「あれあれ、何してるんだい?」

せっかくの休日だと言うのに屋上にはまっ白なシャツの山、もとい洗濯物を抱えた恋人の姿がある。
本日は晴天。きっと、夜からはまた雪が降り出すんだろうけど。
気味が悪いくらい青く澄んだ空に雲がかかっている。
恋人はシャツをバタバタと叩きながら振り返った。

「ちょっとね、整備班の手伝いさ…今日はすることもないし」

恋人は長い髪を後ろでくくって、てきぱきと洗濯物を干していく。
僕はポケットの中の映画館チケットを出しかけて、それをまたねじ込んだ。
デート日和だよ?と表情を伺うように言うと、君は笑って"そうだね"と言う。
小島航、僕の恋人だ。もちろん表向きは親友。公認ではない。
僕は屋上のてすりに積もった雪を払って、そこにもたれかかった。
航はせっせと洗濯物を干していく。
無駄がない動き。
何だか…葉月さんみたいだなぁ、なんて思いながら僕はそれを飽きることなく眺めていた。
動作の手を休める事なく航が唐突に口を開く。

「岩崎くんはいいの?せっかくの休日無駄にしちゃってるみたいだけど」

僕を見ずに航が言った。
翡翠の瞳は僕ではなく、洗濯物に向けられている。
つまらないなぁ。
僕は内心そう思いながら笑ってやるのさ。

「いやいや、たまにはのんびり過ごすのもいいと思うんだよねぇ僕は。我が隊長殿なんて僕より重症だよ?今だ自宅で寝こけてるから」

「あの人にも困ったもんだなぁ…隊長なんだからもう少ししっかりしてほしいんだけど」

航は少しだけ唇を尖らせて笑うが、その手は休まない。
雪を軽く踏んで、僕は洗濯物の傍へ近付いた。
航は僕の視線に気付いているのだろうが、相変わらず手は休めないまま。

「小島くん、何だか僕子供みたいだ」

「ふっ…そうだね。母親にまとわりつく子供みたいだよ?」

「あはは」

笑いながら航の体を後ろから抱き寄せると、手は生乾きのシャツを掴んだまま止まった。
鈴蘭の香りが鼻腔をくすぐる。
嫌いじゃない匂いだ。
世の子供はみんなこの匂いを知っているんだろうけど、僕にとっては新鮮なものだった。
母親が洗濯物を干している記憶なんて皆無なんだから。

「確かさ、昔のAVで洗濯屋さんが出てくる話があったよね」

「い、岩崎くん!?」

僕がそう言うと、航はものすごい勢いで振り返った。
顔は真っ赤になっている。僕は笑いをこらえて航の肩に顔を埋めた。
洗濯物を握ったまま微動しない恋人に、少しだけ視線を上げる。

「…隊長から貰ったんだ。後で一緒に見るかい?小島くんも健康な男子だもんねぇ」

「み、み、見たくないと言えば嘘になるけどっ…だが…」

航は案の定、全身から見たいオーラを放っている。
それでもどこか渋っていた。
強く握られたシャツを奪い取って、僕はそれを一回ぱたぱたと叩く。

「安心しなよ、どっかのビデオみたいに嘘物じゃないから」

そう言うと、航は僕を見つめたまま軽く喉を鳴らした。
それから何度か咳払いをしてOKの返事を聞かせてくれる。
僕はシャツを干して、笑った。

「ならこの洗濯物、全部干してから僕の部屋においで。ビデオ観賞会といこうじゃないか」

僕の言葉を聞いてようやく思い出したかのように航が洗濯物を鷲掴んだ。
そうしてものすごい勢いでばたばた叩きながら通常の3倍のスピードでそれを干していく。
分かりやすい人だなぁ…なんて思いながら、僕も慣れない洗濯物を干していった。
冬の太陽はどうにも弱いけど、それでも少しずつ日が出てきた。
全ての洗濯物を終えると、航は満足げに洗濯物を見て長く息をつく。
そうして肘まで捲り上げたままの袖を丁寧に下ろして僕へ振り返った。

「ありがとう、手伝ってくれて。お陰であっという間に終わったよ…ってことで君の部屋に…」

「おやおや、性急だねぇ…」

航はもう浮かれた様子で僕に笑いかけた。
そんな笑顔は反則だけど、待たされた甲斐があったかな。
僕は少し考えるように顎へ指を置くと、航に言った。

「まあ、ビデオを見て気持ちが高ぶっちゃったら覚悟してくれ…洗濯屋くん」

「どういう意味かな?」

「ビデオの中の洗濯屋さんと同じ目にあわせてあげようってことさ」

「ぶっ、ちょ…ちょっと!岩崎くん!?」

「ん〜…何か期待してるような顔だねぇ?楽しみにしてて良いよ、なかなか激しいから」

「期待なんか…!いや、ビデオには多少してるけど、その…ああもう!」

どんな想像をしているのか、照れながら喋る航が可笑しくて僕はなおもからかい続ける。
僕は、ビデオに期待する分、君にも同じプレイを味あわせてあげるよ、なんて笑いながら余った洗濯バサミを手に取った。
それをズボンのポケットにねじ込むと、航の肩を抱いてさっきみたいに笑ってやる。

「じゃあ行こうか?」

鈴蘭の匂いがする頬にキスをして航を見やる僕を、眩しそうに見てから君は自分の頬を押さえる。
恥ずかしそうに頷く表情が可愛らしかった。
ぱたぱたとはためく洗濯物を少しだけ見て、そのまま屋上を後にする。
こんな日曜でも、お楽しみがあるなら悪くはないかなぁ…なんて思いながら僕はポケットの中の洗濯バサミを掴んだ。




















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続きはいわぷーの部屋でビデオ観賞会もとい18禁になります。現在製作中。