「…お前が着る浴衣って、何か似合うな」
しみじみとそう言う君に見惚れながら僕は頷いた。
紺色の浴衣を着て、いつもは縛ってる髪を下ろしている君は何だかいつもより艶めいて見える。
可愛くなくて生意気なだけなのに。
僕は熱い手に引かれたまま、屋台の間を歩いていた。
人ごみが蒸し暑い、夏の夜。
町内で祭があるからと恋人に誘われた。
僕は大学の教授に連絡することがあるからと断りかけたが一方的に約束をさせられて今に至る。
教授には後で謝っておこう。
「トーマ、お前たこ焼きとやきそばどっち食いたい?」
「…君はたこ焼きなんだろう?」
「あたり!よく分かったな」
君は足を止めると、おおだこを売っている屋台の前で立ち止まった。
ほかにもたこ焼き屋は出ているし、ここが美味しいとも限らない。
500円という高い値段に僕は唸った。
それを見ながら恋人が財布を開ける。
「おっさん、たこ焼き2つ!」
そう言って千円札を出した君は僕を見て「お前も食うだろ」と言った。
その時、人ごみに肩を押されて体が前につんのめる。
大は僕を抱きしめるようにして引き寄せた。
「あぶねーな…平気か?」
「あ、あぁ…」
慌てて礼を言うと、間近に君の顔がある。
少しだけ身長の低い君は僕を見上げるような形になっていて、大きな目が瞬いていた。
綺麗な目だとおもう。
普段は見られない鎖骨や胸元が目に入った。
僕の視線に気付いたわけではないだろうけど、大はほんの少しだけ照れくさそうに体を離す。
そうしてたこ焼きの入った袋を受け取ると、僕の手を引いて人の流れに逆らうように歩き出した。
絡められた指が僕の手を強く握っているのが嬉しい。
大は薄暗い神社の境内までやってくると、賽銭箱の隣に腰掛けた。
そうして無邪気に僕を手招く。
「来いよ、一緒に食おうぜ。俺もう腹ぺこ」
大は僕の手を強く引いて隣に座らせると、あつあつのたこ焼きを渡してくれた。
以前、ジュースを奢った礼だとかでたこ焼き代は払わなくてもいいらしい。
僕は礼を言ってたこ焼きを口にした。
あつい。とろとろの生地の中に大きなタコが入っている。
「マヨネーズつけるとすげー美味いんだよなぁ…お前もやってみろよ」
大はおまけのようにつけられていた小さなマヨネーズの袋をあけてたこ焼きにつけている。
僕も真似する事にした。
おもったよりも大きなタコが僕の口の中で踊る。
出来立てだから新鮮で、紅生姜の味がよく利いていた。
数個食べただけで腹いっぱいになるくらいのおおだこを平らげると、大は大きく背伸びをしてから懐の中に入れていた扇子でバタバタと胸元を扇いだ。
「食った食った…やっぱあちーな…」
浴衣の合わせを引っ張って風を送り込んでいる大の胸元からちらりとピンク色の突起がのぞく。
僕はおもわず目を逸らした。
浴衣ってどうしてこんなに開放的でえっちなんだろう…。
すぐ手を伸ばせば、君の肌に触れてしまうくらい開放的だ。
僕は目を瞑ってたこ焼きの入っていた蓋を閉じて輪ゴムで縛りながら口を開ける。
「浴衣って、昔の人の下着みたいなものだったそうだよ。それを今外で着ているなんて変な感じだね」
「へえ…そうなのか?知らなかった」
大は僕の言葉を聞いて感心したように頷くと、浴衣の合わせをパタパタ動かす。
視界の端に、あのピンクが見え隠れした。
僕はそれさえも目に入れないように視線を逸らす。
隣で大が動いたような気がした。
「トーマ…何かエロい事考えてねえ?」
「そんなこと…うっ」
大の手が乱暴に僕の頬を掴んで無理やりに自分のほうを向かせた。
ぐき、と小気味のいい音がする。
半場涙目になりかけた僕を見ている大の瞳は呆れるくらい真面目だ。
その目が、不意に細くなっていく。
僕はおもむろに大に向き直るよう座りなおした。
大の目が僕を捉えて離さない。
「トーマが俺と同じこと考えてるならさ…俺、頼みがあんだけど」
ようやく大の瞳が僕から離れた。
大は口の端を上げて勝気に笑うと、ゆっくりと腰帯を解いて浴衣の前を開ける。
よく引き締まった体が僕の前に晒された。
僕が少しだけ浴衣をずらすと、あのピンクも見える。
外気に触れたせいか上を向いて尖っていた。
「…セックスしろって言うのか?」
僕が少しだけ呆れたように言うと、大は唇をへの字に曲げる。
本当は、誰より一番分かってた。
君が僕を欲しがっているということに。
時折向けられる熱い視線がそれを求めていることは知ってたんだ。
しなかったのは…僕が意地悪で卑怯な奴だから。
「…しろよ…いつも、みたいに…」
君は自分から懇願するほどに我慢がきかなくなっているみたいで、ぽつぽつと台詞を読むような声で言った。
僕と君は恋人だ。
好いている者同士ならセックスをするのが自然の流れ。
だけど、最近の僕はあまりにも忙しくて彼をゆっくり抱きしめてやる暇はなかった。
その間、僕を待っていた大はどんな気持ちだったんだろう。
自分の欲を解放する術さえまだ分からなくて、たった一人で悶々としたまま僕を事を考えていてくれたんだろうか。
そうおもうと、断る理由なんか考えつかなくなってしまった。
「ん…ふぁ…」
あわせた唇から小さな吐息が聞こえる。
久しぶりの、キスだった。
どうせだからたくさん味わおう。
僕がついばむようなキスを繰り返すと、君はやにわに僕を抱きしめてすがりつくように舌を伸ばした。
焦らさなくていいからもっとよこせと言っているように聞こえる。
君はそういうやつだもんな…よく知っている。
「んんっ、く…あふ…」
僕は大の舌を短く吸い上げながら、はだけたままの浴衣へ手を伸ばす。
ピンク色の突起に指を絡ませると鼻にかかった喘ぎ声が聞こえた。
君はここを弄られるのが大好きなんだよな、まだ片手で数えられるほどしかセックスしたことないけど、それだけは知っている。
男同士の恋愛なんて僕が初めてなんだってことも、恋愛が少しだけ怖いっていうところも。
少しずつだけど、分かってきた。
「マサル、ここ…触られるとどんな気分?」
僕はゆっくりと口付けを解いて大の突起を掌で転がした。
口の端に銀の液が伝う。
大は虚ろな目を向けて肩を震わせると、軽く目を瞑ってかぶりを振った。
「くすぐってぇ…ぴりぴり、する」
「やめてほしい?」
「もっと、して欲しい…」
大からの了承を得た僕は、そこに顔を寄せて短く吸い上げた。
突起が僕の唇に吸い付いてきて気持ちいい。
大の匂いが心地よかった。
汗でしっとりしている肌を撫でながら僕の手が大の下腹部へ下りていくと、条件反射のように大の体が震える。
そこは、僕を待っていたのか少しだけ頭をもたげて自己主張をしていた。
早く触ってほしいのかな。
そうおもいながら大を見やると、余裕がなくなってきたのか小さく息をしながら僕の腕に縋り付いている。
「…焦らされたく、ねぇよ…もっと、もっと欲しい…」
分かっているくせに、と大の目が僕を捉える。
その目に弱い僕はお望みどおりに焦らさないで大のものを手にした。
先端の窪みを指でこすってやりながら大の名前を呼ぶ。
大は僕の浴衣を強く握って荒い息をついた。
指でそれを弄りながら、もう片方の手を大の後へ伸ばす僕に気付いたのか彼は僅かに体を堅くする。
それでも僕が笑いかけると、少しだけ笑みを返してくれた。
「はぁ…っ、雨…?」
大の声に、僕は顔を上げた。
いつの間にかしとしとと小雨が降り始めている。
僕はそっと大を屋根の下まで誘導した。
大の体をそこに寝かせると、落ち着きのない君は身を捩って祭の灯りを見やる。
「…俺、トーマとセックスしてるんだよな…」
「うん…そう」
「へへ…」
大の笑みとともに、僕は彼の唇を塞いだ。
ゆっくりと緊張しているつぼみを解して、そこに僕のものをあてがうとくぐもったうめき声が耳に入る。
大の中へと侵入していく僕自身は、ヒクヒクと収縮する幼い部分を突きながら体を寄せる。
耳に入るのは呻き声と雨の音だけ。
「はっ、ああっ…ぐぅ…と、ま…手加減、すんなっ…もっと…強く…」
大が大きく胸を上下しながら言う。
苦しいんだろう。
僕自身も強く締め上げられて快感よりも苦痛のほうが上回っていた。
そっと大の脚を肩にかけてやると、同時に良いポイントを擦ったのか呻き声が甲高い悲鳴に変わる。
僕はその声が好きだった。
何度も同じ場所を愛撫してやりたくなってしまう。
「加減なんか、してないけど…っ…?」
僕はゆっくりと腰を使いながら強がりを言った。
のんびりとした動きのほうが、彼の体にも負担はない。
それに、大の体を感じられて気持ちが良かった。
そう言うと、大は恥ずかしそうにきつく目を閉じてから大きな息を吐く。
体の力を抜こうとしてくれているらしい。
僕は大の頬を撫でながらひどくゆったりとした動きで彼の中を堪能していた。
きもちいい?
そうやって何度も聞きながら、できるだけそっと肌を撫でる。
君はそのたびにピクピクと肩を震わせて喘ぐんだ。
とても可愛い声で。
「トーマ…うう、ぁ…ぐ…はぁっ、お前はどうなんだよ…きもちいいのか?」
「もちろん」
僕は照れくさくなって即答した。
その答えがが嬉しかったのか、大の頬が真っ赤に染まりあがる。
複雑そうに眉を寄せて、唇をへの字にしていた。
大の手が、探るように僕の背中に回る。
「…俺のことが好きって、言え。雨なんかに負けねぇくらいの声で…言えよ」
大は顔を伏せると首まで赤くして呟いた。
雨のせいで寒くなってきた体温を暖めるように、君は僕を抱き寄せる。
「好きだよ」
僕が囁いた声は雨に負けるような大声ではなく、雨に溶けて消えるような声だった。
大の耳朶に唇を寄せてもう一度、「好きだよ」と囁く。
君は僕を抱きしめたまま少しだけ声を震わせた。
怒ってるみたいに。
「聞こえねぇよ…そんな声じゃ…」
大の声は掠れていた。
恥ずかしそうに顔を伏せて、いつもよりずっと弱々しい声で言う。
そんな自分が情けないと言うふうにため息をつくから、僕はもっと言いたくなってしまって顔を寄せた。
今度は、「聞こえない」と誤魔化されないくらいの、大きな声で言ってやるとしよう。
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ちょっとヘタレなくらいのトーマ×男前気取ってるマサル、というかんじが好きですー!
そんなトーマサが書きたいんですがどこまで書いていいのかまだよくわからない(汗)