「コウキ、ちょっと食べすぎではありませんの?」
赤い口紅をきらきらとさせながら日傘をくるくる回した女はそう言った。
バーベキュー味のスナック菓子をほおばりながら、俺はその声をシカトしてやる。
デジタルワールドの暑い日差しを遮るように、イワンが張ったテントは役立っているらしい。
テントのお陰でずいぶん涼しかった。
「はァ?うっせーな。アンタこそ化粧やめたら?」
「何故ですの?」
はちみつ色の髪を指で弄りながらユウガに言うお嬢様は目を丸くして首を傾げる。
俺はスナック菓子のカスがついた指を舐めた後、菓子袋を潰した。
そうして、アイスボックスの中に突っ込んでいたスポーツ飲料のキャップをあけて飲み干していく。
キンキンに冷やされているからサイコーに冷たい。
スナック菓子でからからに乾いた喉を潤すそれが食道を通って胃に入っていくのが分かるくらいだ。
俺はジュースから口を離しておもむろに立ち上がった。
「厚化粧してるとお肌ガサガサのボロボロになるんだぜ?ナナミちゃん」
「なッ…」
上品に振舞っているそいつが傘を振り上げるのと俺がそっぽを向くのはほぼ同時だった。
振り下ろされた傘をひらりと避けて、ジュースのボトルを手にしたままテントの外へと出て行く。
さすがに日差しは強かったけど体力は回復しているからどうってことない。
後ろでナナミが何か言っているが聞こえないふりをした。
「イワンに言っとけよ。ちょっと滝修業してくっから」
「そんな事言って本当は水浴びしたいだけでしょう!」
「ははは…バレた?」
そんな事を話しながら俺は森の中へ足を踏み入れた。
森の中に住んでいるちまっこいデジモンどもはビクビクしながら木々の陰に隠れているのがよく見える。
「見えてんだよ、バァカ」
俺は軽口を叩いて森の中を進む。
デジモン殲滅とやらに協力はしているが、今は水が浴びたい。
こんなカスみたいなヤツらに構ってる余裕はなかった。
どうせなら森ごと丸焼きにできるし?
「あちーな…もう秋じゃねーのかよ。あ…こっちの世界に季節なんかねーか」
自分でもくだらないとおもう独り言を呟いて水の音が聞こえる場所まで来たとき、視界が開けた。
ごつごつした岩肌が道のりに増えている。
その先では滝のごうごう流れる音が聞こえていて、俺はこれで水浴びもたっぷりできるとおもった。
…はずだったんだが。
岩を飛び越えて道のない道を進んでいくと、何やら話し声が聞こえる。
この声は紛れもない、あの大門マサルとか言う奴の声だ。
冗談じゃねー。こっちは水浴びしたいんだっつーの。
自然と舌を鳴らして声のした場所へ視線を落とすと、そこにはマサルと、マサルの仲間で金髪の男がいた。
水を足に浸けながら涼んでいるらしい。
「…マサル、今は淑乃さんもガオモンたちもいないぞ?」
「ああ…」
マサルの短い了承の後、静かに金髪の男が地面に寝かされる。
濡れた吐息が聞こえた。
ネクタイが解かれて、白い肌が露になる。
遠目からでも分かる桃色の乳首がマサルの手でなぶられていた。
「はぁ…あっ…マサル…んっ!」
マサルの体の下で身を捩った男が反り返る。
顔がはっきりと見えた。
長い睫毛を濡らして、アイスブルーの瞳を揺らしながら小さな唇でマサルの事を呼び続けている。
コイツら、男同士だろ?
…ホモかよ。
おもわず笑ってしまった。
正義の味方がホモとはな。
「…馬鹿じゃねーの」
そう言ったものの、俺の目はアイスブルーの瞳をした男から離せない。
綺麗な顔してやがる。
白い肌を朱色に染めて、さくらんぼのような乳首を隠すように手を動かすけどそれさえ押し付けられて荒々しくむさぼられている。
なのに、あの男は抵抗ひとつしない。
むりやりされるのが好きなのか?
「マサル…!」
不意に、男の声が艶っぽくなった。
尾を引くような喘ぎ声が森にこだまする。どうやらイッちまったらしい。
赤い舌を突き出して、ヒクヒクと震えるソイツは…女みてーに綺麗だった。
しばらく熱っぽい口付けが交わされた後、マサルはゆっくりと森の中へと去っていく。
どうやら仲間のところへ戻ったらしい。
残された男は服をパタパタと払いながら身につけているものを脱ぎだした。
俺とおなじく、体を洗うつもりらしい。
白い肌が滝の下へ近付いていく。
俺は自分の上着に手をかけた。
「…はぁ、きもちいいな…」
そう呟く男の後ろに降り立つと乱暴に上着と靴を脱ぎ捨てる。
靴下もほおるとズボンをたくし上げて水の中へと入った。
目の前で白い背中が無防備に晒されている。
俺はおもむろに男の肩を掴んだ。
驚かしてやろうかと強引に振り向かせると、水に濡れた唇が目に飛び込んでくる。
驚いたように見開かれたたれ目がちの瞳はぽやんとしていて、優しげな印象を受ける。
それでも俺を目におさめると眉を寄せてナナミのように意地悪っぽい笑みを浮かべた。
「…君は…コウキ、だな。僕を始末しに来たのか」
「さーァな。始末されてェのか?」
肩を掴んだまま、俺はゆっくりと顔を近づけた。
香水みてぇな匂いがする。コイツ独特のフェロモンか何かか?
外国の美術館に飾ってありそうな天使によく似ている。
金髪で、青い瞳の外人。
でもコイツは不完全な天使だ。
「綺麗だとおもって見てみりゃ…余計なモンがついてるじゃねーか。不完全だな」
「え…あうっ!!」
女性的な体躯からは不似合いな男性器がそこにある。
おれは無理やりそれを掴んだ。
コイツ…びっくりしてやがる。
そりゃそーだよな。敵にこんな所触られてんだから。
「デザートみてェな体してるよな…オマエ。ここがさくらんぼで、これがバナナ…」
俺はおもむろに男の胸元に手を寄せると、先ほどマサルと絡み合っていたときに何度もなぶられていた胸の突起を摘んだ。
演技かと疑ってしまうくらいにビクリと敏感に体を震わせた男は、強張った表情で俺を睨む。
「…な…んのつもりだ…?こうみえても僕にはボクシングの心得がある。ボクシングのチャンピオンも負かしたことがあるんだ。…失神しないうちに手を離したほうがいいとおもうが」
きゅっとすぼめられた男の瞳は確かに格闘経験があるように見えた。
だからと言って手を離すつもりはない。
「名前、教えてくれたら離してやる」
「…トーマ・H・ノルシュタイン」
「いくつ?」
「……14歳」
「外人?」
「…ハーフだ」
「髪綺麗だよな」
「……」
幾度目かの質問のあと、トーマは黙り込んでしまった。
これ以上の質問を拒否するように俺を睨みつけている。
あのマサルに相当お熱なのかね。
こんな綺麗な男、マサルみてーな男にはもったいない。
俺はトーマの腰を強く掴んで互いのモノを押し当てた。
「…俺のオンナになれよ…トーマ」
自分でも信じられないくらい、その言葉がサラッと口から出た。
トーマは目を見開いて黙っている。
そのぷっくりとふくらんだ唇を今から奪ってやるよ。
俺のこと、忘れられなくしてやる。
「…っ、コウキ…」
トーマの声を遮るようにして、俺は新鮮な果実のように濡れた唇を塞いだ。
おもったより、柔らかい。しっかりと筋肉がついていると言ってもさすがに唇はふんわりしていて可愛らしかった。
強引にトーマの唇を犯しながら下肢に触れようとすると、小さな呻き声が耳に入る。
「…ん、んんっ…!や…」
女にキスするみてェにトーマの唇を舐めると、トーマはキスだけで甘ったるい声を上げてかぶりを振った。
マサルとのキスでは聴けなかった声だ。
女とセックスもしてないようなガキに男を良くできるはずがない。
俺はトーマの腰をゆっくり撫でながら言った。
「キモチイイんだろ?大門マサルよりずーっとイイんだろ…?俺は上手いぜェ…大人しくしてれば何度もイかしてやる。一回ヤらせろよ…」
口付けを解いて、軽くトーマの耳朶を吸い上げると同時に捻り上げるような拳が俺の頬に直撃した。
顔面から水の中に突っ込んでしまった俺が見たのは、トーマが拳を向けて荒い息をついているところ。
早い。つーか、痛い。
ボクシングのチャンピオンに勝ったというのも嘘じゃねーんだろうな。
髪をぐっしょり濡らした水を払うようにかぶりを振ると、トーマが冷たい瞳で見下ろしていることに気付いた。
冷たくてゾッとするくらいのアイスブルーが俺を見つめている。
「…次は無傷では済まないぞ。帰りたまえ」
「へッ、何がカエリタマエだよ。どっかの王子サマかオマエは」
水を払いながら立ち上がった俺は、ちらりとトーマを見やってから笑った。
その笑みに怯んだのか、トーマが眉を寄せる。
「待ってろよォ、すぐに教えてやるカラ。マサルよりも俺のチンポのほうがずっとイイって事をなァ」
「まだそんな事を言うのかッ!」
トーマの拳がまた俺の頬に向けられる。
それを反射的に腕で押さえると、腕がキシキシと痛んだ。
怒りで顔を赤くしているトーマは俺の腕に拳を押し付けたまま口を開いた。
「僕はそんな下品な理由でマサルを好きになったんじゃない…!」
それだけ、搾り出すように吐き捨てたトーマはすぐに身を翻して水から上がった。
着替えを手に取って1枚1枚羽織っていくのは手際がいいほど早くて、ついつい見惚れちまう。
最後にネクタイを結び終えたトーマは、先ほどと同じ冷たい瞳で俺を一瞥するときつく眉を寄せて顔を背けた。
「…では、失礼するよ」
最後まで王子サマみてぇな口振りだった。
たぶんどっかの金持ちの家の息子なんだろう。服も結構上物だったし。
俺はトーマの後姿を見ながら口元だけで笑った。
「…あんだけ拒否られると…燃えちまうんだよなァ…」
ゆっくりと滝の水に打たれ始めると、熱くてぼんやりした頭がしゃきっとしてくる。
トーマ・H・ノルシュタインねぇ?
今はまだマサルに抱かれてりゃいい。
おまえが俺のモノになるのはもう決まったことなんだよ。
だって俺の自伝には…
『一度俺を拒否したアイスブルーの瞳を持つ男はだんだん俺に惹かれてしまう』って書いてあるんだからサ。
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ごめんなさいごめんなさいごめんなさいィ…!(汗)
本当にごめんなさい、続き物です(懲りろ)