「兄貴、兄貴」

少し掠れたハスキーな、でも甘えたような声が耳元にかかる。
うるせーな。もうすこし寝かせろよ。

「あにきぃー…」

ふっ、と耳に誰かの吐息を感じた。
俺を兄貴だなんて呼ぶのは一人しかいねェ。アグモンだ。
布団に寝転がったままそれを手で払うと、拗ねたような声とともに抱き寄せられる。

「あにきーおきてよぉ」

「るせー。休みの日くらい寝かせろ」

俺はむき出しの腹をかきながら寝ぼけ眼で言った。
それでも暑苦しいくらいに擦り寄ってくるアグモンが俺の体を抱きしめた。
アグモンの手を掴んで引き剥がそうとした俺の手に触れたものは、俺と同じくらいの人間の手。
全身から血の気が引いていった。

「お前誰だよッ!?」

俺はそいつに背を向けたまま怒鳴る。
背中から俺に抱きついているそれは喉の奥で笑いながら俺を抱き寄せた。
このとんちんかんな声はアグモンに違いない。
けど、でも、この手は?

「兄貴ぃ、寝ぼけてんのかぁ?俺が起こしてやろっか」

アグモンの声をしたそれが俺の耳に唇を寄せる。
ちゅっ、と短い音が聞こえた。
生温い舌が俺の耳を舐めていく。
俺はそこが弱かった。

「っあ…こら、てめ…ぶっ飛ばすぞ!」

「兄貴が起きたらやめるもん」

アグモンはそう言いながら俺のシャツを捲り上げた。
その手は、恐ろしいくらい人間の形をしている。
何で。どうしてだ。
後ろにいるのは誰なんだよ?

「んっ…!!」

アグモンの指がぎこちなく俺の胸の突起を摘んだ。
思わず顔を仰け反らせると、アグモンが背中で笑ってる。
くっそ…馬鹿にしやがって…。
少しばかりかさついた指が俺の突起をこねるたび、ぞくぞくと体内に電気のようなものを感じる。
俺は布団の中でアグモンらしきものに背を向けたまま未知の感覚に耐えていた。

「はっ、あ…うあ…離せよ…馬鹿、アグモン…」

俺の抗議の声も聞こえていないのか、アグモンは俺のシャツを脱がせて枕元にほおった。
同時にズボンと下着もそこに投げられる。
慌てて下肢に手をやると、いつの間にか脱がされていたことにようやく気付いた。
改めて、と言うようにアグモンが俺に体を寄せる。
奴もすっぱだかなのか乾いた肌が触れた。

「兄貴ってさぁ、喧嘩は強いのにどうしてここ弄られると弱くなっちまうんだぁ?」

その声は決して馬鹿にするようなものではなくて、疑問に溢れた声色だった。
アグモンの手が再度、俺の胸をこねはじめる。
俺はアグモンの両手を掴んで、その感覚に目を瞑って耐える事しかできなかった。

「はぁっ、ああ…そんなん知るか…ひっ、んんっ…」

くにくにと、突起がアグモンの手の中で触られて形を変えていく。
先端が堅くなっていくのが分かった。
アグモンは俺の太ももに足を絡めるように抱きつくと、片手を下肢へと下ろしていく。
半勃ちになったそこを遠慮なく掴まれた。

「や…うあ、ひっ…アグモンっ!んく…んあっ…」

「兄貴、弱ぁーい…。これじゃあ俺が兄貴だよねぇ、マサル?」

アグモンはわざとらしく俺を呼び捨てにして笑った。
俺は胸と下肢を弄られたまま手も足も出ず、アグモンのいたずらに体を震わせることしかできない。
じっとりと額に汗をかいているのが分かる。
体を突っぱねた俺を無理やりに抱き寄せてアグモンが言う。

「ねえマサルー、マサルのえっちな声聞いてたら俺…何だか変な感じになってきた」

「ひっ、ぐ…うう…な、何のことだよっ…ふざけ…あぐっ!」

アグモンの手がぬるぬるしてる。
その手が俺の下肢や腹を撫でた。
濡れた原因は俺のもののせいだとおもうと酷く恥ずかしかった。
そんなにしたら、俺。

「あふっ…やあ、ぐ…うう…アグモン、アグモンっ!も…もう、俺っ…」

アグモンの手は容赦なく俺のものを擦りあげていた。
こんなにきもちいいのに、この手はアグモンの声をした誰かだ。
背中越しではその正体は分からないし、強く抱きしめられていたから振り返るなんて不可能だった。
俺は見ず知らずの奴に良いように遊ばれている。
そうおもうと恥ずかしくてどうしようもなくて、そんなことどうでもよくなった。

「マサル、いいぜ…出しても」

ぐちゅ、とアグモンの手の中で俺のものが音を立てる。
俺は背中にいるそれの正体を目にすることなく精を吐き出した。

「…っはぁ…あああぁっ!」

布団の中がぐっしょりとした液体で満たされる。
俺は肩を震わせながら腕を上げた。
背中にいる人物の体を何回か苛立ち紛れに叩いてやると「いたいよー」と声がする。
俺は泣きたいような情けないような気分になって、強く目を瞑った。





「兄貴ぃー」

またこの声だ。
俺が少しばかりの仮眠を取った頃、アグモンの声が耳に入った。
今度こそ正体を見極めてやる。
俺は眠気で冴えない頭を無理やり起こしてからゆっくりと振り返った。
そこにはアグモンはいない。
布団の中は俺1人だった。

「アグモン?」

「あーにーきー」

アグモンの声は頭上から聞こえる。
俺が仰向けになると、顔を覗きこむような形で奴がいた。
もちろんいつものアグモンだ。
足を伸ばして座っていて、俺が早く起きるのを待っていたみたいな顔をしている。

「…てめぇッ…さっきはよくも変なことしてくれやがったなァ!!」

「わっ、なに!?いたいよー!」

俺はゆっくり布団から這い出ると、アグモンの頭にゲンコツを3発お見舞いしてから掛け布団をはいだ。
布団の中は、俺のもので汚れていない。
まさか。あんなに出したのに。
そう思ってパジャマに手をやるけど、着衣に乱れはないしズボンも脱がされた形跡はなかった。

「…あれ。何でだ…?」

俺はズボンにも手をやって、濡れてないか確認する。
全然、むしろ乾いていた。
俺の行動を見ながらアグモンが不思議そうな顔ををしている。
大きな目をパチパチしているその姿は、俺の知ってるアグモンだ。

「…お前、アグモンだよな?」

「何言ってんだよ兄貴ー。ゲンコツ痛かったぞー…」

「悪ィ悪ィ…もうしねーからな」

俺はアグモンの頭を撫でるように叩くとそのまま部屋を後にした。
思えば、そうだよな。
アグモンが人間になってたなんてありえねーし、ありえたとしてもそれは俺の夢の中の話だ。
ったく、変な夢もあったもんだ。

「…でも」

俺はふと口を開いた。
でも、アグモンらしきものに強く抱きしめられた感覚はある。
熱くて、心地のいい手が俺のことを撫でたような気がする。
それも総て夢だったんだろうか。
そう思いながら便所に入る。
ズボンの前を開けると、俺の口がポカンと開いた。
俺が昨日の夜着替えた下着じゃない。

「…あれっ!?」

そこで俺は気付いた。
このパジャマ、俺が着てたやつだったっけ?
昨日の夜風呂から出て着替えたパジャマは青くて地味なやつだったはず。
けど今着ているのは赤茶けたパジャマだ。
寝ている間に俺が着替えたのか?
まさか。
そうおもいながら便所の壁にかけてある鏡で己をみると、そこに映っていたのは。
何の変哲もない俺の姿が映し出されている。
寝起きの頭はボサついていて、眠そうな顔をしている俺がいた。
少し胸元の開いた部分に目をやると、そこには赤い痕がいくつか付いている。

「…これ…何だよ?」

俺はパジャマのボタンを解いて前をはだけた。
首筋や胸元にいくつか赤い痕が散っている。
同時に、俺はおもいだした。
俺、やっぱアグモンに後ろから抱きしめられた!?
射精した後に俺はあいつに振り返ってしがみついたんだ。
顔はよく覚えていないけど、俺が顔を確認する前にそいつは貪るみたいにして俺の首筋にキスをした。
俺も真似するように首筋にキスを落としながらじゃれあってて…意識が飛ぶまでアグモンとキスしていたのだ。

「……えーと」

俺はパジャマのボタンを開けたままどんどん熱くなっていく頬を感じる。
やっぱり俺は、あいつに抱かれたのだ。
そう思いながら、起きる瞬間まで顔を覗きこんでいたアグモンのことを思い浮かべて俺はものすごく恥ずかしくなった。

















=====================================================================
擬人化アグマサです。