そよそよと心地いい風が俺の頬を撫でていく。
人工的なものとは違う穏やかなものだ。
沈みかけた陽の光も暖かいし、眩しい。
ふと、足元のほうから声がかかった。
同時に、俺が腰掛けている屋根上に身を乗り出したそいつは顔を上げて目を瞬いている。

「バンチョーレオモン、母さんが夕飯食ってけってさ!」

そう言った小僧は屋根によじ登って大きく息を吐いた。
丁度俺がしているように、屋根の上に腰掛ける。

「…屋根の上に2人も乗っていたらつぶれるんじゃないか?」

「だいじょぶだいじょぶ!俺の家がそんなヤワなワケねーだろ?」

俺の問いかけに、自信満々に言い切った小僧は残り少ない陽の光をとび色の髪に受けて目を瞑る。
風で抵抗なくなびいている様子を見ると、髪質が柔らかそうだとおもった。
何となしに髪を撫でてやる俺の手にびっくりしたのか、そいつは少しだけ唇を曲げて思春期独特の顔をする。

「ンだよ、くすぐってーな」

小僧は俺の手から僅かに逃げるようなそぶりをして、そのまま俯く。
俺の手はゆっくりと小さな頭を撫でていた。
抵抗したいきもちと、できないきもちが半々、ってとこか。
俺は手を散々撫でてから、おもむろに離してやった。
もうすっかり陽は傾いていて、青紫色になっている。
ズボンのポケットから草笛を取り出してそっと吹き始めた俺を、小僧がじっと見つめていた。
懐かしいものを見るような、それでも不思議なものを見るような目だ。
小さい子供の目とよく似ている。
そう言ったら怒るのだろうが。

「バンチョーレオモン、それって草だよな?何で音が出ンだよ?」

「最近の子供は草笛も知らんのか…。いいか、マサル」

俺はようやく小僧の名前を呼んで草を指した。
ぶっきらぼうに、それでいて丁寧に教えてやる俺の指先をマサルがじっと見つめている。
見つめられてばかりというものは、ひどくむず痒い。

「…やってみるか?」

マサルの視線を草笛へ向けようとして提案した俺の予想を裏切って、小僧は顔を上げる。
澄み切った瞳に射抜かれることは心地いいことだったが、まだ俺にはその感情の意味が解らない。
俺はマサルを膝の上に乗せると、背中から手を回して草笛を持たせた。
丁度、後ろから抱きしめるような格好だ。
マサルは何やらくすぐったそうにけらけらと笑っていたが、俺が一言注意するとすぐに草笛を持った。

「力を入れるな。草笛は力を抜いてやるものだ」

「だァって…難しいんだからしょーがねェじゃん」

何だかんだと言いつつ俺の指導に付き合っているマサルは、熱心に葉っぱを口に当てて「ふー、ふー」と言っている。
陽が落ちて肌寒くなったと感じた頃には、ようやく小さな音が聞こえ始めた。
マサルの耳は寒さで赤くなっている。それさえも気付かないのか、奴は俺に顔を向けて悪戯小僧の顔つきになる。

「聞こえたかよ?できたぜ、草笛!」

まだ未熟な音だが、ゆっくりと笛を吹き始めるマサルの背中はゆっくりと大人に近付き始めている体つきだ。
俺は片手でマサルを抱き寄せてから、空いたほうの手で草笛を取った。
息を飲むような声が聞こえたが、気にならない。
夕闇に溶け込む草笛の音を、マサルが固まったように聞いている。
眠っているんじゃないかとおもってしまう静かな後姿だが、やがてマサルの体が動いた。
俺の草笛の音に合わせるように、たどたどしく音を辿るマサルの草笛が聞こえる。
少しだけ、マサルを抱きしめる腕に力がこもった。
その時、ようやく屋根の下から俺たちを急かす声が聞こえる。

「マサルー、ご飯できたわよー。バンチョーレオモンさんもご一緒してくれるように頼んでちょうだいー!」

丸聞こえの言葉に小さく噴き出した俺たちは、やにわに屋根から下りて窓を閉めた。
そうしてマサルに腕を引っ張られるようにして階下へ向かうと、卵焼きカレーがどっさり並んでいる。

「うふ、母さんがんばっちゃった」

「母さん〜、作りすぎだって!こんなに食えねーよ…」

「あにきが食わなくてもおれがひとりで食べるもんねー」

「あッ、ずりィぞアグモンッ!俺は食わないなんて言ってねェッ!!」

呆気に取られる会話を繰り広げているマサルたちを見て同様に呆れたのかマサルの妹が俺の袖を引っ張った。

「バンチョーレオモンさん、ここ座って。あたし、スプーン出してあげるね」

俺を急かすように椅子に座らせて、スプーンを持ってきた少女はマサルによく似た顔をして笑う。
揉めていたマサルたちもすぐに席へ付いて手を合わせていた。

「いただきまーす!」

軽く両手を合わせて、烈火のごとく飯を食らい始めるマサルとアグモンに圧倒されることなく、家主はのんびり笑っている。
俺はゆっくりとスプーンを滑らせて、かつて"英"が味わっていた卵焼きカレーを腹いっぱいに収めた。
キッチンの手伝いをしてすぐに家から去ろうとする俺を、マサルたち一家が引きとめる。

「バンチョーレオモンさんはマサルのお友達でしょう?ぜひ泊まって行ってくださいな」

家主の言葉は俺の後ろ髪を小さく引っ張る。
いつ"お友達"になったのか分からないが、マサルも家主の言葉に頷いていた。
そうして、腕を強引に引っ張られるようにしてマサルの部屋へ押し込まれる。
マサルは、後ろ手にドアを閉めて小さくロックの音を響かせた。

「何か、ヘンなかんじだな。バンチョーレオモンが俺ン家にいるのって」

「まァ…デカイからな」

「それだけじゃねーよ」

俺の言葉を否定したマサルは、裸足でゆっくりと俺に歩み寄るとベッドを指して座るように促した。
ぎしり、とベッドのスプリングが音を立てる。
隣に座っているマサルの肩を、俺は何気なしに掴んだ。
視線の端で、マサルが俺を見つめているのが分かる。

「何だ」

「あのさ…」

顔を向けると、マサルは眉間に皺を寄せて俺を見つめている。
また、草笛を吹くときに感じたあの感情が胸をざわつかせる。
俺はマサルから目を逸らした。

「飯、まずかったか?」

突然何を言い出すんだと聞き返したくなるような質問をしたマサルは、俺の顔を指差して不服そうに唇を尖らせる。
俺はかぶりを振ってそれを否定した。
家主の料理はうまかった。レストランでも開けるんじゃないかとおもうほどだ。
もちろん、心もこもっていて栄養も偏っていない。
俺も美味いとおもったが、不味いような顔をしていただろうか?

「…バンチョー…」

マサルは、言葉が見つからないと言った顔をして頭を垂れた。
それでも上目がちに俺を見る目は、何かをねだるようなおもいが含まれている。
…まさかな。
俺は小さく息を吐いてからマサルをベッドに寝かせた。
そうして床に寝そべった俺を、マサルが見つめている。

「おいおい、何もかけないで寝るつもりなのかよ?俺ンとこで寝りゃいいじゃん」

マサルは身を乗り出して俺を見やると、小さく付け足してから布団にもぐった。
そのまま、沈黙が続く。
さすがに何もかけないで寝るのは肌寒いなとかんじた矢先、突然マサルが上体を起こした。

「だぁーッ!こんな回りくどいやり方するなんざ漢じゃねェーーッ!!来やがれッ、バンチョーレオモンッ!!」

マサルは頭をかいてそう叫ぶと、強引に俺の腕を引っ張ってベッドで寝るように言いつける。
多少のぬくもりで温まっているベッドはマサルの匂いが染み付いている。
小さな手が俺の袖を引っ張った。

「バンチョーレオモンは、俺の事嫌いかよ?」

「いきなり何を言えって?」

「言えよッ、好きか嫌いか!」

ようやく俺がマサルに目を合わせると、マサルは拗ねた子供のような目をしている。
その目が求めているものが何なのか分かったとき、おぼろげながら俺自身の感情も理解できた。
こいつが求めているのは。

「…俺、アンタの事が好きなんだよ…」

押しつぶすような声でマサルが呟く。
俺の袖をきつく掴んだそいつは俺に押し倒されるまでの間、ずっと俺の事を呼んでいた。
どうやって押し倒したのかは覚えていない。
気付けば、マサルの衣服がベッドの下に落ちていた。
俺が脱がせたのか、マサルが脱がせたのか、それも解らない。

「鍵は…んっく…かけたから…誰も入ってこねェぜ…ふぇ、っく…んんっ…」

「おまえのパートナーもか?」

「…っ、モチロン…」

俺の下にいるマサルは、己の手の甲を軽く噛んで目を閉じていた。
健康的な肌の上に乗った桜色のそれを指で転がしながら、俺はマサルの肌に獣の匂いを残す。
マサルの腕が俺の背に伸ばされた。
言われるまでもなく口付けをしてやると、マサルはむせながら俺に応えた。

「んくっ…はぁ、ふッ…キス、もっと…しろよ…」

マサルの髪はすっかり解けてしまっている。
俺はそれを撫でてから、ざらついた舌でマサルの舌を絡め取った。
そうされると感じるんだろう。
身を捩じらせながらしゃくりあげるマサルの姿が見られた。
貫かれているだけで辛そうだったくせに、苦痛を感じながらも俺を求める姿はいじらしいものだ。
俺はゆっくりと腰を動かしながらマサルの唇を吸った。
むせこむような声と、濡れた音が室内に響く。
ゆっくりとマサルの下腹部に手を伸ばすと、俺を銜えた部分が何度か収縮した。
舌以外にも感じる所を見つけられて少しだけ安心する。
指に絡む粘液が音を立てた。

「はぐ…んうっ、んっ…く…バンチョーレオモンッ…」

マサルの目尻に浮かんでいる液体が枕をぬらした。
番長だ漢だと自称している少年がそんな事で泣いてどうする。
俺はマサルの目尻をぬぐって、そこに口付けた。

「…父さんみてーな匂いがする」

マサルはそう呟いてから顔を伏せた。
腰を突き入れてさらに深く結合すると、さすがに辛いのかそれ以上の侵入を拒むようにマサルの体内がヒクつく。
俺から見ればずっと小さい手を伸ばして掠れた声を上げていた。

「辛いか?」

「痛い…けど、ヘーキだ。俺は大門英の息子だぜ?」

そう強がって見せるマサルは、苦しそうな息を漏らして俺に合わせるような動きを開始する。
俺は一旦それを中断させてマサルの両手をベッドに押し付けた。
行為の主導権を握って打ち付けるような動きを開始すると、階下に響いてしまうんじゃないかとおもうくらいの大きな声を上げてマサルが身を捩る。

「ああぁっ!あ…うぁ…ひっ、く…うあ…あっ!」

枕とシーツに散らばったマサルの髪が官能的だ。
俺はマサルの脚を広げて大きく息をついた。

「…可愛い番長だ。だが、番長はもう少し逞しくなくてはいかん」

「…はァ?誰が…可愛いんだよッ…んん…あ!」

俺の言葉ひとつひとつに息を荒げながら返すマサルは、既に限界を迎えているらしい。
辛そうに内腿をヒクつかせていても、俺の腰へしっかりと脚を回している。
すがりつくように俺を求めるこの少年に熱い迸りをたっぷり注いでやりたい。
それでも理性が俺の行為を邪魔をする。

「マサル…耐えられるか?」

囁くような俺の声に、マサルが何度も頷く。
甘えるような鼻にかかった声で俺を呼ぶから、それだけでどうにかなってしまいそうだ。
俺はもう一度マサルの唇を奪うようにして口付けをした。
あれ以上に大きな声を出されたらさすがに家主に気付かれる。

「んんっ!んっ…んぅ…!!」

マサルは、貪るような俺の口付けにがっつきながら返してきた。
ぐちゅぐちゅと結合部が音を立てている。
次第に高まってきた熱に耐え切れず放出すると、マサルの下肢がガクガクと震えた。

「…はぁあああァッ…!!…っあ…はァッ…!」

震える体と同時にマサルは甘ったるい声を上げて反り返った。
瞳に涙を溜めて、きつく俺の体を抱きしめてくるマサルを抱き寄せて、何度も口付けを繰り返してやる。
俺とほぼ同時に達したのか、マサルは恍惚とした顔をしてベッドに倒れこむ。
上気した肌が汗で濡れていた。

「…はぁ…っ、はぁ…バンチョーレオモン…すっげー好きだ…」

「ストレートだな…本当に」

「へへ…漢だから、な…回りくどいことはしねェんだよ…」

きもちいいくらいすっきりした笑顔でマサルが笑う。
もう一度口付けようとして顔を寄せると、階下から家主の声がかかった。

「マサルー、お風呂どうするのー?」

「はッ、入るよ!!入りますッ!」

階下から聞こえたのんびりした家主の声に、慌ててマサルが飛び起きる。
だがすぐに腰を押さえて鈍痛に耐えるような渋い顔をした。
俺はおもむろに上着を脱いでマサルにかけてやる。
マサルはほんの少し顔を赤くしてからベッドに突っ伏す。

「…バンチョーレオモンの学ラン…すっげー重いんだけど…」

「不要なら返せ」

「んだよー、よく着れるよなァ…こんなデカいの…」

マサルは黒いそれに腕を通して、ゆっくりとボタンを留めた。
可愛らしくて小さな番長だ。
俺はその言葉を飲み込んでから不似合いな服を着ている少年を抱き寄せて、家主に中断された口付けを堪能した。
心がざわつく感情が、再び俺の胸をくすぐる。
そんな俺のきもちなど知るよしもない"英"に似た目の少年は、ねだるように目を伏せて笑った。
日本一の番長とやらが無邪気な顔を見せる相手は俺だけでいい。
ふとそんなふうにおもってしまって苦笑が漏れた。
いつから独占欲が強くなったのだろう。

「バンチョー?」

「…そんな顔をしていると嫁にやらんぞ」

「よめ…?俺…むぐっ…」

冗談混じりに言ってのけると、俺はもう一度マサルの唇を奪った。
反論の隙も与えないほどに。

















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両おもいラブラブ純愛バンチョーが書きたかったのです(笑)
あなみつのバンチョーレオモンイベントで萌えたというのもあるのですがっ!
(マサルに向かって"可愛い番長だな…"の下りとか!どうみてもバンチョマサ/笑)
バンチョー⇔マサルというかんじが好きです。マサルのゴリ押し恋愛に付き合うバンチョーとか。
シャイン×マサルも兄貴と子分カップルで大好きですがバンチョー×マサルは子供に翻弄される親、みたいなかんじで萌え(笑)
神田はバンチョーの中身は英さんだとおもっております〜vv
なのであえて文中では「"英"」と強調してしまったんですが(笑)
モン受に萌えたり兄貴やトーマに萌えたり無駄にストライクゾーンが広いですー(笑)