可愛い人。


コンビを組もう、と言ったのは君だった。思いを打ち明けたのは、僕だった。
 「これ、どうやろ」
オレンジ色のTシャツを、広げて見せる君。
 「ええんちゃう?可愛いよ」
君の事を、否定なんてしない。君は気持ち悪いと言うかもしれないけど、君は何を着ても
可愛い。僕は、君の中身を可愛いと思って好きになったから、当たり前といえば当たり前だ。
 「・・・可愛いって」
君が苦笑する。
 「可愛いは嫌?」
褒め言葉のつもりなんだけど。
 「嫌・・・ちゃうよ。・・・ま、しゃあないか」
しょうがないって・・・何だ。腑に落ちないって事じゃないか。
 「そんな変な顔せんの。ブサイクやで」
・・・・・・だって。
 「・・・腹減ったな。何か美味いもん、食いに行こ」
君は店員にTシャツを渡して、金を払った。
 「・・・うん」
手を繋ぐ。人はまばらで、こっちにも気づいてない。・・・・・・ああ、楽しい。
最初は出かけるのも嫌だと言っていた君も、嬉しそうにしてる。可愛いなぁ、ほんま。
 「仰山、買うたなぁ」
確かに、こんなに大きいBEAMSの袋を見るのは初めてに近い。最近、買えてなかったし。
 「持とか?そっち。重そやで」
君は楽しそうに、Tシャツとタンクトップと、七分丈のパンツを買った。
 「・・・でこピンで骨が折れるのに?」
君はそう言って笑う。少し腹が立つ。
 「・・・ええのっ」
 「あ、怒った」
お互いに、笑ってしまう。馬鹿ップルなんだろう。きっと。
 「・・・あ〜、楽しいなぁ」
他のものでは埋められないものを、君は埋めてくれる。
 「楽しいなぁ」
井上と出会っていなかったら、俺は自分がバイセクシュアルだという事にも気づかなかった。
いや、それ以前に俺はバイなんだろうか?だって、男で好きなのは、井上だけだから。
川島は肌も真っ白で綺麗で、でも可愛い所がええねんやろなぁとは思うけど。
下林さんとかも、可愛いなぁとは思うけど。あれは夢中になるわ、とは思うけど。
でも、好きには絶対ならない。断言してもいい。魅力が無い訳じゃない。でも、好きじゃない。
 「石田ぁ?・・・道、間違ってる。そっち道路やで?」
井上以外、好きなんて思えない。可愛い女の子は、好きだとは思うけど。
 「ごめんごめん、ぼーっとしてて」
この感情は本物なのだ、と思う。

 『・・・おはよ、石田』
 『お早う御座います〜。あれ、下林さんいないんですか?』
 『ん〜、ああ・・・』
 『・・・昨日、一緒に帰ってたから・・・。やったんかな、と』
 『そらやったよ。・・・そんで、腰痛めてもうてな』
 『・・・やらし〜』
 『しゃあないやろ、あんなやらしい声で、喘がれたら』
 『・・・やらしいと思うんも、どうかと思いますけど』
 『そう言うなや』
 『・・・原田さん』
 『ん?』
 『・・・いいん・・・ですよね。相方の事、好きになっても』
 『・・・いいっていうか・・・そら、悪いよ、でも』
 『・・・・・・』
 『好きにしか、なられへんねんもん。・・・しゃあないんよ』

ホモセクシュアルやレズビアンを受け入れてくれるほど、この世の中は甘くない。
でも、それでも君を好きになってしまったから。本来は愛してはいけない、君の事を愛して
しまったから。君が僕の気持ちを受け入れてしまったから、もう、気持ちに封ができない。
 「・・・井上」
・・・君が好きで、たまらなくて。君が欲しくなって。
 「・・・石田?」
君を独り占めにするのは、いけない事ですか。

次の日は仕事だったけど、井上は誘ったらOKを出したから、俺は井上を家に連れ帰った。
玄関からじゃれついて、キスをしながら廊下に服を落として行って、居間で、押し倒して。
お互い素っ裸だったから、何も言わないで、即Hに移った。沢山愛撫して、挿入して。四回く
らい、絶頂に達した。井上は何の抵抗もしないで、全部受け入れた。嗚呼、気持ちよかった。
 「・・・石田?大丈夫?」
精液を拭いて、布団を敷いて、そのまま寝っ転がっている。お互いに局部を軽く拭いただけ
で身体も洗っていない。もう、しんどくて身体が動かない。・・・井上が、乗っかってくる。
 「・・・ん?大丈夫やで」
 「ほんま?・・・痛風やから、・・・あんなにすんねんもん」
だって。井上の身体が、欲しくなってんもん。井上が、俺の唇に触れる。
 「・・・井上の身体が欲しくなって、たまらんくなったから」
さっき、千鳥の二人と会った。井上が気まずそうにしてたから、手を握って場から逃がせた。
さすがになんばが近くなると危ないから、商店街に入ってからは、手は離したけど。
 「・・・俺も欲しかった。石田の身体」
井上が、身体を密着させる。
 「・・・またしたい?H・・・」
 「・・・ええかなぁ。あんなにやったし」
手を絡ませる。身体中に残った、キスマーク。愛し合った証拠。僕の気持ちを君が受け入れて
くれているという証拠。・・・この気持ちは、一方通行じゃないよな?・・・届いてるよなぁ?
 「・・・石田の手、冷たいな」
 「そう?」
そう言われると、確かにそうかもしれない。
 「ええか。手が冷たい奴って、心が温かいって言うやん」
まるで小学生みたいな理屈だけど、嬉しい。
 「・・・井上ぇ」
きゅっと抱き締める。
 「どうしたん、明ちゃん」
ふざけているような口調。ええか、俺も真似しよう。
 「・・・明なぁ、祐介君の足、引っ張ってへんよなぁって思うんよ」
井上は、俺の目をじっと見て、考え込んでいる。言っていいよ、井上が思ってる事。
誤魔化したりしないで、そのまま言って。そうでないと、逆に辛くなってくるから。嘘は吐か
ないで。足を引っ張ってたら、今から気をつけるから。治すから。・・・お願い、早く答えて。
 「・・・引っ張ってなんかないよ。・・・俺、石田がおらんかったら、何もできへんもん」
・・・嬉しいとは思うのに、沸々と疑いが浮き上がってくるのは何でだろう。
 「・・・ほんま?だって、俺がおらんくても、元気そうやのに」
井上の目が、きつくなる。
 「何で、そんな事言うん?」
そして、涙で濡れてくる。でも、疑問は消えない。
 「石田がおるって分かってるから、安心できんねん。・・・分かってよ」
井上の声は、完全に涙声になってしまう。
 「・・・ごめんな」
井上は、涙目で俺を見つめてくる。まだ不服そうな顔をしてるから、頬をつついてみる。
少し、顔が緩む。そう、笑顔が見たい。自分で聞いておいて、意地悪かもしれないけど。ごめんね。
でも俺やって井上がブロンクスの野口とかママ・レンジの健太さんと遊びに行ってると、
めっちゃやきもち妬いて、不安やねんもん。しゃあないなぁ、ですましたってよ。・・・・・・な?
 「・・・石田ぁ」
 「・・・井上」
また、キスをする。ずっと一緒にいようね。難しいかもしれないけど、浮気は二股までで、相
手は女だけにしてね。だって悔しいもん、他の芸人に寝取られるのは。自分が情けないし。
君が好きだと言ってくれるだけ、自分が強くなっている気がする。馬鹿だけど、可愛いやろ?






END