「それーっ、水鉄砲手裏剣!」

「きゃはは…!ファルコモン、つめたい!」

ばしゃばしゃと涼しげな音が庭に響く。
空からはまだ明るい太陽の光が差し込んでいて、水面もキラキラ光っていた。
俺は長ズボンを膝まで捲り上げて、今日はたっぷりと遊んでやる為に長い髪も一本で後ろに縛って準備万端。
はしゃぐヤツらを見ながら、俺は額の汗を拭った。

「こらっ、まだ空気入ってねーんだからあんま飛び跳ねんなっ」

「くうき?」

俺が息を切らせながらビニールでできたプールに空気を吹き込んでいると、プールの中で水遊びしていたイクトが顔を覗かせた。
このプールは大型の滑り台がついたビニールプールで、俺みたいに少し大きな子供でも6人くらい入れそうな広さをしている。
だから今日は淑乃やトーマたちも呼んでプール大会を実行していた。

「僕の家の室内プールなら空気を入れる必要なんてないのに…」

やれやれと言わんばかりに白い肌を惜しげもなく露出したトーマが俺を見て呆れたような顔をしている。
既に淑乃はプールで知香と遊んでいた。
アグモンもララモンもプールの中。
つまりプールに入っていないのは俺と…

「ガオモン、おまえも入ってこいよ」

パートナーの様子をみまもっているガオモンだけだった。
ガオモンはどこか恥ずかしそうに俯いて、それから空気入れを指して呟いた。

「…私は水が苦手なんだ。だから…私が代わる。マサルも入ってきたらいい」

そう言ったガオモンは大きく息を吸うと、俺が掴んでいた空気入れに手をかけて息を吹き込んだ。
途端にぷくっと膨らんだビニールプールはじょじょに本来の形へと変わっていく。
むくむくと膨張したそれに栓をしたガオモンは少し疲れたように息をついた。
そんなガオモンを見てパートナーが両脇に手を入れるような形で抱き上げる。

「ま、マスター!?」

ガオモンが慌てたように振り返ると、トーマはいたずらに笑って自分の膝の上にガオモンを座らせる。
そうして軽く水を足の爪にかけてやりながら言うのだ。
絶対にパートナーが断れないであろう"天使の微笑み"を浮かべて。

「僕の膝にいれば怖くないよ。だから…一緒に入ろう?」

「い、イエス…マスター」

尻尾でプールの水を弾きながら恐縮しきったガオモンが頷く。
そのほのぼのとした光景が何だか微笑ましくて、俺は腕を捲りなおしてビニールプールの淵に足をかけた。

「よっしゃ、俺も入るぞー!」

服が濡れるのもお構いなしにプールへ飛び込むとイクトや知香の楽しそうな声が聞こえる。
水しぶきを受けてまともに水をかぶったガオモンを庇うようにしてご自慢の金髪をぐっしょり濡らしたトーマは不機嫌そうに俺を見ている。

「マサル、君は…」

「いーじゃんいーじゃん、無礼講ってやつで許せよっ、な?」

「何が無礼講だっ」

「まさるー!ぼーるあそびするぞ!」

トーマの言葉にかぶるようにしてイクトが俺の腰に飛びついてくる。
その手にはビニールでできたボールが握られていた。
散々遊んだのかくにゃくにゃになってしまっている。
俺はそれを取ると息を吸ってボールに空気を吹き込んだ。
みるみるうちに綺麗な球体を取り戻したボールを軽く弾ませると、それをほおりなげる。
水面に影を作るそれをレシーブで跳ね返したのは淑乃だった。

「これでも中学の時はバレー部の助っ人を頼まれてたんですからね、負ける気がしないわ。さー、トーマも知香ちゃんもアグモンもこっちにきなさい」

「あ、こら!アグモンまで…」

俺は圧倒的に有利となっている相手チームを見やった。
向こうにはトーマも淑乃もいる。知香もアグモンもガオモンもララモンも。
…ちょっと待て。ってことは俺のチームは…。

「まさる、ちーむ…すくなくないか?」

心配そうに言いながら淑乃たちのチームに入ろうとしているイクトとファルコモンが通り過ぎる。
俺は慌てて2人の首根っこを掴んで自分のチームに引き入れた。

「ちょ、おい!8対1にするつもりだったのかよ!?イクトとファルコモンは俺たちのチームな」

俺がそういうと、イクトは少し照れくさそうにはにかんでこくんと頷いた。

「う、うん…おれも、まさるといっしょのちーむ…が、いい」

髪がしっとりと濡れてちょっと女の子のようにも見えるイクトは不意に勝気な表情を見せて敵チームへと向き直った。
野生児たっぷりの眼差しで敵チームを見やったあと、跳ねるように飛んできたボールをポンと弾き返していく。
ルールはよく分かっていないらしいがボールを跳ね返す事だけは学んだらしい。
俺はイクトの髪をくしゃくしゃと撫でて腕を捲りなおした。

「よっしゃ、こっちには日本一の喧嘩番長が2人もいるんだ…負けるはずがねえっ!」

「おー!」

邪気なくきゃっきゃとはしゃぐイクトや、何だかんだいいつつ子供みたいにはしゃいでいる淑乃や知香、水が嫌いだと言いながらしっかりとトーマにしがみついているガオモンを見て自然と俺にも笑みが浮かぶ。
縁側では母さんがのんびりと俺たちの様子を眺めていた。

「遊びつかれたらスイカを切ってあげるからたくさん食べてちょうだいね」

母さんの言葉で一気に活気づく俺たち。
既にバレー大会と言うより水をかけたり、ボールを奪ってみたりそんな他愛のない遊びに変わりながらもたっぷりと夏休みを満喫していた。
おもったよりもずっと空に近い太陽の日差しがプールの水面をきらきらと反射させていく。
任務も戦いもない、久しぶりに晴れた休みの日の事だった。

















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マサイクチックなオールキャラですー。拍手お礼画面に使おうとおもってましたー。