白銀の桜が寒々しい木々に積もるのをベッドから見ながら、俺はぼんやりとそこから抜け出した。
隣にはクラスメートが眠っている。
少しばかり体に痛みを感じて眉を寄せるけど、それが昨夜の出来事を物語っているようで、俺は目を伏せた。
よく覚えてない、と言えば嘘になる。
あんなにはっきりと目に焼きついて離れないクラスメートの瞳と、声。
擦れる服の音、軋むベッドの音、総てが俺の全身に染み込んでいた。

行為の相手は誰でもよかった。

「…起きてるか」

返事はない。
俺は窓に近付くと、そっと窓のガラスに息を吹きかけた。
白く曇った窓の外で、兄が学校の花壇を手入れしている。
少しばかり日が昇り始めて、寒い体にも柔らかな日差しが感じられた。
俺はパジャマのまま項垂れる。
まだ眠り足りないのか、俺の頭はぽーっとしていてすぐに働きそうもない。
俺は窓を背にして、ゆっくりと座り込んだ。
ぎしりとベッドの上から音がする。
寝返りを打った彼が、俺を見つけて笑った。
ただでさえ癖のついた髪に寝癖がついている。
彼は俺を見て瞬きを繰り返すと、上体を起こして部屋の中を見回した。

「俺の部屋だ。昨日泊まっていったじゃないか」

俺は、テーブルの上にあるアルコールの缶を指した。
ヤケ酒だとか言って、彼が持ってきた酒を飲んで俺はそのまま酔った勢いに任せて奴を誘ったんだ。
岩崎仲俊、飄々とした男だ。俺とは正反対だが別に嫌いと言うわけでもなかった。

「航、あー…昨日シたんだっけ」

岩崎は頭をかきながら欠伸をすると、ベッドから這い出して俺の手を掴んだ。
思いの外暖かな手が触れる。
岩崎は俺を立たせると、そのまま俺をベッドへとほおった。
ぎしり。
岩崎の目がまだ昨日の色をしている。
俺は、ゆっくりと近付いてくる岩崎の肩を軽く押した。

「…そろそろ、石田が早朝訓練だとか言い出す時間じゃないのか」

「関係ないね」

岩崎はそう言うと、組み敷いたままの俺に口付けを落とした。
2度目の口付けだ。
俺は岩崎の首筋に手を回して強く引き寄せてやる。
抱きたいなら好きなだけ抱けばいい。
それが俺の答えだった。

「…っあ…くふ…んんっ…」

酒の味がした。
舌に絡みつく岩崎のものが苦い。
俺は、岩崎の腰に足を絡めてやった。
まだ酒が抜けていないのか、俺も岩崎も大胆になっている。
狭い室内に、くちゅくちゅと互いのものの交じり合う音が聞こえた。
心地よくて、やめられなくて、俺はそれを続ける。

俺にとって、時々こっそりと街に下りて体を解放するのは趣味になっていた。
一度酷く体の調子を崩してしまった時、兄にそれを問いただされて"自分の体を大事にしたほうがいいよ"と珍しく説教をされたことがある。
俺だってバカじゃない。
どうすれば自分の体が負担にならないのか分かる。
だから無闇やたらに体を開放する事はなかった。
使うのは、上の口だけだ。
そうやって今まで自分の体の負担を軽くしてきたのに、この男には総て許してしまった。
別に誰でも良かったんだ。そろそろ全部欲しかったから。
別に誰でも良かったんだ。彼でなくても。

「…やっ…ふあ…あ、そこは…」

いつのまにか、岩崎の手が俺のズボンの中で動いている。
ズボンの中で、妙に盛り上がった手の形がいやらしくて恥ずかしくて、俺は目を瞑った。
俺は恥ずかしい声を聞かせてる。
隣の部屋にも聞こえてたらいい。
変人の弟は変人なんだ。

「航、昨日…何で俺がお前の部屋に来たのか分かるか?」

岩崎は俺のものを触りながら低い声で言った。
俺が知るわけない。
黙ってかぶりを振ると、岩崎は少し泣きそうに笑うのだ。

「俺ってば咲良ちゃんにフラれちゃってさー。…咲良ちゃんが気に留めてる"小島航"って奴のことが知りたくなったってわけ」

ぐちゅ、とそれが強く握られた。
何だ…嫉妬していたのか。
俺は返事をしないまま肩で息をする。
ぐい、と俺の足が強く押し上げられた。
とっくにズボンなんか脱がされている。
俺の両足が顔を挟むように固定する。
体は柔らかいほうだから激痛はないけど、下肢が晒されているということが少し気恥ずかしかった。
ぬるぬるとつぼみに岩崎のものが触れる。

「…っあ、は…んんっ…岩崎…あふ…」

焦らすなと言おうとしたが、俺の唇を押さえつけた岩崎は笑って身を寄せた。
先走りをそこにつけて慣らそうとしているのがよく分かる。
女みたいに抱く事ないのに。
俺は足を大きく上げた格好のまま目を瞑った。
僅かに、内部が熱い。
俺は奴を欲しがっているのだと、分かった。

「や…あっ…ぐっ、う…」

先端がゆっくりと俺の中へと入っていく。
息の抜き方は知ってる。
それなのになかなか体から力が抜けなくて、だんだんと息が上がってきた。

「こうやって改めて陽の下で見ると…とことん可愛い顔してんだな、お前」

岩崎が笑う。
唇に当てられた手がそっと頬をなぞった。
いつのまにか伝っていた涙を、岩崎の指が受け止める。
それが不思議で、妙に気恥ずかしくて、無理やりでもいいから早く犯せばいいのにと思った。
愛撫は俺の快感を引き出すように時間をかけて、ゆっくりと続けられる。
俺は、串刺し状態のまま逃げることもできずにただ息を整える方法を探していた。

「あっ…うぅっ…っ、ぐ…あぁっ…」

脚が使えない俺は、精一杯腕を伸ばして岩崎を抱き寄せる。
結合部は乱暴に擦られていた。
内部が抉られるたび熱くて心地よくて総てがどうでもよくなってしまう。
俺はただ甘ったるい声を上げて、体を支配する男へ総てを委ねた。
丁度その時、目覚ましのけたたましい音が聞こえる。
反射的に肩を震わせてしまった俺を抱きしめて、岩崎が笑う。
それでも行為はやめなかった。

「…っふ…声が…あっ…く…もう…」

俺は何とか声を殺しながら口を開くけど、こんな狭い室内では隣人に気付かれるのも時間の問題だ。
気付かれてもいい。けれど俺はそれを恐れた。
同時に、放送室のスピーカーから声がする。

『早朝訓練を始めます、各自10分以内に校庭に集合してください』

石田の声だった。
同じくしてみんながバタバタと起き出す音がする。
コンコン、と部屋の戸が叩かれた。
俺と岩崎は息を止めて、気配を殺す。
すぐに部屋の前から気配は消えた。
廊下を走る音も聞こえる。
みんな、出て行ったのだろうか。

「…やー、マジでスリリングだなぁ…お前、こういうの好きだろ?」

岩崎はいかにも楽しそうに笑うと、再度腰を使い出した。
さっきよりも遠慮のない動きだったからつい声が漏れてしまう。
もうだめだ、とだけ唇で言うと気付いてくれたのか岩崎が俺の唇にキスをした。
唇の端から声が漏れる。
俺は岩崎の服の上から爪を立てて迫ってくる快感に耐えた。
あんまり苦しくて顔を逸らすと、口付けが解けてしまう。
そこで俺は、自分の声が予想していたのよりも大きなものだったので思わず息を飲んだ。

「あふっ…!あ…あぐっ…い、岩崎…ああぁっ…」

早く唇を塞いでくれというつもりで顔を寄せるけどそれは却下される。
岩崎はいたずらに笑って"もっと聞きたい"と言った。
何を言ってるんだ、こいつ。
俺は揺さぶられながらだらしない声を部屋中に響かせた。
廊下にだってきっと聞こえてる。
窓の外からは、外周をしているクラスメートの声がする。
石田の声も聞こえた。
岩崎は俺に、そんな他愛ない事まで考えさせないつもりなのか、激しく腰を突きたててくる。
繋がったところから痺れてくる気がする。
俺の顔を、バカにするわけでもなくじっと見つめて岩崎が言った。

「好きだぜ、航」

滅多に見られない岩崎の真剣な瞳が俺に向けられる。
石田に好きだと言ったり、俺に好きだと言ったり、忙しい奴だ。
俺はその遊びに乗ってやることにした。
強く、岩崎を抱き寄せて耳元でたった一言だけ。

「俺も…好きだ」

ぎゅう、と内部のものが一気に堅くなる。
何て分かりやすい奴なんだ。
岩崎は昨夜の行為で俺の隅々まで知り尽くしてしまったかのように、巧みな愛撫をくれた。
もうこれ以上ないと言うくらいの強い愛撫だ。
苦しい、苦しい、熱い。
俺の体は絶頂を感じてきているのか、逃げるように身を捩ってしまう。
もちろんそれは無駄な抵抗だ。
ここまで誘っておいて抵抗するほうがおかしい。
俺はまるで生娘みたいな事をしている。

「い、岩崎…っうあっ…あ…あぐ…!い、いく…あふ…いっ…くぅ…」

バカのひとつ覚えみたいに、俺は"いく"と繰り返した。
岩崎のものがゆっくりと引き抜かれていく。
同時に腹から顔目掛けて白濁したものが飛んできた。
熱くて、それは俺に絶頂を促してくる。
岩崎は俺のものを掴んで軽く扱いた。
すっかり敏感になったそこは小さな愛撫だけで俺を快楽の底へと誘ってくる。

「…やっ、う…っあ…ぁあああーっ!!」

尾を引いて叫び終わった後、心地良い快感とけだるさと恥ずかしさがごちゃごちゃになって俺に振ってきた。
あんなに声を出したら、誰かに気付かれてるだろうに…。
少しだけ反省をする。
兄に聞かれていようものなら説教されるに違いない。
顔を白濁まみれにしたまま、俺はそんな事を考えていた。
岩崎は俺の髪をくしゃくしゃと撫でて、汚れた唇にキスをくれる。
同時に熱い抱擁が俺を包んでくる。
気持ちよくて、悪くはなかった。
できるならもっと繋がっていたかったけど。

「あっ、航…?」

俺は岩崎の腕からすり抜けると、おもむろに立ち上がって顔を手の甲で拭った。
不思議そうに後ろから声をかけてくる岩崎に俺はただ一言。

「…風呂に入ってくる」

それだけ言って、部屋のタンスの中からタオルを取り出して顔を軽く拭いた。
替えの下着を手にして、ゆっくりと部屋から出ようとすると陽気な声に止められる。
振り返ると、岩崎が俺のズボンを手にして笑っていた。
そう言えば脱がされていたような気がする。
俺は替えの下着やタオルで下腹部を隠しながら手を伸ばした。

「……」

「どーしよっかなァ」

ズボンを渡して欲しい俺に気付いたらしく岩崎はわざとらしくもったいぶって見せるが、俺が黙っているのを見るとすぐに投げ渡してくれた。
そして愛嬌のある顔をして、笑う。

「俺も一緒に行く。良いだろ?ほら、汗かいちまったしさ」

「……」

俺は返事をせずに部屋のドアノブを掴んだ。
後ろからバタバタと慌しく俺についてくる岩崎の足音が聞こえる。
それが俺のすぐ背中で止まった時、俺はそっと振り返った。
岩崎は、いきなり振り返った俺を見て目を瞬かせていたが、すぐに「行こうぜ」と笑う。
その笑顔が煩わしいと言うよりも、どこか心地のいいものだったから、俺は少しだけ身を寄せて岩崎の唇に己のものを当てた。
口付けを解くと、岩崎が顔を赤らめてから吹き出すように笑った。

「航…お前顔真っ赤じゃん!何照れてんだよ?」

「……」

岩崎も十分真っ赤だと思ったが、俺は何も言わなかった。
俺の身体は、ようやく自分が照れている事に気付く。
2度体を重ねた相手にこうも照れてしまうのが不思議で仕方なかったが、悪い気はしなかったのでそのまま部屋を出た。
廊下の窓から見える白い花をかぶった木が朝日できらきらと輝いていて、起き始めに見た時よりもずっと綺麗だった。
それがどうしてなのか分からなくて、しばらくそれを見つめたまま、俺は未だに熱くなっていく頬を感じている。

















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アニメ設定の岩航ですー。