夜中、ふと目が覚めた。
便所に行きたくて起きたんじゃない。
目を擦りながら上体を起こすと、すぐ傍に人の温もりを感じる。
暗がりでよく見えないが、はちみつ色の金髪と白い肌がちらりと見えた。
俺は寝ている間にボサついてしまった髪を手で整えながらぼーっと部屋の中を見回す。
ここは大門家で、今寝ているのは俺こと大門大の部屋。
今日は淑乃が家の事情だとかで俺の家に泊まってなくて、アグモンはデジヴァイスの中で眠ってる。
母さんも知香もきっと隣の部屋で寝ているだろう。
つまり、この空間には俺たち二人きりってわけだ。
…やべえ、何か興奮してきた。

「…マサル、寝ないのかい?」

「どわ!」

不意に声をかけられて、俺は予想外の大きな声を出してしまった。
俺が声を上げたせいか、布団の中では金髪の髪をした男が少し機嫌の悪そうな顔をして眉を寄せている。
陶器のような肌が服越しに触れた。
カーテンから差し込む光のせいで、奴のアイスブルーの瞳がきらきら光っていた。
何だよ、その期待させるような目は。

「…なんだよ、驚かすなよな…トーマ」

「君が勝手に驚いたんだろう…寝るぞ」

トーマは寝返りを打って呟くと、軽く俺の腕を引いて寝るように促した。
つられて布団の中に入ると、さっき寝ていた時よりもたくさん触れ合っている部分が増えていることに気付く。
腕とか、髪とか、足も。
コイツと一緒に寝てるなんて末恐ろしいんだけど、同時に何か期待するような高鳴りが胸を突き破りそうになる。
変なことでもしたら仲間のままでいられなくなりそうで、その気持ちを押し殺すように堪えた。
つうか、男相手に変なことすんのかよ俺?
訳わかんねえ。

「…あのさ、少しそっち行ってもいいか?」

主人の意思とは反対に、口が勝手に動いた。
おい、よせよ。
自制がきかなくなってく。
トーマは少しだけみじろぎしただけで何も言わない。
少し、俺よりも背の高いこの男は俺をそういう気分にさせちまうくらい変わった奴だった。
僅かに漂う香水の香りが余計イケナイ気分にさせる。
俺は両腕を伸ばした。
細身だけどしっかりと少年の体をしているお前を抱きしめる。
そっと、俺の腕に手が添えられた。
トーマが俺に振り返る。
その瞳から感情は読み取れない。

「…そんなに僕が欲しいとはね」

「…ッ!は?何言ってんだお前」

「だって僕に欲情したんだろ」

「してねーよ!!」

「した」

声を荒げる俺とは違って、トーマの声は淡々としていた。
たれ目の瞳を少しだけつり上げて俺を見つめている。
トーマは俺を見て暫く目を瞬いていたが、不意に目を瞑ると俺に顔を寄せた。
ふっくらとした受け口の唇が目の前にある。
俺はおもわず顔を背けた。
強く目を瞑ってそれを拒否すると、腕に添えられた手がゆっくりと下りていく。

「…僕がほしいから、こんなことをするんだろう?」

「わっかんねえよ、何でお前に言われなきゃなんねーんだ!」

自分で抱きしめておいてずいぶんな言い草だ。
それは俺自身もおもう。
トーマは何も反論しなかった。
ゆっくりと、奴の体が俺に向き直る。
布団の中で俺たちは向かい合うようにして寝転んだ体勢になった。
こうしてみると、やっぱり至近距離だ。

「…マサル、僕は何も変わらないよ」

「は?」

トーマは少しだけ口元で笑うと、俺の肩に軽く拳を当てた。
その顔はいつもの強気なトーマの顔。
返事に迷って聞き返すと、不満そうな顔もせずにトーマが俺の目元を手で覆った。
どきりと胸が変な高鳴り方をする。
喧嘩をおっ始める時の高揚とは違う。
もっと、何か。

「君とこういう関係になったとしても、僕は今までと何も変わらない。君の知ってるトーマ・H・ノルシュタインのままだから」

同時に、唇に柔らかいものが触れる。
つま先から脳天まで痺れるような感覚が俺の体を支配しようとしてきた。
角度を変えて、それは俺のものを塞ぐ。
何度も何度も。

「んんっ…ん…」

俺の口の端から変な声が漏れた。
吐息混じりの情けない声。
トーマの鼻声かかった声も妙に色っぽくて、頭が熱くなってきて。
俺はトーマの肩に手をやって強く引き離した。
肩を掴まれて口付けをさえぎられたトーマは目を丸くして俺を見ていたが、少しだけ目を細めて唇を引き締める。
俺は息を整えながら言った。

「俺が変わっちまうんだよッ!俺が…」

俺は少しだけ震える指でトーマのおとがいを掴んだ。
僅かに引き寄せると、トーマは無表情のままだったがそれでも抵抗しようとはしない。
顔を寄せてトーマの顔を身近に見つめた。
トーマの瞼が閉じていく。
俺は何をしようとしてる?
男に、キスか?
コイツだってしてきたじゃねえか、やり返してやれ。

「んっ…」

俺は、まるで食いつくようにしてトーマの唇を塞いだ。
乱暴な口付けに応えるよう、唇が僅かに反応を返す。
がむしゃらに唇を吸う俺とは違って、トーマはゆっくりと俺の緊張をほぐすように口付けを繰り返した。

「ん、んう…む…」

トーマの口から聴こえた吐息に、自然とドキドキしてしまう。
俺は口付けを繰り返しながら、だんだんとトーマに翻弄されていることに気付いた。
トーマの食むような口付けを追って乱暴に吸い上げられるけどすぐに優しい口付けで返される。
何とかその口付けを追いながら息を上げる俺を、トーマは黙って受け入れていた。
細っこい腰へと手を回して強く抱き寄せて、しっかりとその存在を確かめる。

「ふ…マサル、愛してる」

唇を離した途端、トーマの口から紡がれた言葉は俺の頭の中をまっ白にするものだった。
互いの唇に伝う液がやらしい。
黙ったまま、何も言えない俺を見てトーマが笑う。

「返事なんか求めてないよ。…僕の気持ちだけ、知ってほしかった」

トーマはそう言うと、俺の唇を指で押さえるようにしてから呟いた。
さらりとそれだけ言ってのけるトーマに尊敬してしまうが、奴も多少照れくさかったらしく少しだけ俯き加減に苦笑している。
暗くてよくわからないが、白い頬が赤く染まっているのが見えた。
俺の視線に気付いたトーマはすぐに顔を伏せると布団をかぶって顔を逸らす。
その様子が何だか可愛くて、俺はトーマの髪に口付けてから言ってやる。

「簡単に言うんじゃねぇよ」

トーマは黙っていた。
できることなら俺もこの気持ちを口にしたい。
けど、この気持ちが俺の中で上手く言葉にならなかった。
もどかしいような、変な気持ちにさせられてしまって俺は強くトーマの体を抱きしめる。
好き、嫌い。
そのどっちが俺の"本当"なのか分からない。
こんなに苦しくて熱い気持ちは嫌悪?
俺の答えはどっちなんだろう。
答えが見つからないまま、俺は強く強くトーマを抱きしめた。

















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初リバ。マサトママサは何だか最近リバっぽく見えてきたので作ってしまったんですが後でマサトマ、トママサを単体で作りたいです(笑)