正直、俺には恋ってやつがよくわからない。
ちょっとだけ煙たい汗の濃い匂いに包まれながら、ゆっくりと寝返りを打つ。
さっきまで信じられないくらい抱かれて貪りあったのが嘘みてェだ。
恋人…って呼んでいいのか分からないけど、俺の隣でアイツが寝てる。
俺は手を伸ばしてその体にすがりついた。
草の匂いがする。それから、獣のにおい。

「まだ寝ないのか?」

ため息混じりの、少し呆れたような声が頭の上から聞こえた。
顔をあげると、人間とは違う顔立ちのそれが眠そうな顔をして俺を見ている。
俺はそいつの鼻先に指を当ててくすぐるように動かした。

「こら、マサル…」

「お、ヒゲが動いた」

からかうように言ってやると、そいつは俺の頭を掴んで軽く力を込める。
それでもすぐに手は離れた。
頭に置かれていた手はゆっくりと下りていって、俺の頬を撫でる。
肉球がやわらかい。
俺は肉球に顔を押し付けるようにして笑った。

「うっはー、バンチョーレオモンの手ってスゲーぷにぷにしてる」

「ガキか…まったく」

大きくため息をつく声が聞こえる。
バンチョーレオモンは俺を抱き寄せると、しっかり掛け布団をかけなおした。
数時間前に、屋根の上で一緒に草笛を吹いた時にも感じたぬくもりが俺の腹でぐるぐる回る。 ぬくもりをきもちいいとおもう感情をどこにぶつけたらいいのか分からなくて、きつく目を瞑る俺。 そんな俺を安心させる匂いがすぐ傍まで迫る。
また、抱いてほしい。
俺はその一言が言い出せなくて口を噤んだ。
ヤりたがりみてーにおもわれたら嫌だ。
大体、バンチョーレオモンはそういうこと好きじゃなさそうだし。
もっと健全なオツキアイだってできるはずなのに、思春期ゆえの関心ってヤツなのか…俺はえっちしたくてたまらないわけで。

「…バンチョーレオモン…」

言葉で説明するのは、恥ずかしかった。
だから俺は、バンチョーレオモンの胸に顔を擦り付けながら名前を呼んでみる。
不自然なくらいに甘ったるい俺の声は、それだけで欲しているような声色を含んでいて…すごく恥ずかしい。 俺は柔らかなバンチョーレオモンの体毛をくすぐりながらきつく目を瞑った。

「…こんなに、誰かに依存したのって…初めてなんだ」

父さん以外は。
俺はバンチョーレオモンの胸に顔を寄せながら呟いた。
男らしい背中、厳しい言葉、そのくせ父親みたいな目で俺の事を見る。
その全部が俺には魅力的に映った。
ああ、これは恋なんだろうなって自覚したのはそんなに時間なんかかからなくて。
あとはもう告白するのみ。
バンチョーレオモンを家に泊まるように頼み込んで、ベッドの上で告白した。
やっぱ卑怯な告白だよなァ…。
相手のきもちも聞かずに告白しちまったんだから。

「…バンチョーレオモンは…さ、父さんみたいに…どこかに行っちまったりしないよな?」

俺は、バンチョーレオモンにしがみつくようにして呟いた。
それでもちゃんとバンチョーレオモンの耳に届くように言ったはずだ。
なのに、返事は無い。
おもむろに顔を上げると、バンチョーレオモンの規則正しい寝息が聞こえる。

「…寝ちまったか…」

少しだけ安心した。
聞かれてなくてよかった、なんて口に出した後におもう。
それでも口に出さないと不安だった。

「おやすみ…バンチョーレオモン」

俺はバンチョーレオモン布団をかけなおしてやってから寝る体勢に入った。
ゆっくりとまどろみの中へ体が沈んでいく。
現実と夢の区別がつかないくらいの狭間で、おもむろに頭を撫でられるような感覚があった。
優しく俺の髪を撫でながら名前を呼ぶそれが誰なのか、俺には分からない。

「すまん…」

その声は短かったが、すぐに俺の耳に入ってきた。
バンチョーレオモンの声だ。
どうして謝るのか解らない。
目を開けようとした俺を制すように唇が重ねられる。
キスの味は、涙の味がしてしょっぱかった。
バンチョーレオモンが泣いているのかとおもったけど、どうやらそれは違うらしい。
口付けの角度を変えられるたび、俺の頬が撫でられる。
涙を拭い取るように。

「…幸せになれ」

俺の涙をぬぐったバンチョーレオモンは、囁くような声でそう言う。
その時ようやく、この恋が実らないものだと悟った。
バンチョーレオモンも俺の前からいなくなるのか。
そうおもったら、また泣けてきた。

















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日記ログですー。そして「となりのバンチョー」の続き物でもあります。
バンチョマサ同士様を切実に探してますです(照)