胸にシンプルな包装紙で包んだ箱を抱えて、僕は校内を走っていた。
生徒会室にもいない。教室にもいない。けど下駄箱に靴はある。
…ってことは、まだ校内にいる。
僕は廊下を走りながら辺りを見回した。
「ルルーシュ…いないのかな」
腕の中のものを少しだけきつく掴んで呟く。
今日は2月14日。バレンタインデーだ。
丁度先日、チョコを作ってくると恋人に約束した。
僕の大事な恋人に。
男がチョコをプレゼントするなんてやっぱり変かな?
セシルさんにそう零すと、「がんばって」って励まされた。
僕がチョコをあげたいのは男、なんだけどね。
「いないな…もう一度玄関に戻ってみよう…」
今日は一日中ルルーシュに会えなかった。
お互いに取っている授業が違うのもあったし、休み時間も移動教室だったから。
僕は玄関に向かおうと身を翻した。
その時、大柄な生徒が2〜3人、ニヤニヤと僕を見つめていることに気付く。
体の大きい彼らは狭い廊下で僕の行く道を塞ぐように立ちはだかっていた。
「スザクちゃん、誰にチョコあげるのかなァ?俺たちにはくれないワケ?」
「あ、えっと…」
からかうような声。
僕は一歩後ずさった。
見覚えのない生徒だ。
クラスメイト…ではないはず。
足りない頭で考えながらもう一歩後ずさると、男の一人は身を寄せて僕の体を壁に押し付けた。
目元に大きな傷がついている。
喧嘩でつけた傷、だろうか。
穏やかな雰囲気ではなかった。
「そのチョコ、よこせよ。毒見してやるから」
「ぎゃはは…」
男の取巻きが笑った。
何も言い返さずに、僕は口を噤む。
それがいけなかったのか、男はむしりとるように僕の手からチョコを奪い取った。
「スザクちゃんにチョコもらっちまったァ」
「か、返してください!」
勝手な事を言っている男につかみかかろうとすると、取巻きふたりに取り押さえられた。
そして、男の手がチョコの入った包みをきつく握りつぶす。
包装紙を開けると、ぐちゃぐちゃになったチョコが露になった。
「きったねー、こんなチョコをプレゼントするつもりだったのかよ?手が汚れたじゃん…謝れよ」
僕の目の前で、チョコレートがポロポロと地面に落ちる。
普段、料理なんてしなかった。
必死でチョコを溶かして、固めて、不器用にトッピングをして…火傷もしたしいっぱい失敗作も作った。
僕の足元に落ちたそれは、一番上手にできたチョコだったんだ。
けど…やっぱりヘタクソだったのかな。
「…す…みません…」
僕は蚊の鳴くような声で呟いた。
火傷をたくさん作った手で制服の裾を握って、僕は俯く。
「聞こえねェんだよ。本当に悪ィとおもってんのか?」
「すみませんっ!」
男の手が僕の髪をわしづかむ。
痛い。
少しだけ眉を寄せて、それでも声を大きくすると若干機嫌をよくしたのか、男は不意に自分のズボンのジッパーを下ろし始めた。
ズボンの中から出てきたのは、男の性器。
何をされるのかはわからない。それでも怖くて身を堅くする。
「…本当に悪いとおもってンなら…コレ、舐めろや」
男の手が僕の頭を掴んで無理やりその場に座らせる。
僕の意思なんて関係ないらしい。
取巻きたちが僕の手を取って、男のものに指を絡めさせた。
僕が座っている足元には粉々になったチョコと包装紙が落ちている。
顔を上げると、男が苛立たしげに僕を見下ろしていた。
「聞こえなかったのか?舐めろって言ってンだろ」
「で、でも…どうして…むぐっ…!!」
僕が口を開くと、すぐさま後頭部を押さえつけられた。
咥内には悪臭のする男のものがねじこまれていく。
驚きと嫌悪みたいなものがいっぱいになって声が出ない。
僕はただ男に頭を動かされるままにそれを口にくわえさせられた。
「んんっ…は、ん…やめてください…うぐ…ぶ、づぅ…」
抗議の声も受け入れてもらえない。
それが不思議で仕方なかった。
下手に抵抗して頭を動かそうとすると息が止まりそうになる。
僕は男の動きに従うようにそれを舐めることしかできない。
舌が、震える。
「…んっ…ちゅる、ふ…あむ…」
「ひゃはは…コイツそっちのケがあるんじゃねェの?エロい顔して舐めんじゃねーか」
男の暴言が頭の上から振って来る。
僕はじわりと溢れた涙を拭って口の中のものを咥え直した。
苦いそれは僕の口の中で大きくなっていく。
「…っ、むぐ…は、ぐ…んん…」
僕はできるだけ舌を使いながら男のものを押しやろうとするけど、それが結果的に相手を良くしているらしい。
男のものは硬く、熱いものへと変わっていく。
「スザクちゃんよォ…男のチンポしゃぶって感じてんのかァ?」
「…っ…!」
男の下卑た声にハッとすると、上履きで強く下腹部を踏まれた。
きつく目を瞑るけど、痛みが和らぐわけはなく。
つま先でグリグリと僕のものを刺激しながら更なる奉仕を要求した。
痛い。痛いです。
目だけで訴えても男たちは僕が苦しがっている姿を見て嬉しそうな顔をしている。
「…っ、ふ…く…んんぅ…あ…っ、ルル…」
ふと、僕の頭の中にルルーシュのことが浮かんだ。
足元に落ちたチョコはルルーシュに渡すはずだったものだ。
チョコを楽しみにしてくれていた、僕の恋人のものになるはずだった。
なのに…。
「スザクッ!!」
ふと、どこからか恋人の声が聞こえた。
同時に恋人の鞄で男の顔が殴られる。
恋人は息を荒げながら男を睨みつけていた。
「悪いが先生を呼ばせてもらった。すぐに来るぞ」
「な、何だとッ!?」
男は僕の体を突き放すと、逃げるように去っていく。
彼らの後姿を憎々しげに見送った恋人…ルルーシュは、僕に近付こうとして足元に崩れているチョコを見て眉を寄せた。
綺麗な顔立ちが怒りに歪んでいる。
「これ…あいつらが…?馬鹿!どうしてやりかえさなかった!?」
「やり返したって何も出ないよ…出来が下手なのは本当なんだ」
怒りを露にしているルルーシュを落ち着けようと微笑みかけるけど、恋人は僕の意思なんてお構いなしに男たちが去った廊下を見やった。
グッと拳を作って、今にも喧嘩をしかけそうな雰囲気だ。
「スザクがやらないなら俺がやる。あいつらをぶんなぐって…」
「待ってくれ!」
僕はルルーシュの足にしがみついて大きく息を吐いた。
足元に落ちているチョコがほんのりと甘い匂いを放っている。
火傷だらけの手でルルーシュのズボンを掴むと、僕は口を開く。
「…僕は平気だから。また作ればいいんだよ」
そう言うと、おもむろにその場に座り込んだルルーシュは包装紙にくるまれたチョコのカケラを手に取って口に含む。
仏頂面のまま口を動かしてチョコを飲み込んだ恋人は、僕の髪をなでて言うんだ。
「…俺が怒ってるのはチョコだけじゃない。…スザクにあんな事をさせて…」
ルルーシュの声は低かった。
怒りに満ちた、それでも悲しそうな声。
俺はかぶりを振った。
「僕は慣れてるから平気なんだ」
それだけ言うと、ルルーシュは泣きそうな顔をして僕を見た。
僕は、この学園に入った頃からたびたび嫌がらせを受けている。
それは教科書に落書きするとか持ち物を隠すとか、そういうものじゃなくて。
僕を男子便所や屋上に呼び出して無理やり体の関係を持ちかけるものだった。
それを言い出せず黙っていた僕をルルーシュは叱ってくれて、いつでも一緒に行動するようにと勧めたんだけど…。
四六時中一緒にいられるわけがない。
ルルーシュがいないときを見計らったように、クラスメイトや別のクラスの生徒から性行為を強要されていた。
「…スザク…」
ふいにきつく抱き寄せられる。
ルルーシュは目を細めて僕を呼んだ。
恋人の背中に腕を回して目を伏せると、ようやく安心感が僕の胸を満たす。
「ルル…チョコ、おいしかったかい?」
「馬鹿…こんな時に…。美味かったよ、すごく美味かった…」
君は僕の髪を撫でて、何度も名前を呼ぶ。
僕のために怒ってくれる。僕のために泣いてくれる。
そんな恋人が傍にいるというだけで僕はずいぶん救われているんだよ?
だからそんな顔しないでほしい。
僕は大丈夫だから。
まだ、大丈夫だから。
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ギアス小説第三弾。ルルスザですー。しかも何だかダークな…。
受スザクは毎日校内レイープされていると脳内設定作っております(爆)
ルルはスザクに寄ってくる男共をもやしパンチ(全力)で払ってると…(笑)
一気にギアス作品を3つ更新したので目がシバシバしております(笑)