静かな寝息が室内に聞こえる。
隣に座っている息子は厳しい表情を崩さずに自らの妹を見つめていた。
膝に置かれた手はきつく拳を作っている。
「…父上、僕はもう行きます」
「あ、ああ…」
息子の言葉に、私は曖昧な返事をして俯いてしまう。
立ち上がった息子が、僅かに私を見た。
顔を上げると、妻と良く似た息子が私を見つめている。
たれ目がちなところも、横顔も妻にそっくりだ。
「…綺麗になったな」
ぽつりと零すと、息子は僅かに目を丸くして小さくかぶりを振った。
細身の体がゆっくりと俺に近付く。
息子の唇はまっすぐに結ばれたままだった。
「…では」
しばしの沈黙のあと、息子は顔を背けて私に一礼した。
おもわず手を伸ばした私は、息子を軽く抱き寄せる。
足元をよろけさせた息子が私の肩に顔を乗せるような形で倒れこんだ。
「ち、父上…」
息子の声はたしなめるような、すがるような小さい声だ。
白いカーテンを隔てて、この部屋には私たちのほかに医者もいる。
カーテンの向こうには今も医者や看護師が娘の容態をカルテに記したり、点滴を用意したりと忙しなく動いているのだ。
つまり、こちらの会話はだだ漏れ。
「…トーマ、抱かせてくれるか?」
私は、トーマの耳元で囁くように言った。
できるだけ医者に聞かれないような、小さい声で。
私の言葉を聞いたトーマは、考え込むように押し黙っている。
トーマが、世界中で街を壊す化け物どもを倒しているのは知っている。
この世界に残された時間は少ないことも分かっている。
だが、それならば最後に。
頭さえ撫でてやれなかった息子に触れたい。
そうおもった。
「…30分。僕はそれしか待てません」
「十分だ」
ゆっくりと顔を離したトーマの顔はほんのりと赤く染まっている。
絹のようなすべらかさを持つ白い肌に触れると、つり気味の眉がピクンと震えた。
椅子に腰掛けている私と、立ち上がっているトーマ。
丁度、トーマを私の膝の上に座らせるように指示をすると、トーマは大人しく私の膝の上へ腰掛けた。
柔らかなはちみつ色の髪が私の頬をくすぐる。
息子の瞳や外見は母国のそれだが、顔立ちはしっかりと日本人である私の妻に似ていた。
気丈で柔和なところも、僅かに影を含んだところも。
「…んっ…は…」
トーマの後頭部に手を添えてゆっくり口付けてやると、トーマは苦しそうに眉を寄せた。
口付けに慣れていないのか、それでも不器用に唇を這わせてくる。
唇の形を辿るように、むさぼるようなキスを続けた。
実の息子に。
「はっ…ふ…父上…」
トーマの口から漏れた言葉は甘い響きが宿っている。
口付けを解くと、トーマはアイスブルーの瞳から幾筋もの涙を流しながら私を見つめていた。
それを親指で拭ってやる。
トーマは私の手を頬に押し付けるように引き寄せると、目を瞑った。
「…ずっと、ずっと甘えてみたかった…父上に」
ぽつりぽつりと呟くトーマを見て、目頭が熱くなる。
私はトーマの頭を、髪の流れにそって撫でた。
ふんわりしたはちみつ色の髪を撫でながら、もう一度キスを求めた。
トーマの吐息が飲み込まれる。
聞こえるのは、医者が薬品や書類を動かす音と、乾いた水の音。トーマの艶めいた吐息だった。
「…んっ…んぅ…父上…もう、5分を過ぎました。キスだけで終わらせるつもりですか?」
トーマは掠れた声で私に囁いた。
その声は甘美なものを含んでいて、ドキッとするほどなまめかしい。
言われるがままにネクタイを外してやって、トーマのシャツの前を開かせる。
白くて、それでもよく引き締まった体が露になった。
なぞってみると、本当に絹のようにすべすべしている。
白い肌にふっくらと突き出たそれを指で撫でると、トーマは下肢を小さく震わせた。
外気にさらされてどんどん堅くなっていく桃色の突起は、もっと触って欲しいとでも言うように上を向いている。
私は望みどおりにトーマの突起を指で摘んだ。
「んんっ…あっ…父上…んっ…だめ…」
否定の言葉すら私を誘っているようで、トーマは潤んだような瞳で虚空を見上げている。
摘んでいる突起を口に含んで転がすと鼻にかかった吐息が聞こえた。
甘い甘い、菓子のような吐息だった。
狭い室内でわざと音を立てるように吸い上げてやると、トーマはきつく目を瞑って私の頭を抱きしめてくる。
「…あ…あ…はぁ…んっ…だめっ…気付かれてしまい、ます…っ…」
トーマは、小さく腰をもぞつかせながら声を殺した。
バレても構わない。医者達は全員外部の者ではなく、ノルシュタイン家専属の医者なのだ。
既に息を荒げて、室内に甘い声を響かせているトーマに、医者達は感づいているだろう。
もう薬品をいじる音も聞こえなくなっていた。
「…気付かれているぞ?おまえが淫らな声を響かせるから…」
「…っ、僕…あうっ…」
わざと羞恥心を呷るように言ってやると、トーマは案の定真っ赤になって顔を逸らした。
同時に、ズボンの中へ手を突っ込んでやる。
トーマの声は、もう押さえているというものではなくなっていた。
甘ったるい声を室内に響かせて、それでも声を殺そうと目を伏せている。
「んん…あっ…うぁ…父上ぇ…いや…声がっ…んあっ…」
トーマは不意に甲高い声を上げて口を噤んだ。
首筋まで真っ赤に染めて、恥ずかしそうに顔を逸らしている。
そんな息子を見ながら、私はトーマのズボンと下着を脱がせた。
上着と靴下のみを着用している息子の姿に、だんだんと歯止めが利かなくなる。
外で待っているトーマの仲間にも感づかれているのだろうか?
ここまで大きな声を出していたら気付かれないほうがおかしいだろう。
「ふぁっ…あうっ…ああ…あふ…ん…」
片手でトーマを抱きしめながら、トーマのものを扱いてやると上擦ったような声が聞こえた。
透明な液体で濡れた指を小さなつぼみに挿入する。
苦痛と快楽の入り混じった息子の声はひどく艶っぽかった。
必死に私にしがみついて、発情期の猫のように鼻にかかった声を上げている。
「…トーマ、セックスは好きか?」
「…っ、わかりま…せ…あぐっ…はぁっ、あ…ああ!」
私の問いかけに対して大きな喘ぎ声で応えたトーマはねだるように腰を動かしてしゃくりあげた。
息子の痴態を見て大きくふくれあがった私のものを取り出すと、小さなつぼみがヒクンと震える。
私は今から息子を犯すのだ。
トーマのふとももを撫でながら、じわじわと腰を落とさせて自身を挿入する。
息子は悲鳴に近い声を上げて私を受け入れた。
羞恥はまだ残っているだろう。
根元まで挿入し終えると、腰をゆっくり使いながらトーマの体内を犯していく。
リリーナがおきてしまうんじゃないかとおもうほど艶めかしい声で私の愛撫に応える息子は、しゃくりあげながら言った。
「はっ!あぐ…んんっ…父上…とう、さん…父さんっ…っあ…僕の事…もっと抱いてくださいっ…」
私を「父さん」と呼ぶ息子のアイスブルーの瞳には、涙が浮かんでいる。
私の妻、ミユキによく似た顔立ちが快感に歪んでいる。
感じてくれているのかとおもうと嬉しくて、私は腰の突き上げを早めた。
はちみつ色の髪を揺らしながら、娼婦のように甘ったるい吐息を零すトーマ。
本当に自分の息子なのか、疑うほどに艶めかしい。
もしかしたら、誰かが息子を開発したのか?
彼は作り物のように美しい息子だ。
…抱きたいとおもう輩もいるだろう。
少しだけ胸の奥が軋んだ。
トーマは私の所有物ではないのに。
手元に留めておきたくて、私はしっかりとトーマの腰を掴む。
赤く染まった肌の色よりも赤いトーマの舌が突き出された。
銀の糸を滴らせて、舌足らずな声で私を呼んでいる。
「私を見てくれ、トーマ」
私はトーマの顎を掴んだ。
焦点の合わない瞳が迷子になりながらも私を捉える。
その瞳は、ドキッとするくらいに濡れている。
快感に濡れているのではなく、どこか悲しげにも見えた。
このような背徳的な行為、息子にとって嬉しいわけがない。
息子は私の手元から離れていくのだと確信した。
ならばもう少し、息子の体に触れさせて欲しい。
「ああっ…!?ち、父上…っ…!何を…」
トーマの掠れた声が上擦った。
私はわざとらしく、トーマを壁に立たせて後ろから犯した。
もちろん壁の向こうにはトーマの仲間たちがいる。
こうしてトーマを犯している音も、声も聞こえるだろう。
壁は大して厚くない。
「ひっ…あぐ…んぅ…んっ、ん…ふぁ…ああァっ…!」
初めは声を殺していたトーマも、私の激しい突き上げに理性を失ったのかひきつれたような喘ぎ声を漏らした。
壁に爪を食い込ませ、淫らに腰を振りながらトーマが私を絶頂に導く。
白い肌を朱に染めて振り返った息子は涙の溜まった瞳で私を見つめた。
「…父さんっ…僕、もう…あぐっ…!変になりそ、で…。だから…」
トーマは何かをねだるように舌を伸ばした。
舌を上下に動かしながら私を誘う息子はとても美しかった。
私は躊躇わずにトーマの唇を奪う。
室内に響く水音が一層高らかな音を立てたとき、トーマの中が私のものをきつく締め付けた。
「あっ…ふぁああ…ぁああああッ…!!!」
「ぐっ…トーマ…っ!」
何とか射精を押さえて己の欲望を抜き取ると、外気に触れた私のものは鈍い音を立ててトーマの下肢をぬらした。
同時に、トーマの体がガクガクと震えながら床にへたり込む。
どうやらトーマも達したらしい。
少女のように、自らの精液をぼんやりと眺めて恥ずかしそうに眉を寄せている様子は本当にいじらしいものだった。
おもわず抱きしめようと腕を伸ばすと、トーマは顔を上げて言った。
「…ティッシュを頂けますか?」
その声は、息が上がっているものの普段のトーマの声だ。
私は慌ててベッドの横に置いてあるティッシュボックスを取って渡した。
濡れた自分の脚や秘部、律儀にも床や私のものまで拭い取った息子は、しっかりと服を着なおして立ち上がった。
少しよろめいたが、それでも私の手を借りることなくトーマが身支度を整える。
「もう、行くのか」
「ええ…必ず帰って来ます」
名残惜しさに包まれて少しばかり声を落とすと、無感情なトーマの声が僅かに和らいだ。
そっと顔を寄せたトーマの匂いは僅かに花のような匂いがする。
シャンプーの匂いだろうか。どこか官能的で寂しげな香りだ。
トーマは私の耳元に唇を近づけて小さく囁く。
「…こんな事されたら…素直に帰って来られませんけど、ね」
そう言った息子の頬は、ほんのりと桃色に染まっていた。
眉尻を下げて大人びた笑みを浮かべた息子は私に軽く一礼するとおもむろに部屋の扉を開けた。
のんびりとした仲間の話し声が聴こえる。
私は深くため息をついて、扉に掌を当てた。
「…無事に帰って来い、トーマ」
今更何を言っても言い訳のようになってしまうが、私はゆっくりと口に出して言った。
いまの私にはそれしかできないのだ。
ようやく気付いた息子への後悔のきもちと独占欲が私の中でぐるぐると渦巻いていた。
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いずれ美雪さんとトーマのほのぼの話も書いてみたいとおもいつつ、
駄目親父フランツ×トーマももうすこし書きますー(笑)
というか、「もっともっと(前編)」でリリーナの事を「母さんに似た顔立ち〜」と書いてしまいましたがリリーナたん、腹違いでしたね…!42話の前(というかまだ倉田編の時)に書いたので変なところがたくさんありますです。恥ずかしい(爆)