Hard worker
第一話『入社二年目』
朝。何時もの通り五月蝿い目覚ましに起こされ、すうすう眠っている大悟を隣に見つつ、ベ
ッドから下りる。大悟は、今日は休み。宇治原さんが旅行に行っていて、急に休みを出された
らしい。俺はもちろん、本日も出勤。サラリーマンは辛い。まだ二年目やから、仕事もどさっ
と出されるし。・・・大悟と一緒に暮らしとんのに、滅多に一緒に夕飯を食べれないでいる。
「・・・・・・」
嗚呼、ブサイクな顔。ところどころが浮腫んでる。・・・まぁ、しゃあないか。ほんまはこんなに
きっちり仕事せんでも、充分やっていける。俺も安くはないが、所長のお気に入りという事
からか、大悟は結構な額の給料を貰っている。(本人は嫌がってるみたいだけど)二人で半分
ずつ家賃を出しているが、余裕が出ているのが現状だ。でもどちらも甘えたくはないので、
しっかり毎日出勤している。可愛い寝顔。口から歯磨き粉を零しそうになりながら、大悟の
顔を覗き込む。進路を迷っていた、大悟を大阪に行こうと誘ったのは俺だった。まさかと思
いながら俺との同棲をちらつかせると、それに惹かれたらしく、何も迷わず勉強し出して。
「・・・行ってきます」
頬に、そっとキスをした。大悟は気付いているのかいないのか、嬉しそうに頬を緩ませた。
満員電車で倒れそうになりながら、何とか会社に着く。主に電気機器を生産、販売している。
俺が入った時にはそんなに大きくなかったんやけど、最近実力が認められるようになった
らしく、海外への輸出も頻繁にしているようだ。・・・ま、俺はその中でも下っ端やけどな。
「あれ、ノブやん」
そう言って声をかけてきたのは、井上だった。同じ第三企画開発部に勤めている。
「おお、おはよ」
「あ!口にマーガリン、ついてるよ」
「ほんま?」
口を拭く。
「ああ、取れた取れた。・・・あ!ネクタイも曲がってんで。直したるから、じっとしぃ」
そう言って、そのままじっとする。井上の首筋に、オレンジ色の跡が残っている。・・・ええな
ぁ。大学ん時はほぼ毎日やれててんけど、最近ご無沙汰やもん。・・・嗚呼、大悟の躯が恋しい。
「・・・よし。・・・ん?・・・何見てるん?」
めっちゃ可愛いって訳やないけど、井上は可愛い。
「・・・いや、首にキスマーク、残ってたから」
「・・・あー・・・これなぁ。お前は、できてへんのやろ?大悟休み?」
・・・ご名答。
「ああ。何で分かったん?」
「分かるわ。大悟が起きとったら、マーガリンなんてついてないし、ネクタイも曲がってへ
んやろ。・・・ええなぁ、弁護士は」
まぁ弁護士というか、普段はその手伝いしとるんやけどね。免許は持ってるから、時々宇治
原さんの代わりに仕事したりするらしいけど。・・・個人的には、何時も心配やったりする。宇
治原さんは、真性のゲイだったりする。女が嫌いな訳じゃないが、全く性的な魅力を感じな
いらしい。何故か知らないが、大悟をかなり気に入っていて、さっきも言ったように給料を
他の奴より多くしたり(その代わり仕事も多い)、個人的に飯に連れて行っているらしい。大
悟が他の奴に・・・なんて考えられないが、ありえない事ではない。・・・大丈夫だとは思うが。
「でも、結構忙しいみたいやで」
何時も帰ってくると、疲れ果てた顔の大悟に抱きつかれる。
「そらそうや。ええ給料貰ってんねんから」
・・・否定はせんけどな。
「・・・あ、社長や」
黒のベンツが、地下駐車場へ入っていく。
「・・・西田さん見えたし」
「・・・またか〜・・・」
ほんまに、何でこんなにホモが多いのか?
「・・・ホモばっかの会社」
井上が苦笑する。
「まぁ、ホモって馬鹿にされるよりマシやろ?」
普通なら一番に敬遠される存在が、この会社にはうじゃうじゃいる。社長の哲夫さん(あんま
り苗字で言うなと言われているので、こうして名前で呼んでる)曰く、別にそれが理由で決め
ている訳やないらしいけど。それにしたって多い。・・・・・・まぁええか、楽な場所やもん。
「・・・石田は?」
ふうっと、大きく息を吐く井上。
「もう会社。気にせんでええって言うてるのに、バレたらまずいって早めに」
「・・・井上の言いたい事、そういう事と違うんやけどなぁ」
思わず苦笑する。
「ほんまやで、もう・・・」
井上は第一広報部の石田と、彼氏彼女の関係を持っている。ほぼ毎日セックスをしているら
しく、ほぼ同棲状態らしい。しかし石田は自分と井上の関係を隠そうと、何時も時間をずら
して出勤していくらしい。井上は側に居て欲しくて気にしなくていいと言っているのに、石
田はそこまで理解できていない。井上も、素直じゃないといえばそうなんやけどなぁ・・・。
「・・・あ、ホモで思い出した」
「ん?」
「・・・大悟、大丈夫なん?」
「・・・何が?」
「・・・いやー、やって他の奴より給料多く貰ってんねんやろ?所長に、セクハラとかされて
るんちゃうんかなって」
・・・・・・。
「・・・でも・・・
「真性なんやろ?そこの所長」
自分でも気にしてはいたが、まさか井上に言われるとは。
「・・・でも、宇治原さんにはもう
「分からんでー。やって実際、俺襲われた事あるし」
・・・・・・ん?
「・・・石田に?」
「ちゃうちゃう、出張先の相手会社の社長さん」
・・・・・・おーい。
「お前なぁ・・・」
「しゃあないやろ。飯は全部奢ってもらったし、服買ってもらったし、めっちゃ高級なホテ
ルのロイヤルスイートルーム取ったから、言われてんもん。結構ええ顔してたし」
・・・・・・こいつは・・・。呆れてものも言えんわ。
「とにかく!大悟は大丈夫なん。しっかりしてるし」
「・・・うーん、隙ありまくりやと思うけどなぁ・・・」
大悟は大丈夫や。宇治原さんは菅さんに骨抜きになってるし、・・・時々絡まれたりはするけ
ど、大悟が本気で嫌がったら宇治原さんも止めるみたいやし。・・・大丈夫、絶対、・・・きっと。
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