電話越しの恋人へ。
・・・不覚。風邪を引いた。しかも流行りのインフルエンザ。
「・・・熱・・・」
さっき西野っちがおでこに当ててくれたタオルが、蒸れタオルになっている。・・・西野っち、大変やろなぁ。
・・・何で風邪なんか、引いたんやろ。・・・仕事のしすぎ。医者はそう、呑気に言った、
俺が、どういう気持ちで西野っちの側に居るかなんて考えては居ない。・・・西野っち、今頃ラジオやろうか。
・・・寂しいとか、辛いとか思ってくれてるかな。・・・無いかな・・・。何時も、俺は西野っちの側に居れば怖くなかった。
寂しくなかった。・・・相方以上の関係の上でも、同じだった。西野っちが大好き。
・・・好きだから、できるだけ重荷なんかになりたくなくて。
「・・・西野っち・・・」
・・・俺、今、確実に西野っちの重荷になってる。
『・・・無理せんでええからな。ゆっくり直して、また仕事しような』
今日は、ラジオとロザンとランディーズと、一緒に舞台に出る予定だった。・・・ウエストサイド。皆仲いいけど、
中でも西野っちと菅さんは格別に仲がいい。Hした後に、菅さんから電話がかかってきた事もあった。西野っちは
迷わず電話に出た。・・・菅さんには、宇治原さんがおんのに。・・・ずるい。西野っちは俺のもんやもん。菅さんには
渡さへんもん。・・・・・・って言えたらなぁ。・・・こんな事言ったら、ますます西野っちの重荷に
なりそうやから、言われへんねんなぁ・・・。・・・・・・辛・・・。
「・・・逢いたい・・・」
唇をなぞる。・・・キスしたい。・・・・・・ワガママやな、俺。・・・携帯の着信音。迷わず手に取る。
『・・・もしもし?・・・梶?』
優しい声。思わず頬がにやけてしまう。
「・・・うん。どうしたん?」
あ〜、声聞いた途端マジで西野っちに逢いたくなってきた。
『・・・死んでへんかなぁって』
・・・まだ死にきれへんもん。
「・・・アホ。今・・・舞台?」
『うん。・・・・・・寂しい?』
寂しいなんて言ったら、馬鹿にするくせに。
「・・・全然」
本当は、めちゃくちゃ寂しい。どうにかなってまいそう。
『・・・そっか。・・・じゃあ、収録始まるから・・・
「・・・待って!!」
思わず呼び止めてしまった。・・・もう少しだけ、西野っちの声を聞いていたい。身体が、無意識の
うちに動いていた。・・・電話を切ってほしくない。・・・もう少し、ワガママを言わせて。
『・・・梶?』
迷惑なのは分かってるけど、止まらない。
「・・・キスして、欲しくて」
向こう側の、西野っちの顔を想像する。・・・戸惑ってる?・・・だろうな。
『・・・キス?』
・・・落ち着いてる?・・・かな。
「・・・うん」
・・・なんか、相方の事なのに分からないなんて嫌や。もどかしいって言うんかなぁ?・・・今すぐにでも
西野っちの側に行きたい感じ。スタジオはかなり遠い・・・嫌やぁぁ。逢いたい。逢いたい。
・・・逢いたい。・・・・・・逢いたい。・・・キスして欲しい。・・・抱きしめて欲しい・・・・・・!
『・・・いいよ』
「本当に!?」
ああ、俺、はしゃいでしまう。・・・恥ずかしいって照れて、電話を切られると思ったから。
『・・・うん。じゃあ、いくで?』
数秒後。西野っちの、唇の音。俺、思わずマイクに口を近づけた。・・・熱が伝わらないのが残念。畜生、
何が高性能マイクだ。偽広告め。『菅さんなんて嫌い』って思ったから、菅さんの怨念かこの野郎。
・・・でも幸せ。普段は行為自体が嘘臭くてしないけど、・・・心に染みてくる。
『・・・あー、恥ずかしい!』
「・・・・・・俺も恥ずかしい!!」
二人で笑う。・・・嗚呼、史上最低のバカップル。・・・でも、正直他人に『バカ』なんて言われたくない。
恋愛なんて、本人が幸せならそれでいいと思う。・・・俺、今めーっちゃ幸せやもん!
『・・・・・・じゃあ、今度はほんまに切るな』
「・・・なんか『切る』って寂しい。『バイバイ』も嫌や」
『・・・ワガママやなぁ』
「・・・うーん・・・『おやすみ』、は?・・・俺、また寝るから」
暇人じゃない。早く西野っちと仕事がしたいから、寝るのだ。それも、西野っちとのキスの余韻を残したまま
寝れるように、すぐ寝るのだ。夢に西野っちが出てきたら、最高なんだけど。
『・・・ほんならそれで』
「・・・西野っち、『おやすみ』」
『・・・おやすみ、梶』
たーちんの声、宇治原さんの声、・・・うわ、高井さん暴れてる。・・・菅さんの笑い声。・・・通話の、切れる音。
嗚呼、寂しいぞ畜生。・・・俺も、通話を切った。頭の中から西野っち以外のものを全部引きずり出して、
ゴミ箱に捨てる。・・・・・・頭を全部西野っちで一杯にして、目を瞑る。
END