「はぁ〜っ」

「隊長どうしたんですか?」

「なんでもない…」

「ため息をつくと、幸せが逃げていくんですよ」

「しあわせ?」

ぼうっと放課後の教室の窓から外の景色を見つめたまま部下が言った言葉に、小さな隊長は敏感な反応を返した。
青い髪と赤い目の幼顔をした隊長。
自分よりはるかに身長の高い相手を見て、隊長…石田咲良は真剣な眼差しを向けた。

「…谷口、しあわせってなあに?」

谷口と呼ばれたがっしりした体躯の男は不意打ちの質問に少しだけ面食らったような顔をする。
それでも上官の質問に難なく口を開いた。

「嬉しくなる瞬間のことです。例えば風呂に浸かってる時、うまい飯を食っている時、自分は幸せだな…と、そのように使います」

「ふうん」

石田は大きく頷いて何かを考えるような顔をした。
そうしてまた、次の質問がくる。

「谷口は、私と一緒にいるとしあわせ?」

「なっ…ご、ごほん!」

「どうして咳をするの?」

「いっ、いえ!何でもありません!」

「何で顔が赤いの?」

「あ、暑いからです!」

「…外気温は低いよ?」

「それでも自分は暑いんですっ!み、見ないで下さい…」

谷口はすっかり顔を赤らめると、石田に見られないように顔を背けて自分の胸を押さえた。
平常心、平常心、と横山女史のようなことを呟きながら。
そんな部下の様子を不思議そうに見つめていた石田は、廊下から聞こえてくる足音に振り返った。
コン、と開け放たれたままの教室の扉を航が叩く。
谷口は助かったといわんばかりにため息をついた。
航の手にはコンビニ袋がある。
石田が不思議そうに見つめていることに気付いたのか、航は石田の傍に近寄ると机の上にコンビニ袋の中身をあけた。

「あ、ケーキだ!」

「どうしたんだお前…甘いもの嫌いじゃなかったか?」

石田と谷口が同時に言う。
航はクリームたっぷりのロールケーキを取り出すと、可愛い妹にしか見せないような笑顔で石田へ差し出した。

「石田さん、今朝おやつのケーキがなくて寂しいって言ってたでしょ。だから今買ってきたんだ」

「わー、ありがとう小島!」

石田は満面の笑みでロールケーキを取り出すと早速手づかみで食べている。
そんな石田をたしなめようとしてから、谷口が眉を寄せて航に言った。

「こら、甘やかすんじゃないと言ってるだろうが!」

「さっきまで真っ赤になって助けて欲しそうだった奴の言う台詞じゃないよなぁ…竜馬?」

「うっ…な、何でそれを…」

「くく…さあね。石田さん、それ美味しいでしょ?」

「おいひい!…甘くて柔らかいの…あ」

不意に、笑顔だった石田の表情が固まった。
思わず谷口が航を押しのけて石田の肩を掴む。

「どっ、どうしたんですか隊長!!」

「あのね、谷口が言ってた幸せの意味が分かった。私…ケーキ食べてるとき幸せだ」
石田は言葉通り、幸せいっぱいの顔で笑うと再度ロールケーキを口に入れた。
航は不思議そうな顔をしていたが、谷口は先ほどの言葉を思い出してつい吹き出してしまう。
そうして石田の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「谷口…どうして私の頭を触るの?」

「すみません、なんとなくです」

「…素直に可愛いって言えよ」

「ここここ航っ!!!違うぞ、自分は断じてそのような…」

背後でぼそりと呟いた航の言葉に、谷口が再び茹でダコのように変貌する。
石田はロールケーキを食べる事に必死で二人のやり取りにはまるで関与していないようだった。
しあわせ、しあわせ、と呟きながら笑顔でロールケーキを頬張っている。
そんな様子を見てしまうと邪魔するのも悪いような気がして、航と谷口は揃って口をつぐんだ。

















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オフィシャルカプです。これに先生が加わるとなおよし(笑)