「マスター」
ああ、どうしてこんなことになったんだろう。
僕はただ科学の力を平和のために使いたかっただけだ。
こんなことになるなんて予想もしなかったのに。
「…大丈夫ですか、マスター?」
「え?う、うん」
誰もいない自室の中で、暑さのせいか軽い立ちくらみを起こしてふらついてしまった僕を支えたのは、僕より少し低めの身長をした少年。
声も姿も僕が知っている仲間の姿だ。
それなのに君は。
「ありがとう、ガオモン」
君は僕にとって、もっとも近い存在だった。
ことの発端はいけない探究心からだ。
僕のこの頭脳がどれほど素晴らしいのか試してみたくなった。
そうして、数日間自室に篭ってやっと完成したのは緋色の薬。
それを自慢げに見せびらかしてしまったのが間違いだったんだ。
おなじチームの、単細胞馬鹿は僕からそれをもぎ取ると人体への悪影響なんか考えもせずに飲み下してしまった。
結果…彼は僕の大事なパートナーと精神が入れ替わってしまったんだ。
よりにもよってあんな奴と。
「…すまない、僕のせいだ」
僕は目を細めて視線を逸らした。
ガオモンであってガオモンでない君は釣り目がちの目をきつく細めて賢そうな顔をしている。
あんな奴の顔でもこんな顔ができるんだ、なんておもうと何だかドキドキしてしまってまともに顔が見られない。
すぐ傍にあるぬくもりも匂いも僕の知っている者だ。
けれど精神は僕に忠誠を誓っているパートナー。
僕は彼の顔が見られなくて目を伏せる。
でもそんな事はお構いなしというようにガオモンの手が僕の顎を掴んだ。
すぐ傍に僕の知っている者の匂いがする。
大門大。もしも本当に僕が彼に見つめられていたのだとしたら僕は…。
「…マスター、大の事を考えているんですか?」
「…うん」
ガオモンの体が僕を抱き寄せた。
大好きな人の匂いだ。
それでも絶対、本人に知られてはいけない気持ち。
知られないように普段は何とか胸の内にしまいこんで、気がつけば奴へ悪態ばかりついている。
きっとあいつも僕がこんな気持ちを秘めているなんて知らないだろう。
僕は胸の辺りを手で押さえると、ガオモンの肩に顔を埋めた。
「…今だけ、マサルって呼んでも構わない?」
「どうぞ」
ガオモンの気持ちは分からない。
でも僕は、好きな人間の姿をした君が僕に触れているってだけで気が変になりそうだった。
僕はガオモンの背に腕を回して控えめに抱き寄せる。
「マサル…好きだよ」
普段ならば絶対に口にできない言葉。
プライドが先回りしてしまって、あんな奴に僕が愛の言葉を吐くなんて…とおもうと我慢がならなかった。
けれど今の君は君じゃない。
どんなことだって言える気がした。
「マスター…」
ガオモンの手がしっかりと僕を抱き寄せる。
腰に回された手が、おもむろに引き上げられていくのを感じた。
ぞくりと背筋に甘い刺激が走る。
僕はガオモンの背に軽く爪を立てた。
「…何を…するんだい?」
それは咎めるような声じゃなくて、単純に答えを求める言葉だ。
僕はその行為を知っている。
だって僕は博士号を持つ天才児だ。
ガオモンがしようとしていることくらい分かってる。
けれど、口に出さなきゃ落ち着かなかった。
背中の手が素肌へもぐりこんでくる。
それは大の手なのだとおもうと、切なさで気がおかしくなりそうだった。
「マスターは、ずっと大にこうされたかったんでしょう?」
いつの間にかソファに寝かされた僕は、ガオモンがそう言うのを聞いた。
ガオモンの目は、大のものだ。
僕の大好きな大。
けれどガオモンの気持ちは…?
「私は、マスターが喜んでくれるなら何でもします」
ガオモンはそれだけ言って無邪気に笑うと、僕の私服を一気に胸元まで引き上げた。
シャツの中には何も着てない。
今日は暑いから1枚しか着ていないんだ。
だからすぐにガオモンの熱い視線を感じた。
恥ずかしいよ。
僕は強く目を瞑って顔を逸らす。
同時に、胸元に吐息がかかった。
それも全部、大の吐息なのだとおもうと変な気分でいっぱいになる。
ガオモンの唇が僕の胸の突起を含んだ。
「…っふ…う…」
僕は鼻にかかった声を上げてガオモンの背に腕を回す。
まるで僕の快感を引き出すように、ガオモンはじっくりと胸を責めていく。
それでも2人しかいない部屋には水音がよく響いた。
僕はつま先を突っぱねながら身を捩る。
「ガオモン…はぁ…あっ…そんなことしても何も出な…んんっ…」
ちゅうちゅうと突起を吸い上げてくるガオモンに、僕はたしなめるように言った。
それでも胸の先から痺れてくる快感には逆らえない。
僕はシャツを捲り上げられた格好のまま、ガオモンの身体を強く抱きしめていた。
自分でもびっくりするくらい、甘ったるい声を上げて僕はガオモンに快感の続きをねだる。
そうすると、ガオモンは「大と呼んでください」とだけ言って行為を再開した。
この行為を、総て大だとおもえと言うんだろうか。
どうしてガオモンは僕のために、そこまでしてくれるんだろう。
「はぁ…あふ…マサル、ん…くっ…はぁ、あ…痺れそ…だよ…」
衣擦れの音が聞こえる。
僕は、ガオモンの手の中に僕のズボンが握られているのを目にした。
やけに下肢がすーすーする。
それがなぜなのか、確かめるのが恥ずかしかった。
ガオモンの手が僕の両足を掴んで高く掲げる。
まともな抵抗もできずに、僕は恥ずかしいところをガオモンに晒していた。
胸への刺激だけで半勃ちしてしまったものを見て、君はくすりと笑う。
それが本当に、大が笑っているように見えて恥ずかしかった。
「…舐めてもいいか?」
ふと、ガオモンの声色が若干変化する。
すっかり快楽に翻弄された僕は、そんなこと気にも留めなかった。
ゆるゆると頷いて、少しだけ笑ってみせる。
「…優しくするんだよ、マサル」
ガオモンに言うように、けれども大へ忠告するように言ってやる。
愛しい姿をした君は優しく笑って、それを口にした。
途端に、全身を貫くような快感が襲いかかってくる。
僕はソファに顔を埋めてかぶりを振った。
ガオモンの口は、僕のものの先端だけを口に含んでわざとらしく淫靡な音を立ててくる。
その音が直に響いてきて、僕は強く指を噛んだ。
「あう…ふあ…あ、あ…音、やめ…ひぐ…っ、んん…そんな、に…マサルっ…」
僕は何度もかぶりを振りながらガオモンの愛撫に応えた。
マスターベーションくらい知らないわけじゃない。
時折こうして、マサルのことをおもいながら欲望を開放する事はある。
けれど自分の手とは比べ物にならないほどの快感に、失神しそうになった。
「んふ…ひ、マサル…あっ…きもち、いっ…はうっ…んくぅ…」
「トーマはやらしいな、俺にこうされるの…いつも想像してたのか?」
体の下から声がした。
もう、彼がガオモンなのか大なのか分からない。
僕はただ何度も頷いて快感の続きを求めた。
ガオモンの…いや、大の口元がゆっくりと上がっていく。
僕のものを口に含まず、舌だけでれろれろと舐めながらいつの間にか愛撫されていた後ろのつぼみを軽く刺激される。
ぴちゃぴちゃと響く水音やくぐもるような声、その総てが僕の全部を刺激した。
僕はその快感から逃げるように身を捩じらせて大きく喘ぐ。
気持ちよすぎて壊れそうだ。
「なぁ、トーマ…入れてもいいか?俺もう我慢できねぇんだけど」
「ふ、ぁ…」
僕は大きく喘ぎながら大の声を聞いていた。
大の目は、ぼくの知っている瞳の色をしている。
信じたくはないが、まさかこいつは大門大本人なのか?
ガオモンと入れ替わったのが演技なのだとしたら、騙されたという気持ちと、あの薬は有害ではなかったのかという安堵感が押し寄せる。
僕が黙っている事に気付いたのか、大は頭をかきながら言いにくそうに唇を尖らせた。
「わ、悪かったよ…しょうがねぇじゃん。こうでもしねーと…お前、俺とマトモに話してくんねぇし」
拗ねたような声。
大はどこか照れくさそうに視線を逸らしてしまう。
君よりもっと恥ずかしいのは僕だ。
僕は脚を広げて君に恥ずかしいところを晒した上に、君の事をだらしなく呼んでいたんだぞ?
まるで、慣れているみたいに。
「…ガオモンは…?」
「俺ん家で知香に捕まってんじゃねえか?心配いらねぇよ」
「……」
「悪かったってばー、許してくれよ」
僕が黙っていることに気付いたのか、大は心底申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。
人を騙すような行為は彼がもっとも嫌う手段。
それを使ったということは、そうまでして僕の気持ちを確かめたかったということなのだろうか。
だとすると、君の気持ちは…。
「マサル、教えて欲しい。…君は…僕の事を…」
僕の声はすぐに止んだ。
頭の上で、僕の大好きな大が真面目な顔をして僕を見ていることに気付いたから。
どうしてこんな理知のある顔をするんだろう。
答えなんかどうでも良くなってしまうじゃないか。
そんな僕をよそに、大はふっと笑って僕の髪を撫でた。
「好きだぜ。トーマのこと」
僕の全身に染みこんでいきそうな甘い声。
そんな優しい笑顔を見ていると、何だか泣きたくなってしまって僕は大の背に強く腕を回した。
押し付けるようにキスをして、自分の気持ちを確かめる。
唇が触れ合う瞬間、胸が大きく高鳴るのを感じた。
精一杯の気持ちをこめたキスをして唇を離すと、僕は大の背を強く抱いたまま少しだけ笑ってやる。
「なら…僕を騙した事は帳消しにしてやる」
そう言って笑うと、君は嬉しそうな笑みを返してくれた。
大好きな唇が「愛してる」と動く。
僕は古風な思考なのかな?それだけで嬉しくなってしまって頷きを返した。
まだ、驚きと恥じらいで内心ドキドキしているのが少しだけ憎らしい。
だから絶対に、この気持ちが収まるまで離してやるもんかとおもった。
それは君も同じみたいで、僕を強く抱きしめて照れくさそうな安堵のため息を吐いている。
僕は愛しい者の体温を感じながらゆっくりと目を閉じた。
目を開けたときも、そこに君がいることを確信して。
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あまーなマサトマですー。