MY BROTHER
最近、ビクっとしてしまう言葉がある。近親相姦という言葉だ。
「公平?・・・おい、どうしてん?」
山田さんの声で、はっとする。baseの楽屋。弟の姿は・・・ない。遅刻している。
「・・・何でもないです」
「・・・ふーん」
本当は、何でもなくない。考えてみる。近親相姦って、犯罪なんやろか?もし犯罪やったら、
俺、犯罪者やん?もちろんまだ誰にも言われへんけど、・・・弟の事、ずっと好きやったりする。
うわ、言うたらますますキモいやん、俺。元々キモいわ〜とは思ってきてたけど。ここまで
とは思ってなかった。まぁ、ここの劇場が普通とは違うのも原因かもしれない。劇場と言うよ
り、業界だが。単純に言うと、同性愛者が多いのだ。しかも相手は、本来は仕事のパートナーの
はずの、相方ばっかり。一緒に居る時間が、多すぎたのか。・・・そして俺も例に漏れず、相方の
健太に密かに思いを寄せていたりする。最近、ずっとやっている夢ばかり見る。普通の相方な
ら、まだいい。健太と俺は、紛れもない、兄弟なのである。
「・・・ほんまは、何かあるやろ?」
山田さんも、俺と同じ。でもまだいい。吉本さんとは、血が繋がっていないから。
「・・・言うてみ。大丈夫、誰にも言わへんから」
・・・・・・大丈夫とか大丈夫じゃないとかじゃなくて、絶対言え、っていう顔をして迫られる。
・・・しゃあない、言うてみるか。かなり不安やけど。普通に言いそうやもん、この人。
「近親相姦、って分かりますか?」
嗚呼本当に、言葉に出すと何でここまで犯罪臭くなるのか。
「分かるけど・・・・・・。まさかお前・・・!」
ほんまやったら否定した方がええし、ほんまは否定せなあかん。そんなん俺が、一番よく分
かってる。でも・・・やっとほんまの事、言えそうやし。山田さんやったら、大丈夫やと思うし。
「・・・はい」
うわー。言うてもうた。山田さんも、めっちゃ複雑そうな顔してるし。
「・・・ど変態やなぁ」
うわっ。・・・そこまではっきり言いますか。
「山田さんやって、吉本さんと・・・」
相方が好きやって言うのは、同じじゃないですか。貴方だって同罪でしょ?
「・・・まぁなぁ。そこは、何も言われへんけど・・・」
「・・・・・・まぁ、いいですよね、山田さんは。血は繋がってへんから。それ除いたら、特に何
も、障害無いですもん。僕とは立場、違いますもんね。告白も、楽だったでしょ?」
「・・・・・・お前、・・・それ、ほんまに言うてんのか?」
・・・あ。
「・・・ほんまに楽やったと、想像してたんか?」
考えてみれば、楽な訳、ない。山田さんと吉本さんやって、今はめっちゃラブラブやけど、
山田さんが吉本さんに告白するまで、時間かかったやろうし、散々悩んだやろう。
「・・・・・・すいません」
自分だけしんどいと思ったら、大間違いやで。・・・ずっと親から、そう言われてきたのに。
「・・・ええよ。ちょっとむかついたけどな」
・・・ほんまに、すいません。
「そう暗い顔、すんなや。でもそうやなぁ、お前も辛いなぁ」
・・・自分でも知らないうちに、好きになっていた。相手は弟なのに。
「・・・言いたいやろ、好きやって」
健太は、俺の事を、ただ兄としてしか思っていないだろう。それは当たり前だ。俺だって
ずっと、健太の事を弟として思っていた。思っているはずだと、自分に言い聞かせていた。
「・・・はい。でも」
俺が好きだなんて言ったら、どうなるか分からない。
「怖いか。どうなるか」
最悪、親に勘当されるだろう。
「・・・はい。怖いです」
「・・・でも、我慢できんやろ?」
俺かってそうやったもん、山田さんは笑いながら言う。
「・・・はい」
「・・・H、したいやろ?」
・・・・・・嗚呼。
「・・・はい」
「砕けてもしゃあないけど、当たって砕けろや。皆そう覚悟して、告白してんねんから」
・・・覚悟して。・・・言うてもなぁ。やってみるか。
「・・・頑張ります」
早く、楽になりたいし。
「おう。・・・やばくなったら、何時でも電話しぃ」
「・・・はい」
END