動と静


猿顔。年下。背も低い。病人みたいに細くて、その割にはよく動き回る。
 「・・・・・・」
梶原が騒がしいパンクだとしたら、俺は嫌味なくらい静かなジャズ。音がしているのかして
いないのか分からないから、のれやしない。よっぽどよくなければ、すぐに飽きてしまう。
 「・・・梶原」
西野はどこへ行ったのかと聞くと、トイレだと言う。・・・堤下も、トイレ。
 「はい?」
純粋な色の、丸っこい目。・・・堤下曰く、俺の目は少し暗いけど、それがたまんないらしい。
 「・・・あのさ」
・・・そんな風に言われても、馬鹿にされているようにしか聞こえない。
 「・・・西野とやってて、気持ちいい?」
梶原が、見ているこっちが驚く程、驚いた様な表情をした。
 「こんな所で・・・!」
ルミネの楽屋。運良く、俺と梶原以外誰も居ない。
 「いいじゃん別に。・・・隠す必要、ある?」
俺も堤下も山本も秋山も馬場も皆、知ってるんだろ?
 「無い・・・ですけど・・・」
 「恥ずかしい?」
あんなに楽しそうに、トイレでキスしているくせに?
 「・・・気持ちいいですよ、すごーく」
ふぅん。・・・面白くない。
 「・・・なぁ」
やっぱ綺麗な目っていいよ、堤下。純粋で汚れてなくて、・・・汚したくなる。ほら、白い壁って
さ、何か描きたくなんだろ?ピンクとか赤のペンキで、めっちゃくちゃな絵を描いたりさ。
 「・・・ローションプレイって、やった事ある?」
 「なっ・・・
でも、多分堤下にはあわないね。綺麗すぎて、純粋すぎて、嫌になる。
 「し、した事ないですよ・・・っ」
 「・・・誰が西野と、って言ったよ」
 「・・・・・・」
見て。この、怒りに震えた目。可愛いでしょ?ゾクゾクするでしょ?苛めたくなるでしょ?
 「・・・いいねぇ梶原は。可愛がられて」
本当に、気色悪いくらい綺麗。お前等何歳だよ?って感じ。いいねぇ、好きだから、変な事し
たくないって?・・・素晴らしい、『純愛』で。気持ち悪っ。・・・ま、負け犬の遠吠えか。俺はでき
ないもん、『純愛』なんて。もう、汚れちゃったもんねぇ・・・別に、したくなんかないけど。
 「・・・板倉さん」
一回やってみよっか?『純愛』ごっこ。・・・何秒もつかわかんないけど。
 「・・・僕の事、嫌いですか?」
・・・どう答えればいいだろ?・・・嫌いでもあるし、好きでもあるんですけど。
 「・・・嫌いだよ」
 「・・・・・・」
・・・可愛い。後何回嫌いって言ったら泣き出すんだろ、こいつ。
 「・・・でも、好きでもあるよ」
ポカーンとした顔。・・・本当に可愛い。
 『梶―、コーヒー買ってきたでー』
ドアを開けて入ってきたのは、お姫様の王子様。・・・分かんないよね、明るい世界で結ばれた
二人には、路地裏の暗い世界で結ばれた奴の気持ちなんて。・・・分かっても嫌だけど。

 「・・・板倉?」
深夜一時。今頃、お姫様は王子様の腕の中で寝ているんだろうか。
 「・・・何でもないよ」
幸せそうに笑って。はしゃいで、明るい所へ走っていく。
 「・・・そうか・・・」
フェラチオも、シックスティーナインもした事ないんだろなぁ、あの二人。
 「・・・ねぇ」
 「うん?」
 「・・・・・・梶原、いいなぁって思う事、ある?」
可愛いもん。俺も、手ぇ出しそうになった。でも、王子様が迎えに来たからなぁ。
 「あるよ。・・・何だよ、ヤキモチ焼いてんの?」
 「・・・・・・」
ヤキモチ・・・か。いいねぇ、安っぽい響き。何か、一枚五円の煎餅みたい。
 「・・・うん」



END