「良太郎…あの鳥、助けてあげないの?」 

珍しくか細い声が聞こえる。 
僕は広々としたベッドの上で紅茶を飲みながら小さな息を吐いた。 
やたら豪奢なカーテンと、ふかふかした羽布団。 
食堂車とは違ってなかなか心地良い。 
僕はクッションを膝に乗せて顔を上げる。 
ベッドの横に立っていたのは帽子を被った紫の少年。 
深いパープルアイを僕に向けて、きつく拳を握っている。 

「ジークを?何で僕が」 

僕はベッドに横たわって鼻で笑ってやる。 
ただでさえイマジンが4体も憑いている僕に、ジークを助けろって? 
無茶を言わないでほしい。 

「そんなにジークを助けたいなら…リュウタロスが僕から離れる?5人も憑くなんてごめんだもん」 

「……良太郎なんかだいっきらいだ…」 

僕が言うとリュウタロスは泣きそうな顔をしてからすぐにクッションで僕を叩いた。 
リュウタロスの後ろには柔らかな羽毛を首回りに巻きつけた白眼の男が大きく息を荒げている。 
男の体からは砂が滴り落ちて、時々蜃気楼のように揺らいでいた。 
散々人の体を使って、挙句モザイクつきで僕ををテレビに映した原因の男。 
店に帰れば姉さんには呆れられてしまうだろうし、尾崎さんや三浦さんには心配されるんだろう。 
…この鳥男は、僕の人生に傷をつけたと言っても言いすぎじゃない。 
消えるならとっとと消えてくれ。 
僕はズボンの中でカードに触れながら目を瞑った。 
敵のイマジンが契約完了した後に鷹山さんにかざした時のものだ。 
…そんな事を調べちゃうなんて、僕はつくづく悪い人になりきれないらしい。 

「ジーク」 

…ジークは契約完了している。 
だから、過去へ飛べば彼が消えることはない。 
もちろん…ジークにそのことは伝えていないんだけど。 
だってもうちょっと苦しめておきたいじゃないか。 
彼は、僕の人生に傷をつけたんだから。 

「こっちにおいでよ」 

僕が言うと、ジークは銀色にも見える白い眼を向けてゆっくり立ち上がった。 
生まれたてのヒナみたいにおぼつかない足取りでベッドに近付いたジークは、そのままベッドに両手をつく。 
彼の額からは汗が滲んでいた。 
苦しいんだろう。辛いんだろう。 
僕はリュウタロスに目をやった。 

「ナオミさんからいつものコーヒーもらってきて」 

その言葉に、リュウタロスが目を丸くして…それから頷いた。 
いつもきみたちにしてることを、これからジークにするんだよ。 
敏感なリュウタロスは、僕が言わずともすぐにそれを察したらしい。 
車両から出て行くリュウタロスを見送った僕は、ジークを手招いて笑った。 
白い瞳を僕に向けたジークは、どこか恨みがましそうに唇を噛んでいる。 

「…っ、主の寝台に横たわるなど…っ、頭が高い」 

「頭が高いのはお前だよ、馬鹿王子」 

僕はジークの髪を引っ張って言った。 
その突き放すような口調に、ジークの瞳が大きく揺らぐ。 
苦しさと、憤りが混ざったような瞳で僕を睨んでいた。 

「ばか…?貴様、この私に何て無礼な口の聞き方を…っ…」 

ジークが喘ぎながら何か反論するけど、僕が頬を殴ってやるとその声は止まった。 
きつく目を閉じて、悔しそうな顔をしながら細い吐息を漏らしている。 
嬲り甲斐があるってものだ。 
モモタロスもウラタロスもキンタロスもリュウタロスも。 
僕に憑いているイマジンはみんな、普段僕の腕の中でかわいく喘いでいる。 
たまには趣向を変えてこういう頭の弱い男を抱くのも良いだろう。 

「良太郎、コーヒー持ってきたよ…」 

ちょうど、リュウタロスがゆっくりと車両に入ってきた。 
僕にコーヒーを突き出して、不機嫌そうにそっぽを向くとそのまま車両を出て行ってしまう。 
コーヒーの香ばしい匂いが鼻をくすぐる。 
立ち上る湯気がふんわりと揺らいだ。 
僕はコーヒーカップをジークに向けて、先ほどと変わらない声色で言った。 

「どうぞ、王子。敬愛するあなたのために注いだ特別なコーヒーです」 

わざとうやうやしい口調で言うとジークはつられるようにコーヒーカップを受け取って、それでもすぐに慌てて警戒するように僕を睨んだ。 
コロコロ変わる表情はかわいいけれど、今は憎たらしい以外の何者でもない。 
僕はこれから、厚かましい馬鹿王子を征服してやるんだ。 

「…私に媚びを売っても、先ほど殴られた頬の痛みは忘れんぞ」 

ジークは白いつり目を向けて言うと、大きく息をついてからコーヒーを一気に煽った。 
喉が渇いていたんだろう。 
コーヒーを飲み込むたびに細い喉がヒクリと動く。 
この喉に、コーヒー以外のものも注ぎ込んでやろうか。 
僕はそんな事を考えながらジークを見つめていた。 
コーヒーを飲み干したジークは、カップを床にほおって荒い息をつくと、ベッドに横になって僕の体を押しのけた。 

「退け…私、は…休む。いつまで主の寝台に居座るつもりだ…家臣の分際で…」 

苦しそうに喘いでいるジークの頬は、やや薄紅色に染まっている。 
彼自身気付いていないだろうけどコーヒーに仕込んでもらった薬の成分は確実にジークの体を犯しているようだ。 
ジークは僅かに身じろぎをして僕に背を向けると、肩を上下させながら苦しそうに息をついている。 
そろそろ、かな? 
僕は上体を起こしてジークの肩を引き寄せると、そのままコーヒーの香りがする唇へ口付けた。 

「…っ、んん…ん…!」 

さすがプリンスと自称するだけはあるのか、ジークとのキスはなかなか美味しかった。 
形のいい唇に苦しそうな吐息。 
首元をくすぐる羽毛は苦しそうなジークにあわせて上下している。 
僕は乱暴に口付けを解いてジークの上着を捲り上げた。 

「…っあ…や、やめろ!一体どういうつもりだ…良太郎っ…!」 

僕の名を呼んでかぶりを振るジークは、少し怯えたような表情をゆがめた。 
すべすべした肌を掌でなぞって、無遠慮に胸の突起を摘んでやる。 
すると、ジークはびくりと体を震わせてベッドを大きく揺らした。 
口を押さえて、顔を赤らめる姿はなかなかかわいい。 

「…っう…よせっ…!あぐ…っ、声が…」 

ジークは、身を捩りながら苦しそうに喘いだ。 
僕が胸の突起を指先で押しつぶしてやるたびに、彼はシーツをきつく掴んでビクビクと肩を震わせている。 
白い瞳には涙が浮かんでいた。 
どうやら、彼は押しに弱いらしい。 

「惨めだね…ジーク」 

身を乗り出して僕が言うと、ジークはきつく眉を寄せて僕の腕を掴んだ。 
その力はとても弱々しい。 
ジークは白い瞳で僕を睨むと、身を捩りながら小馬鹿にしたように口を開く。 

「惨めなのは…お前だ、良太郎。主に対して…何て無礼な事を…あぁっ!」 

上着を捲り上げて突起を吸い上げてやると、ジークはひきつれた悲鳴を上げて僕の胸を押した。 
みっともなく体を捻って、ベッドから逃げ出すように自動扉へ手を伸ばすけどすぐ僕に押さえ込まれる。 
僕は、ジークをベッドに押し付けて上着をむしりとってやった。 
首筋に巻きついている柔らかな羽毛も剥ぎ取って、ベッドの下にほおる。 
露になった首筋に口付けると、ジークは泣きそうな声を上げて僕の肩を掴んだ。 

「だ…誰か、早く私を…この男から引き離せっ!あ、あふっ…んぁ…」 

上擦ったような声と共に、ジークの吐息に甘いものが混じる。 
それが嫌なのか、彼は必死に唇を噛みながら顔を背けていた。 
そんなジークが可笑しくて、僕は彼の首筋を強く吸い上げてやる。 

「…ひっ…うぅ…ん!やめ、ろ…無礼者っ…」 

やめろと言いながらもジークの息はどんどん上がっている。 
僕はジークの頬を撫でながら低く笑った。 

「この世がきみのために回っているんじゃないってことを分からせてあげるよ、ジーク」 

そう言ってもう一度、唇を重ねる。 
気持ち良いって鳴く顔が見たい。 
もっと彼を陵辱してやりたい。 

「…んんっ…ぷは…あふ…りょ、た…ろ…」 

キスだけで息を荒げているジークは、僅かに体から力を抜いてベッドに身を預ける。 
それでも抵抗のつもりなのか、僕の肩を押していた。ひどく弱々しい力で。 
よほど苦しいんだろう。 
僕は彼のズボンの中へ手を差し入れて、そこを念入りに撫でてやる。 

「…ジーク、苦しい?それとも…」 

「知らない…っ!やめろっ…」 

ベッドを軋ませながらジークが声を上げる。 
掠れた声は色っぽくて、艶めいていて…いじめ甲斐のある声だった。 
もっと乱れさせてやりたい。 
僕はジークの唇を奪って、手の中のものをきつく握った。 

「…っんん…!んぁ…あっ、や…め…」 

口付けの合間に抵抗の声が聞こえる。 
僕は、ジークのズボンを脱がせてから口付けを解いた。 
一糸纏わぬ姿になったジークは、僕の体の下で大きく喘ぎながら羞恥に顔を赤く染めている。 
柔らかな羽毛を使ってジークの両手首を縛り上げてやると、彼は銀の瞳に涙を溜めて僕を睨む。 
僕はジークの頬を手で叩いた。 

「…っぐ…う…」 

ジークが小さな悲鳴を上げる。 
銀の瞳が揺らいでいた。 
怒りとも戸惑いともつかない表情で僕を見つめるきみは、下肢を弄る手から逃れるべく身を捩るけれど。 
もちろん逃がしてやるつもりはない。 
逃げたら殴る。 

「…ジーク、奉仕してよ。僕に感謝してるんでしょう?」 

囁くように僕が言うと、体の下にいるジークは息を荒げながらきつく眉を寄せた。 
彼の唇が震えている。 
もう抵抗はさせない。 
それに、抵抗するだけの力も入らないでしょう。 
きみは消えかけてるんだから。 

「良太郎…っ、お前はいつもこんな事を…?」 

ジークの低い声が聞こえるけど僕はあえて無視をする。 
無理やり体を起こさせて、僕のものへと顔を押し付けてやった。 
くぐもった悲鳴と、涙に濡れた瞳。 
きみは僕に髪を掴まれたまま下肢に顔を埋めていた。 
ちょっとでも抵抗したら、また殴る。 
それを繰り返しているうちに、ジークは頬を涙で濡らして大きな息をつく。 

「…っぐ…ふ、ぁあっ…」 

蜃気楼のようにジークの体が揺らぐ。 
彼が消える時間が迫っているってわけだ。 
僕はジークの頭を押さえつけて言う。 

「…いいこにして舐めていれば…きみの事を助けてあげるよ、ジーク」 

「んんっ…ひ…主に命令する気かっ…お前は…」 

口の周りを唾液で濡らしながらきみは艶っぽい声で抗議した。 
それでも、喉奥まで僕のものを挿入してやると何も言わなくなる。 
銀の瞳から涙をこぼして、羞恥に顔を歪めながら口をひらいたジークは舌先で僕のものを舐めた。 
たどたどしい愛撫。 
舌は震えていて、時折嫌悪するようにきつく目を瞑っていて…。 
ハッキリ言って下手くそだ。 
だけど、こんな奉仕も嫌いじゃない。 

「…ん、っつ…苦、ぁ…う…ぐ…」 

髪を掴んでゆっくり動かしてやりながら、僕のものは彼の口の中で徐々に大きくなっている。 
僕は腰を突き出してジークの口に自身を押し込んだ。 
苦しそうに歪められた表情が綺麗で、とても艶っぽい。 
ジークは唇を震わせながらゆっくりと頭を上下させていた。 

「…む、ふぅ…んく…りょうたろ…する、から…手を離してくれ」 

望みどおり髪を掴んでいた手をゆっくり離してやると、ジークは先ほどとはどこか違う瞳を僕のものに向けてゆっくりとしゃぶり始めた。 
コーヒーに入れた媚薬が本格的に効いてきたらしい。 
舐めるだけで感じるのか、ジークのものは腹につきそうなくらいに勃起しきっている。 

「…僕の味はどう?」 

そう尋ねると、ジークは息を荒げながら小さく頷く。 
どうやら不味くはないようだ。 
舌を不器用に動かしながら僕をよくしようとしてくれている。 
その健気な姿勢に免じて、そろそろ許してやるか。 

「ジーク、きみが助かる方法なんだけど…」 

僕が言いかけた時、顔を上げたジークと唇が触れ合った。 
乱れた吐息が耳に入る。 
口付けを解いたジークは銀色の濡れた瞳を僕に向けて静かに言った。 

「最後まで…させてくれないだろうか?」 

そう言ったジークの声は震えていて今にも消え入りそうだったけれど、どこか艶っぽくて。 
僕は思わず息を飲んだ。 
ジークは僕のものに柔らかく息を吹きかけて先端を咥えると徐々に咥内へ収めていく。 
その目は陶酔していて、不覚にも僕は見惚れてしまった。 
自称とは言え、プリンスの威厳はある。 
色っぽくて綺麗で……性格に難ありだけど。 

「んふ…あ、は…私の口の、中に…出すが良い…」 

ジークは目を閉じて言った。 
乱してしまった髪を撫でてやりながら、僕は腰を動かす。 
快感に身を任せて生意気なジークを汚してしまえばいい。 
そう思っていたのに。 
今じゃ彼を汚すことは、ジークの口癖の『頭が高い』事であるような気がして…僕の本能を阻む。 
生意気なイマジンが少し態度を変えただけなのに。 
どうしてこうも複雑な気分になるんだろう。 

「…ジーク、もう良いよ…。やめないと本当に消えちゃうよ」 

「出してはくれぬのか…?」 

ゆっくりと目を開けたジークの瞳は綺麗な銀色だった。 
ゾクリと背筋に快感が走る。 
しまった。 
そう思ったときにはもう遅い。 
僕のものはジークの口目掛けてたっぷりと濃い精液を吐き出した。 
白く濁ったそれが、ジークの顔を濡らしていく。 
綺麗な白鳥が、汚された。 
僕は襲い来る罪悪感と、今までに感じたことがないくらいの征服欲に包まれて大きく息を吐き出した。 








「じゃあ、ジーク…元気でね」 

僕は軽く手を振って言った。 
デンライナーが向かった先は1997年6月1日。 
鷹山さんの結婚式の日だ。 
ジークはデンライナーから一歩足を踏み出してちらりと僕らへ振り返った。 
僕を押しのけてモモタロスが言う。 

「やいやい、良太郎と何してたんだか知らねーがとっとと行っちまえ!」 

嫉妬心むき出しで僕を押しのけて言ったモモタロスは、ジークから目を離して鼻を鳴らした。 
ジークはモモタロスに目もくれず、ゆっくりと僕に歩み寄る。 
そうして僕の手を取るとうやうやしく口付けて言った。 

「ありがとう、良太郎…やはり世界は私のために回っていたな。先ほどの甘い一時…忘れはしない」 

「なーにーッ!!」 

ジークの甘ったるい言葉に、リュウタロスを除いたイマジン3匹が一斉に僕を睨んだ。 

「どっ…どういうこっちゃ、良太郎!ジークに何したんか言うてみぃ!!」 

「まさか僕たちにしたのと同じことやったんじゃないだろうねぇ?」 

「良太郎、テメ〜ッ…!俺と言うものがありながらァ!!」 

「…あはは」 

僕はそっぽを向いて3匹の視線から逃げる。 
視線の先にいるリュウタロスは満足そうに笑って親指を下に向けたポーズを僕へ向ける。 

「やーい。良太郎が怒られてるー」 

ハナさんは呆れたようにため息をついてるしナオミさんは笑ってるし、オーナーは無表情だし散々だ。 
思わずため息をついた僕に、ジークがうっとりした口調で言った。 

「何をため息をつく必要がある?お前は私に気付かせてくれただろう、目下の者に押さえつけられる悦びと…快楽を」 

「焼き鳥にされたくなかったらさっさと帰りやがれこんにゃろーッ!!」 

狂犬みたいに暴れるモモタロスを押さえつけて、僕はもう一度軽く手を振った。 
……できたらもう一度会いたい。 
さすがにそれは叶わぬ願いだろうけど。 

「さらばだ…愛しい者よ」 

ジークは軽く頭を下げて金色の光へと姿を変えた。 
純白の羽を落としながら舞う姿はやっぱり綺麗で。 
僕はいつまでもその光を見つめていた。 
ジークの光が見えなくなるまで。 


















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7月21日に書いたもの。
ジークが消えかけてハァハァしてる回のお話です〜。
劇場版を見終えたらぜひまた良ジークに挑戦しようとおもいますv