「おらァッ!いっけェージオグレイモン!!」
ザリザリしたしょっぱい砂煙が巻き起こる島で今日も変わらず熱い戦闘を繰り広げる俺たちは敵デジモンをブッ倒していく。
ちょっと強すぎかな?ってくらい鍛えまくっているんだけど、とにかく敵の弱いエリアからじわじわと散策しているわけだ。
これはトーマの意見なんだけどよ。
トーマも淑乃も別々のエリアでレベル上げに勤しんでいる。
俺とジオグレイモンもそうだった。
デジタルワールドで夜を明かすくらいにはみっちり鍛えろってクダモンが言っていたらしい。
俺にとっては好都合だ。
強ェヤツ…と言ってもここは弱ェエリアだけど…がたくさんいるデジタルワールドで時間を気にせず暴れられるなんて最高じゃん。
既に日も暮れかかっている空を仰いで、俺はジオグレイモンを洞窟へと誘った。
海岸沿いだから潮の匂いがする。
俺はたくさん買い込んでおいた菓子や母さんの作ってくれた弁当を広げて両手を合わせた。
「いっただっきまァす!」
嬉々として飯を食らう俺を見つめてるジオグレイモンは、何だか微笑ましいような可笑しいような、そんな表情をしている。
俺は割り箸で卵焼きを頬張りながら口をもごつかせた。
「ふぉうひは?」
「食べながら喋んな」
ジオグレイモンの指が俺の口の端についたご飯粒を拭う。
それだけなのに、妙に心臓が跳ね上がって変なきもちだ。
おもえば俺はコイツと2人っきりで洞窟にいるんだよな。
いや、でも人間界でだってコイツと一緒のベッドで寝てるし意識したことなんかねェけど…。
何か、洞窟で誰かと過ごすなんてシチュエーション初めてだから、ちょっとドキドキしてる俺がいる。
相変わらず俺を見つめてくるジオグレイモンのヤローは、小悪魔みたいに笑って俺の卵焼きを見つめていた。
「うまそー。兄貴…あーんてしたらくれるんだろ?」
八重歯を見せて笑ったジオグレイモンは小さく口を開けてそう言う。
あぐらをかいて、人間くさい格好で。
…コイツは…ジオグレイモンはデジモンのくせに人型だ。
というか、デジモンじゃない、のかもしれない。
俺と出会う前、DATSのモルモットにされていたジオグレイモンは珍種だとか珍しがられて何度も薬を投与されたらしい。
その薬はもちろん人間の体に害があるものばっかりで、そんなもの投与されたらデジモンなんか真っ先におかしくなっちまう。
人間のやることって本当にえげつねェよ。
ま、ジオグレイモンはその薬の副作用で時々人間の姿になっちまうんだ。
もちろん副作用は強くって、凶暴になって自我を忘れる事もあるからパートナーがしっかりしてないといけないって隊長に言われた。
副作用に対して、あんまり悩んでいないような能天気っぽいコイツでも凶暴化する自分を恐れているのか、あんまり進化はしたがらない。
成熟期、完全体までならOKなんだが、究極体になったらどうなるかわからねェ。
進化をするとますます凶暴になっちまうだろうし…薬の染み付いた体がこれ以上パワーアップしたら…最悪の場合、コイツ自身が死んでしまうことだってある。
せっかく出会えた俺の子分をそんな目に合わせるつもりはねェ。
どんなに図体がデカくたってまもってやる。
俺は、コイツにそう誓ったんだ。
大事な…子分なんだから。
「ほら、デカイ図体してこっ恥ずかしいヤツだな…早く食えよ」
「へへっ…サンキュ、兄貴」
不意に顔を寄せるジオグレイモンはどこか野生のにおいがして、ああ…こいつはやっぱりデジモンなんだと再認識する。
俺は箸でジオグレイモンに卵焼きをくれてやった。
背の高いジオグレイモンを見上げるようにして卵焼きを差し出すと、何故かジオグレイモンは眉を寄せて口を手で塞ぐ。
もしかして…薬の副作用か。
俺は箸を投げ捨ててジオグレイモンの背中を何度か擦った。
「お…おい、平気か?ジオグレイモン…しっかりしろよ。きもち悪ィのか?麦茶やるから…」
「いや…そーじゃなくて…」
慌てふためきながら水筒に入った麦茶を差し出そうとすると、ジオグレイモンは片手で制した。
ジオグレイモンの顔をよくよく見ると、健康的な褐色の肌はやや赤みが差している。
熱でも出たか?
デジモン専用の風邪薬なんて持ってきてねェんだけど…。
そんな事を考えている俺を見てジオグレイモンが苦笑した。
「…何を心配してるんだよ?俺はただ、兄貴の上目遣いがあんまり可愛くて…あー、背が高いって得だよなァっておもってただけだぜ」
「…へ?」
上目遣い?
俺はまじまじとジオグレイモンを見つめた。
背の高いジオグレイモンが俺を見下ろしている。
そりゃ、身長差はあるんだから俺がジオグレイモンを見上げて当然だろ?
なんて考えていると、このシチュエーションがどうもむず痒く感じてしまう。
むしろ、何だかとてつもなく恥ずかしい事を言われたような気がして、俺は全身が熱くなるのを感じる。
首が痛くなるほどジオグレイモンを見上げていると、ヤツは俺の顎を掴んで言うんだ。
「…兄貴…犬みてぇだ」
仮にも兄貴である俺を犬呼ばわりたぁどういう了見だ。
俺はジオグレイモンを心配していたことが馬鹿らしくなってしまってその手を払う。
本当は、照れくさいだけなんだけどな。
ジオグレイモンの手が妙に熱くてどぎまぎしてしまう。
「誰が犬だよッ!?俺は日本一の喧嘩ばんちょ…」
「はいはい…」
犬みたいに噛み付こうとした俺の体がゆっくりと抱き寄せられる。
ジオグレイモンの腕は俺よりも太くてがっしりしていた。
目の先に、青い刺青の入った腕が見える。
俺の好きな、腕だ。
こんなにきつく抱き寄せられたら息が止まりそうじゃねーか。
それから先はもう、意識がぶっ飛ぶくらいの熱い口付けをくらわされて、日本一の喧嘩番長ともあろう俺は全身で息をしながらジオグレイモンにもたれかかる。
「く…むぅ…っ、はぁ…馬鹿やろォ…ジオグレイモン…」
「何で馬鹿なんだよ」
ジオグレイモンは拗ねたように言ってガキみたいな顔をする。
コイツは、キスをしたら俺がどんな状態になるか知ってるくせに、わざと焦らしやがるんだ。
俺はジオグレイモンの胸に顔を埋めて唇を尖らせた。
「…心配して損したじゃねーか…」
できるだけ憎々しげに言ってやる。
それでも続きが欲しくてゆっくりと目を瞑ると、ジオグレイモンの唇が触れた。
熱くて、触れ合った部分から溶けちまいそうな口付け。
小さな衣擦れの音がいちいちやらしいな、なんておもっている間に、俺の体は岩肌に寝かされていた。
ジオグレイモンの唇が、俺の首筋をゆっくり吸い上げてから上着を捲り上げる。
俺は少しだけ笑ってジオグレイモンの髪を撫でた。
「…優しく、しろよ」
「もちろん…」
低い声で笑ったジオグレイモンは、そのまま俺よりも大きな手で俺の胸をなぞる。
平べったい男の胸を揉むように撫でて、時折指先で乳首を引っかく。
その行為がたまらなくじれったい。
俺は目を伏せて身を捩った。
「はぁ…っ…んん…」
だめだ。きもちよくておかしくなっちまう。
俺はじゃれるようなジオグレイモンの愛撫に応えながら小さくしゃくりあげた。
ゆっくりと自分の指を噛んでかぶりを振ると、手が掴まれる。
「我慢しなくていいから…俺に任せろよ、兄貴」
にっこりと笑ったジオグレイモンの笑みは俺の安心させるものだった。
照れくさくなってしまって奴の体を抱き寄せる俺は、ちょっと女々しい。
いつからこんなに女々しくなっちまったんだろーとかおもったり、そんな自分に少しだけいらいらしたり。
胸がもやもや、どきどきするような不思議なきもち。
全部こいつと出会ってから起きたことだ。
「ジオ…俺さ…」
「マサルく〜ん」
俺の言葉にカブるようにして洞窟の入口から柔らかな声がかかった。
おもわずジオグレイモンを突き飛ばして上体を起こそうとするけど、こいつは巨体だ。
そうそう突き飛ばされてくれるはずがない。
俺はジオグレイモンの下でじたばたしながらようやく上体を起こした。
洞窟の入口に手をかけてにっこり笑っているのは、DATSの新任技術者、神楽司サン。
眼鏡の奥はいつもにこやかで、物腰も柔らかい。
俺はぎこちなく笑った。
「は…はは…神楽サン…えっと…良い天気ですねー」
「はは、もう陽も暮れるけどね」
神楽さんは笑みを絶やさずに洞窟を見回すと興味深げに「こんな所があったんだー」なんて言ってる。
その隙に、俺は捲れ上がった上着を下ろして菓子袋を拾った。
「あ、あのー…食います?ポテチ」
俺が乱暴に袋を開けて菓子袋を差し出すと、神楽さんは困ったように笑ってかぶりを振った。
同時に、俺の腕は乱暴にジオグレイモンに引っ張られる。
体を寄せるように引っ付かれて、俺は眉を寄せた。
「いってーな、何すんだよ…」
「あはは、いやー…お邪魔だったみたいだね」
神楽さんは、ジオグレイモンと俺を交互に見て笑う。
そうして地面に落ちている菓子をゆっくり拾いながら言うんだ。
「隊長から"今日はもう家に帰れ"って連絡があったのに聞いていなかったろう?トーマくんも淑乃さんもとっくに帰ったよ、君も早く帰りなさい」
「え、でもデジタルワールドに泊まるくらいの勢いでレベル上げろって…」
「…ふぅ〜…それは言葉のアヤだよ」
神楽さんは腕にいっぱい菓子を積むと僕に差し出して困ったように笑った。
おもわずジオグレイモンを見やると、奴は拗ねたようにそっぽを向いている。
それでも俺の腕はしっかり握っているから体を離すことができない。
ったく…ガキかっつーの。
「すいませーん、じゃあもう帰ろうぜ!わざわざありがとうございまァす!おら、行くぞジオグレイモンッ!」
俺は深く頭を下げると、ジオグレイモンを引きずるようにして洞窟を出た。
洞窟を出ても、奴はまだ拗ねたようなそぶりで口を利かない。
転送地点に着くまでの間、ずっとこの調子じゃ夕飯が不味いだろーが。
俺はジオグレイモンの頬をややキツめに抓ってやった。
「いつまで拗ねてんだよ…そりゃ、いきなり神楽さんが来たのはビビったけど…」
「…そうじゃねェ」
ふと、ジオグレイモンがぶっきらぼうに呟いた。
ゆっくりと洞窟のほうを振り返るから俺もつられて見ると、洞窟の入口に神楽さんがいる。
神楽さんは俺たちに気付いたのか、手をひらひらと振って笑った。
「神楽さん、早く戻ろうぜー!陽が暮れちまうじゃん!」
俺は神楽さんが言っていた言葉を使ってみた。
すると神楽さんは「先に行っててー」と間延びした声で言う。
ジオグレイモンに腕を引かれたこともあって、俺は引きずられるようにその場を後にした。
ずんずんと俺の前を歩くジオグレイモンは相変わらず不機嫌そうにしている。
俺を見ずにまっすぐ前を向いて。
「…なぁ…ジオ、止まれ」
俺はジオグレイモンの背中に顔を寄せて呟いた。
ぴたり。
ちゃんと言う事を聞けるところが可愛い。
ジオグレイモンは足を止めると、おもむろに振り返って俺の頬を撫でた。
ゆっくりと顔が近付く。
「俺、神楽さん苦手だ…」
「…なんで?」
「…ずっと、見てたから」
ジオグレイモンの小さな声は耳をすまさないと聞こえないくらいの音だ。
音としてようやく聞き取れた俺は、目を何度も瞬かせて眉を寄せる。
そんな俺を見て、ジオグレイモンがもう一度口を開いた。
「兄貴が喘いでるトコ、見てたんだよ…神楽さん」
「なッ…う、嘘だろ?」
「嘘ついてどーすんだよ」
俺はもう一度洞窟のほうへ振り返ろうと一歩後ずさるが、すぐにジオグレイモンがそれを阻止した。
神楽さんが俺たちの行為を見てたってことは、ぜんぶ見られてたってわけで…。
知り合ったばかりの人にあんなところ見せてどうすんだよ、俺!?
「生き恥だーッ!…明日から神楽さんの顔見れねー…」
青くなったり赤くなったりと俺の頭の中は大混乱を起こしている。
そんな俺を見て、難しい顔をしていたジオグレイモンはようやく声を上げて笑った。
笑った顔は愛嬌たっぷりで可愛い。
けど…
「あはは…兄貴の顔、すっげーおかしい」
余計な一言はいらねェってば。
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あなみつ初の小説ということでジオマサにしてみましたv
司トマも書いたんですが日記消去してしまって手元にないという始末(爆死)
今後はコサブロー攻やユマ受など色々書きます〜。