ありえねー。
俺は伸ばしかけた手をズボンのポケットに押しやった。
さっきからずっとデジモン反応を単独で調べていたあのトーマが無防備な表情を見せている。
はちみつ色の髪を頬に垂らして、小さな寝息を立てていた。
今この部屋にいるのは俺とコイツと、ガオモンとアグモン。
薩摩や淑乃たちはブレイクタイムってやつで抜けていた。
ちょっとの休憩時間、パソコンをカタカタカタカタ飽きもせずに打っていた男の指が急に止まったとおもったら、かくんとその手が落ちた。
無防備な寝顔。
これを天使の寝顔とか言うんだろうか、すやすやと眠っているそいつは普段俺に嫌味を浴びせてくる男のものには見えない。
ガオモンは主人の寝顔を伺うようにしてから、椅子にかけてあったジャンパーをそっとトーマにかけた。
「…マスターは疲れている。そっとしておいて欲しい」
トーマへ手を伸ばしかけた俺をガオモンが制した。
それが俺には気に食わない。
ただ、もう少し寝顔を近くで見ようとおもっただけだ。
何でそんな事言われなきゃなんねーんだよ。
「べ、別に顔に落書きしてやろーなんておもってな…」
「それでも」
ぴしゃりとガオモンが俺の言葉を遮る。
静かに寝かせて欲しいと真剣な眼差しが俺を射る。
それが、俺にはつまらなくて、触れられないのがもどかしくて、舌を打った。
コイツがトーマを大事におもってんのは誰だって知ってる。
けどなァ…。
「…何、お前嫉妬してんだ?トーマが俺にお熱だから」
「……」
ガオモンは黙ったままだった。
それが肯定の意味を表しているようで、ちょっとモヤモヤする。
しばらくの静寂のあと、ガオモンはそっと口を開いて低い声で言った。
「…お前がマスターの想い人でなければ今ここで噛み殺していた」
「へェ…」
静かな火花が散る。
アグモンが俺とガオモンを交互に見て眉を寄せた。
不穏な空気を感じ取ったんだろう。
その空気を打ち破るかのように、小さな欠伸と身じろぎの音が聞こえる。
「…ん、マサル…ガオモン?」
いつの間にかデスクに伏せて眠っていたトーマは、ゆっくりと上体を起こして眠そうな顔をした。
ガオモンが少しだけホッとしたような息を吐く。
主人を気遣うように近付いて、トーマの顔を覗きこんでいた。
トーマは少しだけ笑うとガオモンの頭を撫でて、額に軽く口付ける。
少し…いや、かなり妬けた。
悔しいっていうか、イライラする。
「…兄貴、しょーがないじゃん。ガオモンとトーマはパートナーなんだから」
「…るっせーよ」
俺は八つ当たりをするようにアグモンへキツく言うと、そのまま部屋を飛び出した。
わけわかんねー。
何であんな男1人にイライラしたりキュンってなったりしなきゃなんねーんだ。
俺ばっかり腹立ってさ、俺ばっかり嫌なおもいしてさ、こういうの…不公平って言うんじゃねェのか?
「…くそ」
俺は闇雲に歩きながら外に出た。
今人を見たら、喧嘩を売ってしまいそうだった。
5人でも10人でもボコボコにして、このムカつく気持ちを紛らわしてぇ。
そうおもった。
段ボール箱に入れられたゴミをおもいきり蹴飛ばして、俺は行く当てもなく歩いた。
ガラの悪そうな高校生が2〜3人、少し離れた場所で視界に入る。
あいつらからぶっとばしてやろうか。
そうおもって笑ったとき、肩を強く引き寄せられた。
「んだよ!?」
勢いに任せて振り返ると、息を乱したトーマがいる。
走ってきたのか、白い頬を赤く染めて俺を睨んでいた。
そのままいきなり俺の首筋に手を回して飛びついてくる。
俺は慌ててトーマの体を抱きとめる。
ここ、街中なんですけど…と口の中で呟くと、それさえも聞こえてないのかトーマは俺の耳に口を寄せた。
「…バカな奴だな」
「え?」
聞き返すと、トーマは俺の頬に手を当てて笑った。
その顔はさっきガオモンに見せていたのと同じ笑みだ。
笑いかけてくれたことが嬉しくて、俺は怒る気にならない。
トーマはアイスブルーの瞳を細めて顔を離すと、俺の目をしっかり見て言った。
「デジモンに嫉妬してどうする」
「…起きてたのかよ!?」
俺の問いに、トーマは答えなかった。
少し照れくさそうに視線を逸らしたのが答えなんだとはおもうが。
金髪の可愛い恋人は、顔を寄せてから静かに言った。
「…こんなこと、ガオモンにはしないからな」
そう言って、間髪入れずに押し付けるような口付けをくれる。
唇がやけに熱かった。
外人のくせに下手くそなキス。
そんなことをおもいながら、俺はトーマの唇を吸い上げた。
細い腰に手を回して、強く抱き寄せる。
「…んっ…んふ…マサル…マサルっ…」
途切れ途切れに俺の名を呼ぶトーマがたまらなく可愛かった。
DATSの制服の薄い生地の上から胸の突起をなぞってやると、トーマの肩がびくんと震える。
口付けを解くと、トーマの舌に銀の糸が伝って落ちた。
「ん、っく…ふぁ…マサル、もっと…キスを」
くちゅ、と淫靡な音がして、トーマが甘えるように口付けをしてくる。
任務中とは違うトーマのギャップに熱くなる俺自身を感じつつ、目の前の体を強く抱いた。
はちみつ色の髪を梳きながら強く強く、唇だけを貪った。
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キスで嫉妬ネタプラス。ガオとマサルでトーマを取り合う感じが萌えなのです。
ガオトマはリバ派ですよーー。