じりじり。
照りつけるような暑さの下で少年が伸びていた。
お世辞にも綺麗とは言えない。僕も彼も泥だらけだ。
おもむろに空を仰ぐと、高い土の壁と何かで削れたような痕が残っている。
僕らがここまで落ちてきた痕だ。
高い壁の上には地上が見える。
僕らは地面の隆起した間に転落して、そのまま動けずにいる。
しかも転落したのは僕ことトーマと…この負傷している男のみ。
それもこれもデジモンの仕業だ。
「く、う…」
すぐ傍で小さな呻き声が聞こえた。
泥だらけになってしまっている隊服の隙間から血が出ている。
僕はそっと彼の手を取った。
「痛むか」
「…痛くねーよ」
茶髪を肩に垂らしている目つきの悪い君はため息混じりにそう言った。
二の腕から血が垂れている。
さきほど、見たことも無い植物型のデジモンに腕を強く噛まれた時から彼は痛みに耐えるように腕を下ろしていた。
もしも毒が回っていたりしたら大変だ。
よくよく見ると、彼の指先は白くなっている。これはやはり毒…なのだろうか。
僕はジャケットを脱いで彼の手を取った。
「マサル、腕を出せ。毒が回らないように腕を縛って、それから…」
「あー…?いらねえよ、触んな」
額に汗を浮かせてそう言う大は、歯を食いしばった様子で言うと乱暴に手を振り払う。
少しだけムッとした。
こんなところで足止めを食って、いらいらしているのは大だけじゃないのに。
僕は少しムキになって大の腕を強く握り締める。
「毒で痺れているんだろう?毒が全身に回ったら手に負えなくなるぞ。血も止めなくちゃいけないし、それに…」
「うるせぇ!!」
地盤を揺らすほどの大声で大が怒鳴った。
そうして、ふらふらと立ち上がって壁に寄りかかる。
汗で張り付いた髪の毛が大の口元にかかっているのが見えた。
虚ろな目をして、痛みに耐えるようにきつく眉を寄せている。
とても、重い空気だ。
「…ごめん」
僕はゆっくりと大から腕を下ろしてその場に座り込む。
何となく居心地が悪くて、少しだけ距離を置いた。
大はまだ、息を荒げながら壁に寄りかかっている。
軽く曲げられた膝はガクガクしていて、ひどく苦しそうだ。
それなのに、助けはいらないという君。
何て強情なんだろう。
君に嫌われたくない僕は強引に手当てをすることもできなくて、ただ俯くだけ。
「…なァ、トーマ」
「ん?」
君はふと掠れた声で僕を呼ぶ。
少しだけ、黒い影が動いた。
目を向けると、君はガクンと頭を落としてふらついているのが見える。
おもわず支えようと手を伸ばすと、すぐに叩き落された。
髪の間から覗く大の目はひどく据わっている。
僕は僅かに後ずさった。
一歩僕が逃げるごとに、君は一歩足を進める。
何だっていうんだ。
「…マサル、一体…どうし…」
僕は壁に背を付けて大を見やった。
足を止めていた大はゆっくりと僕に近付いてくる。
どうして止まらないんだ。
どうして近付いてくるんだ。
それも、ひどく苦しそうな顔で。
「トー…マ」
大はつりあげた瞳を僅かに細めて僕の名を呼んだ。
ピクッと大の口元が震える。
僕は背を壁に擦り付けながら大を見守った。
今の大は普通じゃない。
喉奥から唸り声を上げていて野獣のようだ。
「なァ…」
大は不意に僕の首筋に顔を寄せると、歯を見せて低く呟いた。
汚れた手が僕の腕を掴む。
その手は震えていた。
次第に息を荒くして、僕に寄りかかるようにして身を寄せている。
おずおずと背中を抱くと、大が苦しそうに身を堅くした。
「さ…わんじゃねえ」
「どうして」
「ど…うして、も…だ。良いか、動くんじゃねェぞ」
おもむろに顔を僕に向けた大は上気した顔を向けた。
その顔は、どこか欲情しているようなとろんとした顔だった。
どうしてそんな顔をするのかは分からない。
大は、僕の身体を抱きしめて軽く下腹部同士を当てがった。
「っう…ま、マサル?」
大の下腹部は堅く腫れ上がっている。
慌てて肩を抱くと、キツい目で睨まれた。
触るなと言うことなのだろう。
君は髪を頬に垂らしながら口を開く。
「あの変なデジモンに噛まれてから…変なんだよ…。体、熱くて…どうしようもなくって…」
大はそっと身を離すと、すぐ後ろの壁に寄りかかる。
僕らは向かい合った格好のまま互いを見つめた。
赤いタイツの下腹部はふっくらと盛り上がっていて、それは彼が高ぶっている事を意味する。
大は面倒くさそうにジャケットを脱いで上着を捲り上げた。
すっかり尖ってしまった突起が僕の目に晒される。
大の目がキュッと細められた。
「…我慢、できねェんだ…。笑うなよ。誰にも、言うんじゃねェぞ…」
大はそう言って僕に念を押すと、僅かに背筋を伸ばして長い長い吐息を吐いた。
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トーマサにハマりました記念連載1話目(笑)