「ようこそ、ノルシュタイン家へ」

と言っても本家ではないけど。
僕はそう付け足して笑った。
大きなスポーツバッグを肩から提げた君はしげしげと天井を眺めている。
ある意味、デートというんだろうか…僕は自宅へ恋人を招待した。
僕の恋人大門大、彼の手にしているバッグの中身は容易に想像が付く。
大方、着替えとタオルが入っているんだろう。
僕は大を誘導するように先に歩き出した。

「…アグモンはどうした?」

「…それを言うならガオモンはどこだよ?」

静寂。
僕は少しだけ振り返って大を見た。
大は両手をひらひらさせて、デジヴァイスは持ってきていないとのジェスチャーをしてくれる。
つい、お互いに微笑んでしまった。
先週は大門家でずいぶん世話になった。
水風呂ではしゃぎながら、「今度は僕の家においで」なんて言ったために、僕は大を家へと招待したのだ。
大は感嘆の声を上げながら壁にかけてある肖像画やツボなどを見てはいちいち珍しそうに目を丸くしている。
その様子が面白くて「転ぶよ?」などとからかった。

「大、今日も暑かったね。あそこがうちのプールだよ」

僕はおもむろに部屋の扉を開けると、奥に広がるプールを指した。
ゆらゆらと天井に水の光を映し出しているそれは、見ているだけで涼しい気分になる。
大は真っ直ぐにプールへと駆け寄るとめいっぱい伸びをしてから屈伸を始めた。

「マサル…何をしているんだ?」

「準備運動!お前もやれよ」

大は上着を脱ぐと、何やら上着の中からペンギンの形をした浮き輪と水着を取り出して満足そうに笑っている。
というか、ペンギンって…。
僕は、大が必死にペンギンの浮き輪に空気を入れているのを見ながらずっと羽織っていたバスローブの帯を解いた。
大を出迎える前にシャワーを浴びていた僕としては、体が火照っていたから早くプールに入りたかった。
バスローブが足元におちる。
ぷしゅう、と変な音がして振り返ると、大が浮き輪の空気を潰して僕をじっと見つめていた。
正確には、僕の身体を見ている。
ありえないくらい真っ赤になっている大が可笑しくて、僕はゆっくりとプールの淵へと歩み寄った。

「僕の泳ぎをごらんあれ?」

振り返ってそう言うと、大は返事もせずにぽーっと僕を見ている。
僕は笑みだけを返すとすぐにプールへと飛び込んだ。
飛び込む瞬間、プール独自のの匂いが鼻をつく。
僕はゴーグルもつけずにプールへと飛び込むと魚のように身をくねらせながら水の中をたっぷり堪能した。
一通り泳いで顔を出すと、海パンに着替えた君がプールの中へ入ってきたところだった。
引き締まった体とか、どこか大人びた顔立ちが目に入る。
どうしてこんなにドキドキするんだろう、僕は。

「トーマ、えーっと…なんだ…」

大は何やら照れくさそうに視線を逸らしながら頭をかく。
そうしておもむろに僕の傍へやってくると、僕の身体をじっと見て言った。

「すげー綺麗」

「…っ…何を言ってるんだ!」

綺麗なのは君のほうなのに。
僕はおもわず照れ隠しにプールの水を大へとかけた。
それが恥ずかしさからきているものだと大も分かったんだろう。
からかうように笑って僕に水をかけた。
確か、君の家の水風呂でも同じ事をしたよね。
こうして水をかけあっていたら、互いに変な気持ちになって…。

「へへ…隙あり」

「あ…」

大の顔がすぐ傍に迫る。
僕は息を飲んだ。
水の音が止む。
静かな波紋が辺りに広がっていった。
僕よりもずっとあったかい大の手が、僕の頬を撫でる。
そうされると、もう僕の思考はなくなってしまったも同然。
ぶつかるように大へと口付けると、君はゆっくりと僕の背に腕を回して強く抱いてくれた。

「んっ、んふ…マサル、熱いよ…」

抗議とはほど遠い僕の声が水を震わせていく。
ちゃぷ、ちゃぷ。
僕は大の腰に脚を絡めるように身体を寄せる。
唇を吸いながら、大が笑った。

「…ずいぶん大胆じゃねーか」

大の低い声に、おもわず感じてしまう僕がいる。
もっと欲しい。足りない、足りない。
君が欲しい。

「マサル、んぅ…」

僕は必死に舌を絡めながら大を求めた。
大好きな手が、僕の腰やふとももを撫でていくのが気持ちいい。
すっかり水で濡れた髪を手で撫でて、僕は君を呼ぶ。
君も僕を呼びながら、同じようにして舌を絡めてくれた。
もっともっと、この永遠が続けばいいのに。
そうおもっていた時だ。

「あにきー」

「マスター!」

ドタバタと聞こえてきた足音と、聞きなれた声。
僕は息を詰まらせて、大は思わず両手を上げて離れた。
扉の鍵を閉め忘れたか…と少しだけ後悔するが、それぞれのパートナーたちがじっとりと据わった目で僕らを見ている。

「あにきひどいぞぉ、俺の事のけものにしやがってさぁ」

腰に手を当ててアグモンが言う。
アグモンはヤキモチと言うよりも、のけものにされたことが我慢ならなかったようだ。
僕のパートナーはと言えば、アグモンのように拗ねた顔をしながら黙っている。
ゆっくりとガオモンの傍まで泳ぐと、ガオモンは小さい口を少しだけ動かした。

「私もプール…入りたいです…」

それだけ言って真っ赤になってしまう。
僕と大は思わず吹き出した。
そうして、ガオモンに手を伸ばしかけると不意にアグモンがガオモンの背に飛びつく。

「だったらみんなで入ればいーだろー?それっ」

「わっ、ちょっ…アグモ…だめだっ、そんなことしたら落ちる…!!」

飛びつかれてバランスを崩したガオモンは、パタパタとグローブを嵌めた手を動かしていたがすぐに勢いよくプールへと落下した。
僕らが見守っていると、ぶくぶくと泡を吐きながら水面にガオモンとアグモンが顔を覗かせる。

「大丈夫かい、ガオモン…」

ガオモンの額に巻いているバンダナが目にかかってしまっている。
僕は、濡れてぺったりとしてしまったガオモンの体毛を撫でながら言った。
僕の腕の中でこくんと頷いたガオモンは、すぐにアグモンへと目を向ける。
アグモンは呑気に大と水かけを始めていた。

「ぐるるる…アグモン…君と言う奴はっ…ガオラッシューッ!!」

「わははーっ、つめてー」

「逃げるなーっ!ローリングアッパー!!」

「きかねーよーん!」

ぴょんと跳躍したガオモンは、すぐに水面に潜って鉄拳入りの水しぶきをアグモンに与える。
かなり真面目に怒っているガオモンとは反対に、アグモンは楽しんでいるように見えた。
その様子を微笑ましく見守っていると、不意に背後からつうっと背筋を撫でられた。

「んんっ!?」

慌てて振り返る僕の後ろにはいつの間にか大が立っている。
大はちらりと、まだ格闘している2匹を見てから僕の腰へと腕を回した。
そうして、おもむろに唇を奪ってくる。
甘くて優しい口付けだ。
少し照れくさかったけど、僕も同じように大のキスに応えた。
遠くからばしゃばしゃと音が聞こえる。
横目で見ると、アグモンがガオモンに圧し掛かって反撃しているようだ。
それでも2人は嬉しそう。僕の目から見た感想だけど、きっと大もそうおもっているに違いない。
案外彼らも僕らみたいに幸せ者なんじゃないかとおもいつつ、僕は体の力を抜いて行為の続きを促すように唇を強く吸ってやった。

















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マサトマ+アグガオですー。