喧嘩が好きな俺にとってそれは、一瞬の油断だった。
いきなり後頭部に鈍い衝撃が走って、俺は膝をつく。
後ろから攻撃するなんてなかなか卑怯じゃねェか。
そう思って口元に笑みを浮かべると、目の前で仁王立ちになっている男が俺の前髪を掴み上げた。
いつの間にか後ろから羽交い絞めにされていることに気付く。
目の前でぎらぎらした殺意のようなものを見せた男はニヤリと笑った。

「いいザマだな、大門」

「は?もう勝った気でいんのかよ」

男の言葉に、俺は挑発するように笑った。
硬い拳で頬が張られる。
俺よりも血だらけになっている男は荒い息をつきながら舎弟たちに目をやった。
どうやら一目につかない所で俺をボコるつもりらしいな。
俺は瞬時にそれを理解すると、体を拘束する男から腕を抜いた。
そうして続けざまに回し蹴りをくれてやる。
2〜3人はあっけなかった。
そうして最後の1人に殴りかかろうとしたとき、何か目にスプレーのようなものが吹き付けられる。

「ぐっ…あああッ…」

思わず顔を手で覆うと、強く殴りつけられた。
後ろから再度羽交い絞めにされて数回、また数回と蹴ったり殴ったりの集団暴行を受ける。
俺がぐったりとし始めた頃、スプレーを吹き付けた男は俺の顎を掴んで笑った。

「大門…今日はテメーに体罰ってもんを教えてやるよ」

男…勝俣はそう言って笑うと、俺の口に強くハンカチを押し付ける。
息を吸おうとしたら、薬くさい匂いが頭いっぱいに広がってきて、俺はそのまま抗う術も分からず意識を手放した。
重くて、けだるい感覚。
ことの発端は喧嘩だった。
街中で俺を目にした勝俣は仲間をぞろぞろ引き連れて俺を倒そうとしたらしい。
でもあっけなく返り討ちにしてやった。
だが、どこから現れたのかは知らねーが仲間の数は意外と多く、俺は少しばかり苦戦してしまっていたのだ。
そんな時にこの事件が起きた。
俺の意識は相変わらず、ふわふわと重い重力の中を彷徨っている。
ふと、意識の隅で冷たいような、そんな錯覚を覚えた。
びしゃん、と音がする。
水…?

「…んっ…あ?」

俺が気付いたとき、そこは廃ビルのような暗い場所で、何がなんだか分からなかった。
でも肌寒さを感じて体を抱こうとすると、軽い抵抗がある。
じゃらり。
俺の腕には硬くて冷たい鎖が幾重にも巻かれていた。
片腕だけじゃない。もう一方の腕も、両足も拘束されていた。
あいつらがやったのか。
そうおもって、俺は舌を打つ。
同時に、俺の顔めがけて冷たい水が浴びせられた。

「うぐっ…げほっ…」

「よーやくお目覚めかァ?大門大…」

下卑た声が聞こえた。
俺はどのくらい気を失ってたんだろう。
どうも頭の中にモヤがかかって上手くおもいだせない。
記憶を引きずり出そうとしても、それは不可能だった。
誰かの手が俺の前髪を力強く掴む。
痛い。
上目で睨むと、それは勝俣だった。
まだいたのかよ。

「…ごほ…」

「なかなか色っぽい顔しやがるじゃねーか、大門」

「…やかましいんだよ」

俺が反抗的にツバを吐くと、勝俣は俺の頬を力強く殴りつけてから舎弟に何かを持ってこさせた。
それは、手持ちのラジオみたいな黒い塊だった。
勝俣やほかの男たちがニヤニヤと笑っている。
俺にはそれだけで不愉快だった。
顔に不快な感情が滲み出ていたのか、勝俣は面白くなさそうに笑って俺の顎を掴んだ。

「離して欲しいだろ?俺の事ぶっとばしてェならさ…ヤらせろよ」

「…は。馬鹿かお前」

勝俣の言葉に、俺は呆れた。
この俺がそう簡単にハイ分かりましたとか言うとおもってんのか?
俺は返事を返す代わりに舌を出してやった。
ソレに対しては反応せず、勝俣が手の中のラジオみたいなものを俺に見せた。
小さなテレビのように画面がついている。
画面は真っ暗だ。

「へへへ…これを見ても同じ事が言えんのか?」

かちり、と静かな空間にスイッチの音が響いた。
画面に映ったのは公園だ。
画面の中に映っている勝俣の舎弟らしき男が3人、公園にいる子供たちを指した。
女の子たちが数人で砂山を作って遊んでいる。
その中に見知った少女の姿を発見した。

「―――知香ッ!!」

よりにもよって、その中には知香…俺の妹がいた。
おもわず鎖を引きちぎろうとすると、愉快そうな勝俣と目が合う。
俺はツバを吐いて奴を罵った。

「俺の妹に変なことしてみろッ!テメーら全員ぶっ殺してやるからな!!」

体を戒めている鎖は頑丈で、俺がどんなに身を捩っても剥がれない。
もがく俺を見下して奴は笑っていた。
画面の中の知香を見て、それから俺へと視線を移す。

「お前の妹だったよなァ?それと…こっちは母親」

コツン、と勝俣の指が画面をつつく。
子供たちから少し離れて、井戸端会議をしている主婦の中に母さんの姿も見えた。
体の中の血がどんどん冷えていく。
つまり、俺が抵抗したら母さんと知香をどうにかするってことなのか?
こいつならやりかねない。

「…野郎ォ…俺に勝てないからって女に手ェ出して恥ずかしくないのかよッ!!」

「うるせェ!!誰が誰に勝てねェんだよッ!!」

ガン、と大きな音を立てて勝俣が手にもった黒い機械で俺を殴った。
殴られた衝撃で、がくんと頭が垂れる。
そうしてもう一度、乱暴に前髪が掴み上げられた。
つかそんなに掴まれたら抜けるんだけど、とかどうでもいいことを考えながら俺は勝俣を睨み上げた。
俺がどんな顔をしてたんだか知らないが勝俣は機嫌のよさそうな顔をして顎へと指を滑らせる。

「ふん、やらしい顔しやがって…。分かってるよなァ?お前が抵抗したらこの二人の事マワしてやる」

「…テメ…!!」

俺が反論する前に、強く顎を上に向けられた。
勝俣と目が合う。奴はギラギラした目を向けながら笑っていた。
その時、唇に何か乾いたものが触れた気がした。
いや、触れてるんだ。

「んっ…んん…」

それは勝俣の唇なのだとすぐに理解した。
こいつは本気でこんなことをするつもりなのか?
俺は怒りでいっぱいの頭でそんなことを考えながら顔を逸らした。
そんな俺を追うようにして勝俣がキスを続ける。
突然ぬるり、と咥内に柔らかいものを感じた。

「んんーっ…ふっ…ん…」

俺が後ずさるように足を動かすと、それさえも許さないと言ったように勝俣の手が俺の腰を抱き寄せる。
咥内でうごめく舌が気持ち悪かった。
腰が痺れそうな感覚に陥ってしまって、それでも何とか理性を保とうと勝俣の舌を思い切り噛む。

「…ぐっ…てめえ!!」

勝俣は短い悲鳴を上げてから俺の頬を2度、殴った。
そうして狂ったように黒い機械を俺の頬にぐりぐりと押し付ける。
母親と妹がどうなってもいいのか、と怒鳴りつけて俺に否定を求めようとしてきた。
俺が黙っていると、荒々しい手が俺のシャツを捲り上げていく。
シャツの下に何も着ていない俺は、妙に熱い勝俣の手を感じる。
がさついた手が胸の突起を強く摘んだ。

「…っあう…」

「へへ、敏感じゃねェか」

思わず口から漏れた声に、勝俣が笑った。
何だこれ。
強く掴まれて痛いし、男にべたべた触られてきもちわるいのに、どうしてこんなやらしい声が出てくるんだよ。
俺の疑問に答えは出なかった。
胸が弱いと言う事を察したのか、勝俣は親指の腹で俺の胸をぐりぐりと押しながら熱い息を吹きかけてくる。
俺の足がガクガクと震え始めていた。

「…っあ…うあ…やめっ…ぅぐ…」

できるだけ情けない声を聞かせないようにと声を殺すけど、勝俣のそれは容赦がない。
硬い針を突き刺すようにぐりぐりとその行為を続ける。
だんだんと胸の先が痺れるような感じがした。

「んっ、ん…ふっ…あふ…」

だから何だよ、この感じ。
体に力が入らない。
いつの間にか勝俣に寄りかかるような姿勢になってしまった俺は、大きく息をしながらかぶりを振った。
熱が出たみたいに頭がボウッとしてくる。
勝俣の足が俺の両足の間に滑り込んできた。
どうしてこんなことするのかは分からない。
先の見えない感覚が怖かった。
勝俣の手がどんどん下に下りていく。
胸をゆっくりなぞってから、腹の周りを撫でた。
その感覚がとても気持ち悪くて、何度も突き飛ばそうと考えるが、手は動かないし足も動かない。
抵抗すれば母さんと知香は…。
俺に、選択肢はないのだとおもった。
もちろん、まだ諦めてはいない。

「なァ、大門…お前ばっかり良くなってたら不公平だよなァ…」

勝俣は、するりと俺のズボンの中へ手を滑り込ませてきた。
熱い手が俺のものを掴む。
ふざけるな。ふざけるな。
こんなことして楽しいか?
母さんと知香を餌にして俺に言う事聞かせなきゃこんな事もできねえ?
どこまで腐った男なのだろうとおもった。

「あっ…ぐ、はぁっ…どういう、意味だよ」

俺の問いに、勝俣は笑っただけだった。
そうして俺から手を離す。
いきなり体を解放された俺は、そのまま膝をついた。
腰に力が入らなくて上手く立ち上がれない。
俺は床を見つめたまま大きく喘いでいた。
そんな俺の周りに、2〜3人、勝俣の舎弟が集まってくる。
何やらカチャリと小さな音を立てていた。
今度は拷問でもすんのか?
俺が俺を上げると、同時にグロテスクなものが口へ押し付けられた。

「ん、んんっ…!!」

「はははッ、コイツ悦んでんぜ」

俺の口の中に突っ込まれたそれは、男の硬くて熱いものだった。
既に先走りで湿っているそれが遠慮なく咥内に侵入してくる。
視線を上げると、愉悦の表情を浮かべている勝俣と目が合う。
勝俣は俺の頭を押さえつけて笑った。

「…っ、むぐ…んあ…」

「大門、俺はずっとこうしたかったんだよ。くそ生意気なお前をこうやって屈服させて犯したかった」

きっと歯で噛み千切れば母さんと知香が酷い目に合うんだろう。
俺は目だけで反抗心を示すと、口の中のそれを舌で舐め上げた。
咥内で勝俣のものが震える。じわりと先走りが溢れてきて、それが喉にからみついてくるから苦しい。
情けない気持ちでいっぱいになって、泣きたくなってきた。
先っぽを強く吸い上げている俺に、くびれのところも余すところなく愛撫するよう勝俣が命令した。
俺はお前に屈服したんじゃない。
家族を助けたいだけなんだ。

「…んんっ…あふ、むう…も、いいだろ…?」

先端に口をつけたまま俺が呟くけど、それは無視された。
勝俣は俺の頭を押さえつけたまま酷く至福そうな顔をしている。
そうして、奴はとんでもないことを言ってのけた。

「お前らも出せよ。大門に舐めてもらえ」

「マジっスかァ?勝俣サン」

下卑た笑い声が回りに聞こえる。
俺が口を離そうとすると、頬に硬いものが押し当てられた。
ひどく熱くてぬるぬるしたものだ。
顔を背けようとすると、もうひとつ猛ったものが向けられる。
俺はようやく恐怖を感じた。
不意に鎖が解かれるのを感じる。
でもそれは、本当の解放じゃない。
勝俣は、それを握るようにといった。
嫌だ。
俺が無言で否定する。
それでも口の中に苦いものを突っ込まれると、言う事を聞かずにはいられなかった。
俺は躊躇いがちに、すぐとなりにいる男のものを掴む。
熱くて、嫌な感じがした。
もう片方の手は勝俣のものに添えて、言われるがままに頭を動かしていく。

「んんっ…んっ…んぐっ…ぐっ…ホントに、俺が言う事を聞けば母さんと知香には手を出さねーんだな?」

俺は手で勝俣のものを扱き上げながら言った。
手で触ると、また口とは違った生々しさを感じて吐き気がする。
俺は強く目を瞑ってそれを銜えた。
勝俣の手が俺の頭を押さえつけてくる。

「もちろん…俺はお前の体にキョーミがあったんだからな。用が済んだら手はださねェし約束は守るぜ?男と男の約束だもんな」

勝俣はどこか馬鹿にするように笑うと、舎弟に目配せした。
丁度俺の後ろにいたそいつは、乱れた俺の服を完全に捲り上げる。
ズボンの上からそれを掴まれて、痛いくらいの不快感が体を走った。

「んあっ…や、やめやがれッ…あっ…」

先ほどまで触られていた胸の突起に、別の手が伸びる。
俺はもう言う事を聞くどころではなかった。
手には男のものを握ったまま、荒い息をつくことしかできなくなる。
休む事は許されないといったように、口の中のものが押し入れられた。

「んんっ…むぐ…ふあ…う…やめっ…はぁあ…」

俺は無意識に手の中のものを強く掴んで、吸い上げるようにしがみついた。
体の中も外もボウッとしてしまってだんだん熱く変わっていく。
俺の頬に硬いものが擦り付けられた。
べたべたとした先走りが頬を流れていく。
後ろから体を撫で回している男は、荒い息をつきながら俺の耳元に唇を寄せた。
…何もかも、狂ってる。
俺は強く目を瞑って、この悪夢が終わるのを待った。
同時に、下腹部のものが乱暴に擦り上げられる。
何もかも黒く塗りつぶされていくような感覚を覚えた時、俺は声を上げていた。

「んんっ…も、だめ…だっ!ふあっ…あああァっ…!!」

俺が達したのと同時に、口の中のものから苦くて青臭い液体が勢いよく飛び出してきた。
全部口に受け止められなくて、溢れたソレは口の周りどころか俺の顔中汚していく。
世界がまっ白になるような気がした。
鈍い光がぼんやりと頭の中で薄れていく。
それは最後の闘争心だった。
俺は、負けたのか?
負け知らずの大門大が…。

「ひあ…ふ…」

情けない声なんか出して、勝負に負けちまった。
けどこれで、家族は救ったのだとおもうと安堵感と達成感に包まれて俺はゆっくりと意識を手放す。
初めて知った快感に近い感情を覚えながら、だ。



「マサルにいちゃーん!」

おーい、と手を振る元気な声が聞こえた。
俺がそこへ近付くと、妹が泥だらけで走ってくる。
ずいぶんはしゃいだらしい。
手には泥で作ったうさぎを持っていた。

「よォ知香…何だよ、こういう遊び嫌いじゃなかったか?」

知香はスカートまで汚して泥遊びをしていたようだ。
俺が呆れて言うと、井戸端会議が終わったらしい母さんがのほほんとやってきた。
そうして全身泥だらけの知香を見て嬉しそうに両手を合わせる。

「あらまあ、知香ったら泥だらけじゃない。いっぱいお外で遊んだのね?」

「うん!あんねー、ホントは汚れるしやりたくなかったんだけどぉ…いじってみたら楽しかったの!」

「そう、良かったわねぇ」

「このうさぎ、おかーさんにあげる!」

「あらあら…」

のんびりと話している二人を見て、俺は数時間前の事を思い出していた。
あれは夢だったんだろうか。
俺は廃ビルに連れ込まれて、とんでもない仕打ちを受けた。
すべて夢ならば気が楽だったが、体を弄り回される感覚と口の中いっぱいに注がれたものの臭いが頭から離れない。
考えれば考えるほど、訳が分からなくなった。

「あれ、マサルにーちゃん…どうしたの?何か嫌なことあったの?」

すぐ視線を下ろすと、知香が不思議そうな顔で見上げていた。
こいつは本当に鋭い奴だ。
俺は苦笑した。
その様子では何か酷い事をされた形跡はないし、奴らが接触してきた気配も感じられない。
俺は、知香の頭を撫でると、そのまま知香と同じ目線になるように座り込んでから小さな体を抱き寄せた。

「うわっ…暑苦しいよぉ、マサルにいちゃん…」

「知香、泥遊び楽しかったか?」

「…?うん」

「ならよかった」

俺は自分に泥がつくことも気にならなかった。
知香をできるだけ強く抱きしめて、声だけはいつものように軽い調子を装ってみせる。
僅かに渦巻く熱と、ようやく襲ってきた恐怖をまぎらわすように、俺はいつものように笑っていた。

















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初のマサル受です。
どう考えても勝俣くんはマサルが好きなんだろうと思いつつ、勝マサを見ないので作ってしまったエロ(笑)
はははははは…何か色々捏造設定で誤魔化してますが生温い目で見てやって下さい(汗)