「さあどうぞ、まだまだあるからいっぱい食べてね」

縁側に座っていた僕たちへ出された特大のスイカ。
家主の小百合さんは嬉しそうににっこりと笑って「近所に住んでる農家のおじさんがくれたのよ」と話した。
真っ赤に熟れた美味しそうなスイカだ。
さっそく、縁側に置いてある扇風機に当たりながら僕たちはスイカをごちそうになることにする。
右から知香ちゃん、真ん中に大、そして左端に僕という感じで座っていた。
セミの音が夏を感じさせる。
僕の隣で、皿の上のスイカを持ち上げた大は満足そうに笑ってかぶりついた。

「んー、うまいっ!最高だよなァ…冷たいし甘いし」

大は、小百合さんが置いておいてくれた塩を取ってスイカに振りかけながらむしゃむしゃと食べている。
知香ちゃんも大と同じく豪快に口に入れていた。
僕はそんな2人の勢いに圧倒されて、おもわず見入ってしまう。

「トーマくん、スイカ嫌いなの?」

僕の視線に気付いたらしい知香ちゃんが不意にスイカから目を離して首を傾げた。
慌ててかぶりを振ると隣に座っている大まで僕を見やる。

「何だトーマ…スイカ食べた事ねえのか?」

「そ、そんなわけないだろう!あるさ、スイカくらい」

何だか恥ずかしくなってしまった僕は2人から視線を逸らした。
そうして息を吸ってから意を決してスイカにかぶりつく。

「おー、いい食いっぷりじゃねーか」

大は楽しそうに笑いながら同じようにスイカを食べている。
ノルシュタイン家の息子ともあろうこの僕がこんな下品な食べ方をしているなんて、家の者が知ったらさぞ嘆くだろうな。
でも、こんな食べ方でも案外おいしい。
僕は口の端から滴るスイカの汁をハンカチで拭いながら夏の美味をいっぱい味わった。
氷の中で冷やされていたからとてもおいしい。
ガオモンにも食べさせてあげられたらいいんだけど…。

「あー、うまいうまい」

聞きなれた声がしてそちらを向くと、大の隣にアグモンが座っている。
いつのまにデジヴァイスから出てきたのだろうか。
アグモンは大の手の中にあるスイカを口に入れてしまうと満足そうに笑った。

「ごちそうさまー」

「ごちそうさまーじゃねえぇッ!!俺のスイカー!」

「…子供みたい」

どたばたと追いかけまわっているアグモンと大を見て、知香ちゃんが呆れたように呟く。
同感。
僕は少しだけ知香ちゃんに近付いて苦笑した。
すぐ隣に僕がきたのを感じたのか、知香ちゃんは顔を上げて大によく似た大きな瞳を僕に向ける。

「ねえトーマくん、今日は泊まらないの?」

「…え?」

「大にいちゃんといっしょにいたいんでしょ?」

「ちょ…知香ちゃん!からかわないでくれ」

知香ちゃんのいたずらな顔は本当に大のそれにそっくりで、僕はそれ以上言い訳することができなくなる。
スイカを手に黙ってしまった僕を見て、知香ちゃんが少しだけ身を乗り出した。
後ろでどたばたを繰り返している兄たちには見向きもせずといったようなふうで。

「ねえねえ、お母さんに言ったげるよ?トーマくんが今日泊まるって」

「い、いいよ」

「夕飯卵焼きなんだけどー…卵焼き嫌い?」

「…………好き」

「なら泊まろうねー?」

「…はい」

僕はうまく知香ちゃんに丸め込まれてしまった。
いつからこんなに単純になってしまったんだろう。
おもわずため息が出る。
すると、もう喧嘩は終わったのか背中に温かな感触がした。
顔を上げる前に、誰かが僕の背中を強く抱きしめる。

「トーマ、マジで今日泊まんの?」

「…っ…知香ちゃんのいる前で抱きつくな」

僕は背筋を伸ばしてそう言うと、首筋の近くに顔を寄せた君はご機嫌そうに笑った。
こいつにはどんな理屈も通用しない。
だから余計に頭がごちゃごちゃになりそうだった。

「いっそ俺の嫁さんになっちまえよ」

ほら、また理解不能なことを言う。
大は誰にも聞こえないくらいの小さな声で僕の耳に囁いた。
ぞくぞくとした可笑しな感覚が僕の背筋を這い登る。
妙に熱い君の手さえも、いつもと違って感じる。
僕はスイカを落としそうになりながらしっかり握って、顔を大へと向けた。
こんなに至近距離に顔があったのかとおもうと、恥ずかしい。
大はどこか大人びた顔をして僕を見つめている。
その顔は、すごく優しい。
僕は大の唇にキスをした。
押し付けるだけの、簡単なキス。

「…まだ14歳だから無理だよ」

唇を離す瞬間そう言ってやると、大の顔が真っ赤に染まりあがった。
面白いくらいに赤い。
僕は大の顔に見惚れながら、おもいだした頃に吹き出した。
口を押さえた大が僕を見てごにょごにょと何かを言っているけどよく聞こえない。
僕はすっかりぬるくなったスイカを口にすると、大に視線を合わせて笑った。

















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めずらしくエロなしのマサトマですー。