疲れ切ったパートナーを回復させる為にも、しばらく休養が必要だった。
それぞの仲間たちは皆パートナーを休ませながら傷ついたデジモンたちへ応急処置を行っている。
その中で1人だけ、自分のパートナーの姿が見えないことに気付いたアグモンは辺りを見回しながらこっそりとジュレイモンの結界から外に出た。
あまり遠くに行かなければギズモンたちに見つかる事もない。そう考えての事だった。
森の道を少し下ると、先に滝が見える。そこにパートナーは佇んでいた。
正確には、岩肌に腰掛けて滝の流れを見つめている。

「あにきー」

手を大きく振って声をかけると、兄貴と呼ばれたパートナーはゆっくりと振り返って少しだけはにかむ。
胡坐をかいて座っていた少年は肩までかかるとび色の髪を手で払うとつり目がちの目を向けた。
大人びた顔の作りをしているが、瞳は大きくまだあどけなさの残る顔立ちだ。
アグモンはパートナーの隣に腰掛けて言った。

「何やってんだ?滝なんかボーッと見て…あにきらしくねーぞ」

そう声をかけたアグモンは、大人びた顔をしたパートナーの頬を軽く抓る。
だがすぐに頬を抓り返されて根を上げてしまうアグモンを見て、少年はようやく笑った。
無骨な手で拳を作ってゆっくりと開く。

「精神統一ってやつをしてたんだ。滝の前で座禅組んでれば心が洗われるかんじがするだろ?そしたら力も手に入るんじゃねーかなって」

「ぶはっ、兄貴が精神統一?似合わねぇーっ…」

「笑うんじゃねーよっ、馬鹿!」

人が真面目にやってんのに、と口の中でボヤいたマサルは拗ねたように眉を寄せてから僅かに顔を赤らめた。
言われてみれば自分に精神統一なんて似合わないと気付いたらしい。
マサルは、少しだけ俯いて頬を指でかいた。

「…今の俺に必要なの、さ…力だけじゃねーんだ。煩悩を遮断する力っていうか…」

「煩悩?あははは…」

「だーから笑うんじゃねーっつってんだろ!」

すっかり調子を崩されたマサルは、アグモンから離れるように立ち上がると赤く染まった頬を背けた。
そんな瞬間に、アグモンはパートナーの拗ねたような顔も可愛いことに気付く。
背を向けているマサルは乱暴に岩肌へ腰掛けて肩を竦めた。

「…しょうがねェだろ…好きな奴の事考えたら煩悩だらけでどうしたらいいかわかんねェんだから」

ポツリと呟いたマサルの背中が妙に小さく見えるとアグモンはおもう。
風になびくとび色の髪が太陽の光に反射してきらきらと輝いていた。
パートナーの言う"好きな奴"が誰なのかは分からない。
もしかしたら、自分はもうマサルのきもちを知っているのかもしれないけど口に出すのはやめておこうとおもった。
ゆっくりとマサルの肩を叩いて背中を抱きしめてやると、大人しくマサルがアグモンへと体を預ける。

「わわ…」

体重をかけすぎて背中から倒れたアグモンに折り重なるようにマサルも身を倒した。
丁度下腹部の辺りにマサルの顔がある。
アグモンはよたよたと上体を起こしながら、後頭部をアグモンの下肢に乗せるように倒れているパートナーの顔を覗きこんだ。
怒っているかとおもいきや、マサルはきょとんとした顔をしてからいたずらに微笑んでくれる。
ああ、俺はやっぱりコイツが好きなのだとおもわせる瞬間だった。
アグモンは少しだけ身を乗り出して、パートナーのそんな顔を観察する。
見ているだけで色々な欲望がたっぷりと噴き出して来る。
きっとこれが煩悩とかいうやつなのだろう。
パートナーはそれを抑えようとしている。
…抑えなくても、いいのに。
アグモンはマサルの頬を軽く撫でるとそっと顔を寄せて口付けた。
少しだけ膝を立てたマサルが身を捩る。
首筋に茶髪をまとわりつかせて顔を背けたマサルは、つり目がちの瞳をキュッと細めた。

「…俺、おまえがおもってるよりもずっとスケベなヤツなんだ…。こんな事されただけで…」

マサルはその先の言葉を飲み込んで何かに耐えるように目を瞑る。
握られた拳が小さく震えていた。
―――パートナーは性行為を望んでいる。
そう察したアグモンは、マサルの上着に手をかけようとしたが小さく声を上げて手を引っ込めた。
今の自分は進化ができない。
デジヴァイスが壊れているから、進化することができないのだ。
大きな体でパートナーを抱きしめることもできない。
強い敵と五角に渡り合えないのは辛いけれどパートナーを大きな体で包むことができないことのほうがずっと辛かった。
この体のままでの性行為は難しい。
成長期のアグモンでは射精すらできないのだから。

「…あにき、煩悩を遮断したいってこのことなのか?」

返事は返って来ない。
だが、図星だったのかマサルは僅かに目を開いて顔を背けた。
アグモンは、声に出して暫し唸ると軽く両手を叩いた。

「…早く究極体にならなきゃな。あにきとえっちもできねーのはやだ」

「ちょ…トーマたちの前でそういう事言うなよ?俺たちがヘンタイみたいじゃねーか」

跳ね起きるようにして言ったマサルは、両手を地面に突いて身を乗り出すとそっと目を伏せた。
伏せられた睫毛が小さく震えている。
アグモンは、その仕草を口付けの合図と受け取ってマサルの体を抱きしめた。
ぶつかるように唇が重なると、マサルが苦しそうに眉を寄せてアグモンの背に腕を回す。
進化をしなくても熱烈な口付けは変わっていなかった。
むしゃぶるようにマサルの咥内を犯しながらそっと舌を吸い上げる。
息もできないほどの口付けに、マサルは内側のふとももをピクピクと震わせて艶めいた吐息を吐いた。
わざとらしく立てられたアグモンの膝がマサルの下腹部をいたずらにつつく。

「あ…くぅ…ばかやろ…っ…」

マサルは掠れた声を上げてかぶりを振った。
目尻に浮かんだ涙が少しだけ艶っぽい。
アグモンは僅かに喉を鳴らしてマサルの唇から首筋にかけて舐め上げた。
次第に変わっていく大胆な口付けにもマサルがおずおずと応え始める。
マサルは伏せ目がちにアグモンを見て、口付けをねだるように桃色の舌を伸ばす。
アグモンの手がそろりとマサルの上着に伸びたとき、慌てたようにその手がマサルに掴まれる。
マサルは、掴んだままのアグモンの手に口付けると照れくさそうに笑った。

「続きは…倉田の野郎をブッ倒してからな。周りが落ち着かねーとおちおちキスもできねーから」

おどけたように笑うマサルを見て、アグモンは僅かに不満げな表情を作って見せる。
それでも根は素直なアグモンは首を縦に振ってパートナーの言いつけをまもることにした。
おもむろに立ち上がると拳をグッと作って微笑む。

「よーし!絶対倉田をやっつけるぞー!そしたらご褒美もらえるんだろ?兄貴のキスとー、エッチとー…ご奉仕もいいなぁ」

「だからそういう事を大声で言うなぁーっ!」

すっかり調子を取り戻したマサルは拳でアグモンの胸を軽く殴る。
胸を押さえて満足げな笑みを浮かべたアグモンはそっと手を差し出して首をかしげた。

「へへ…じゃあ行こうぜ、みんなのところに」

激闘で受けた擦り傷を体のあちこちに見せているアグモンは愛嬌のある笑みを浮かべて笑った。
そんなアグモンを見ると、どうしても自分が守らなければというきもちになってしまうマサルは大きく頷いてアグモンの手を取る。
ゆっくりと立ち上がって仲間たちの元に向かう前にそっと口付け合ったのは、二人だけのひみつだ。


















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デジヴァイス崩壊後のアグマサです。擬人化?(笑)