ぎしりとベッドの軋む音が聞こえた。
暑苦しそうに、隣で眠っているパートナーが身を捩る。
さすがにベッドに2人で眠るのは辛いだろう。
俺は幅を取るし、でかい。
そうおもいながらため息をつくと、隣の人物が軽く俺の肩をつついた。
「起きてんのか?」
「ん」
「…ジュース飲みに行こうぜ。暑くてやってらんねぇ」
低い声で起き上がった俺の兄貴こと、大門大は小さく欠伸をすると俺を見て言った。
暗がりで見る大は少しだけ顔に影がかかっていて艶っぽい。
やばい、何だかドキドキしてくる。
この姿になってからどうも盛りやすくて困るな…。
俺は自制するように目を逸らした。
先ほど散々に抱いた大の身体からは健康的な汗のにおいがする。
…やっぱりドキドキしてきた。
「ジオグレイモーン、聞いてんのかよ?」
「…おい、兄貴…」
ぎしり、ぎしりと音を立てて、大が俺の上にのしかかった。
垂れた長い髪が俺の胸をくすぐる。
お互い、上半身素っ裸で寝ていたから、暗がりの中でもすぐに体の形がよく見えた。
俺は大の細っこい腰に手をやってそのまま軽く抱き寄せる。
俺にとっては軽く抱き寄せたつもりだったのだが大にとってはかなり不意打ちだったらしく、俺の胸に勢いよく倒れこんだ。
「いて…な…何すんだよッ、この馬鹿力!!」
俺を馬鹿力と罵ったパートナーはすっかり機嫌を損ねてベッドを降りた。
そうしていそいそと、床に落ちたままのパジャマを着ている。
その後姿がなんだか可愛くて、俺は黙って見守っていた。
大が上着を片手に振り返る。
「お前も着とけ、風邪引かれちゃ敵わねぇよ」
大が取った服はこの家の誰も着られそうにない大きな服。
"すりーえる"とか言ってたような気がするけどよく覚えてない。
どうしても俺の身体は大きかったから兄貴の服では入らなかった。
成長期に退化したときは知香の服が丁度入るくらい小さいのに。
成長期から成熟期までの間、何があったんだ俺と問い詰めたくなる。
「ありがと、兄貴」
上着を受け取って不器用ながらに着ようとする俺を見て、大が少しだけ目を細めた。
眠そうに頭をかいて、上着を着ている俺を眺めている。
その視線に気付いて顔を向けると、大は少しだけ笑った。
「…変わんねーな。アグモンもジオグレイモンも。どんなに大きくなったってお前は俺の弟分だ。それにな…」
大はふと大人びた笑みを見せて俺の頭を撫でた。
成長期の時、あんなに大きいとおもっていた手はこんなに小さくて、俺を不思議な気持ちにさせる。
俺は素直に、大の手の心地よさを感じていた。
そんな俺を見て、大が口を開く。
軽く抱き寄せられるような抵抗感を受けたとおもったら、俺の顔は大の胸に伏せたような形になる。
俺の頭を抱きしめている大が小さく笑った。
「人ってさ、何年も年月をかけてようやく自分が大人になったって気付くんだよ。…お前は姿が大人だけど心ん中はまだまだ子供だよな…安心した」
「子供扱いしてんのか?俺、兄貴にキスだってできんのに」
「ばーか、そういう事じゃねえんだよ」
拗ねた俺を諭すようにして、大が体を離した。
まだ14歳だと言うのにどうしてこんなに達観したような表情を見せるのか分からない。
俺は唸るようにして大を見つめていた。
大の手が俺の頬に触れる。
ゆっくりと移動しながら、それは軽く拳を作って俺の唇を押した。
「キスができるから大人とか、えっちできるから大人とか、そんなわけないだろ?大人になるために大事なのはココだ」
大は唇から手を離すと、拳を作ったまま俺の胸を叩く。
俺はつられるようにして自分の胸に手を当てた。
そんな俺を見て、大が大きく頷く。
すると、不意にゆっくりと立ち上がった大が不意に俺の両肩に手を置いた。
「大人になるには心の修行が必要なんだよ。だからお前はキスが上手くてもまだ半人前ーっ!俺のほうが大人ってことだ」
大は冗談まじりに舌を出すと、俺に唇を押し付けた。
不器用な子供のキス。
俺も子供だと言われたからきっと半人前のキスなんだろうけど。
大の背中に手を回そうとしたとき、お預けとでも言うように大が身を離した。
そうして俺の額を拳で軽く小突くと一歩下がって笑う。
「じゃ、俺は下でつめたーいジュース飲んでくるからな。欲しいならお前も来いよ?」
ひらひらと手を振った大はわざとらしく笑うとすぐに部屋から飛び出していった。
階段を下っている音を聞きながら、俺はようやくおもいだしたように唇に触れた。
俺が大人じゃないのに兄貴は大人だって?
「へたくそ…兄貴だって半人前じゃねェかよ…」
自分が言った言葉に自然と笑みが零れてしまう。
キスの余韻を確かめるように、唇を指でなぞる俺。
そのまま、しばらく重くなったまぶたと格闘していたが、眠気を振り払うようにして立ち上がるとパートナーの後を追うようにして部屋を出た。
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ジオマサー。