ようやく寝付いた息子をみまもりながら、俺は小さな欠伸をした。
成長期とは言え、俺から見ればまだまだ小さくて暴れん坊で可愛くて。
疲れているときに息子の顔を見ると元気が出る…なんて久しぶりに実感した気がする。
(おまえにソックリだな)
「そう、元が良いから息子も色男だろう?」
俺はそう言って笑った。
腕の中の息子が身を捩って、それから俺の胸に顔を埋める。
人間ってやつはこんなにも柔らかくてあたたかいものだったろうか。
俺は息子の頬を撫でてそれを確かめた。
「んん、バンチョーレオモン…くすぐってェよ」
そう言いながら俺の体に抱きついて、息子がじゃれるような声を上げる。
寝ぼけているのだろうか。
俺は長いため息をついた。
ひとつのベッドにふたりで横たわっているこの光景。
傍目から見れば何も問題はない。
けど、俺は父としてトンでもない事をやらかしてしまっている。
(人間はつくづく交尾が好きだな)
「おまえも加担しただろうが。大体、マサルの事が好きなのは"バンチョーレオモン"だろう?」
少しだけ呆れたように呟くと、俺の中のそれが照れくさげに笑ったような気がした。
親友の恋路のためになんで俺が手助けをしなけりゃならんのか。
いや、手助けくらいは問題ない。
問題なのは息子をこの手で抱いてしまったということだ。
息子はすっかり俺を好いている。
コイツが俺の姿に父を重ねてみているのだろうことはとっくに察していた。
だから、悲しいおもいをさせないために息子を突き放すこともできた。
最悪の場合、俺は家族をまもるために死ぬかもしれないのだから。
(では、何故突き放さない?)
友が言った。
俺は息子を抱き寄せて、少しだけ考えるそぶりをする。
それでも、友とは体を共有しているんだ。
俺の考えている事なんかとっくにバレている。
(…家族だから、か。人間は分からんな)
俺のきもちを読んだのか、友が苦笑気味に言った。
マサルに惚れたのは友のほうだ。
いつの間にか触れ合っていくうちに、息子に恋愛感情が芽生えたんだろう。
離したくない、傍にいたい。
友のきもちは俺の心にも伝わってきた。
だから俺はマサルを抱いた。キスもした。
「…マサル、愛している」
今のは友の言葉だ。
マサルを家族として大切にしたい俺と、マサルを恋人のように大事にしたい友。
ひとつの体にふたつの心というのは、あまりにも辛すぎる。
友のきもちが分かるから余計に辛かった。
「…ふぁー…バンチョーレオモン、何か目ェ冴えちまった。…昔話してくれよ」
マサルが目を擦りながら言う。
無邪気に、俺の体を抱きしめてそんな事を言うマサルへ、俺ではなく友が口を開く。
「じゃあ、親友の恥ずかしい話でもしてやるか。昔々、ある所に家族おもいの男がいてな…」
(わーー!ちょっと待て!それって俺のことだろう!?ストップ!そんな話マサルに聞かせたら絶交するからなっ!)
「え、バンチョーレオモンって親友がいるのか…?」
大慌てで友にストップをかける俺とは裏腹に、マサルは興味津々と言うふうに食いついてきた。
小さい頃、眠れないとダダをこねるマサルに読み聞かせてやった絵本を必死に聞き入っているあの顔とソックリだ。
懐かしさに笑んでいる俺とは裏腹に、友が言った。
「ああ、最高の友人だ」
(……)
俺に直接当てた言葉じゃないけれど、何だか照れくさくって笑ってしまう。
そんな友を見て、マサルが視線を逸らした。
眉間に皺を寄せて、拗ねたような表情をしている。
分かりやすい顔だ。
「何か…妬ける、なぁ」
ぽつりと呟いたその言葉で、友がどれほどときめくのか…マサルは知らないんだろう。
だからそんな顔ができるんだ。
案の定、友は嬉しそうな顔をしてから小さく咳払いをした。
友は硬派だ。でも硬派だからこそスケベにも見える。
「…ふん、恋と友情は別物だ…安心しろ」
(それっぽい事言って息子を口説くな)
顔を逸らしてそう言った友は、マサルの頭をくしゃくしゃと撫でて言った。
パッと笑顔になったマサルが友の体をきつく抱きしめる。
その顔は幸せそのものと言った表情だ。
息子が幸せなら、父としても嬉しいことこの上ない。
だが…
「バンチョーレオモン…へへ、サンキューっ!」
息子は子供のように笑って友の肩に顔を埋めた。
本当に恋人同士か何かみたいだ。
ふたりとも恋人のつもりでいるのだろうけれど。
父として認められんぞ。
「ふっ…友に恨みを買いそうだ」
(別に恨んでるわけじゃなくて息子と節度ある恋愛をしてほしいだけだぞ、父として)
小声で突っ込んでみたが聞こえていないようだ。
友は、困ったような顔をして笑いながらも嬉しいのかマサルの事をしっかりと抱きしめていた。
その友を見つめて、マサルが眉を寄せる。
「何言ってんだ…バンチョーレオモン?キス、しようぜ」
(父の前でキスする息子がどこに…)
「構わん」
(いやいやいや!)
マサルからの誘いに、友が乗らないほうがおかしい。
それは十分分かっているんだが、父としては…。
大事な息子と親友が口付け合う様子というのは正視しづらい。
「んっ…はぁ…好きだぜ、バンチョーレオモン…」
息子の唇が友の、そして俺の唇を吸う。
ざらついた友の舌がマサルの舌を吸い上げた。
その行為に、身を竦めるマサルを可愛いとおもうのは…俺も友に毒されてきただろうか?
「…好き、だぜ…」
すがるように口付けをするマサルが幾度となく口から零す言葉。
友は何も言わなかった。
好きだとも、愛しているとも言わない。
本当にマサルが好きなら…。
(卑怯だぞ、好きと言ってやらないなんて)
俺が呟くと、友は目を瞑ったまま黙っていた。
そんな友を見て、マサルが視線を落とす。
友の背中に、マサルの腕が回る。
「俺、子供じゃねーし…わがままも、言わねェから…傍にいてくれよ」
「約束はできない」
友の言葉に、マサルがゆるく唇を噛む。
小さくマサルの肩が揺れた。
マサルにこんな表情をさせるくらいならどうしてバンチョーレオモンはマサルに優しくするんだろう。
優しくすればするほど、別れが辛くなるのに。
「だが…きもちはココだ。俺はマサルと共にある」
大きな手がマサルの胸に触れる。
顔を上げたマサルは、涙目になりながら不思議そうな顔をしている。
友の目がきつく細められた。
同時に、マサルの体が強く強く抱きしめられる。
「い…いてえよ…バンチョーレオモン…」
「愛している…マサル、好きだ」
喉の奥から搾り出したような、友の声が耳に入った。
きっと、マサルの耳にも。
好きだ、なんて滅多に言わないアイツが照れくさそうに言ったんだ。
バンチョーレオモンはおもむろに体を離して、マサルの体をベッドに横たえる。
大きく見開かれたままのマサルの瞳は、涙を滲ませて笑っていた。
「…こい、よ」
涙で滲んだその声に、友が笑う。
軋むような友のきもちが伝わってきて苦しかった。
(そうか…そんなに好きなんだな、マサルのことが)
学ランがベッドの下に落ちる音が聞こえて、俺はゆっくりと目を閉じた。
それが漢ってモンだから。
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日記ログ3です。バンチョー死亡後に書き上げたもの。
ていうか死んでないよね?ひょっこり生き返るよね?と妄想を抱いてます。
バンチョマサは、マサル→ラブラブ光線→バンチョー。
英さんとしてはマサルを息子として大事にしたいけど、"バンチョーレオモン"がマサルに恋してるので親友と息子の恋路をみまもっている状態。
バンチョー×英ではナイです。たぶん。ふたりは親友だとおもいます。
英受が好きな神田ですが、それは「大門英の憂鬱番外」でサツスグと倉スグを書こうかなとおもってます。
一度英受エロ書きたかったしね!(爆)
大門父子受すきーな方はそちらも見てやってください〜。