「どうして僕の指示に従わない?」
「何でテメーの言いなりにならねーといけねェんだよッ!10文字以内で答えてみろやッ!!」
「キミが無能だから。説明は不要だろう」
「んだとッ、このトンマ!トンマ・H・ノルシュタインッ!」
「僕はトンマじゃない…トーマだ。…君は人の名前も覚えられないようだな…知能は猿並か?ああ…大門オサルって低俗な名前だったな」
「ンだと、てめッ…!!俺はマサルだ、大門マサルッ!そのカッチカチの頭に刻んどけッ!!」
また始まった。
私は大きくため息をついてうるさいことこの上ない二人組を見やった。
そこらじゅうがヌメモンの体液でべったべた。
ホンット最悪なんですけど。
早く建物から出たい私はさりげなく車のキーをじゃらじゃら鳴らすけど、二人組はまるで気付く気配がない。
ララモンがため息をついた。
「マサルもトーマも子供みたーい」
ぽつりと漏らしたララモンの声にも応じない。
私たちだけで先に帰っちゃう?なーんて目で会話をすると、ララモンは迷うことなく頷いた。
いがみ合いに勢いを増している二人組を尻目にゆっくりと建物から出た私たちは外の新鮮な空気をたっぷり吸い込んでからため息を吐く。
隊長に言われるまま、今日のミッションをこなすためにやってきたのにあの二人組のせいで滅茶苦茶。
私は車に乗り込んでから乱暴にクラクションを鳴らしてやった。
「…」
10秒たっぷり待ってやったけど反応なし。
相当盛り上がってるのかしら、あの子たち。
「さぁさ…ヌメモンもデジタマに返したんだし、帰りましょー、淑乃」
ララモンは車内に置いていたトロピカルジュースを飲みながらくつろいでいる。
私は、デジタマを後部座席に置くとすぐに車を発車させた。
時折、ララモンからジュースを貰いつつ小言をこぼす。
もちろんあの子たちのこと。
「まったく…マサルもトーマもどうしてあんなに気が合わないの?水と油じゃないんだから…」
「第一印象がサイアクだからでしょ?」
「確かに…ロータッチは最悪かもね」
私は深々とため息をついてからおもいだしたようにシートベルトを装着した。
信号待ちをしつつララモンを見やる。
小さいけど、私のパートナー。
幼い頃からずっと一緒にいたかけがえのない友達であり、デジモンっていう生き物。
私が所属している「DATS」は犯罪を犯したデジモンを取り締まる組織。
現実世界とは別に存在するデジタルワールドから迷い込んできたデジモンや、悪さをするデジモン…さまざまだけど、それをデジタマ…つまりタマゴに返してデジタルワールドに送り返すのが私たちの役目。
薩摩隊長のもと、私たち隊員は日夜デジモンと戦っている。
デジモンとの戦いは危険をともなうし、命に関わることだってあるのにメンバーがバラバラじゃどうしようもないわ。
まずトーマ…私より年下だけど大学を卒業しているエリート貴族。
統率力もあるし頭の回転も速い。
それに反して…入隊して日が浅い大門マサル。こいつが一番の厄介者なのよね。
喧嘩番長だかなんだか知らないけど、トーマに命令されるのが気に入らないってだけで単独行動しちゃうんだもの。
その二人のいがみ合いを見ている私はどっちの味方もしたくないし、怒るのは疲れるし、かと言ってほおっておくと隊長に怒られるし…とにかく、無関係な私が一番大変なの。
「…隊長のお仕置き、受けたくないな…」
「…怖いもんね」
「うん…」
少しだけ乙女心ってヤツが揺らぐ。
そりゃ、私だって女だもの。操は大事だ。
最近の若い子にありがちな「きもちよければセックスしちゃう」なんて思考、本当は嫌いなんだから。
そう、私はセックスなんて無縁の18歳だった。
ただ毎日仕事して、息抜きに女友達とパーっと遊ぶ。
それだけで満足してるんだから。
そりゃあ、初めての相手は隊長じゃなかったけど…隊長に何度も体を重ねられるのは悔しい。
お仕置きとは言え、汚されてる気がする。
入隊したばかりのマサルなんか、男なのに隊長に無理やりされちゃって気を失ってるくらいだった。
それでも相変わらず命令違反を繰り返してるんだから、懲りてないのかなんともおもってないのか…。
「淑乃、青よ、青!」
「え?あ、ごめんなさいっ!」
いつのまにか信号が変わっていた。
私は慌てて車を走らせながら傍らのララモンを見やる。
デジモンっていう生き物はデジソウルの他に精気がないと進化できないらしい。
精気っていうのは…つまりセックスをしろってこと。
パートナーと交わればもっと強い力が生まれるってクダモンが言っていたっけ。
友達であるララモンとそんなことするのは嫌だ。
だからいつまでたってもあと一歩が踏み出せずにいる。
「ララモン、キスしようか」
私は運転しながら言った。
黒い瞳を瞬かせているララモンは、ゆっくりと私の傍に近付いて肩に手を置く。
「どうしたの?急に」
「…さっきの戦闘で…疲れたでしょ。チャージしてあげる」
すぐ隣にいるララモンへ口付けると、唇を通してピンク色の光があふれてきた。
その光がララモンの体へ吸い込まれていく。
これが精気だ。デジモンは人間の精気で元気になるけど、人間の体力が奪われることはない。
だからいくらでも分け与えてやれば、パートナーは少しずつ強くなっていく。
「むー…いつもの淑乃じゃないみたい。キス、嫌がるのに…」
口付けを解いたララモンは、自分の口に手を当てて不思議そうに首をかしげた。
私は前方を見つめたまま口を開く。
「そんなことないわよ。私、ララモンとキスするの好きだもん」
できるだけ笑顔で言ってやった。
ララモンとキスをするのは悪くない。友達だから。好きだから。
だけど他の人は嫌。
それはきっと、マサルはもちろんトーマもおもっているはず。
でもそんなことは口に出しちゃいけない。
私はマサルたちより年上なんだから。
弱音なんか吐けないの。
俺は目の前の男とにらみ合っていた。
ああ言えばこう言う。
僕の華麗な作戦が台無しだ〜、だなんてナルシストにも程があるぜ。
俺はトーマの胸ぐらを掴もうとした。
その時。
「あにきぃ、いつまでやってんだよぉ…淑乃とララモン帰っちゃったぞー」
口だけの喧嘩だけで耐えていた俺でももう我慢できない。
さっそく拳を繰り出そうとするとアグモンの声が聞こえた。
顔を上げて辺りを見回すと、確かに淑乃の姿がどこにもなかった。
「あのヤローッ…先に帰りやがって…。てめーのせいだぞ、トーマ」
「何故僕のせいになる?元はと言えばキミが僕の華麗な作戦に従わなかったんだろう。淑乃さんも呆れてる…自業自得だ」
トーマは澄ました顔をして携帯を打っていた。
そうして耳にあてがうと、事務的な声で何かを喋っている。
携帯を上着のポケットに押し込んだトーマは、おもむろにガオモンを見やった。
「…帰るぞ、ガオモン。今迎えを呼んだからな」
「イエス、マスター」
俺のことなんかお構いなしといったふうの二人組は、さっさと建物の入口へ向かおうとする。
だが。
『馬鹿者ッ!!!』
途端に通信機から最大音量の怒鳴り声が聞こえて、その場にいた全員が竦みあがった。
おもわず壁に手をつくと、ぬちゃぬちゃした液体がこびりついてくる。
トーマは俺に背を向けたまま通信機に手を当てた。
「…こちらトーマですが…」
『説教は後だ。トーマ、マサルを家まで送りなさい』
静かな空間に隊長の声が響く。
トーマは微動さえしなかった。
だが、すぐにトーマが振り返る。
「…それが隊長命令ならば」
短い挨拶をして通信を切ったトーマは、俺を目だけで呼んだ。
冗談じゃねえ。
隊長命令って言ったって何でこんな奴の車で帰らなきゃいけねェんだよ。
俺は絶対にごめんだ。
トーマを睨みつけてそう言うと、目の前の天才少年は無表情のまま口を開く。
「…ひとりで帰っても構わないが、帰り道…分かるのか?君の家からずいぶん離れているとおもうが」
「…うっ…」
俺が言葉を詰まらせると、トーマはすぐに目を逸らす。
その態度さえも鼻につく。
いつか本気でブチギレしちまうんじゃねーかとおもったんだが、その前にトーマん家の車がやってきた。
高級車らしい黒塗りの車だ。
トーマと高級車…似合いすぎてて突っ込む気も起きねぇ。
俺はわざとトーマから離れて後部座席に座った。
窓の外を眺めてトーマを見ないようにする。
トーマはと言えば、何やら手帳型のパソコンをカタカタと打っていた。
おもわず見入っていると俺の視線に気付いたトーマがすぐにパソコンを閉じる。
氷より冷たい目で俺を威嚇するから余計にムカムカした。
「ンだよ」
「見るな。読めもしないくせに」
小馬鹿にしたような台詞のあと、トーマはすぐに顔を背ける。
俺を視界にさえ入れたくないらしい。
ここが車の中じゃなかったら今すぐにでもぶん殴ってやれたのに…。
そんな事ばかり考えていると、いつの間にか車はDATS本部前で停車していた。
「…ガオモン、シャワー室へ行って泥を流そう」
「イエス、マスター」
どうでもいいけどこのガオモンって奴、トーマとしか会話しねーのか?
話すとしても「イエス、マスター」だけだし。
ロボットかよっての。
俺は試しにガオモンに話しかけてみた。
「なあガオモン、おまえって犬だよな?」
俺の問いかけに、ガオモンは不愉快そうに目を細めたけど何も言わない。
ガオモンの見た目は、ハチマキをつけた青い犬。
両手には真っ赤なグローブ。目立つところはそこだけだ。
俺がもう一度声をかけようとすると、トーマがガオモンを見やった。
「ガオモン、その馬鹿と話すな。これは命令だ」
「イエス、マスター」
「なっ…誰が馬鹿なんだよッ!?」
「……」
完全シカトだ。
トーマは俺の事なんか見えてないといったふうに早足で本部へ入っていく。
おもわず拳を作ってしまう俺の隣でアグモンが言った。
「トーマに構うなよぉ、嫌いなんだろ?」
「もちろんだいっ…っきらいだぜ」
「じゃあほっとけばいーじゃねーか。何であにきってそーやってトーマに構うかなぁ…」
「構ってねーもん!あいつがムカつくだけだッ!!」
俺は大きく息を吸って、怒鳴るように言ってのけるとすぐさま本部へ入っていく。
シャワー浴びてさっさと着替えちまおうっと。
そうおもいながら脱衣所のカゴに汚れた隊服をほおりこむと、カゴの中に二つ分の着替えがある。
ひとつはトーマのものだ。
あとひとつは…見たことあるような、ないような…。
「…でっかい服だよなァ…」
しげしげとその隊服を見つめていると、シャワー室からくぐもった声が聞こえた。
小さな、押し殺したような声。
トーマか?
俺は忍び足でシャワー室に近付くと、音を立てないようにガラス戸を引いた。
シャワー室は湯気がこんもりと立ち込めている。
その中で、ひざまづくような姿勢のトーマが見えた。
はちみつ色の髪をゆらして、しきりに頭を上下させている。
何の為に?
その疑問を打ち消すようにかぶりを振って目を凝らすと、湯気の奥に人が見える。
それは紛れもない薩摩隊長だった。
隊長は、トーマに自分のものをしゃぶらせてる。
でも、何で?
トーマは何か悪い事でもしたのか?
…俺にとってはナマイキなトーマがお仕置きされていい気味だけど。
「…トーマ、おまえはチームの一員としての意識が欠けている」
シャワー室に響くような声で言った隊長は、トーマの咥内にでかいものを押し付けて言った。
アイスブルーの瞳から零れた透明な液体が頬を伝って隊長の肉棒に落ちていく。
トーマはしゃくりあげながら頭を上下させた。
「…ふぁ…っく、はい…僕はDATS隊員失格です…どうか、僕を罰してくださ…んむ…っ…」
苦しそうな喘ぎ声が聞こえる。
トーマは隊長のものを根元までしゃぶりながらそんな事を言っているんだ。
あんな、二度と銜えたくないでっかいものを。
「おまえは、私に犯されたくて自ら命令違反をしているのではないか?」
「ち…違いますッ!」
隊長の声を否定する大きな声がシャワー室を震わせる。
それが隊長の気に障ったんだろう。
トーマの身体は乱暴にうつ伏せに横たえられた。
腰を高く掲げられて、今にも挿入されようとしている。
「なっ…何故!?やめてくださいっ…隊長っ…隊長…お許しをっ…!」
「おまえは淫乱な男だ…トーマ」
必死に懇願するトーマの声も隊長は切り捨てて言った。
白い肌をわざとらしく撫でながら、じりじりと腰をあてがう隊長は、トーマの後頭部の髪を乱暴に引っ張った。
無理やり顔を上げさせられて苦痛に歪むトーマの顔が、丁度真正面に見える。
トーマは苦しそうに息をつきながら泣き腫らした目をまっすぐ俺に向けた。
正式には、ガラス戸に。
「…っ…!!」
トーマの息が飲み込まれる。
やば…バレたか?
俺は中途半端に扉を開けたまま、トーマから目が離せなかった。
驚愕に見開かれたアイスブルーの瞳が揺れている。
それが怒りの色に変わったのを、はっきり感じた。
トーマはきつく拳を作って俺を見つめたあと、肩を震わせてしゃくり上げる。
同時に、隊長のものがトーマの中へ侵入し始めた。
飲み込まれる、って表現が正しいのかもしれない。
腹につきそうなくらいに勃起していた隊長のものはトーマの中へ飲み込まれていく。
トーマが苦しそうな表情を見せたのは、ほんの一瞬だった。
隊長の動きを促すようにして、トーマがガクガクと下肢を震わせている。
「あうっ…あっ…あ…す…みませっ…隊長ぉっ…こんな失態は、もう…しませ…からぁ…!あっ、あぐぅ…」
白い肌を真っ赤に染めて喘ぐトーマの姿は、悔しいくらい綺麗だ。
俺はおもむろにガラス戸を閉めてうずくまる。
別に腰が立たなくなったわけじゃない。
体育座りのような姿勢になっているとふと視線を感じた。
顔を上げると、アグモンが俺を見下ろしている。
アグモンは俺をじっと見つめるとおもむろに口を開く。
「淑乃から聞いたんだけどよ…デジモンってデジソウルのほかに"せいき"がないと進化できないんだって」
「せいき?」
唐突に何を言い出すんだコイツ。
そうおもっていると、アグモンが身を乗り出して言った。
「おれとえっちしたら分かるじゃん」
「…っ、てめっ!むちゃくちゃ言うんじゃねェ!!」
いたずらっこのように言ったアグモンを殴った俺は、大きくため息を吐く。
確かに…隊長もそんな事を言ってた。
パートナーと繋がればもっと力が手に入るって。
…けどアグモンはどうみてもカエルだぜ?
そんな事できるわけねーじゃん。
「カエルじゃねーっつーの」
「うっ…なんで俺の考えてる事が分かるんだよッ!?」
「全部声に出して言ってたぞ」
アグモンはわざと大人ぶった口調で言うと、ゆっくりと俺の頬を両手で包んで顔を寄せた。
「…確かめたいことがあるから。…明日…いや、明後日の夜…あにきとえっちしたい。しなきゃだめなんだ…」
「…アグ、モン…」
アグモンの翡翠の瞳は真剣そのものと言ったふうだ。
もう一回ぶん殴ってやればよかったのかもしれないけど俺にはそんな事できなくて…。
ただ明後日の夜になるのを待っていた。
「くぁー…食った食った」
俺はベッドに横たわってまどろんでいた。
全身がくたくたで、心地いい疲労感がある。
銀行強盗の手助けをしてたドリモゲモンとかいうデジモンを退治し損ねたのは未だにイライラすっけど。
それもこれも、トーマが余計な手出しするからだ。
計算で事が運ぶわけねーだろーが。
「ったく…」
それに、ドリモゲモンはデジタルワールドっていうデジモンが住む世界に逃げちまった。
だからトーマは「デジタルダイブ」というのをしたいらしい。
デジタルワールドとやらに行って、直接ドリモゲモンを退治しようってわけだ。
けど、それは隊長にきっぱりと切り捨てられた。
デジタルワールドって事は…強いデジモンがたくさんいるわけだろ?
…面白そうじゃねーか。
けどイマイチ踏み切れない俺は、ベッドの上でゴロゴロしていた。
そんな俺をアグモンが見つめている。
「何だよ、アグモン」
俺が声をかけると、アグモンは「べつにー?」なんて誤魔化してそっぽを向く。
気付かないそぶりをして、俺は寝返りを打った。
…実は、アグモンがえっちしたいって言った日が今日の夜…つまり、今なんだ。
俺が忘れてるから怒ってるのか?
でも…子分とえっちする気なんて起きねぇ。
隊長とのえっちなら、まだお仕置きだからって理解できるけど。
俺はアグモンを子分だとおもってるし、そんな事をしたいとはおもわない。
それどころか、初体験であんな目にあった俺としては気がすすまないワケで。
…このまま黙ってよーかな、なんて。
それよりも今はデジタルワールドだ。
俺にとっては未知の世界。
アグモンにとっては故郷になる。
「デジタルワールド…どうすっかな…こっそり抜け出して行ってみっかな…」
俺がぽつりと呟くと、アグモンがベッドの上に乗ってきた。
「あにき、おれも今デジタルワールドのこと考えてたんだよ」
「おー、奇遇だなァ…あはは」
ぽんぽんとアグモンの頭を撫でながら笑う俺をアグモンが見つめている。
次第に笑える空気じゃなくなってきた。
アグモンの顔が、ゆっくりと俺の首筋に寄せられる。
「…んっ、ちょ…アグモン…?くすぐってーよ…」
「あにき、おれを進化させてくれるか?」
耳元で響く声はハスキーなアグモンの声。
進化って言ったって、何のために?
「…進化なんてしたら、家が…っ、く…壊れるだろ…」
「壊れねーよぉ」
アグモンの手が俺の上着を捲っていく。
肌寒い外気に触れた俺の乳首はツンと上を向いている。
恥ずかしくってきつく目を閉じると、アグモンが口を開いた。
「おれ、施設に居た時…たくさんくすりを飲まされたんだ。生まれてからずっと、"ヒト"になるくすりを飲まされ続けてきた」
「ひと…?」
聞き返した俺に、アグモンが頷きを返す。
アグモンは俺のズボンのポケットからデジヴァイスを取り出して言った。
「ヒトになんかなりたくなかったから、ずっとくすりの効力に逆らってきたけど…今なら、ヒトの形になれる気がするんだ。ヒトになって、あにきを抱きたい。えっちしたい」
アグモンの言う「ひと」っていうのは「人」のことなんだろうか。
恐る恐るデジヴァイスを受け取ると、アグモンが頷いた。
アグモンは俺を抱く為に人になりたがってる。
人になったアグモンとえっちしたら、俺は…。
「…隊長に抱かれて泣いてるあにきを見るのは…もういやなんだ」
「……」
アグモンの声に、ココロが揺らいだ。
俺は男だ。隊長に抱かれていい気分なんかしねえ。
むしろ悔しくて恥ずかしくて…それでも体のどこかが、あの熱い高鳴りを欲しがってる。
それをアグモンに求めたら、俺は今のままじゃいられなくなっちまう。
兄貴と子分の関係じゃいられない。
「アグモン、俺っ…」
俺はただデジヴァイスを強く握って俯く。
アグモンは俺を急かすこともなく、ただ黙ってくれていた。
俺は、俺はアグモンのきもちに応えたい。
応えなきゃいけねえ。
だって俺は、アグモンの兄貴なんだから。
「うらあああァッ!!」
俺は大きな掛け声をかけてアグモンの頬を張り飛ばす。
アグモンは勢い良くベッドから転がり落ちた。
「な、なにすんだよぉっ!?」
「だって…なぐらねーと出ねぇんだもん…コイツ」
涙目になっているアグモンに、俺は拳を突き出した。
俺の拳には、オレンジ色のデジソウルが宿っている。
アグモンは目を瞬いてから俺を見た。
ベッドから飛び降りた俺は、おもむろに部屋の鍵をしてアグモンに向き直る。
「いくぜ…デジソウルチャージッ!!」
デジヴァイスへと拳の光を注ぎ込むと、アグモンの体が眩しいくらいに輝いた。
徐々に、人の形を作っていくその光は、俺よりも大きい。
喉を鳴らして見守っていると、光の中から背の高い男が歩いてきた。
金髪の髪がワックスでもつけたかのように逆立っている。
むき出しの腕には青い刺青がついていて、ちょっとヤクザっぽい。
つり目気味の瞳が俺を捉えた。
軽く2mはあるんじゃないかとおもうくらいにでっかい男だ。
俺が口をぱくぱくさせていると、男が少しだけ笑った。
「俺だよ、兄貴。デジタルワールドに行くんだろ?早く始めようぜ」
「…い…?おま…ホントにアグモン…?」
俺の返答もそのままに、目の前の男がしっかりした腕で俺を抱き上げた。
難なくベッドに寝かされた俺は、先ほどとおなじく上着を捲り上げられる。
慌てて男の腕を押さえると、そいつはいたずらに笑ってみせた。
「アグモンじゃなくてジオグレイモンだよ。今更怖気づいたか?」
ジオグレイモンと名乗った男は、ゆっくりと俺に顔を寄せた。
俺には何がなんだか分からなくて。
気がついたらベッドにくくりつけられるような形でうつ伏せに寝かされていた。
隊長に罰せられた部分をジオグレイモンが貪っている。
熱い。体中が死ぬほど熱い。
「んあっ…あっ、ひ…何なんだよ…これッ!!」
俺の体から立ち上るオレンジ色の光がキラキラと辺りに浮遊する。
デジソウルよりもずっと細かい光の粒だ。
吐息からも、掌からもキラキラと立ち上っているそれはジオグレイモンの体に触れて、消えていく。
ジオグレイモンは俺の体を押さえつけて、その光を奪うように、野獣みたいに貪った。
「…すっげえきもちいい…兄貴のセイキだぜ、これ」
「ひ、ふぁ…あぐっ…」
掌を重ねてジオグレイモンが笑う。
わけわかんねー。
セイキって何だよ?
何でこんなモンが出るんだよ。
何で、こんなに感じるんだよ。
「あ…っ、ひ…くふ…っ!デカすぎなんだよォッ…うぁ…ぐ、ジオグレイモンのっ…!」
俺は全身で息をつきながら枕に額を押し付けた。
ジオグレイモンと繋がってる。
俺たちは兄貴と子分なのに。
「兄貴の中…すっげー狭くて、トロトロしてる…」
「ひぐっ…言うんじゃねェっ!…はぁっ…んあ…っ…!」
ジオグレイモンの腰使いが乱暴なものへ変わっていく。
苦しくて熱くて、俺は全身から立ち上るセイキから逃げるようにかぶりを振った。
こんな事がきもちいいなんて嘘だ。
隊長とシた時は痛くて仕方なかったのに。
なのに…なんでジオグレイモンとのえっちがきもちいいんだ?
「あ…あっ!いやだぁっ…出ちまうっ…んうっ…シーツ、汚れ…っ、たら…どうすんだよォ!?」
俺はほとんどうわ言のように繰り返して腰を動かした。
ぎこちなく、それでも快感を求めるみたいにして腰を振っていくとだんだん頭の後ろがボーっとしてきて、それからどうしようもなく…めちゃくちゃにされたかった。
ジオグレイモンに合わせるように腰を使いながら絶頂を訴える俺のものに、ふとシャツが被せられる。
俺のシャツだ。まさか…。
「ほら、イけよ…兄貴…ッ!!」
「…ひ、ふ…俺のシャツ…んっ、ふあああぁぁ…あっ!!」
突き上げるような腰の動きに俺は耐えられなかった。
ゾクゾクと背筋を昇っていく快感に促されるまま熱いものをシャツへとぶちまける。
俺はシーツをきつく掴んで全身を震わせていた。
「…ぁ…あっ…俺、俺…シャツに…せーえき…んぁっ…」
恐る恐るシャツを見やると、カルピスみたいに白い俺のものがべったりとこびりついている。
けど、その精液が徐々にオレンジ色に変わっていくのを見て、俺は目を見張ってしまう。
「げっ!?何だよこれ…」
俺が声を上げる間もなく、精液がセイキと変わらない光の粒へと姿を変える。
光の粒はジオグレイモンの体へ溶け込むように消えていった。
満足そうに笑ったジオグレイモンは、ゆっくりと俺の体を抱きしめて囁く。
「…ごちそうさん。かわいかったぜ」
「…うっ…う、うるせェッ!!トーマや淑乃にチクったらぶっ飛ばすからなッ!!」
「チクる?それって美味いのか?」
「食いモンじゃねェーーーッ!!!」
激しい行為をいたした後だっていうのに俺はジオグレイモンを力強く殴りつけて部屋の隅へ吹っ飛ばしてから立ち上がった。
さっき精液がついていたシャツを確認すると、シャツの生地にはどこにもやましいものは付着していない。
本当にセイキになって消えちまったんだろうか?
少しためらってから、俺はシャツを着た。
「あにきぃ、着替えたら行こうぜ〜!デジタルワールドにっ」
俺にぶっ飛ばされた男がベッドの下から顔を覗かせる。
だけどその姿は、黄色い恐竜…アグモンだった。
「おまえ…なんで戻ってんだよ?」
「あにきとえっちして腹いっぱいになったからー!」
「…でっ、デカい声でえっちとか言うんじゃねえッ!!」
口喧嘩をしながらもしっかり服を着た俺はアグモンを手招いて部屋を出た。
こっそりと家を抜け出してDATS本部へと直行する。
夜の街は結構暗い。
テレビでよく夜の街の映像を見るけどアレは都会だからだ。
俺の住んでいる所は田舎ってワケでもねーし、ちゃんとデカいビルもある。
けどDATSへの道のりはびっくりするくらい暗かった。
DATS本部は海の近くにある。
潮の香りがいい匂いだ。
まだ少し冷たい春の風が俺の頬を撫でていく。
「さ…アグモン、デジタルワールドに行こうぜっ!」
「おーっ!」
互いに気合を入れて、俺たちは忍び足でDATS本部に忍び込んだ。
きっと俺たちが一番にデジタルワールドへ突入できる。
夜の本部は誰もいないはずだ。
…そうおもってた。
これから起こる事にもまだ気付かずに。
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4話目終了ですー。つめこみすぎで分かりづらい部分がありますが…;;
ご容赦くださいー、5話目はトマガオに挑戦してみたいなぁとおもってます(笑)