「じっとしてろよ」
白いもの…包帯を口にくわえた君はそう言って笑った。
ひんやりとしたものが肌に触れると同時に下肢に痛みを感じて竦みあがってしまう。
「…っ…」
「だから動くなって言ったじゃねーか。脱がすぞ?」
「…うん」
ゆっくりと背中に手が伸びた。
わざとらしいくらいにゆっくりと、汗のせいで体に張り付いたズボンが下ろされていく。
太ももが露になると、君はごくんと息を飲んだ。
その目に熱いものが宿っている気がして、どうも目を逸らしてしまう。
「脱がすなら、早く。中途半端は嫌だ」
僕は君の手を掴むと、そのままズボンを足首まで下ろさせた。
デジタルワールドでの激闘のせいか体中泥だらけで結構汚い。
汗もかいていたし、いい気分ではなかった。
君は僕の片足を掴むと、自分の膝の上に乗せて言う。
「まだ出血止まんねーみてぇだな」
君はふとももの傷を見ると、眉を寄せて呟いた。
手に持った消毒液を容赦なく僕のふとももにポタポタと垂らす。
「ひ…うあっ、くぅ…馬鹿、いきなりっ…しみるじゃないか!僕がやる…貸せ」
「バーカ。ちまちまやってたら日が暮れんじゃん。何事も勢いが肝心なんだよ」
君は舌を出して憎らしい顔をして見せた。
綿で傷を拭きながら、不器用に包帯を巻いていく。
してくれなくてもよかったのにと思いながら、僕は彼の手先を見つめていた。
激闘の後、傷の手当をすると言ってきかなかった大に流されるように医務室に連れて行かれた僕。
大も十分疲れているはずなのに、不器用なくらい気遣ってくれた。
何か飲むかとか、何か食べたいものあるか、とか。
見舞いに来た友達じゃないんだからとは思ったが、今の僕にその声は心地よくて。
彼の好きなようにさせていた。
「ほら、できた」
「…へたくそ」
「るっせーな、人の足縛るのって案外むっけぇんだよ」
大が縛った僕の太ももはキツく縛られていたが、雑っぽさが目立つ出来上がりとなっている。
おまけに長さが余った包帯は僕のふとももの上でリボン結びになっていた。
僕は大の膝から足を下ろそうとして、それからすぐに再度激痛を感じた。
「…っつ…」
「いいよ、そのまま足乗っけてろ」
大は僕の足を軽く叩くと、それから撫でるようにして笑った。
片方の足首には垂れたままのズボンが落ちている。僕は下肢を晒した恥ずかしい格好のまま目を逸らす。
目のやり場に困ると言うか、大に申し訳なくて見ていられなかった。
大の表情をこっそり伺おうと目を向けてみると、偶然にも大と目が合ってしまう。
僕は何故か怒ったような声を上げた。
「な、何だッ!?人の顔をジロジロ見て…。僕の事を情けないヤツだと思ってるんだろう?」
「はァ?ちげーし、っつかお前こそ俺の顔見てんじゃんか。可愛い顔だなーって思っただけだ、悪ィかよ」
大はムッとしたような顔をして僕から目を離すと小さな声で付け足した。
今の僕にはどんな言葉さえ起爆剤になるのか、男に言ったら可笑しいはずの言葉に怒りよりも羞恥を感じる。
僕は今度こそ目線を外した。
冗談を言うなと口は言うけど、声は掠れてしまって笑えもしない。
大は僕をじっと見てから、言った。
「なあ、お前ってキスしたことあんの?」
「は?」
思ってもみなかった言葉に目を向けると、どこかそわそわした様子の大の姿に違和感を感じる。
僕の足を膝に乗せたまま照れくさそうにそう言った。
まさか、あるわけないだろう。
僕の言葉に、大が笑う。だよな…って。
それだけの会話で済むのなら何も問題はないのだが、大は少しだけ身を乗り出して言った。
「俺さ、今気になる子がいんだよ。…だからさ、キスの練習相手になってくんね?」
年頃の少年らしく、首をかしげて問う大は可愛かったけどキスの練習相手にされるのはごめんだ。
僕はかぶりを振ってみせたけど、大には通じてないらしい。
僕の両足の間に体を割り込ませてくると、どこか上気した頬で言った。
「…それにさー…お前の足みてたら、ホラ…自然現象が」
大はそう言うと、僕の下腹部に硬いものを当てた。
服の硬い部分が当たったのかと勘違いしてしまったが、どうやら違う。
熱くてもっと脈打ったものだ。
大の手が僕の頬を撫でる。
「扉、とっくに鍵閉めといたし誰もこねーからさ…な?」
そんなの聞くなよと言い返したかったが戦いの後の興奮が冷めやらないのだろうか、僕の身体は思ったよりも熱かった。
大の顔がそっと近付く。好きな人がいるからキスの練習だとか、自然現象だとか、こいつは僕を何だと思ってるんだろう。
本当に失礼なヤツだ。
それでも…。
「…うん」
憎むまでに時間がかかった。
互いの乾いた唇がそっと重なる。静かな室内では小さな身じろぎさえも大きな音に聞こえた。
乱暴に押し付けられただけのキスから、だんだんとお互いにキスの仕方を学んでいったのか次第に熱烈なものへと変わっていく。
大の舌が無理やり僕の舌を引っ張り出そうとするから、僕は逃げながら咥内を擦ってやった。
それでもいい加減舌が疲れてきて動きをやめると君の舌に絡め取られる。
「ん、んん…くふ…むう…」
鼻にかかった互いの吐息が艶っぽくてドキドキした。
舌が痛いくらい強く吸われたな、と思ったときゆっくりと大の手が僕の腰を撫でていく。
変な感じがした。
この未知の感覚を知ったら戻ってこれないような気がして、ほんの少しの恐怖が僕の頭に残る。
そんな僕の心境を知ってか知らずか、君は強弱をつけて僕の舌を吸い上げていく。
「んぁ…大、いけない…そんなにしたら…痺れて喋れなくなりそうだ…」
僕はたしなめるように言ってから、大の肩に腕を回した。
言ってる事とやってる事が違うじゃないかと内心叱咤するけど、もうそんなの耳にも心にも届かない。
いつの間にか、君の手が僕の下着の隙間から手を動かしていた。
ああ、気持ちいい気がするのはこれのせいだったのか。
妙に口から切羽詰った喘ぎと、呼吸ができなくなりそうな行為に、僕は混乱している。
大は笑って言った。
「俺が何をすんのか分かるよな?…天才少年くんよ」
きゅ、と手の中のものが強く握られる。
足の怪我のせいで上手く動けない僕は大にしがみつきながらかぶりを振った。
「ひぎっ…くぅ…頭がどんなに良くたってっ…分からないことだってたくさんあるよ…っあぁ…ふ…」
「例えばどんな?」
意地悪なヤツだ。
大は僕のものを強く擦り上げながら尋ねてくる。
言えって言うのか?
この僕に。
「…た、たとえばっ…僕を抱きたいって言う君のことが…わからない…んあっ!あぐ…は、あ…大…っ…」
僕の答えなど求めていなかったかのように、大が僕の後ろの部分に熱いものを擦りつけた。
本当に最後までするつもりなんだろうか。
そんな、入るわけないじゃないか…。
「トーマがそんな声出すから、もうこんなになっちまったじゃねーか。責任取れよ」
ぬるぬると熱いものが僕の肌をすべる。
大は僕を抱きかかえるようにしておもむろに挿入を開始した。
何かが挟まってる感じがする。
体の大きな僕を抱きかかえるのは大変だろうな、とぼんやり思った。
僕は。
ただ揺さぶられながら、それが終わるのを願うだけ。
ただ揺さぶられながら、それが終わらないことを願うだけ。
「ああっ、う…は、あ…あぐっ、う…いやっ…あ…」
強く胸を圧迫されて呼吸ができない。
僕は全身で息をしながら大の肩に顔を埋めた。
どれだけ息を吸っても収まらなくて苦しくて、ぜえぜえと息をついていると大がふと僕の背中を擦ってくれる。
「息…ゆっくり吐けよ、楽になるかもしんねーし」
ぶっきらぼうな声だったが、僕はそれにしたがってできるだけゆっくりと呼吸を開始した。
同時に体内のものが僕の中に入ってくる。
緊張していたせいで全部入らなかったらしい。
「すげえ…お前がくわえてんだぜ?入るもんなんだな…筋肉が柔らかいのかも」
「あ…あぐぅ…」
大の声が聞こえない。
僕はかぶりを振ってさっきのとおり、ゆっくりした呼吸を繰り返す。
気持ち良いのか痛いのか分からなくなってきて、僕は救いを求めるように彼にしがみつくしかなかった。
こんなの誰とでもできるわけじゃない。
ましてや僕らは子供で、まだ成長途中の人間だ。
こんなの…子供の成長に悪影響な行為だとしか思えない。
「トーマ、もっと声出せよ。すげー感じる…可愛い」
大は屈託なく笑うと僕の頬に軽く手を当てて撫でてくれた。
それが気持ちいいなんて、どうかしてる。
そういえば繋がってる部分も痺れてきて、何が何だかよく分からない状態だった。
ただ熱くて仕方がない。
「あ、あぁっ…つう…ふあ…ま、大…もっと僕の名前呼んで…?とんまじゃなくて…」
言い終わる前に、体内のものが大きくなった気がして僕は息を飲んだ。
君が不思議そうな顔をしている。
可愛いのは君のほうじゃないかと心の中で言った。
君の掠れた声が耳元に聞こえた。
「トーマ…もっと呼んでやろっか」
わざとらしく、耳に唇を当てて君が言う。
それだけで全身が快感なのか何なのか分からないもので総毛立った。
頷く事しかできない僕に、君はもう一度復唱してくれる。
ただのキスの練習相手にどうしてそこまで優しく出来るんだろう。
「ひっ、うぁ…あく…大…好きだっ…」
僕は大の体を強く抱くと、溢れる感情を抑えられないまま吐露した。
好きだなんて、様々な意味があるっていうのに、一体僕はどういう意味で好きだと言うんだろう。
もっと気持ちよくなりたいならそれだけ言えばいいのに。
好きだなんて、よく分からない。
分からないけど好きだと思った。
こういうのはドウセイアイってやつなのだと家の者が言っていた気がする。
ドウセイアイは、同性同士で恋仲になること。
日本のドウセイアイに対する偏見はどうだか分からない。
僕自身、ドウセイアイに関わったこともないからサッパリだった。
性別が同じでも、好いていいんだろうか。
それもこんなに短期間で。
「…っぁあ…っでそ…出そ…このままじゃ…ふあっ、嫌だ…感じすぎて、おかしく…っあ…」
頭がまっ白になりそうだった。
大の唇がもう一度、僕を吸う。
僕はただ、望まれるままに応えた。
彼よりあらゆる面で勝っている僕が、こんなに簡単に君の手に落ちていいんだろうか。
僕を夢中にさせていいんだろうか。
そう思ったとき、体の奥が一気に熱を増した。
このまま壊れてしまいたい。
できるだけ強く大のものを締め付けながら、僕はほんの僅かの理性を捨てて彼を抱きしめた。
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セイバーズのトーマ受です。書き始めて第二弾ですが一応第一弾ということで。
オサルとトンマのショタっ子カップルがモエーなのです。