向けている。 

「良太郎、リュウタロスに変な事教えるの…よくない」 

デネブは、拗ねたように唇を尖らせてため息をつくとリュウタロスに向き直った。 
キンタロスとウラタロスから熱烈な説得を受けているにも関わらず諦めないリュウタロスはノートに僕の言った事をメモしながらブーたれている。 
そんなリュウタロスに、母親であるデネブが言った。 

「リュウタロス、俺とキンタロスはちゃんと…せっくす、してる」 

「どんなセックスしてるのぉ?」 

デネブの勇気ある言動にもあっさりと聞き返してきたリュウタロスはノートを片手に顔を寄せた。 
紫の大きな瞳に見つめられているデネブは萌黄色の瞳をきつく伏せてから遠慮がちにキンタロスの着流しの袖を掴む。 
デネブの白い肌は赤く染まっていた。 

「…セックスするのは普通の事。愛し合っているからする事。俺はキンタロスが好き。だか、ら…"僕の家族はとっても仲良しです"…そう書けばいいんだ」 

デネブが赤く染まった顔でにっこり笑うと、居間がシーンと静かになった。 
キンタロスは涙目だ。デネブを見つめているリュウタは目を丸くして不思議そうな顔をしていたけど、おずおずと頷いてノートにペンを走らせた。 

「そっか…ボクの家族は仲良しなんだ。えへへっ…」 

閉じたノートをぎゅっと胸の前で抱きしめたリュウタロスは、すぐにデネブの胸に飛び込んだ。 
そんなリュウタロスをきつく抱きしめたデネブはこっそりとキンタロスにウインクをしてみせる。 
これでキンタロスが校長先生に呼ばれる事もなくなったわけだ。 
きっと、デネブはキンタロスを助ける為に言ったんだろう。 
だからと言って、この家族が仲良しなのは嘘じゃない。 
部外者である侑斗や僕にさえ優しく接してくれる素敵なイマジンたちだ。 

「…一件落着、だね」 

僕はそう呟いて、すっかり冷えた味噌汁を啜った。 
その次の日の夜、キンタロスは滅多に見ないスーツ姿で夕飯も食べずにイマジン家を飛び出して行った。 
なんでも、校長先生に呼ばれたとか。 

「リュウタ…一体何を発表したの?」 

出て行ったキンタロスの後姿を見つめながらウラタロスが言う。 
キンタロスの分の唐揚げを頬張っているリュウタロスは不思議そうに目を丸くするとランドセルからノートを取り出して見せた。 
それを僕らが覗いて見ると。 

「…ボクの家は仲良しで、縛りプレイ、ローションまみれは当たり前。ただし事前に薬漬けにしておく激しい家族です……ンな事書いたら呼び出されて当たり前だ馬鹿ァアッ!!ウケ狙いか?え!?」 

「あーっ…いたーい!何すんのぉ、馬鹿ゆーと!」 

侑斗がノートに書かれたレポートを読み上げてからそれを大きく破り捨てる。 
リュウタロスを叱り付けた侑斗は、ノートを丸めて彼の頭を叩いた。 
いきなり怒られてワケが解らないと言った様子のリュウタロスを見ながら、僕たちは大きく息をつく。 
一番かわいそうなのは、キンタロスの分の茶碗を握りながらぐすぐすとしゃくりあげているデネブだ、と誰もがおもった。 
こうして今日もイマジン家の夜が更けていく。


















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7月5日に書いたもの。
珍しく報われないお話を書きましたー(笑)